
eスポーツでコミュニケーションを活性化。デジタルの力を活用した新しい場づくりとは
コロナ禍を経てその認知が急速に広がっているeスポーツ。2024年7月には国際オリンピック協会(以下、IOC)が「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」の開催を決定しました。これにより、さらなる普及とファン拡大が期待されています。
読売広告社(以下、YOMIKO)ではeスポーツを活用した新しいコミュニケーション活性化プログラム『社なe運動会』を開発、運用を開始しています。eスポーツがもつ人と人が繋がる場にふさわしいポテンシャルとは? 開発・運営に携わる日浦康雄さん(YOMIKO 都市生活研究所)と朝倉涼太さん(YOMIKO マーケットコンサルティングセンター)に、eスポーツをとりまく状況と『社なe運動会』を開発した狙いなどを伺いました。
YOMIKO都市生活研究所 プロジェクトクリエイションルーム:日浦康雄
YOMIKO マーケットコンサルティングセンター 第3マーケットコンサルティングルーム:朝倉涼太
オリンピックはeスポーツ大衆化へのトリガーになるのか?
― まずはeスポーツの定義とそれを取り巻く状況を教えてください。
- 朝倉
- いわゆる一般的に想像される10~20代の若者がプロ選手として競技の取り組むのもeスポーツですし、地域のイベントなどでゲームを使って交流するのもeスポーツと言えると思います。どちらかというとIOCの考え方は後者寄りで、もちろん競技性や勝負はありますが、それよりもゲームを使って心身共に健康になろうという感じです。
- 日浦
- 例えば、デジタルの力を活用して体格や力に差がある人と卓球を楽しむとか、フルコンタクトの格闘技は危険なので、バーチャルギアを装着して3D空間のなかで戦うなどといった、いわゆるバーチャルスポーツをオリンピック種目のひとつとして捉える考えです。それをeスポーツと呼ぶのか否かという議論はあると思いますが、裾野を広げ、さまざまな形でスポーツを楽しむ機会を創出したい狙いがあります。
一方で、我々がよく思い浮かべるeスポーツは、人気タイトルのゲームをスポーツ的にとらえて楽しむという大きな流れ(概念)があります。ですが、どちらも一般的な“スポーツ”としての市民権は得られていないのが現状だと思います。
― IOCが「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」の第1回大会をサウジアラビアで開催すると昨年話題になりましたよね。
- 日浦
- 我々はeスポーツがオリンピックの正式種目になるかもと思っていました。次の開催国はゲームの聖地としても知られているロサンゼルスですから。ところが、サウジアラビアでむこう10年くらい開催するというのが決まり、しかも、オリンピック本体から切り離した大会として運営されるようです。
サウジアラビアで開催されることでeスポーツを取り巻く環境が変わるかも知れません。いろんなコンテンツがよくも悪くも細分化しているなかでeスポーツの大衆化というのはなかなか難しいのかも知れませんが、それでもオリンピックはeスポーツがお茶の間に浸透するひとつの契機になるのではないかと期待しています。
『社なe運動会』は飲みにケーションに代わる新しいコミュニケーション手段
― GameWith ARTERIAさんと開発したeスポーツを活用した社内コミュニティ活性化プログラム『社なe運動会(しゃないーうんどうかい)』について教えてください。
- 朝倉
- 今は飲み会や社内旅行などを敬遠するところもあるので、ゲーム対戦でそういう障壁を取り払って社内交流が深められるかもしれないという発想がはじまりです。
- 日浦
- 僕の感覚だと『社なe運動会』はゴルフに近いのかなと。役職・性別・思想などを超えて和気藹々と楽しむことができ、きちんと人柄が出るので、その後も深い人間付き合いに繋がるようなコミュニケーションがゴルフは成立しやすい。『社なe運動会』にもそのような魅力があると思います。とにかく体験してもらえばその楽しさや良さが分かるはずです。
― YOMIKO社内でも試験的に開催されたそうですが、どのような様子でしたか。
- 朝倉
- 支社間の交流をかねて関西支社・名古屋支社・本社が同じタイトルをプレイしました。僕はプレイヤーとして参加したのですが、支社という物理的な距離があるなかで、ゲームを通して色々な人と交流できたのと、会場で年齢関係なく盛り上がれたのが楽しかったですね。
- 日浦
- 上は役員から下は新入社員に近いような年齢の人まで、30名くらい参加者を募りました。まさにスポーツの試合を見ているような感じで歓声があがったり野次がとんだりと、ハーフタイムにコミュニケーションするみたいな感じです。
好きなタイトルの話題やロングセラータイトルの世代間トークなどで盛り上がる様子を見て、改めてゲームにはコミュニティをつくる力があるなと。聞いたところによると、家でこっそり練習して来たとか、お子さんに「負けるな」と言われて来たという参加者もいたみたいで(笑)。上手な人も慣れない人も様々なレベルの人達が同じ場に集える、アットホームな雰囲気な良さも感じました。
― 楽しそうな雰囲気が伝わります(笑)。社内交流としてはどのような気づきや成果が得られましたか?
- 日浦
- やはり普段一緒に仕事をしない人との接点ですよね。そこを意識してチーム分けなどもしたので、所属も年齢も関係なく交流できたかなと。
―「社なe運動会」は、社内だけでなくオフィスビルのテナント同士との交流にも一役買っているとか。
- 朝倉
- 得意先の大手不動産会社から、オフィスビルのテナント企業が楽しく参加できるイベントや催しはできないかということで当社に相談があったんです。
- 日浦
- オフィスビルの中には、毎年の恒例行事としてテナント企業向けのイベントやテナント企業同士で競い合う大会のような催しが行われているビルがあります。大会にむけて社内が一致団結するし、テナント企業同士でも交流が生まれているようです。そういったイベントを何か提案できないかとYOMIKO関西支社が相談を受けた際に、「eスポーツ」を取り入れる企画を提案し、実施に至りました。
- 朝倉
- 初実施時は、ゲーム初心者からマイコントローラー持参の上級者まで約50人が会場に集まりました。大きなモニターがあるレストランカフェで開催したのですが、自社が敗退しても残っているチームを応援する風景が見られるなど、凄く盛り上がりました。
- 日浦
- 2回目の実施時は、YOMIKO関西支社の鳴尾、鈴木、青山が、ゲームのタイトルと構成を工夫するなど改善し、前回の1.5倍の人数が参加できるようにしています。幅広い世代に馴染みがあり、かつ、スキル差がでにくいタイトルであれば大番狂わせ的なことも起こりやすく、アダルトチームが若者に一矢報いるといった場面も見られましたね。オフィスビルを借りている人達に、このビルに入居しているから、こんな面白いことにも参加できると知ってもらい、ビルへの帰属意識や入居するメリットを感じてもらえれば嬉しいです。
― 社内やオフィスビル一棟での活用、地域交流の一環で『社なe運動会』を取り入れるなど可能性が広がりそうですね。
- 日浦
- 自治体からも、地域交流の一環でeスポーツを採用してみたいけれど、eスポーツが良くわからないという声を伺うんです。例えば、そういう方たちに「一回、体験してみましょうよ」と、『社なe運動会』を入門ツールとしてご提案できるようにしたいですよね。
オンラインでもリアルでも盛り上がれる。それがeスポーツの強み
- 日浦
- 今まで遊びだったゲームが、健全な勝負といったものに核が変化していく。そこにビジネスチャンスや変化があると思います。
冒頭の話に戻りますが、IOCが動きはじめて国別に予選がはじまるとマーケットが変わってきますよね。我々がゲームチェンジを起こすチャンスではありますが、ゲームチェンジに対応もしていかなければいけない。今回協業させてもらったGameWith ARTERIAさんと今後も連携しながら、マーケットの変化や需要に対応環境を作っていきたいです。
- 朝倉
- YOMIKOは、コミュニケーションの場を創ることで企業や社会が持つ課題を解決に導くことを得意としているのですが、今まではリアルの場が中心だったと思います。
最近では、オンライン飲み会やメタバース上での交流などもありましたが、eスポーツを介するとオンラインでもリアルでも、両方で遜色のない楽しみ方が生まれる。eスポーツはコミュニケーションの場づくりとしても新しい市場だと思います。
そして、あと10~20年もたてば子供のころからゲームに親しんだ人たちが高齢になり、ゲームがインフラのように当たり前の存在になる。そうなったときが本番で、よりバリアフリーなeスポーツになってくると思います。
- 日浦
- 子供から高齢者まで全員が参加できる。これは他のスポーツではなかなか実現できないことです。しかも物理的な距離を超えることもできる。ユニークネスで文化が変わっていくのかなと。
― 今後、おふたりが目指している目標や乗り越えたい課題などありますか?
- 朝倉
- eスポーツが向き合い続ける課題として、ゲームタイトルの人気に依存するという面があります。今、人気のタイトルが5年後にプレイされているとは限らないですよね。選手はタイトルの人気次第で選手生命やレベルに影響がでてしまう。でもサッカーなど、すでにリアルにルールが確立されているものであれば、人気の波はあっても流行り廃りに影響されにくい。
一方で、タイトル人気に左右されるのも魅力のひとつだと思っています。個人的には人が自分の青春や人生をかけて挑んでいるところに惹かれる部分もあるんです。コミュニケーションを創造していくYOMIKOのひとりとして、また、ゲーム好きとしてもeスポーツの魅力を伝えたいです。
- 日浦
- 新規事業開発や地方創生PJなどの成功のためには、そこに健全なコミュニティがあるのか、集まれば笑顔になる関係性か築けているかが本当に勝負だと思うんです。
ですが、この関係性の構築は割となおざりにされがちなので、その根っこ作りのようなものを裏で支援する必要があると思っています。飲みにケーションやゴルフ、地域の井戸端会議やお祭り、これらはすごく大事ですし、皆が心地いい可能な範囲で続けていくべきだと思います。
でも、それらに加えて、eスポーツの活用という選択肢があるのではと思っています。デジタルの力を使って色々な人がボーダレスに関われる、物理的距離も超えられる、何よりも楽しい。これは価値が高いなと思います。それにゲームは奥が深い(笑)。めちゃくちゃ頭つかうし、ビジネススキルも磨けるし、人間性も強く出てきます。『社なe運動会』を発展させて、『オフィスなe』『学校なe』『町なe』というように、eスポーツを通じたYOMIKOらしい共創コミュニティの土台作りを展開していきたいですね。
撮影協力:esports Studio STREEEAM! 自由が丘スタジオ(GameWith ARTERIA株式会社が運営する配信スタジオ。ゲーム配信に最適な機能を完備している。所在地:東京都目黒区緑ヶ丘二丁目25番17号 T-ONEビル2F)
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読売広告社
マーケットコンサルティングセンター 第3マーケットコンサルティングルーム2021年YOMIKOに新卒入社。初配属より3年間、関西支社マーケティング部署にて製薬メーカーや食品メーカーを担当。2024年4月より本社マーケティング部署に所属し、商業施設やデベロッパーなど不動産関連クライアントを中心に幅広い業務に従事。同年より不動産ビジネス戦略局を兼務し、新たな不動産ビジネスの創出を目指したDXツールの開発など新規事業案件にもチャレンジしている。
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読売広告社
都市生活研究所 プロジェクトクリエイションルーム
シビックプライドコンサルタント外資系コンサルにて、主に電気・家電メーカーや自動車メーカーのグローバル戦略、サプライチェーン、CRMなどのプロジェクトに参画。その後YOMIKOに入社し、マーケティング戦略立案からマス・デジタル広告、イベント・プロモ、CRMなどのエグゼキューションまで幅広い統合プランニングを担当。自身もeスポーツプレイヤーであることから、メタバース・eスポーツ・AIの頭文字をとった「MeA.」という社内有志チームを立ち上げeスポーツビジネスに関わる。現在、YOMIKO都市生活研究所にて未来の都市生活者コミュニティ開発の一つとしてeスポーツのソリューション開発を推進中。