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人間中心のAIに関する研究成果と調査の知見を共有 ~博報堂DYグループ 「AIに関するプレスセミナー」レポート~
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人間中心のAIに関する研究成果と調査の知見を共有 ~博報堂DYグループ 「AIに関するプレスセミナー」レポート~

生成AIの台頭を背景に技術革新が進むなか、各国ではAIに関する政策や規制の整備が進み、企業のAI活用も広がりを見せています。

博報堂DYホールディングスのHumanCentered AI Institute(以下 HCAI Institute)は、人のクリエイティビティや創造性を引き出す新しいAIのあり方を探求しています。先端技術や応用技術の研究を通じて「生活者発想」と「AI」が融合した先にある未来の創造を目指しています。
2024年12月9日には、人間中心のAI技術に関する研究成果や独自調査の知見を共有した「AIに関するプレスセミナー」を実施。
「AIネイティブ世代」の思考や行動を定義するとともに、現状の取り組みや将来の展望を示す場となりました。

 

森正弥
博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO
Human-Centered AI Institute代表

西村啓太
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 室長補佐
Human-Centered AI Institute 所長補佐

荻野調
博報堂DYホールディングス Human-Centered AI Institute ビジネスプロデュースGM

生活者調査から見えてきた「AIネイティブ世代」の特徴

冒頭ではHCAI Institute代表の森が登壇し、AIに関する世の中の動向やその背景にある歴史を語りました。

現代のAIに通じる大きな変化が生じたのは、2000年代にデータを活用することで研究開発が飛躍的に進む「e-サイエンス」が提唱されたことでした。その後、クラウドの登場や2010年代のビッグデータの台頭、ディープラーニング技術による画像認識、需要予測なども飛躍的に高まっていったのです。2020年代には「Scaling Law」が認知されるようになり、「生成AIや大規模言語モデルの発展につながっている」と森は説明しました。 

博報堂DYグループは2024年4月、人間中心のAI技術を研究・実践する組織「Human-Centered AI Institute」を設立。AIを人の創造性やクリエイティビティを拡張する技術として活用し、利用者や開発者、消費者、市民など、それぞれの視点を包摂したAIの研究や実践を行っていく予定です。

次いで、ビジネスプロデュースGMの荻野より、博報堂DYホールディングスが独自に行った「AIと暮らす未来の生活調査」の結果と考察について発表しました。

 

 AIに対する生活者の意識や利用状況の調査は昨年度から実施していますが、今年は昨年と比べて生成AIサービスの認知が倍増し、さらにはプライベートでの利用から、仕事や学業で利用する層が増加しており、この1年で確実にAI関連サービスが生活へ浸透していることが調査でわかりました。

 AIネイティブの特徴として、どの世代よりもAIを使いこなしており、その割合は6割を超えます。その一方で、他の世代と同様に不安を感じつつも、便利だから手放せないからこそ、不安を含めて許容しつつAIを使っている実態があります。

 

さらに興味深いのは「人間の感情に寄り添う存在」として、AIを親友や友達のような相談相手として信頼していると考える10代が多いことです。

特に10代の女性においては、誰にも知られたくない自分の秘密を唯一話せる存在として、AIにパーソナルな相談をする割合が16%、親密な恋人になってほしいと思う割合は28%に上りました。

各世代で共通するキーワードとしては、「便利、必要、仕事、生活」が挙げられますが、「感度が高いAIネイティブはAIを“友達”として捉え始めている」と荻野は述べました。 

 AIネイティブはAIを感情に寄り添える存在としてみなし、信頼感や心理的な価値を感じ始めていることが、調査を通じてわかってきたことになります。

CoE組織の役割を担うHCAI Initiativeの取り組みと活動

続いては、「HCAI Institute設立と2024年の取り組み」について、森が説明しました。

AI技術の研究及び実践、様々な企業とのアライアンスを推進するHCAI Instituteと対になるHCAI Initiativeは、100名以上のメンバーが所属する全社のCoE(センターオブエクセレンス)の役割を担っています。

HCAI Initiativeでは、グループ各社のAIにおけるノウハウの情報連携・集約やインフラ整備、BPR、人材育成など4つの分科会に分かれて全社横断プロジェクトを進めています。

森は「AIの巨大化や複雑化が進み、研究者もAIのポテンシャルの全貌を掴みきれないからこそ、研究開発と実践の双方から、業務効率化と生活者体験の向上を考えていくことが重要」だと説明しました。

また、今後数年におけるAI技術の進化については、「図のようなU字型の曲線を描いて発展していく」とロードマップを示しました。

研究と実践が相互に影響を与えつつ、人のクリエイティビティを引き出し、AIと共に新しい体験を創出していくためには、日進月歩で発展を遂げるAIの継続的進化に追いつかなくてはなりません。

 

 

こうしたなかで、博報堂D YグループはCoE組織となるHCAI Initiativeを設立し、人間中心のAIを追求していく体制を構築しています。 

HCAI Initiativeの各分科会では、人間中心のAIのコンセプトを使いながら、生成AIとシステムやデータベースとの連携に関する情報共有・横展開、AI推進組織の組成支援などを手がけており、またAIアバターやデジタルヒューマンによる新たな人間とのインタラクション創出を見据えたイステムを開発しています。

また、生活者発想と独自の調査データに基づき、バーチャルペルソナを構築できる「バーチャル生活者」というサービスを開発しています。

 価値観や生活行動・消費行動といった情報を生成AIに読み込ませ、多様な生活者を再現することで、ユーザーインタビューやアンケートの実施が可能になっており、利用者の生活者理解を深めつつ、「イマジネーション」を刺激するサービス体験となっています。

マーケティングやプロダクト開発など、さまざまな施策や打ち手を考える際に活用することを想定しています。

 

博報堂DYホールディングスでは、2024年6月にはマーケティング戦略の立案やクリエイティブ制作支援、コミュニケーション開発などをワンストップで統合・管理できるプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」を発表しています。HCAI InstitutとHCAI Initiativeで開発するAI技術はこのプラットフォームでの各種機能に統合されていく予定です。

このように、HCAI InstituteとHCAI Initiativeの両輪で、包括的な取り組みを加速させています。

可能性の広がりと、リスクの広がりは紙一重

森に続いて所長補佐の西村が、「AIポリシーの策定」と「AIを活用したクラスタ&ペルソナ生成ツールの開発」について説明しました。

西村は冒頭で、「AIが生活者の創造性を進化、拡張して社会を支える基盤に発展していくなかで、政府や社会、生活者だけではなく企業としてAIとどのように向き合い、ガバナンスを策定するかを考える必要がある」とAIポリシー策定の背景を語りました。

そのなかで、「AIの適切な利用」と「負の側面を抑止するAIに対する理念」を社内外のステークホルダーに示し、AIリスクと適切な関わり方のビジネス活動におけるスタンスを提示することが競争優位性の観点でも重要だと捉えています。

AIポリシー策定にあたっては、日本政府のAIガイドラインと世界各国政府におけるAI規制の動向、各事業者、業界団体のAIポリシーを参考にしながら、網羅的に博報堂D YグループのAIポリシーに盛り込むべき項目を検討していきました。

上図のうち、「1.生活者中心の原則・社会への貢献」、「2.生活者の可能性を拡張」、「6.知的財産保護」の3つが博報堂D Yグループ独自のAIポリシーを特徴づける項目となっています。

AIポリシーでは生活者発想の考えの下、生成AIによる「生活者の可能性・創造性拡張」の価値を提供していくとともに、生成物の著作権侵害を行わない姿勢を訴求し、クライアントやメディア、クリエイターの権利を保護することを重点に置いています。

「今後はAIによってあらゆる技術や産業、暮らしの垣根が融解していき、新しい価値創造が生まれることで、生活者と企業あるいは生活者同士が有機的に繋がっていくと考えています。博報堂D Yグループのグローバルパーパスの通り、まさにAIは内なる思いを解き放つために非常に大きな可能性を秘めています」(西村)

類似性確認やマーケティング支援の高度化を実現するAIツール

経産省の生成AI利活用ガイドブックでは、「類似性確認」が重要視されていますが、CoE組織であるHCAI Initiativeを中心にAIガバナンス体制を構築し、リスク対応をワンチームで行うことでAIポリシーの浸透に取り組んでいます。

これまでも、類似性確認については博報堂D Yグループでは制作物のオリジナリティチェックや部門長による品質の判断を徹底していました。 

しかし生成AIの登場で、誰もが自由に文章や画像、動画などを簡単に生成できるようになりました。
使用目的が極めて広くかつユーザーも無限定な生成AIを使用する上では、誰でも類似性チェックできることが必要だと捉えている」と西村は説明しました。


 
その点では、プライバシーテック領域に強みを持つAcompany社と業務提携し、2024年12月に画像類似度チェッカーツールをリリースしました。

そして、AIを活用したクラスタ&ペルソナ生成ツールを開発し、クライアント企業のマーケティング支援のさらなる高度化の実現を目指しています。

 

博報堂DYグループが持つ多様な生活者データベースと、独自のAIモデルアルゴリズムによって、生活者ニーズや市場構造の把握、マーケティング戦略の策定などさまざまなシーンで応用できるツールとなっています。

長年の間、総合広告会社として業容を拡大してきたからこそ、「リスク管理を徹底しながらクライアント企業に対して安心・安全にAIを活用した施策の提案につなげていきたい」と西村は述べました。

セミナーの終わりには再度CAIOの森が登壇し、AI技術の発展によってもたらされる「世界モデル」や、新たに切り拓かれていく未来の展望を話しました。

「生成AIと因果推論AIの組み合わせが、AIエージェントを実現させるだけでなく、その先のAIのさらなる進化のブレイクスルーとなる」と話す森は、AIに“想像力”が加わることで、社会や産業を次なるステージへと進める「世界モデル」の実現が近づくと述べました。

そのために、パートナー企業と協力しながらAIとデジタルの世界が相互に支えあう“新世界”の実現に向けて尽力していくと抱負を語りました。

生成AIや因果推論AI、実現されるAIエージェント、次に来る世界モデル、その先にある人間を超えたAIとしてのAGIやASIが社会や産業を劇的に変えていく。

このような未来が到来するのは、そう遠くないのかもしれません。
 

 

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