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人類はAIを愛せるか?- ポストAI時代のコミュニケーション -【生活者インターフェース市場フォーラム2024レポート】
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人類はAIを愛せるか?- ポストAI時代のコミュニケーション -【生活者インターフェース市場フォーラム2024レポート】

生成AIが社会に広がり、生活者と企業の間に「AI」が介在する時代が始まっています。
一方で、この節目に大きな問いが生まれています。私たちはAIを人間と同じように信頼したり、愛着を抱くことができるのでしょうか。
この問いを探ることは、これからのブランドコミュニケーションやブランド体験を考える上で重要な鍵になるでしょう。
先日開催した「生活者インターフェース市場フォーラム2024 AIと、この世界に別解を。
- Human-Centered AI -」におけるセッション「人類はAIを愛せるか?- ポストAI時代のコミュニケーション -」の模様をお届けします。

守屋 貴行氏
株式会社Aww 代表取締役

福田 昌昭氏
株式会社Preferred Networks プロダクト・サービス担当VP 兼 ビジネス戦略担当VP

モデレーター:細田 高広
株式会社TBWA\HAKUHODO Chief Creative Officer

AIを恐れる国と愛せる国の違いとは?

細田
生活者と企業の接点にAIがエージェントして存在する時代になりました。このセッションでは、人を超えていくAIの可能性と、AIには代替できない人間性について掘り下げていきます。中心となる問いはタイトルにある「人類はAIを愛せるか?」です。答えを議論する上で、AI実装の最前線を走るエキスパートのお二人をお招きしています。

まずはお二人から自己紹介をしていただきつつ、インターフェースとしてのAIという視点でどのようなお仕事をされているのかを、お聞かせください。

守屋
私は2019年に会社を立ち上げ、3DCGとAIを使ったバーチャルヒューマンの開発を行っています。実在しない人間を新たに生み出していき、そこからスターを育てていこうと考えています。

ピンク色の髪をしたアイコニックなバーチャルヒューマンの「imma」は、2018年のデビュー以来、国内外問わずさまざまな企業と契約させていただき、インフルエンサーやタレントとして活躍しています。

また、直近ではNVIDIAと技術提携し、AIを搭載した対話型バーチャルヒューマンの技術やプロデュースを進めていますので、その辺りを中心にお話できればと思います。

福田
私はPreferred Networksで、プロダクト・サービス部門と全社の事業戦略の責任者を務めております。当社は創業10年目のベンチャー企業で、AI半導体やAI基盤モデルの開発、生成AIを活用したプロダクト・サービスなど、研究開発から社会実装まで手がけています。
最近では、3D AI技術を活用して現実世界をスキャンし、データ化する取り組みも行っています。

細田
それでは早速議論に入っていければと思います。まずコミュニケーションという側面からAIを考えるならば、国の文化的な特性は無視できません。日本でAIといえば「ドラえもん」を思い浮かべる方が多いと思います。一方で、欧米の方に「AIはどういうイメージですか」と聞くと、1番最初に上がってくるのが「ターミネーター」という答えなんですね。

前者は人間の友達になる存在、後者は人間を滅ぼす存在といったように、AIに対する想像力の違いが、私たちが作るサービスの体験に大きく影響を及ぼすのではと考えています。
この辺り、バーチャルヒューマンを作る守屋さんはどのように感じていますか?

守屋
このテーマは、まさに会社でも話したことがあります。実はAIに対する想像力の違いを象徴する出来事がありました。今年の5月にimmaが史上初のバーチャルIPとしてTED Talksに登壇したのですが、 過去最高くらいにコメント欄が荒れたんですよね。

株式会社Aww 代表取締役 守屋 貴行氏 

要は文化的な背景の違いとして、日本では鉄腕アトムやドラえもんは国民的に愛されるキャラクターであり、それらと共存している世界を描いているのに対し、欧米だとスターウォーズなんかはSFですし、現実世界の中に出てくるターミネーターやAIロボットなどは敵として描かれてきたわけです。
だからこそ、思想としては、日本がこれからAI大国になる可能性としての国民の土壌はすごくいいのではと思っています。

細田
素晴らしい示唆に富んだ見解ですね。キャラクターにAIを搭載する時に、それに対して「危機感を持つ国」と「愛でていい方向に想像できる国」に分かれるならば、日本の新しい強みになるのではと思いました。
現在の生成AIは「性能」、つまりパフォーマンスの競争になっていますが、これから先は「性格」の競争になっていくかもしれない。こうした見立てについて、福田さんはどう思われますか?
福田
私の立場からすると、性格というよりも個人に合わせたパーソナライズの話になると思っています。ひとりひとりに合ったものになっていく。けれどそれは、AIの性格とは違うものだと考えています。

株式会社Preferred Networks プロダクト・サービス担当VP 兼 ビジネス戦略担当VP 福田 昌昭氏 

守屋
私はキャラクターの個性がAIで発揮される未来が来ると考えています。一方で、福田さんが言うように利用者を学習し、利用者の個性に合わせてAIが進化するという流れもあるでしょう。
細田
なるほど。性能ではなく性格の進化と言っても、AIが独自の個性(パーソナリティ)を発揮して人を順応していく個別化(パーソナライズ)もあるということですね。どちらが正解というわけではなく、多様化していく、使い分けていく未来になるのかもしれません。

AIの運転は信用できる。
だが、AIの演奏はまだ感動できない。

細田
守屋さんは「AIエージェントが日常化していく」と仰っていましたが、その点についてはいかがでしょうか。
守屋
2018年にimmaを発表した当時から言っていた言葉がAIエージェントで、よく映画でも表現されていたと思うんですよね。常に自分の内容をデータベースに学習させることで、先の予定から新しいタスクまで全部AIがエージェントとして対応してくれるような“自分の横にAIがいる生活”は近い将来訪れると考えています。
細田
AIエージェントを、今のモバイルアプリのように競ってつくるようになるでしょう。企業は「どういうAIが生活者の隣に必要か」という視点から自社のサービス開発を考えなくてはなりません。そのとき、私たちは「AIに人と同じ信頼や親近感などの感情を抱けるのか」という大きな問いが出てきます。お二人はどのような所感をお持ちですか?
福田
AIは道具として使うもので、人と同じような感情を抱くものではないと私は思っています。やはり、コントロールできないものをどう使っていくのかを考えることは正直ちょっと難しいのではと感じていますね。
守屋
結構難しい問いですけど、人間の脳みそと同じような構造でAIを作ることが可能なので、僕は逆に感情を抱けるのではと思っています。実際のところ、アメリカではAIを搭載したバーチャルヒューマンが24時間配信し続けている中で感情を抱く人も生まれていますし、IP大国の日本ではキャラクターに感情を抱く人も多い。
こうしたことから、人と同じ感情をAIにも抱けると考えています。
細田
お二人で意見が分かれるということは、ひょっとするとAIの未来はいくつもの可能性があるかもしれないと思いました。確かにこの問いは一概に答えを出せるものではありません。

そんななか、福田さんは特にコンテンツやエンターテイメントの領域ではまだ、AIが人間の全てを超えるのは難しいと仰っていましたね。

福田
はい。当社が2年くらい前に出したゲームでは、まさに生成AIでキャラクターを生成して文章を喋るようにしたのですが、そのなかで課題に感じたのは「期待値をどうするか」と「AIの作品に対するネガティブなイメージ」という点でした。
同じようなゲームでもAIが作ったというだけで、コンテンツとして下に見られるのではという懸念があったんですよ。そういうレピュテーションの問題や、ユーザーにどう見られるかを考えるのは難しいなと感じていました。
細田
仮にAIがビートルズと全く同じクオリティの楽曲を作れたとしても、そこにビートルズという人間がいなかったら、「私たちはその音楽を愛せるのかどうか」という疑問がどうしても付きまとうのかもしれません。

守屋
それで言うと、当社では2019年に「AI美空ひばり」のプロジェクトに関わり、大きな話題を呼んだのですが、「過去最高の曲だ」というお声もいただきました。そして何より感動して泣いてくれる人を見て、これはフェイクではなく新しい真実になり得るんだなって思いました。 AIなのか人間なのかの見分けがつかないほど自然に感じられる時代は、もうすぐそこに迫っているのではと個人的には感じていますね。

AIエージェントとの会話が、あらゆる体験の入り口に。

細田
なるほど。そういう意味では人間の感受性もAIと共に育っていくのかもしれませんね。Preferred Networksは、「人とAIの共進化」を掲げていますが、この辺りはどのように感じていますか。
福田
生成AIを含めた新しい技術に関しては、「試す時代」から「使う時代」に来ていると思っています。新しい技術をどういう風に使って生産性を高めていけるのかという側面と、それを使う側のリテラシー向上が大事になると言えるでしょう。

細田
人とAIの共進化というのを前提に置いたときに、どのような生活者体験を想像できるのかをもう少し踏み込んで考えてみたいと思います。ここからは、具体的にこういう体験を作っていくのが良いのか、仮説をいくつか提示していきます。まず最初のキーワードは「1企業、1IP時代」。守屋さんからご説明いただけますと幸いです。
守屋
バーチャルヒューマンを生み出してから、IPというものにずっと注目してビジネスを行っています。そもそもコンテンツ業界におけるIPとは、アニメやゲームの世界におけるストーリーやキャラクター、世界観を表した言葉として使われますが、特にストーリーテリングを中心に描いています。
こうしたなか、対話型バーチャルヒューマンについては「そのキャラクターと話したいという“欲”」をどこまで作れるかがすごく重要だと考えています。
AIでキャラクターと対話ができるようになっても、「喋りたい」という気持ちにさせるためには、ストーリーとIPをもっと前面に出していく必要があります。
自社でコンテンツを作っていく時代になってくると、自社の中でIPをどう構築するのか、どのようにして消費者と接点を作るかについて、ストーリーテリングは外せないものになると言えます。
特に日本はIP大国ですし、そういう時代が訪れてくれると日本の強みが発揮されるのではと思っていますね。

細田
キャラクターは、日本にとって非常に重要な産業の1つです。こうしたキャラクター開発能力にAIの力が加わることで、より自律的に活動するキャラクターが生活者と直接関わるようになっていく未来も想像できます。
守屋
幸いにも、バーチャルヒューマンに関しては国内外問わず多くの企業からお問い合わせいただいていて、デバイスに搭載していく実験も行っています。さらに、以前カリフォルニアで自動運転に乗ってみたのですが、運転席がいらなくなれば、乗っている中でコンテンツ消費ができるわけで、近い将来に確実にコンテンツ化すると確信したんですよ。
細田
そうなると、アプリを操作したり、ボタンを押したりするような従来の方法ではなく、“対話”が全てのインターフェースになる可能性があります。現在、インターネットの入口は「検索」ですが、未来では「対話」が新たな入口となり、「旅行に行きたい」「これを試してみたい」といった言葉がそのまま行動に繋がる世界が訪れるかもしれません。

博報堂でも「バーチャル生活者」というもののサービスプロトタイプを開発しており、数百タイプの多様なバーチャル生活者と対話しながらインサイトを得ることができます。

バーチャル生活者との対話のデモ画面。数百タイプの生活者を再現 

人間はその場の雰囲気を踏まえて、思っていることを言えなかったりしますが、AIでペルソナを再現された人間は、割と素直なことを言ってくれるんですよ。
検索から対話に重心が移ると、私たちが何か新しいサービスを考えた時の問いも変わってくると思うんですよね。福田さんは普段、どのような問いでサービスを開発されていますか?

福田
エンジニアとして自分たちが作るものに関しては、世の中の役に立ってほしい、誰かに使われていてほしいという希望を持っています。私の立場上、経営陣の方と話す機会もありますが、管理側の視点だとコストダウンの話になりがちなんですよ。
そうではなく、自分たちが作る技術で、新しい価値をどのように作り、ユーザーへ届けるかを考えていきたいなと思っています。
細田
新しい価値という点では、AIは身体の延長線上になっていく、 第三の目だったり耳にもなっていくという話もあります。守屋さんは昔からウェアラブルなAIデバイスが欲しいと仰っていましたね。
守屋
ウェアラブルなAIデバイスについては、例えばピアスは面白いかもしれません。何か質問したら、耳元でAIが全部答えを教えてくれる時代では、どんなときでも対話ができる状態になっているでしょう。

AIは人間を学ぶ。そのAIから私たちは人間を学ぶ。

細田
それではセッションの締めくくりとして、お二人からメッセージをいただければと思います。
守屋
僕はAIが生活者を幸せにすると思っています。過去の歴史では、100年近くかけて産業革命が起きましたが、AIについては10年もかからないうちに生活者に最もインパクトの大きい影響を与えるのではないでしょうか。
そして何よりAIによって人間が得ることができるのは「時間」です。AIでやれることは代替し、それで得た時間を元に、新たな挑戦を誰もが得ることができると思っています。
福田
Preferred Networksは、「現実世界を計算可能にする」というビジョンを掲げています。冒頭で紹介した現実世界を精密に再現し、それを編集して生成する取り組みを行うなかで、今後はさらにコントローラビリティを上げていき、より新しい表現の創出に貢献していきたいですね。

細田
最後のまとめになります。AIは、人間の行動やデータを学習し続ける存在ですが、そのプロセスを通じて、私たち自身が「人間らしさ」や「人間を高める方法」を学ぶきっかけにもなります。これは、かつての鉄腕アトムが人間らしさを理解しようと努力し、それに対して読者がアトムから人間らしさを学んだ構造と相似形です。

AIという技術そのものが、実は生活を人間らしくしていく「ヒューマナイゼーション」を進める手段になるかもしれません。今後も博報堂DYグループは、AIとの共進化のプロセスを回しながら、生活者が本当に幸せを感じられる体験を生み出していきたいと思っています。

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  • 守屋 貴行 氏
    守屋 貴行 氏
    株式会社Aww 代表取締役
    20代で起業し、映像制作プロデューサーとして、広告、ブランディング、コンサルティング、CM、MVなどを手がける。2018年、アジア初のバーチャルヒューマン「imma」を制作し、株式会社Awwを設立。2021年、immaを起用した東京パラリンピック閉会式をプロデュース・監修。大阪・関西万博キャラクター選考委員。
  • 福田 昌昭 氏
    福田 昌昭 氏
    株式会社Preferred Networks
    プロダクト・サービス担当VP 兼 ビジネス戦略担当VP
    ソニー株式会社にて、PlayStation3およびPlayStation Networkの開発と運用を担当。
    その後、グリー株式会社にてスマートフォン向けゲームの企画、開発、運用を行い、事業責任者として従事。
    現在は、Preferred Networksにてプロダクト・サービス部門、およびビジネス戦略、経営企画を統括。
  • 株式会社TBWA\HAKUHODO
    Chief Creative Officer
    博報堂、TBWA\CHIAT\DAY(LA)を経て、2022年から現職。KIT虎ノ門大学院客員教授。カンヌライオンズ金賞ほか国内外で受賞多数。2023年にはCampaign誌においてアジア地域のクリエイティブ・リーダー・オブ・ザ・イヤーに選出。主な著書に「コンセプトの教科書」(ダイヤモンド社)などがある。

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