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ヒット習慣予報 vol.345『しないツーリズム』
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ヒット習慣予報 vol.345『しないツーリズム』

年末ですね。2024年はどんな旅行をしましたか?
北海道に住む私は少し前に、京都へひとり旅に出てぼーっとする時間を過ごしました。特に観光名所を巡ったわけではないのですが、周囲を気にせず好きなだけ音楽を聴いたり、何も事前に決めず気まぐれに歩いたり休んだりということも、なかなか日常ではできない過ごし方だなあと実感して帰ってきました。

実は今、一般的には旅行の醍醐味とされる名所巡りをしない、アクティブな活動をしない、料飲店での食事をしない、という旅行スタイルの潮流が来つつあります。
その中身を見てみると、本格的な高級宿に宿泊して「湯ごもり」するのではなく、リーズナブルなホテルの部屋のなかでゴロゴロしながら、動画配信サイトで映画やドラマをただ観て過ごす人が多くなってきているようです。

実際に、Googleトレンドで旅行カテゴリにおける「観光なし」の検索数を調べたところ、ここ5年間で増加していることがわかります。

<旅行カテゴリ内「観光なし」の検索数>

出典:Googleトレンド

今回はこの新習慣を「しないツーリズム」と題し、3つの事例とともにご紹介いたします。

1つ目は「部屋から外出しない旅」です。
旅行といえば、その地域の観光名所を巡ったりアクティビティを楽しんだりするのがよくあるスタイルですが、ここ最近では、一人で旅行にいった際あえて一日中ホテルや温泉宿の部屋から外出せずに過ごす旅行スタイルをとる人も増えているようです。それは、コロナ禍に多くのひとが楽しんでいた「ホカンス」(ホテル+バカンスの造語)のように少し贅沢なホテルに宿泊して館内の設備を楽しむというスタイルとは少し違っています。価格を抑えた最小限の設備があるホテルを選択し、化粧や着替えをせずに部屋のなかだけでのんびりと自分の時間を過ごすスタイルが定番のようです。

2つ目は「起きない旅」です。
事前に決めた観光や予定のために無理して起きることはせず、心ゆくまで長い時間良質な睡眠をとることを目的として旅に行くひとが増えてきているようです。いかに心地よく睡眠ができるかを重視し、普段自宅で使っているベッドより広いものが備え付けられている部屋を選んだり、アクセスが良くなくても騒音の少ない閑静な場所にあるホテルを選んだりした、という声もSNS投稿で散見されました。

3つ目は「外食しない旅」です。
旅行先での夜ご飯は、その土地の名物が食べられる有名店や地元客が多く訪れる人気料飲店で食事をするスタイルが一般的ではありますが、そういったことはせず、近くの販売店でお惣菜や飲み物を買い、早めにホテルに戻って食べるひとが多くなってきているようです。
実際に私の友人からも、待ち時間や混雑により心身ともに疲れてしまうことをできるだけ避けたいという理由で、日常的にも食べられるようなお菓子やおつまみを買ってホテルで食べることが多い、という声を複数聞きます。
私の住む北海道の各地でも、ご当地感のあるコンビニエンスストアで食べ物を買い、ホテルの部屋に持ち帰る観光客を多く目にするようになりました。

では、なぜいま、このような「しないツーリズム」の習慣が広まりつつあるのでしょうか。

ひとつは、対人コミュニケーションの疲れが背景にあるのではないでしょうか。
出社や会食など対面でのコミュニケーション機会の増加により、自分時間をとって心身をリセットするタイミングがなかなか取れない日々に、リモート対応が多かった時期からの反動としてより疲れを感じやすくなっているのではないかと考えます。それに加え、家族がいる人はもちろん、自宅でもオンラインで他者と常時接続できるがゆえに、何かと周囲に干渉される機会も昔に比べて増えてきているように思います。そのため、休日の定番の過ごし方である「旅」においても、周囲からの影響を受けずに極力自分の意思を尊重しながらゆったりと過ごせる方法を選びたい生活者が多くなってきているのではないでしょうか。

もうひとつは、旅の日常化だと思います。地元民が暮らすようなところに泊まり、地元の人が通うような飲食店に訪れる旅行のスタイルは定番化しつつありましたが、それがさらに日常化し、生活スタイルのひとつとして「旅」を取り入れはじめているからではないでしょうか。コロナ禍をきっかけに、機能的なカプセルホテルやホテルサブスク、デイユースなどホテル利用の選択肢が豊富になり、ホテルがより身近になったことで、生活者自身も新しいホテルや宿泊施設の使い方を模索するなかで、今までできなかった新たな選択肢として日常化に向かっているのだと思います。「旅=非日常」のような認識は、今や古い考え方になっているのかもしれません。

最後に、「しないツーリズム」のビジネスチャンスを考えてみました。

「しないツーリズム」のビジネスチャンスの例
■好きな時間にチェックイン・チェックアウトでき、好きなだけ長居ができるネットカフェのような24時間営業の「時計を気にしないホテル」
■良質な睡眠のために、快眠グッズの設備と客室エステのフルコースが一体となった寝落ちOKな「起きないパック」の提供
■地域のコンビニエンスストアやチェーン店と連携し、ホテルでの中食に向けた「外で食べない旅用のご当地ごはん」デリバリーサービスの提供

休息がほしいと感じたときこそ旅に出るという選択は、これからを心身ともに健やかに過ごす鍵になるかもしれませんね。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

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  • 北海道博報堂 / ヒット習慣メーカーズ メンバー
    2年目プランナーとして日々修行中。最近はSNSであたるプロモーション施策すべてを覗きにいくのが日課。日傘を持っていただけで腕が筋肉痛になり、運動不足を実感。