新時代の映像技術、バーチャルプロダクションがクリエイティビティの限界を解き放つ
博報堂プロダクツは、国内最大級のバーチャルプロダクションスタジオ「HCA factory.」を擁する株式会社HCAとの業務提携により、新たにバーチャルプロダクション事業を拡充させました。革新的な映像技術であるバーチャルプロダクションの可能性、今後のビジネス展開について、博報堂プロダクツ 取締役常務執行役員の茂呂譲治と株式会社HCAの代表取締役社長であり、VPテクニカルスーパーバイザー兼映像事業戦略顧問として事業に参画する井村宣昭氏のお二人に話を伺いました。
博報堂プロダクツ、国内最大級のバーチャルプロダクションスタジオ 「HCA factory.」を擁するHCAと業務提携、バーチャルプロダクション事業を本格スタート
株式会社HCA 代表取締役社長
株式会社博報堂プロダクツ VPテクニカルスーパーバイザー 兼 映像事業戦略顧問
井村 宣昭氏
株式会社博報堂プロダクツ 取締役 常務執行役員
事業統括本部 本部長補佐 エグゼクティブクリエイティブディレクター
茂呂 譲治
バーチャルプロダクションが、場所・時間・表現の制約を解放する
――映像業界、広告業界が注目するバーチャルプロダクション(以下、VP)とは
- 井村
- これまではポストプロダクションと呼ばれる撮影後の編集作業で、背景と被写体を合成するのが一般的でしたが、VPはLEDビジョンなどを用いて背景に仮想空間を映し出し、リアルな被写体と融合して撮影する技術。言わば「リアルと仮想空間」をミックスして一緒に撮影する技術になります。VPはハリウッド発祥の技術なのですが、今では世界各国で開発が進み、さまざまな手法が生み出されています。私たちは4年ほど前からVPの開発に取り組み始め、千葉県八街市に国内最大級のVPスタジオ「HCA factory.」と東京都世田谷区用賀にマルチパーパススタジオを設立し、さまざまな映像制作を行っています。
――VPのメリットについて
- 茂呂
- メリットは多々ありますが、一番お伝えしたいのは、VPは、撮影場所、時間、表現、空間の制約からの解放を実現するということ、これを通じてクリエイティブの幅を大きく広げるということです。
例えば、自動車業界では新車種は秘匿性が高いため、CM用の動画を海外で撮影することもありますが、諸事情で海外ロケに行けない時でも、VPならば海外でなければ撮れないような風景を背景にした撮影が可能です。また、人気タレントを起用する場合、拘束時間があまりとれないケースもありますが、VPならば限られた時間の中で効率的な撮影が行えます。加えて、スタジオ撮影であれば天候に左右されることもなく、微妙な光の調節にも対応できるメリットがあります。さらに、今回のHCAとの提携による強みの一つとして、広さの制約からの解放も挙げられ、自動車の走行や、大掛かりな街の設営など可能です。
八街市のスタジオはVPとしては国内最大と聞いていますが、実際どれぐらいの広さなのでしょうか?
- 井村
- 約600坪あります。撮影物によってはスタジオの中央を幕で仕切り、2ブランド同時に撮影することも可能ですから、より制作が効率的になると思います。
- 茂呂
- そういう撮影もできるんですよね。他にVPのメリットはあるでしょうか?
- 井村
- ほぼ、茂呂さんに仰っていただきましたけれど、やはり最大のメリットは「時間と場所からの解放」だと思います。LEDビジョンの背景を変えるだけで、1日の中で複数のシチュエーション、複数のシーンを撮影することもできますので、さまざまな制約があって今まではあきらめていた映像表現が実現できるようになったと思っています。
- 茂呂
- そこはクリエイターにとっても関係者にとっても、非常に大きなメリットですよね。あとは皆さん気にされているコスト面において、コスト制約からの解放とも言い切りたいところではありますが、必ずしも「全てのVP=低コスト」ではなく、工夫によってコストも削減できるというのが現状かと思いますが、ここは日々進化していますよね?
バーチャルプロダクションにも対応した国内最大級の撮影スタジオ
HCA factory.(千葉県八街市)
(https://www.hcafactory.tokyo/ )
- 井村
- そうですね。ただ、VPもどんどん進化して、新たな技術が開発されていますし、以前はCGなどを使っていた部分も、AIの発達によって簡略化できるようになったことでコストを下げることもできるようになりました。これからも新しい技術が開発されていく中で、そのたびにコストや時間の削減という部分にもコミットできるのではないかと思っています。
- 茂呂
- これらをもう少し俯瞰した目線でみると「クリエイティビティの限界を解き放つ」という面もあると思っています。VPは手法と捉えられがちですが、VPという強力な武器があることで、博報堂ならびに博報堂プロダクツのクリエイターの発想の幅が広がるとも思っています。
生活者の価値観が多様化している昨今、企業やブランドに抱く世界観や利用シーンも広がっており、これらを表現する為には、実写だけでは撮ることのできないVPが有効です。
最後に欲張って(笑)、もうひとつ加えるならば「サステナビリティ」の面でも意味があります。関わる人すべてがビジネス面だけでなく、環境面にも配慮して携われるといいですよね。
革新的な映像制作の実現とVPクリエイター人材の育成に注力
――業務提携に至った経緯
- 茂呂
- 私が博報堂プロダクツにくる前からVPに取り組んだほうが良いのではないかという声が上がっていたようです。本格的にVP事業を検討する中で、豊富な実績と高い技術力を持つ井村さん率いるHCAに、以前からつながりのあった人間を通じて、アプローチさせていただきました。実際にお会いしてからは結構なスピードで進みましたよね?
- 井村
- そうですね。もう、すごいスピードで(笑)。
- 茂呂
- 数ヶ月で業務提携に至りましたが、その話し合いの中でお互いのビジネス上のWinはもちろんですが、井村さんからは「VPの価値をもっと浸透させたい」といった、根っこにある想いの強さを感じたんですね。私たちもVP事業を通じて、デジタル時代の中で、博報堂プロダクツが急加速で次のステージに進むためにも、これは絶対に必要な取り組みだと思っていました。その想いを共有し合ってからは非常に早く話が進んでいきましたね。
- 井村
- 私たちとしてはVP事業を行いながら課題も感じていました。それは制作に携わる全ての人がVPを理解していないと、さまざまな局面で齟齬が生じて企画が進まないというジレンマでした。これは当社だけの課題ではなく他社も同様だと思います。この課題解決は当社だけではできないと感じていたのですが、博報堂プロダクツと一緒に取り組めば業界全体の課題解決にもつながると思いました。
――業務提携における具体的な取り組みについて
- 茂呂
- 一つは、HCAと博報堂プロダクツが有する多拠点のスタジオを用いて、幅広い業務を一緒に取り組んでいくことになります。まずは広告領域が中心になりますが、動画そのものをコンテンツと捉え、映画やドラマ、MVやVODなどのコンテンツ制作も見据えています。
二つ目としては、今回の提携を通じて井村さんには当社のVPテクニカルスーパーバイザーとして、映像領域においては映像事業戦略顧問として全体を見ていただきます。VP事業はもちろんのこと、映像領域をアップデートするために多方面からコンサルティングしていただくイメージです。
三つ目は人材育成です。
博報堂プロダクツ内には各領域のプロフェッショナルが多数在籍しているので、実際の仕事や研修を通じて、井村さんを中心としたHCAのスタッフの方々と共にVPクリエイターをはじめとする、デジタル時代のコンテンツ制作から編集対応人材を育成していきたいと考えています。
- 井村
- VPテクニカルスーパーバイザーという職種には、今までの撮影手法のスキルにテクノロジーの技術、新たな考え方をプラスオンしていくことになるのですが、それには実務を通じて学んでいくのが効率的だと考えています。私の仕事は、VP事業を広めることに加えて、VPテクニカルスーパーバイザーを増やすことだと思っているんですね。そのためには、まず現場で働く人の数を増やす。人数を増やした上で一緒に活動していけたらと思っています。
――プラスオンする新たな考え方とは?
- 井村
- 皆さん想像されるようにVPはデジタル技術を駆使して映像を制作するのはもちろんなのですが、私が大事だと思っているのは、博報堂プロダクツのDNAである「こしらえる」にも通じるのですが、クリエイティブを実現させるにはテクノロジーよりも、まずは「人」であると。人の思いや考え方を具現化、映像化していくのがVP技術であって、何よりも重要なのはクリエイティブを考える部分だと思うんです。技術は学べば覚えることができますが、クリエイティブに対する研鑽は尽きることがないですよね。VPを使って、どんなクリエイティブを表現したいのか。どんな手法を駆使することでそれが実現できるのか。そこを考えていくのは機械ではなく人です。だからこそ、人の成長が最も大事だと考えています。
デジタル広告領域における第三の制作手法
――VP事業を通じて実現したいこと、今後の展望
- 井村
- VPの手法として、どんどん新しいものが開発されてきています。その新しい撮影手法を通じて、表現を自由にしていきたい。そのためにも皆さんに活用いただける環境やインフラを整えるべきだと感じています。実は日本のVP業界はアジア圏において、少し遅れているなと感じています。今後のVP業界がより活発化することで映像表現自体が他国に対抗できるのではないかと思っているんです。大きな話になってしまいますが、VP事業が活性化することで、クリエイターの表現の自由を拡大させることができたらいいなと思っています。また、これまで私たちは技術者集団として、依頼された映像を実現する具現者側の立場だったのですが、博報堂プロダクツと組むことによって企画から参加することが可能になりました。要は、今までの仕組みを突破した制作を実現できるわけです。その新しい試みにワクワクしています。
- 茂呂
- VP事業によって、広告領域以外の拡張と、広告領域の独自進化に期待しています。
広告領域以外の拡張は、先ほども触れましたが、動画をコンテンツと捉え、新しい領域にも積極的に対応していくこと。広告領域の進化は二つあり、一つは、TVCMなど高品質が求められる映像領域の発想から実装にいたるまでの様々な制限を解き放つこと、もう一つは、デジタル広告領域で求められる、AIを駆使して、企画から制作、テスト、配信までを、早く・安く・大量に、一気通貫で行うということです。
現状、極論前者は「良いものを作れば大丈夫」、後者は「デジタルKPIを効率よく達成すれば大丈夫」ということが多く、博報堂プロダクツは、グループ各社と連携しながら、各々の領域にしっかり向き合っていきますが、これらを別の世界のものとして分け隔てるのではなく、必要に応じて融合させるということや、これらの中間に位置する新しい手法も生み出せると考えています。それは井村さんが仰った、VP技術に、生活者、クライアント、作り手の思いをどう映像として表現するか、ということに独自進化のカギがあると信じています。それを突き詰めていくことで「こしらえる」というDNAを持った博報堂プロダクツが、デジタル時代に変化した生活者の価値観やクライアントニーズに向けて、こしらえる過程から、こしらえるカタチ、効果のこしらえ方に至るまで進化されていきますし、仕事に携わる人材のスキルや意識も自ずと変わってくると考えています。
幸い、リリース後、非常に多くの相談をいただいているので、井村さん達と共に、様々なチャレンジを行いながら、両社の提供価値を高めていきたいですね。
この記事はいかがでしたか?
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井村 宣昭 氏株式会社HCA 代表取締役社長
株式会社博報堂プロダクツ VPテクニカルスーパーバイザー 兼 映像事業戦略顧問1976年、熊本県出身。フリーランスのムービーカメラマンを経て、2012年にクリエイターマネジメントと育成を行う株式会社井村事務所と、映像制作のトータルワークフローを目的とした株式会社i7を設立。2021年、株式会社HCA設立。バーチャルプロダクションスーパーバイザー、撮影監督、プロデューサー、プロジェクションマッピングなどの3Dコンテンツのクリエイティブディレクションも担当。
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株式会社博報堂プロダクツ 取締役 常務執行役員
事業統括本部 本部長補佐
エグゼクティブクリエイティブデイレクター2011年、同業他社から博報堂に入社。デジタル、クリエイティブ領域の部門長、および博報堂グループ横断のCX領域のプロジェクトリーダーを経て、2024年4月に博報堂プロダクツ取締役常務執行役員 兼 事業統括本部長補佐として、クリエイティブ、AI・データ、デジタル、リアル、映像、SP/コマース、ビジネスプロセスサービス等、全18の事業領域を統括。ad:tech tokyoアドバイザリーボードメンバー。カンヌ他国内外賞受賞。