プログラマティックOOH最前線 生活導線上を網羅する、統合メディア広告配信の仕組みとその効果【アドテック東京2023レポート】
OOHのDX化によってテレビやデジタルメディアと同じ指標でのやりとりが可能となり、人々のモーメントを捉え、生活導線上にある各メディアを活用した統合メディアプランニングをすることで、視てほしいターゲットに目掛けた広告配信手法が主流になりつつあります。本セッションでは、いくつかの具体的な事例を通し、統合メディア配信の仕組みとその効果について紹介しました。
本稿では2023年10月19日、20日に開催されたアドテック東京2023の展示会場内のステージで行われたセッション「プログラマティックOOH最前線 生活導線上を網羅する、統合メディア広告配信の仕組みとその効果」の模様をお届けします。
モデレーター
星野 中氏
株式会社 LIVE BOARD
クライアントサービス部 ディレクター
米田 尚人氏
株式会社NTTドコモ
スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進担当
藤 麗輝氏
株式会社電通デジタル
プラットフォーム部門 プラットフォーム戦略部 Video推進グループ
姫野 聖来
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
メディアストラテジー本部 ビジネス推進局 メディアビジネス開発部
- 星野
- まずは株式会社 LIVE BOARDという会社について簡単にお話しさせていただきます。
NTTドコモと電通グループの2社により立ち上がった当社は、NTTドコモの有する国内最大級のキャリアデータからなるデータ基盤と、電通有する日本有数の広告取引、マーケティングのノウハウを活用し、プランニングから配信、効果検証に至るまでシングルソースのデータで一貫して分析、配信するソリューションを提供しており、統合プランニングにおいてデジタルとテレビに加えてDOOHが組み込まれるような世界を目指しています。屋外にいる生活者がどんな場所でどんな時間にどんな行動をしているかを把握することで、生活導線上のあらゆるモーメントを捉まえ、屋外、屋内、電車内、駅構内など3万9,000(2023年10月時点)を超える面で、その人たちにメッセージを配信できる体制となっています。
世界のDOOH市場規模を見ると、2023年段階でOOH市場におけるDOOHの割合は約4割に到達すると見込まれており、中でもプログラマティックOOHの割合は右肩上がりで伸長しています。日本におけるDOOH市場も右肩上がりで伸びています。コロナ禍では、街に人がどの程度いるのか、OOHの効果は本当にあるのかといった説明を広告主に求められた方もいるかと思います。人流がかなり復活した現在、OOHの効果の可視化は必須であり、それを前提としたうえでテレビやデジタルと合わせたDOOHの複合的な効果や、ほかのメディアと比較したときのDOOHの効果の可視化が求められる時代になってきています。インバウンドマーケティングにおいても、NTTドコモが保有するローミングデータを活用することで、たとえば訪日中国人の場合は、NTTドコモが提携している3社で既に中国の9割を超える人口をカバーすることができます。どの国から来たどういう人がいつどこにいるか、どうその人たちを効率よく把握できるかといったところにも、既に取り組んでいます。
では実際にデータ視点からは何が言えるのか、米田さんからお話しいただきます。
- 米田
- まず前提として、我々は契約者情報や位置情報、アンケートのデータなどを総じてドコモデータと呼んでおり、これらはモバイルやポイント事業などを通じて、接点をもったお客様から許諾をいただき活用しているデータ(匿名性を確保した形でのみ利用)です。今回はLIVE BOARDのプログラマティックOOH事業におけるドコモデータの活用事例を紹介させてください。
我々がドコモデータを活用する上で一番のキーワードと考えるのがインプレッションです。
DOOHで15秒間動画広告を配信したときの広告を視認した人数をインプレッションと定義しており、このインプレッションによって媒体を評価する点が、従来のOOHとは異なる点です。従来はアバウトな指標によってDOOHを評価しており、コロナ前であれば「乗降客数からこれぐらいのインパクトになるだろう」と測れていた一方で、コロナ禍で人々が外を出歩かなくなった際、実際何人くらいがその広告を見ているかといった点が不透明になっていました。その点LIVE BOARDのOOHに関しては、我々の位置情報データ等をベースにネットワークの各媒体に対してインプレッションという指標を算定できるので、コロナ前からコロナ期間中、そして現在に至るまで、あらゆるタイミングでどれぐらいの人が広告を見ているかといった点を評価できるのがメリットです。
屋外におけるDOOHのインプレッションの算定工程には3ステップあります。
まずは視認エリアの定義。
海外のOOH業界団体(World Out Of Home Organization)が定めているガイドラインに準拠(国内では一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムが日本語版を発行)しながら、実際の画面サイズや高さ、遮蔽物といったような観点を考慮し、DOOHがついている場所に対してどこから広告が見えるのかという視認エリアを作成しています。
次に、スクリーントラフィック(メディアの周辺にどれぐらいの人が滞在しているのか)を、我々のモバイル空間統計®(「モバイル空間統計」は株式会社NTTドコモの登録商標です)で得られる人口推計データなどを駆使し、推計します。
最後がインプレッションの推計です。
スクリーントラフィックの状態だと、エリアにいるものの地下にいたり、エリアにはいるけれども本当に広告を見ているのかまでは測れないので、我々のデータを活用して地下の滞在人数を排除したり、視認率(視認エリア内で実際に見ている割合)を考慮しながら、最終的にインプレッションという数字を推計しています。
また鉄道など車両内のDOOHにおいても、基地局の位置情報、鉄道の時刻表データなどを活用し、車両の駅区間ごとに「今この区間でどれぐらいの人が見ているのか」といったインプレッションを算定しています。たとえば現在、東京メトロにおいては全路線で屋外・屋内問わず、我々のインプレッションという共通指標で広告を評価、配信ができる形になっています。
実際にどんな人が見たか、その属性についても、ドコモデータを駆使して、DOOHに接触した人の性、年齢、職種、年収、趣味嗜好といったようなさまざまな属性が可視化できます。これらを広告プランニングに活用した例として、たとえば20代男女で映画好きといった人たちに当てたいというクライアント様がいれば、それらのユーザーが多く含有するような配信時間帯や配信面にだけ配信するといったような、ターゲティングのような配信手法も可能です。
- 星野
- 続いて姫野さん、DOOHとLIVE BOARDの活用ポイントについてセールス視点からお話しいただけますか。
- 姫野
- DACでは数年来マスメディア領域にも力を入れており、OOH媒体をデジタルメディアとして活用するというミッションを据えています。
LIVE BOARDはデジタルとOOHのハイブリッド媒体と言え、私たちのミッションを前進させる上でも道を開いてくれたメディアです。また私は博報堂DYアウトドアにも所属しており、デジタルとOOH両方でチームを組んで提案活動をしていますが、デジタルの場合、統合メディアでシミュレーションや効果検証をしたいといった課題がある一方で、OOHの場合、定量的なプラニングやターゲティングの手法が不足しているという課題があります。
LIVE BOARDは、双方の課題に対して解が出せるメディアであり、活用を進めているところです。デジタルのOOH出稿も右肩上がりで伸びており今年度も順調に推移していますが、セールスを進めていく上で、デジタル側からLIVE BOARD出稿が支持される理由を3つ説明いたします。
1つ目は、テレビ・デジタルリーチアシストという視点です。
YouTubeやTVer、ABEMAなどOTT媒体を活用しているクライアントに対し、DOOHも組み込んで提案し出稿いただくケースが増えています。
認知の媒体に両者を組み込むことで、好意的なフリークエンシーや効果的なリーチを獲得することもできるので、データを使って下支えしながら提案を進めています。LIVE BOARDであれば、事前・事後に活用できるツールも充実しており、事前であれば、YouTubeやテレビとLIVE BOARDとの適切な予算配分がわかるシミュレーターも用意していただいていますし、事後であればLIVE BOARDから接触者のIDを読み取ることもできるので、弊社で各種のデータとぶつけることによって、LIVE BOARDとデジタルの相乗効果を検証する取り組みも進めています。YouTubeとの相乗効果を見てみると、OOH、LIVE BOARDに接触したユーザーはYouTubeの接触態度も向上し、いい結果が出ています。
2点目は、デジタルと同じような柔軟なターゲティングができることです。
たとえば家電メーカーの広告主さまの場合、年収やライフステージ転換期のユーザーにアプローチするために、ドコモのビックデータを使ってビジョンプランニングを行ったり、特定のロケーションにジオフェンスを張って、吸い上げたIDに対してターゲティングを行ったりといった配信設計のカスタマイズ性や、期間中に運用できるという点を評価いただきました。
インバウンドターゲティングや特定のアプリデータを使ったターゲティングも可能ですし、またOOHだと、雨の日だけにうねりケアシャンプーの訴求をしたり、寒い日にホットドリンクの訴求をするといった天気連動は相性がよくてお勧めです。こうしたデジタルに近しい配信設計の知見も弊社に蓄積できてきております。
3点目はリアル接点の創出です。
OOHを使うことでリアル空間にプロモーションが広がっていくという点は変わらない利用価値があると考えていて、たとえば公営くじだと、売場の周辺でビジョンプランニングをし、そこに来るターゲット層にデモグラフィックターゲティングをしながら、営業時間に配信するといったカスタマイズができ、高評価をいただいています。
このように、LIVE BOARDは良質な面に出せるジオターゲティングのような捉え方もできると考えています。
OOHは認知のイメージが強いかと思いますが、直接来店や購買、コンバージョンに寄与するメディアとして活用されることも増えていると感じています。
- 星野
- ありがとうございました。では電通デジタルの藤さん、プロダクト視点から統合メディア施策の可能性について整理いただけますか。
- 藤
- これまでテレビやデジタル、DOOHなどが分断されてプランニングされてきた結果、リーチの効率が悪化したり、無駄打ちになってしまうケースもありました。そうした背景や課題感もあり、現在では統合施策が可能になってきています。OOHをはじめ従来のメディアがデータと連携され、デジタルやOOH、テレビ、それぞれのメディアが統合的に連携するようなスキームが確立できており、広告主のKPIに合わせた全体最適化した配信や、統合検証による各メディア横断での相対的な評価が可能になっている。そうした世界観の中にDOOHを組み込むことができているのが現状だと思います。
国内電通グループとしては、Premium Viewというプロダクトを用いて統合配信ができる環境を整えています。
もともとTVerやABEMAを中心とした動画メディアのみだったのが、音声とつながり、YouTubeと併せて発信できるようになり、DOOH、屋外のモーメントも捉えた統合的な配信ができるようになりました。結果として屋外も含めた形で、より生活者のジャーニーを捉えることができるようになっています。また、DOOHがデータと連携されているので、デジタルと同じようなターゲットにアプローチする配信も可能です。統合検証においても、現状はOOH、テレビ、デジタルなどのメディアを一括して統合的に検証するスキームが確立できています。マスやデジタル問わず複層的に絡み合うような施策の場合、このような統合検証のスキームを活用しながらPDCAを回していくことが必要だと考えます。
また、デジタルプロダクトの中にDOOHを入れていくメリットを3つ挙げさせてください。
DOOHには屋外のリーチを獲得することができるので、デジタルプロダクトに併せてDOOHも組み込むことで、確実にリーチの掛け合いができるようになります。
そして、DOOHをデータと連携させ、屋外で接触したユーザーの行動を明らかにすることで、ほかのメディアと同じ基準、同じ定義で多角的に評価することも可能になってきています。
屋外での接触に関しては、リーチや認知のほかにも、花粉や天気といった屋外特有の配信ができるといったメリットもあり、トップ以外でも、ミドルのファネルにアプローチした立体的な配信ができるようになると考えます。
このようにDOOHをデジタルプロダクトに組み込むことのメリットは多数存在するので、さまざまな施策を通して今後も新たな可能性を模索していきたいと考えています。
■テレビ、デジタルにDOOHが組み込まれた統合プランニングが当たり前の世界に
- 星野
- では今後の展望について、それぞれお話しいただけますか。
- 姫野
- 今後の展望はいくつかありますが、1つは、統合プランニングの文脈にOOHも組み込んでいくことです。DACでは現在、LiftOneという、テレビやデジタルの広告効果を可視化・運用できる統合モニタリングソリューションを提供していますが、そこにOOHも組み込むことで、トリプルメディアでの効果を見たり運用したりすることができるように、開発やPoCを進めています。もう一つは、DSPの運用基盤整備です。LIVE BOARD DSPの取扱いをDACとして開始し、運用体制も整えています。数あるDSPの中でも、LIVE BOARD DSPはDOOHのために最適化されているプラットフォームだと思います。柔軟な設計や運用も実現できる体制も整えているので、ぜひご相談いただけたらと思います。
- 藤
- 先ほど、統合配信や統合検証と、デジタルプロダクトの中にDOOHを組み込むことのメリットをお話しさせていただきましたが、さらに広告主様の期待に沿えるプロダクトに成長させていくためには、以下3つの配信手法の拡充に期待していきたいと思っています。
1つ目が、配信面の拡充です。
まだまだDOOHには捉え切れない生活者の動線があるので、配信面を拡充し、圧倒的にリーチを拡大する必要があると考えます。
2つ目が、連携データの拡充です。
よりターゲットに効率よくアプローチするためには、データを連携し、プランニングの質を高めることが必要です。また、気温や湿度といった屋外特有の第三者データを拡充することで、プランニングの幅を広げていきたいと考えています。
最後に、配信機能の拡充です。
今も、統合配信などプランニングの幅を広げていくことはできていますが、より機能を拡充するために、統合フリークエンシーの管理や、たとえばDOOHと室内のコネクテッドテレビを統合フリークエンシー管理にかけてリーチを最大化させるといった機能拡充も期待したいと思っています。
- 米田
- 今後の展望の1つ目は、ドコモデータの活用の深化です。
深めるというところで、LIVE BOARDが展開・拡大するあらゆるモーメントを捉えるメディアに対して、テレビやデジタルなどトリプルメディアの統合プランニングができる形を目指していくわけですが、その中で、テレビなりデジタルに匹敵するようなOOHメディアのメディアとしてのボリュームも確立していきたいと考えます。そのためには、LIVE BOARDがこれからつながっていくあらゆるメディアに対して、我々もインプレッションという透明性のある統一指標で語れるようなレターもつくっていくというところが、様々なクライアントニーズに応えていく上での重要なピースになるかと思っています。
2つ目は、ドコモデータ活用の進化です。LIVE BOARDメディアとモバイル連動の例をご紹介させていただくと、我々は位置情報等を活用してDOOHに接触した可能性のあるユーザーに対して、リアルタイムに近い形で「メッセージS」というプッシュ型のメール広告を活用し、コンテンツや広告、クーポンなどを配信できる技術があります。これはモバイルを活用することでリアルタイムでの接点を作り出す事例ですが、DOOH自体、リアルタイムに何かを出すという意味ではまだまだな部分があるので、我々のデータを活用しながら、リアルタイムにその日その時訪れたユーザーに対して、広告なりコンテンツを出し分けるような、マスでありながら1対1に近いようなメディアとして、OOHの価値自体も上げていきたいと思っています。
- 星野
- ありがとうございます。
我々も、実際にテレビやデジタルといった主力メディアの中にいかにDOOHを組み込んでいくか、つまり、評価するだけではなく事前のプランニング段階において、さらには予算内での最適なアロケーションという面においても、「この予算でこのエリアであれば、テレビ、デジタルアド、DOOHにおける最適な比率はこちらです」といった形でクライアントの課題解決のために最適な配分を提示できるよう、取り組みを進めています。
当社もすでにそうしたアロケーション、シミュレーション自体は機能として持っており、エージェンシーやクライアントに活用いただいていますが、性・年代をはじめとした生活者ごとのメディア接触状況は随時変わっていくので、それに合わせる形でこの最適比率における取り組みを進めていきたいと考えています。
その一環として、現在広告会社横断で、テレビ、デジタル、DOOHといった大きなくくりでの広告効果の可視化に向けたプロジェクトを、競争ではなく協調の世界で取り組み始めているので、今後にご期待いただければ何よりです。
本日はありがとうございました。
参考:「テレビ×ウェブ×DOOH」のトリプルメディアにおける 広告効果を可視化する実証実験を開始|ニュースリリース|博報堂DYメディアパートナーズ (hakuhodody-media.co.jp)
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星野 中株式会社 LIVE BOARD
クライアントサービス部 ディレクター2009年電通入社。OOH局配属。屋外/交通の媒体社担当として、各種媒体を取り扱う。
2014年よりMCP局に異動し、OOHメディアのプランニングとともに、テレビ・デジタル他メディアの統合プランニングを行うメディアプランナーとして従事。
2019年にOOH局に戻り、東京2020大会OOHプログラムのセールスリードとして、
セールス及び制作進行を中心にプロジェクトマネジメントを担当。大会終了後はFMCG系の大手広告主やスタートアップ等のOOHプランニングを担当。
2023年6月より株式会社 LIVE BOARDにジョイン。
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米田 尚人株式会社NTTドコモ
スマートライフカンパニー マーケティングイノベーション部 プロダクト推進担当2019年NTTドコモ入社。広告ビジネス領域にてドコモデータを活用した、DOOHの広告視聴者数推計モデルの商用化、および他社アライアンス連携によるLIVE BOARDネットワークの拡大などの業務を主導。
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藤 麗輝株式会社電通デジタル
プラットフォーム部門 プラットフォーム戦略部 Video推進グループ2019年電通デジタル入社。
広告コンテンツのプランニング/制作業務を経た後、2020年より一貫してTVerやABEMAを始めとしたOTTのプランニング/開発業務に従事。
現在はコネクテッドTVやDOOHを含めた動画全体のプランニング推進にも取り組む。
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デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
メディアストラテジー本部 ビジネス推進局 メディアビジネス開発部2021年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。
入社以来、OOHのDX支援事業に従事。商品開発・メディアプランニング・セールス等のOOH関連業務全般を担当。
特に、DSPを介したプログラマティックOOH商品の開発、OOHの効果検証、デジタル営業とのセールスなどの運用型OOHの推進に取り組む。