対談!EC+【第10回】──「コミュニティ型ソーシャルコマース」ってなに? 生活者の多様化に対応した新しい「売り方」のかたち
「HAKUHODO EC+」は、博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までをフルファネル、ワンストップでサポートしているユニットです。そのHAKUHODO EC+がお届けしている連載「対談!EC+」の第10回は、国内最大級の住まいと暮らしに関する写真投稿プラットフォーム「RoomClip」の創業者である髙重正彦さんをお招きして、「コミュニティ型ソーシャルコマース」の可能性について語り合いました。
髙重 正彦氏
ルームクリップ
代表取締役社長兼CEO
澤田 航太
HAKUHODO EC+
コンサルタント
「住まいと生活の写真」が自然と集まるプラットフォーム
- 澤田
- SNSやブログ、コミュニティサイトなどを活用して生活者と関係を構築し、そこから自然に購買につなげていく手法を我々は「コミュニティ型ソーシャルコマース」と呼んでいます。今回は、住まいと暮らしに関する写真投稿プラットフォーム「RoomClip」の髙重正彦さんをお招きして、コミュニティ型ソーシャルコマースの実際の取り組みと可能性についてお話ししていきたいと思います。まずは、RoomClipの概要を紹介いただけますか。
- 髙重
- 自宅の中を撮影した写真を投稿することで、インテリアや内装などの工夫を多くのユーザーと共有できるというのがRoomClipの基本的なコンセプトです。投稿された写真を僕たちは「実例写真」と呼んでいます。これまでに投稿された実例写真は500万枚以上、プラットフォームを訪れるユーザー数は月間600万人くらいです。
- 澤田
- プライベートな空間の写真を他人に見せるのは抵抗があるとつい考えてしまいますが、実際には情報を共有することに喜びを感じる方々が多いということなのでしょうか。
- 髙重
- 多くの人は、自宅の中で自分や家族が気持ちよく過ごせるように、ちょっとした飾りつけをしたり、家具の配置の工夫をしたりしていますよね。でも、そういう行為は意外と家族には気づいてもらえなかったりするものです。それに一人暮らしの場合は、そもそも工夫を見せる相手がいないということも少なくありません。
しかし、RoomClipに写真を投稿すると、「いいね」とか「素敵ですね」といろいろな人に言ってもらえるだけではなく、「私もこういうことがやりたかった」「あなたのアイデアはすごく参考になります」といったコメントが寄せられたりします。自分のちょっとした日常の工夫がほかの人の参考になるのはとても嬉しいことだと思います。
- 澤田
- 「日々の生活で自分でも気づかない部分が実は評価される」というのは、非常にポジティブな驚きですね。
- 髙重
- ユーザーさんに実際にお話を伺うと、誰かの役に立つのが嬉しいという方が多くいます。投稿を通じて貢献欲求が満たされると感じるのではないでしょうか。RoomClipは貢献欲求度の高いユーザーの皆さんに支えられて、その表現の集積が500万枚以上に上る投稿であると考えています。
生活者の多様化の3つのベクトル
- 澤田
- 最近、RoomClipにショッピング機能が追加されました。その狙いについてお聞かせください。
- 髙重
- RoomClipは、生活者の多様化に対応できるECプラットフォームになれるのではないか──。そう考えたことが大きなきっかけでした。人々の多様化はかなりのスピードで進んでいます。多様化には3つのベクトルがあると僕は考えています。1つは、SNSの普及がもたらした多様化です。SNSはテレビなどと違い、あらゆる人が同じコンテンツに接することはありません。例えば、Twitterのタイムラインで見る情報は各人ばらばらですよね。日々接触する情報が異なれば、価値観や美意識も当然多様化していくと考えられます。
2つめは、暮らし方の多様化です。家族構成やパートナーシップのあり方はどんどん多種多様になってきているし、一人暮らしの人も増えています。それによって、住空間に必要とされるものや住居の使い方なども非常に個性的になっています。
3つめは、コロナ禍の影響による多様化です。コロナ禍以降、リモートワークが当たり前の世の中になりましたが、リモートワークの頻度や内容は業種や会社の方針などによって異なりますし、同居人の働き方によっても変わってきます。また、いわゆる「おうち時間」の増加によって住空間の使い方も変化しています。それらの変化は人によって、あるいは家族構成によって大きく異なります。
この3つのベクトルの掛け算が人々の多様化の爆発的な推進力になっている、と僕は考えています。では、企業はそのような多様化にどう対応していけばいいか。もちろん、裾野を広くとったマスコミュニケーションが有効な場面はこれからもあると思いますが、一方で自社のブランドをしっかり理解して支持してくれる生活者と深いコミュニケーションをとっていくことが必要とされるケースも増えていくはずです。その際に非常に役に立つのがコミュニティです。ブランドを本当に支持してくれる生活者とはどういう人たちなのか。その人たちはどういうことを考えているのか。どんな困りごとを抱えているのか──。そういったインサイトを得て、それを商品開発やコマースにいかしていくことができれば、その生活者はブランドを長く愛してくれるファンになってくれます。
- 澤田
- なるほど。その多様化の連鎖を反映したコミュニティがRoomClipということですね。コミュニティにいろいろなユースケースが集まり、それに反応してくれるユーザーがいる。そこからユーザーのインサイトを獲得し、それをECにおける買い物体験に生かしていく。
ユーザーとの共創関係を築いていますね。
- 髙重
- おっしゃるとおりです。もちろん、モニターを募集して商品をサンプリングするといった投稿やコメントを企業側から起こすことも可能ですが、実は自然に寄せられたコメントの中に企業の皆さんが想像もしていなかった気づきがあったりします。RoomClipのユーザーの多くは、自分の暮らしをよくしようと考え、ほかの人たちといろいろなアイデアを共有したいと考えている人たちです。そこから得られるインサイトは、マーケティングやコマースの重要な資産として活用いただけると考えています。
- 澤田
- いわゆるUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)を活用したマーケティング手法の1つとも言えそうですね。
- 髙重
- ええ。UGCの活用は、多様化に対する有力なソリューションになると思っています。生活者が多様化すれば、それぞれの人に受け入れられるコンテンツも多様化していくわけですが、そのすべてをプラットフォームや企業が用意することは不可能です。しかし、UGCが自然に集まってくる仕組みをつくれば、多様なニーズに対応する多様なコンテンツ展開が可能になります。そのコンテンツやそれに対するユーザーの反応からインサイトを収集することもできるし、コンテンツをカタログやECサイトに使わせてもらうという方法もあります。また、コンテンツをきっかけにオフラインでコミュニケーションできる機会を設け、そこからより密度の高いファンコミュニティをつくって一緒に新しいブランド開発をしていくことも可能だと思います。
多様化に対応した産業構造と文化をつくる
- 澤田
- 2021年8月にインテリアD2Cブランド「Kanademono(カナデモノ)」を展開するbydesign社を子会社化しました。プラットフォーマーがD2Cブランドをもつのは珍しいケースだと思います。この意図についても説明いただけますか。
- 髙重
- Kanademonoのようなブランドを作って展開するというより、Kanademonoの持つノウハウを、私たちと連携する企業の皆様に提供する目的が強いです。Kanademonoの大きな特徴は、オーダーメイドのテーブルをオンラインで注文できる点にあります。これはまさに、多様化に対応した商品供給のあり方と言えます。「多様化×デジタル」によって供給のスタイルを変えていくというbydesignの世界観は、RoomClipの世界観と共通しています。多様化に対応した産業構造をつくり、多様化に対応した新しい文化をつくっていくためのパートナーがbydesignであると僕たちは考えています。
- 澤田
- 我々が相対する企業の皆様も、「生活者の多様化に対応する」という目的でD2Cブランドをベンチマークとしたビジネスに着手し始めています。重要なのは「D2Cブランドの隆盛」でなく「生活者の多様化」に目を向け、既存の産業構造を進化させるという意識を持って取り組むことかもしれません。
- 髙重
- 本質は「多様化×デジタル」ということで、それに即したモデルの1つがD2Cであるということですよね。D2C以外のモデルももちろんありうるし、今後いろいろなD2Cブランドに取り組んでいくことを目指しているわけでもありません。「多様化×デジタル」に見合ったいろいろなモデルにチャレンジしていきたいと思っています。
- 澤田
- 最後に、これからの展望をお聞かせいただけますか。
- 髙重
- 生活者の生き方は今後ますます変化していくはずです。それぞれの人がそれぞれによいと思えるものを大切にしていく世の中になっていく中で、「自分にとってよいもの」を見つけていくお手伝いをするのが僕たちの大きな役割であると考えています。僕たちが掲げている「日常の創造性を応援する」というミッション、それから「人と人、人と企業がつながる住生活の新しい産業と文化を築く」というビジョンにはそういう思いが込められています。そのミッションとビジョンを推進し、これまで以上にあらゆる人が自分にとってよいと思える住生活を実現する後押しができるプラットフォームにRoomClipを育てていきたい。それがこれからの目標です。
- 澤田
- RoomClipはただのコミュニティではなく、産業と文化の変革への足掛かりなのですね。
マーケティング戦略を策定する際にも、この考え方は重要になってくるように思います。
多様化の本質を理解し、多様な生活者にアプローチしていく道筋を明確にしたうえで、新しい買い物体験をデザインすることが求められてきます。コミュニティ型ソーシャルコマースは、多様化していく時代の流れに対応して生まれた必然的なECの手法の1つと言えそうです。今後、RoomClipとHAKUHODO EC+のコラボレーションにも挑戦したいですね。
- 髙重
- ええ。多様化に対応した新しい文化と産業をぜひ一緒につくっていきましょう。
この記事はいかがでしたか?
-
髙重 正彦氏ルームクリップ
代表取締役社長兼CEO2007年東京大学工学部卒業、2009年同大学院工学系研究科修了。ソーシャルネットワークのコンピュータシミュレーションの研究を行う。その後イマジニア株式会社でソーシャルゲーム、スマートフォンアプリの新規事業企画を担当。2011年にTunnel株式会社(現・ルームクリップ株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2021年3月にソーシャルコマース「RoomClipショッピング」をリリース。
-
HAKUHODO EC+ コンサルタント/博報堂 ショッパーマーケティング事業局 メーカーDX推進グループ・ストラテジックプラニングディレクター2017年に博報堂入社。営業・メディアプラナーを経て現職。EC事業の中長期戦略策定・D2Cブランド立上げ・ECチャネル戦略策定など、ECを起点とした事業プラニングを担当。