おすすめ検索キーワード
ヒット習慣予報 vol.218『グッドネイバー@中国』
PLANNING

ヒット習慣予報 vol.218『グッドネイバー@中国』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。

木々の緑が眩しい5月、緑を眺めているだけで穏やかな気持ちになりますが、みなさんはいかがお過ごしでしょうか。
行動制限のない3年ぶりのゴールデンウィークとなった今年は、どこに行っても熱気であふれていました。長引くコロナ禍の中、なかなか会えなかった親族や友人に会えるだけで嬉しいものですね。

現在コロナ禍の影響を受けて厳しい行動制限が求められている中国の一部の大都市では、生活に苦労する中でも近隣の住人同士で助け合いながら、危機を乗り切ろうとしている姿があります。「はじめて隣人を知った」や「远亲不如近邻(=遠くの親戚より近くの他人)」などのような内容のSNS投稿が人々から強い共感を得ています。
さて今回は、こういった人間関係の変化から生まれた、中国語の古い言葉で言うと「善隣」、かっこよく言うと「グッドネイバー」に頼って生活を維持するという新しい生活様式についてご紹介したいと思います。

私の世代の「80後(80年代生まれ)」にとっては、子供の頃の隣人が親族だったり、親の同僚家族だったりすることがほとんどで、物理的にも心理的にも身近な存在でした。
近年、特に工薪族(=サラリーマン)世帯が多い都市部では、地域にいる時間が少ないため、大都市ほど住んでいる地域における人と人との関わり合いが薄れてきていますが、隣近所に住む人との関わり方を見つめ直す動きも高まっています。ここ10年間でBaidu指数をみると、「邻里(=隣近所)」への関心は、特にコロナ流行後、一段と上昇していることが見て取れます。

出典:Baidu指数(中国)

具体的にどんな行動があるのでしょうか。1つ目は「団長」の出現です。
ここ数年の間、ご近所さん同士から構成されるグループ単位でまとめ買いをする、「社区団購」という呼ばれるECサビースが普及し始めています。コロナの状況下、厳しい行動制限が継続され、生鮮食品を買いに行くことすらままならない状況の中、マンション単位での団体購入が自然発生し、各戸が必要な生鮮食品リストを取りまとめて注文や買い出しをする「団長」が注目されています。団長は自ら手を挙げてボランディアで務める人が多く、ある特定の有力者でないのが興味深いところです。団購する品物が毎回異なるので、団長もその都度違っています。購入者はいろんなものが欲しければ各団購グループに入る必要があるため、今やSNSにおける数十の団購グループに入っている人もいるほどです。団長たちは同じマンションに住む隣人でありながら、「中国式グッドネイバー」と呼ばれており、普段「手にとって現物を見て買いたい」、スマホアプリの利用が得意でない買い物弱者の高齢者に愛されています。

(※写真はイメージです)

続いては、隣近所に住む人との「物々交換」の広がりです。
物資の供給不足または調達が困難となった状況から、自分が「必要でないもの」を提供する代わりに、「必要なもの」をもらう物々交換が同じマンションもしくはもう少し広い範囲の社区で盛んに行われているようです。あるマンションでは、箱買いしたペットボトル炭酸飲料を廊下に出して気分転換を図りたい住民が自由に持っていけるようにして、その代わりに生鮮野菜や果物をもらうというようにしていました。このような物々交換に関する写真投稿がSNSにたくさんアップされています。さらに、ご近所さん同士が食料品を分け合ったり、美容師の資格を持つ住民がヘアカット、料理が得意な人がいつも出前ばかり頼んでいる若者への料理指導など、いわゆるスキルやノウハウを分かち合う事例もあります。

それではなぜ、このような「グッドネイバー」の活躍を可能にしたのでしょうか?
まず、何と言っても、スマホやSNSの普及です。
中国の大都市では、マンションの住人と管理人の連絡手段としては紙や掲示板などではなく、すべてSNSのグループチャットで行われます。これまでも行政からの通知やゴミ収集などに関する通知はすべてSNSで行われていました。70代、80代の高齢者でもほとんどスマホを持っており、ECやエンタメ系のアプリの利用は難しいものの、生活インフラとなりつつあるSNS系のアプリをみんな使いこなしています。ご近所同士は以前から「SNS上の知り合い」ではありましたが、それほど深い関係ではありませんでした。コロナ禍をきっかけに対面交流も増え、関係を深めながら助け合うことにより、隣人との距離を一気に詰めたわけです。これから先、愛された団長たちがどのような役割を担っていくのかをポジティブに考えると面白いかもしれませんね。

さらに、それぞれの関係が深まったことで、各自が持っている不要なモノやスキルが明らかになったことも大きな要因の1つだと考えます。
これまでは、隣にどんな人が住んでいるか知らなかったり、関心が薄かったりする人が少なかったのですが、実際に会って話してみると、いろんな良いモノ、素晴らしい才能を持ち合わせている「グッドネイバー」がこんなに身近にいるんだと感動を覚えた人も多いようです。これからもっと「グッドネイバー」の力を借りる人が増えることで、日常生活の助けや自分の成長に繋がる機会がいっぱい生まれてくることでしょう。

最後に、「グッドネイバー」のビジネスチャンスについて、少し具体的に考えてみました。

「グッドネイバー」のビジネスチャンスの例
■ご近所同士で行われるモノやコトの売り買いが楽しめることに特化したフリマアプリの開発。
■マンションや社区単位で団長たちを務めたい人向けのオンライン教室の開設。
■人力に頼らない、AI(人工知能)を活用したバーチャル団長サビースの提供。

そういえば、現在住んでいるマンション@日本に引っ越してきて半年以上経ちますが、まだどなたとも知り合えないままだという事実に気がつきました。たくさんの「グッドネイバー」のできる日が訪れますようにと願う今日この頃です。

「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • MTCグローバル開発グループ
    ヒット習慣メーカーズ メンバー
    2017 年博報堂に中途入社。
    近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
    中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。