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熱狂が通り過ぎたあと、音声SNSはどう定着する? Clubhouseで毎日ルームを開いて見えた可能性を2軸で整理してみる
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熱狂が通り過ぎたあと、音声SNSはどう定着する? Clubhouseで毎日ルームを開いて見えた可能性を2軸で整理してみる

博報堂生活総合研究所の酒井です。

1月の終わりから日本でもにわかに流行し始めた音声SNSのClubhouse。TikTokなどは主にティーンエイジャーの若者中心に広がっていったのに対して、Clubhouseはそもそも18歳以上を利用者の対象としていることもあり、20代~50,60代まで幅広い年代を巻き込んだSNSの流行として話題になっています。私も、ものは試しと2月はじめから毎朝ルームを開いて様々な方と会話をしています。

平日毎朝9時半~10時に開催しているニュース解説ルーム(@takamasa0708)

一方で「Clubhouse」のWeb検索量の推移を見ているとそのピークは1月末で、初期の熱狂的な盛り上がりは落ち着きつつあります。

しかし、これまであまり大きな注目を集めてこなかった音声のみのSNSという領域がにわかに注目されだしたのは事実です。Twitterも早速、音声チャットルームSpacesのテストを開始しました。

初期の熱狂が過ぎた時に、どのような活用の仕方が音声SNSにサステナブルな形で定着するのか。そもそもこれまでのSNSと比較したときに、音声SNSはどのような存在だと理解すれば良いのか。実際にこの2週間ほど発信者としても毎日このSNSを利用したユーザー体験を踏まえて整理してみたいと思います。

 同じ時間の共有を“ながら”でできる

まず、他のSNSと提供価値の比較をしてみます。もちろん音声のみによって成立しているという事はわかりやすい特徴なのですが、私は実際にユーザーとして利用してみて、ユーザー同士の情報のシェアというより、時間のシェアが重視されている、という点が本質的にはより大事なのではないかと感じました。(上の図だと横軸の右側の象限です。)

既存のSNS、TwitterやInstagram、TikTokでは発信内容がアーカイブされ、それによって多くの人に拡散していく、不特定多数との情報のシェアが重視されていました。

一方で、Clubhouseはその時その瞬間に同じルームに入っていない限り、同じ話を聞く事は二度とできません。当然リーチは狭くなりますが、その場にいた人たちの体験の共有度合いは強くなる設計となっています。リスナー側にいた人たちが挙手やモデレーターからの招き入れによってすぐスピーカーに回ると言う、発信者と受信者の境界の曖昧さもより一層、参加者全員の体験の共有感を強くしています。

博報堂生活総研では近年、トキ消費(https://seikatsusoken.jp/tokishohi/16309/)という消費スタイルを、モノ消費やコト消費に続く新しい消費潮流として提唱しています。これはライブや応援上映の様に、その時・その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費なのですが、Clubhouseはそのルームにいるユーザーが同じ時間をライトに共有することで価値が生まれる、まさにトキ消費時代のSNSと言うことができそうです。

参加者同士が仲良くなる 

 縦軸にあるような、ながら視聴ができるという特徴も音声に絞ったメディアならではです。ただ、その点だけでいえば既にpodcastは様々な音楽ストリーミングサービスで人気コンテンツになっていますし、radikoのようなラジオのサイマル放送も定着しています。コンテンツのクオリティ面では、プロによってきちんと編集されているラジオやPodcastなどの方が上回る側面も多いでしょう。だからこそ、熱狂が通り過ぎた後の音声SNSは、その場にいる人たちの参加性やニッチな欲求を満たすことに振り切ることが意味を持つはずです。

毎週金曜17時~19時に開催している検索データ分析ルーム(@takamasa0708)

実は私はもう一つ、リスナーからの相談に答えてその場で検索ビックデータを分析するという会を毎週金曜日の17時から開催しています。挙手してくれたリスナーもスピーカーに加わってもらい、みんなで頭を悩ませながら分析していくうちに、なんだか自然と場に一体感が生まれていきます。物凄くシンプルに言えば、仲良くなるんです。これは、平日毎朝開催しているニュースの解説ルームでも同様です。毎日お呼びするゲストの方とも自然と関係が強化されていくのは同じ時間を共有しているというのが大きいようにも思います。

やれることは、まだまだありそう 

では、Clubhouseに限らず音声SNS全般の今後を考えた時に、どのような使い方が定着しうるのでしょうか。ここでは試しに、テーマの間口の広さ、テーマの時事性という2つの軸を使って考えてみたいと思います。

間口の広さと言う点では、他の音声メディアとの差別化という意味でも、狭くてニッチだが他では決して聞けないネタが話される、という方向がまず考えられます。(上の図では縦軸の上側の象限です。)

中でも、常にそれなりのニーズがある定常的なテーマを扱うのが左側の象限です。既に多くのルームがありますが、著名人がファンからの質問に答えたり、ファン同士が情報交換や作品の解釈を話し合うような「ファンミーティング」は続いていきそうです。

また、先にあげたデータ分析会は、「パブリック・リサーチ」とでも言うべき新しい形だなとやりながら感じています。参加者からのお題に答えると言う形をとることで私たちだけでは絶対しそうもない分析が始まり、思いもよらなかった結果にたどり着くことができるのです。特定のテーマについてみんなでアイデアを出し合う公開型のハッカソンなども考えられるでしょう。

ニッチな領域で、かつ時事的なネタを話すというのが右上の象限です。「業界人の談話室」とでもいいましょうか。各業界に詳しい人たちがオフィスの休憩スペースでする様な会話を、オープンな場でやってしまうと言う方向です。私がNewsPicksのプロピッカーをされている皆さんと一緒に平日の毎朝9時半から開いているルームも、各業界の専門家の皆さんのお話が、本当にここでしか聞けない話ばかりで毎回勉強になっています。

参加性を高めることで生まれる独自の価値

一方で縦軸の下側、間口の広いテーマについて扱う場合でも、参加性を高めることで他の音声メディアにない価値を作る事は可能そうです。

すでにアメリカではWatchパーティーとして定着しているようですがみんなでコメント言い合いながら1つのコンテンツを鑑賞する「パブリック・ビューイング」は定常的なテーマとしてありえそうです。

また先ごろ大きな地震があった際にはClubhouse上で、“地震大きかったけど大丈夫だった?”と様子を報告しあうルームが立ち上がりました。これはたった今、地震という同じ体験をした人同士が、お互いの状況を報告しあい安心を得ようとする「オープン・トランシーバー」とでも言うべき使い方です。上の図では右下の象限に位置づけられます。
Twitterなど他のSNSでも見られる使い方ですが、音声の場合は発信者側もいちいち手入力する手間が省かれます。アーカイブをされないので拡散力は弱いものの、ライトな情報交換としては適しています。また、状況が逐一変わるような場合にも役立ちそうです。例えば同じフェスやカンファレンス、テーマパークに来場・来園した人たちが集まるルームがあれば、ここは混んでいる、ここは空いている、もうすぐこんなイベントが、といった情報を逐一共有することもできそうです。

画像投稿ができるSNSの広がりで自撮り|が普及したように、新しい使い方に付随して新しいガジェットのニーズも出てくるでしょう。オープンなトランシーバを屋外でも使いたいということになればノイズキャンセリングできるマイク付きイヤホンの需要などが高まっていきそうです。

初期の熱狂が冷めた後、しばらくは模索の時期が続くと思いますが、これまでのSNS全体の歴史を振り返っても、Twitterのバルス祭りのような変わった方向も含め、新しいメディアの楽しみ方を生み出すのは日本の生活者の得意技です。私も、この滅多に現れない変化のトキに際して、自分自身が面白がれることを試していきたいと思っています。

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  • 株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 上席研究員
    2005年博報堂入社。マーケティングプラナーを経て2012年より現職。デジタル空間上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する、生活者研究の新しいアプローチ「デジノグラフィ」を推進中。検索クエリや位置情報、購買履歴、SNSに投稿された生声など、膨大な生活者の行動データを元にした発見と洞察を行っている。著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海者新書)がある。