トータルなプラニング力とアプリマーケティング力の融合を目指して ──博報堂DYメディアパートナーズとアドウェイズの提携が実現したもの
国内におけるアプリマーケティングのトップランナーの一社であるアドウェイズと博報堂DYメディアパートナーズが資本業務提携を発表したのは、2019年11月のことでした。それから1年余り。提携によるシナジーはどのように発揮されているのでしょうか。2020年末に東証一部上場を果たしたアドウェイズの取締役、野田順義氏と、博報堂DYメディアパートナーズ・統合アカウントプロデュース局の広瀬尚人に、このコラボレーションの意義、現段階における成果、これからの可能性などについて語ってもらいました。
野田順義氏
アドウェイズ 取締役 グローバル事業担当
広瀬尚人
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局 局長代理
拡大するアプリマーケティング市場
──博報堂DYメディアパートナーズとアドウェイズの資本業務提携が発表されたのは、2019年11月でした。それから1年ほどが経って提携の成果がどのように表れているか、お聞きしていきたいと思います。まずは、提携に至った理由や背景などについてあらためてご説明いただけますか。
- 広瀬
- 提携への動きが始まったのは2018年の末くらいでした。マーケティングにアプリを活用する動きが活発になってきた時期で、私たちのクライアントの中にもアプリマーケティングに興味を示す企業が増えていました。しかし、その当時、それを担える人材が博報堂DYグループには少ないというのが私たちの大きな課題でした。そこで、アプリマーケティングのトップランナーであるアドウェイズとの協業を模索したわけです。
- 野田
- アドウェイズはスマートフォンの黎明期からアプリマーケティングに注力し、ゲームや漫画などのデジタルコンテンツを手がけてきました。また、ダイレクトマーケティング領域の知識、経験、実績を長年積み重ねてきました。一方で、取引先や得意領域が限られているという課題もありました。主な取引先は金融、EC、アプリ事業者などで、いわゆるナショナルクライアントとの取り引きはあまりありませんでした。今後ビジネスを拡大していくには、クライアントの業種やサービスの種類を増やしていく必要があります。しかし、それをアドウェイズ単独で実現するには限界があります。私たちにとって、博報堂DYメディアパートナーズのクライアントネットワークやビジネス領域の幅の広さは非常に魅力的でした。
──近年、アプリマーケティングが広がっている背景にはどのような事情があるのですか。
- 広瀬
- アプリはこの数年で生活者が日常的に利用するツールとして広く定着しました。クライアントにとっては、アプリを生活者との接点とし、そこを起点にマーケティングを展開できる可能性が広がったということです。その可能性に気づいた多くの企業が、事業戦略の中にアプリマーケティングを位置づけるようになったわけです。
- 野田
- アプリユーザーの絶対数が増えたことが大きいですよね。それによって、いわゆる非ゲーム系企業にとってもアプリは重要なマーケティングツールになっています。
──博報堂DYグループは外部のパートナーとの協業を積極的に進めています。協業からさらに一歩踏み込んで、資本業務提携という形を選択したのはなぜですか。
- 広瀬
- アプリマーケティングは今後確実に伸びていくビジネス領域であると私たちは捉えています。その領域で成功するためには、案件単位で終わる関係ではなく、中長期的なパートナーシップが必要であると考えました。
- 野田
- アドウェイズとしては、このような形での資本業務提携は初めてのことでした。非常に大きな意思決定でしたが、これから進むべき方向性を考えれば、博報堂DYメディアパートナーズのような強力なパートナーが必要であると判断し、決断しました。
- 広瀬
- 提携以前に金融系クライアントの大型案件に一緒に取り組んだのですが、その過程で「両社が組めば必ず大きなシナジーが生まれる」という確信を得ることができたことで、提携への動きが加速しました。もちろん、それ以前からアドウェイズの実力は知っていましたが、プレゼンテーションなどの共同作業を進める中で相互理解が深まり、かつ「勝ち筋」が見えた。これが大きかったと思います。
- 野田
- 私たちもあの案件でかなりの手応えを得ることができました。そもそもアドウェイズだけで受注することは難しい案件でしたし、博報堂DYメディアパートナーズの戦略設計のスキルを直に体験することもできました。オンライン、オフラインをトータルに捉えて「画」を描く力は、本当にすごいと思いました。運用効果を定量的に示すことができたこともあって、クライアントに満足していただくことができましたね。
- 広瀬
- 一緒に取り組んだのはBtoC領域のアプリプロモーションでしたが、その結果を評価されて、次のBtoB向けプロモーションの案件でもご指名をいただきました。あの共同作業はお互いにとってたいへん貴重な経験でした。
トータルな戦略の中に「獲得」を位置づける
──提携がスタートした時点での共通のビジョンはどのようなものだったのですか。
- 広瀬
- 従前のアプリマーケティングにおいては、とにかくアプリのダウンロードによって新規ユーザーを「獲得」することだけに目が向けられていました。マーケティングファネルで見ると、下流のエリアを担う部分のみだったと言えます。一方、博報堂DYグループが得意としているのは、どちらかというと上流の「認知」や「興味・感心」の領域です。私たちとアドウェイズが力を合わせることによって、アプリマーケティングにおける「獲得」の視点をより上流の視点と融合し、フルファネルのプラニングをすることが可能になる。それがこの提携のビジョンでした。
- 野田
- アプリによって「獲得」を目指すことは非常に重要な取り組みですし、ROI(投資対効果)が明確であるといったメリットもあります。一方、獲得のスピードはどこかの段階で頭打ちとなり、獲得単価も上がっていきます。そうなったときに、次の打ち手がわからなくなることがよくあります。しかし、「獲得」をトータルな戦略の中に組み込むことができれば、さまざまな施策の可能性が見えてきます。総合的な戦略と「獲得」における実績を両立する。そんな新しいアプリマーケティングを生み出すことができると考えました。
- 広瀬
- それから、国内シェアを高めるという目標もありました。提携以前の博報堂DYグループのアプリマーケティング領域の国内シェアは、ほんの数パーセントにとどまっていました。一方、アドウェイズは2-3位のポジションにつけていましたが、競合との激しい競り合いが続いていました。提携によって競合を引き離し、トップポジションに近づきたい。そんな共通の思いがありました。
- 野田
- もう一つ、グローバルの引き合いへの対応も射程に入っていましたね。アドウェイズは非常に早い時期から中国に進出して、中国のゲーム系企業との関係をつくってきました。そのような企業が近年日本市場でビジネスを展開するようになっています。新しいマーケットに乗り出すに当たって、ブランディングや戦略立案などのニーズが私たちのもとに寄せられていました。
- 広瀬
- そこはまさに私たちの得意領域で、とくに最近は「テレビ×デジタル」の展開に注力してきました。マスとデジタルの両方を活用したコミュニケーションによって、海外のアプリ系企業の日本進出をサポートすることがこのチームならできると考えたわけです。
──この座組みの強みとして、アドウェイズのサービスやソリューションの開発力も挙げられそうですね。
- 野田
- おっしゃるとおりです。これまで、広告運用ツールの「STROBELIGHTS(ストロボライツ)」シリーズや、マーケティングプラットフォームの「UNICORN」などを自社グループで開発し提供してきました。UNICORNの特徴は、AR(拡張現実)や3Dの技術を駆使したクリエイティブ機能、ユーザーのモーメントを捉えた配信を可能にするコンテキストターゲティングと、データの機械学習によってK P Iに対してリアルタイムで最適化する機能にあります。ナショナルクライアント向けに機能をアップデートしたこともあって、この1年間で前年比2倍以上の勢いでユーザー企業数が伸びています。このようなソリューションを、博報堂DYメディアパートナーズとの協業の中でもぜひ広く提供していきたいですね。
ポストコロナ時代に高まるアプリマーケティングの価値
──提携から1年の間に、当初のビジョンはどの程度達成されたのでしょうか。
- 広瀬
- 着実に達成しつつあると言っていいと思います。二社のチームで多くのピッチに参加させていただき、かなりの確率で案件を受注しています。
- 野田
- 勝率は8割近いですね。
- 広瀬
- ピッチに参加できているということは、博報堂DYグループ内の営業にこのチームが認知されているということであり、案件を受注できているということは、チームのケイパビリティをクライアントに評価いただいたということです。この座組みの力に自信を持つことができた1年でした。
- 野田
- クライアントから寄せられる課題の幅も広がっています。博報堂DYメディアパートナーズの「テレビ×デジタル」のプラニングの力と、アドウェイズのアプリマーケティングの力。その二つを融合して課題解決に当たることができる機会が確実に増えています。
私たちとしては、博報堂DYメディアパートナーズの徹底した顧客ファーストの仕事の進め方や、クオリティにおいて一切妥協しない姿勢などを学ばせていただいたことも、この1年の大きな成果でした。「そこまでやるんだ」という驚きがいろいろな場面でありましたね。
──コロナ禍の拡大の中で新しい発見はありましたか。
- 野田
- ゲームやマンガなど、私たちが以前から得意だった領域は、外出自粛の影響により需要が増加し、かなり好調でした。
- 広瀬
- 一方で、ナショナルクライアントの多くは少なからず打撃を受けました。しかし、それによってビジネスモデルの転換や新しい領域への挑戦を考えるようになった企業が増えています。新しいビジネスモデルをつくっていくに当たって、アプリを活用して生活者との接点を拡大していくという視点は非常に重要だと思います。ウィズコロナ、ポストコロナ時代において、アプリマーケティングの価値はさらに高まっていくのではないでしょうか。
──アドウェイズは、2020年12月には東証一部への上場を果たしました。
- 野田
- 東証マザーズに上場してから10年以上経って、新しい節目になる大きな出来事だったと思います。これによって世の中からの注目が集まり、ビジネスチャンスも広がると期待しています。これを博報堂DYメディアパートナーズとの連携の追い風にしていきたいですね。
──最後に、これからの展望をお聞かせください。
- 広瀬
- この座組みの価値を、これまでアプリマーケティングに取り組んでこられたクライアント、これからアプリマーケティングに取り組んでいこうとされているクライアント、その両方に届けていきたいと考えています。戦略立案からアプリを活用したユーザー獲得までをワンストップで実現できるのがこのチームの最大の強みです。その認知をいっそう広めていきたいですね。
- 野田
- サービスのクオリティを上げていくためには、人の力が必要です。チーム内での人材交流をさらに活発にして人材力を高めながら、オンライン、オフラインを融合した新しいサービスやソリューションを生み出していきたいと考えています。
- 広瀬
- 博報堂DYメディアパートナーズだけでなく、博報堂DYグループ全体とアドウェイズとの人材交流が活性化し、両社のスタッフのスキルが向上していくといいですよね。これからも手を取り合っていきましょう。
この記事はいかがでしたか?
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野田 順義アドウェイズ 取締役 グローバル事業担当2001年に富士フイルム株式会社に入社。写真関連製品の海外マーケティングに従事。
その後、2006年にアドウェイズに入社し、モバイル広告事業を担当。
株式会社電通レイザーフィッシュを経て、当社に復帰し、モバイル広告事業の責任者となる。
2011年に執行役員に就任後、2013年6月に取締役に就任。
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博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局 局長代理1997年 株式会社博報堂入社。テレビメディア担当として、スポットプランニング、番組セールス・企画立案、大型イベントセールス、テレビ改編のリードに従事。
2018年に新設された統合アカウントプロデュース局の業務推進統括として、グループ全体のテレビ×デジタルメディアセールス・統合プランニングをリードする。