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ビューティー業界のDXと顧客体験の進化【後編】 ~次世代化するEC、CRMとは?
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ビューティー業界のDXと顧客体験の進化【後編】 ~次世代化するEC、CRMとは?

新型コロナウイルスの影響によって、世界のビューティーブランドが届けるユーザー体験のデジタル化が進んでいます。進化するビューティー体験の現在地点とは。そして、博報堂だからこそ可能なデジタルトランスフォーメーションをサポートするソリューションとは――。今回、博報堂グループでクライアントのマーケティング、事業のデジタル化を専門にする部署から、クライアントの課題に精通し、かつ実装までできるメンバー6名が集結。ワンチームとして、変化の著しいビューティー業界におけるデジタルトランスフォーメーションを主としたソリューション開発に臨みます。

後編では、「ECの次世代化」と「コミュニティ型CRM」について、グローバルの事例やブランドが実践する場合の具体的なノウハウなどについてご紹介します。(前編はこちら

スピーカー:
阿部佳織 博報堂CMP推進局第2グローバルG
芦川理子 博報堂CMP推進局第1グローバルG
朴 穎(Judy) 博報堂CMP推進局第1グローバルG
チャールタナワット カニッタナン(ナン) 博報堂CMP推進局第1グローバルG
横井忠泰 博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部
三吉絢子 博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部

次世代EC、世界の最前線

阿部
コロナを契機に急速に進化したビューティー体験として、我々は「オフラインを経由しない商品購買・接客体験」「ECの次世代化」「コミュニティ型CRM」という3つの方向性を見立て、前編ではそのうち「オフラインを経由しない商品購買・接客体験」について詳しく見てきました。後編では、「ECの次世代化」と「コミュニティ型CRM」についてグローバルの事例を紹介していきたいと思います。
ナン
私からはECの次世代化が進んでいる海外事例を紹介します。まずはライブコマースの事例です。実店舗休業を受けて、オンラインでもよりリアルな体験を生活者に提供でき、さらに売上挽回を図る手段として、ライブコマースを配信する企業が急速に増加しています。たとえば中国のある百貨店では、従業員がECプラットフォームで商品ライブを配信し、ECでの購入を誘引する施策を展開していました。タイでも大手の化粧品ブランドが百貨店とコラボレーションし、休業中の店舗からSNS上でライブ配信を実施。百貨店ECへ誘引するだけでなく、配信の同時並行で購入代行を行ったりしています。代行の方法としては、SNSのメッセンジャーで生活者が問い合わせをし、購入したい商品の画像などを送ると、カスタマーサポートが代理で購入手続きをし、決済リンクのみを生活者に送って支払いをしてもらうというもので、タイの生活者にとって新しい購買体験となっています。日本でもブランドと百貨店が連携し、ライブコマースを実施する動きが出てきており、百貨店のECプラットフォームで従業員がライブ配信を行ったりしています。こうしたライブコマースは今後もさらに広がるだろうと考えられます。

また、もう一つのEC次世代化の方向性として、ソーシャルコマースが挙げられます。東南アジアでは元々C2Cのソーシャルコマースの存在感がかなり強かったわけですが、B2Cのソーシャルコマースも今後世界中で広がっていくと考えられます。欧米のソーシャルメディアがソーシャルコマースを前提にした開発を進めていて注目が集まっていますが、特に某画像投稿SNSは、決済など購買にまつわる一連の手続きがアプリ内で完結できるショップ機能をすでにアメリカで先行ローンチしています。今後同グループSNS内での決済サービス連携も見込まれていて、決済を含むすべてが、SNSのプラットフォーム上で完結するようになるでしょう。

一方、あるメッセンジャーサービスはタイでEC事業を開始しました。ブランドのオフィシャルアカウントからキャンペーン情報を配信し、メッセージ画面上からそのまま購入できるようになっています。消費財ブランドはもちろん、自動車メーカーまでもがEC機能を活用していて、車の予約金を支払うことができるような仕組みもすでに実現しています。こうしたソーシャルメディアのEC市場への参入はこれからますます注目が集まっていくと考えられます。

Judy
日本ではまだライブコマースがそこまで一般的ではないのでイメージしにくいかもしれませんが、中国では特にKOL(Key Opinion Leader)を活用したライブコマースが非常に盛り上がっています。たとえば夏場でもマスクの下でメイクが崩れないアイテムや、人気の口紅の新色など、季節やトレンドに合った商品を紹介するだけではなく、ただファンとコメントのやり取りをしたり、最近行ったレストランを紹介したりすることもある。彼らは毎日のようにライブコマースを行っていますが、憧れの対象となっているライフスタイル自体を披露しつつ、その中で自然に商品について伝えているため、購入したいという気持ちになりやすいんです。
また、前編でもご紹介したEGCとライブコマースの組み合わせも増えてきています。コロナによる店舗閉鎖を受けて、今年に入ってからKOLだけではなく、ブランドの店舗従業員によるライブコマース増えて来ています。店頭配信も盛んで、OMO(online merges with offline)を推進していると感じます。
阿部
中国は現在、世界的にももっともライブコマースが盛んな国ですね。ユーチューバーやKOLはまさにスター扱いで、彼ら自身が紹介する商品を選別しています。ものすごい数が売れていくため、ブランド認知に使われる例も多い。取り上げられた商品が即ECで在庫切れになることもあり、日本において情報番組で取り上げられるのに近いインパクトがあります。
また、中国におけるライブコマースはECに直につながるため、ライブを見ながらEC店舗を覗き、オンラインカウンセリングを受けて、即時購入、即日配達というフリクションレスな購買体験が実現されています。

日本の場合は現在のところ、商品紹介や使い方紹介といった情報提供型コンテンツを配信し、その後にSNS上に購買のリンクを貼り「ここに行って購入してくださいね」と誘導するパターンが主流だと思います。ただ、日本を含め欧米でも、自社のブランドサイト上でライブ配信を行い、配信を見ながら自社ECで商品を買えるといった中国式に近い機能の実装が少しずつ進んでいるところです。いずれは情報発信から決済までが一気通貫して行えることが標準的な世の中になっていくだろうとは思います。

■日本におけるライブコマースの課題と解決法

横井
我々もいままさにライブコマースに取り組んでいるところですが、手探りな部分もあり、クリアすべき課題もいくつかあるかと考えています。
インスタグラム上でのインフルエンサーによるLIVE配信の効果は高いですが、競合他社も同じように依頼しているため、「先週はA社を、今週はB社を勧めている」というケースが見られます。当然インフルエンサー側も説得力の低下を懸念して、闇雲に全て受けない傾向が強まるでしょう。そのため、効果は高いものの、定常的には実施しにくいジレンマがあります。

定常的にできるライブコマース施策で考えると、従業員が表に立って配信する形があります。そこでの課題は、「ライブ配信の上手いカリスマ的販売員をどう発掘するか」や「ライブ販売のトークシナリオをどう作るか」があります。後者には、ダイレクトマーケティング領域の「テレビショッピング」「通販インフォマーシャル」などの制作ナレッジが活きるのではないかと考えます。ダイレクトマーケティングの世界では、30秒~30分の動画で「買いたくなる」気持ちにさせる方法論が、実反応データに基づいて科学されています。その型を基にしてトークシナリオをつくり、従業員の方に実演頂くことで、効果的な施策になる確率が高いのではないでしょうか。

三吉
ソーシャルコマースについては、最近SNSでECと紐づけたショッピング機能を実装しているブランドがどんどん増えています。これまでは投稿でエンゲージメントを高めるとか、ゆるくお客さんとつながるツールだったのが、直接ECへとつながる入り口になりつつある。我々グループのSNSチームでは、アカウントの立ち上げから、投稿の制作、ECまでアクセスしたかのデータ分析などをすでに数多くのケースで支援しているので、十分お力になれるのではないかと思います。

■これからのマーケティングをけん引する!?Private Trafficという概念

Judy
次世代型CRMの事例として、中国の事例をご紹介します。
中国でいま最も話題になっていて、欧米でも次世代のコミュニティ型CRMとして注目を集め始めている「Private Traffic」というマーケティング概念です。簡単に定義を解説すると、一度接触したユーザーを自社公式WeChatアカウント中心の「WeChat エコシステム」に囲い込み、広告コストをおさえながら顧客育成、購買、リピート、また口コミ拡散までを目指すマーケティング手法です。
タッチポイントは複数ありますが、代表的な例としては商品のパッケージ上のQRコードで、ここからWeChat上にある公式アカウントに誘引します。このアカウントをフォローすると、公式アカウントからメルマガのような形でどんどん情報が発信され、さらにオンラインCS(カスタマーサポート)アカウントを友だち追加すれば、日々の情報配信に加えてキャンペーンクーポンが送られてきたり、こちらからの質問にも対応してくれます。
さらに複数人で参加できる「チャットグループ」に入ると、ユーザー同士でも色々なコミュニケーションができるようになっていて、ブランドのコミュニティとして機能しています。
メルマガの情報やチャットグループ、CSアカウントからの情報で買いたいと思った商品があれば、すぐにリンクが見つけられるようになっていて、WeChat mini program(アプリ内アプリ)による自社ECからワンクリックで登録・購入できます。中国でこれが成立するひとつの要因が、WeChatそのものの非常に高い普及率にあります。国内では誰もが使っているアプリで、一日の使用時間も非常に長い。いろんなスマホ決済サービスが競合している日本と異なり、中国ではほぼすべての人が2種類の決済サービス(アリペイ、WeChatペイ)のいずれかを使っていて市場占有率が非常に高いため、ユーザーが享受できるサービスの壁、格差がないのです。

ちなみにある中国ブランドは、このPrivate Trafficをうまく運営し、2019年に最大規模のECセールである“独身の日”キャンペーンで、中国最大のECモール内のメークアップカテゴリー売り上げ1位を獲得しました。ローカルブランドとして、しかも2017年に生まれた新しいブランドとしては非常に珍しく、急速な成長が見てとれます。
またあるドラッグストアはクラウドショップという方法をとっています。WeChat mini programを活用しひとつひとつのオフライン店舗のミラーECをWeChat上に開設し、ユーザーには今いる場所からもっとも近いリアル店舗のミラーECを登録してもらいます。ユーザーはそこの店員をオンラインCSとして友だち追加し、注文すれば1時間以内に商品が届くといったサービスです。

このPrivate Trafficという考え方は日本に限らず、世界中に広がっていくのではないかと我々は予測しておりまして、中国の先進事例を研究しながら、日本に最適なソリューションが提供できればと考えています。

■最適なブランド体験、ブランドコミュニティを実現するために必要なこと

横井

日本におけるコミュニティ型CRMには、まず2点のポイントがあります。1つ目は、オンラインとオフラインで顧客データを統合すること。オンとオフの顧客データが連携されていないと、お客さんがいつどこのチャネルで購入したかを把握しきれません。購買後の1to1メッセージ施策を組んだり、実リピート状況を把握するためにも、オンラインとオフラインのデータ統合の重要性は高いと考えます。

もう1つのポイントは、どの媒体でブランドのコミュニティを展開するかです。これまでのメルマガなどに加えてSNSの重要性が増していると思っています。ターゲットが日常的に使い、滞在が長い媒体に発信基地を置くことが有効だと考えるからです。SNSを「未顧客を顧客に育てる」リードナーチャリングのような目的で活用しているブランドもあるでしょうが、それに留まらず、「使い方のコツ」や「ライフスタイルtips」なども発信していくことで「顧客をリピーターに育てる」フェーズでも役立てることができると思っています。

阿部

たとえばアメリカの一部のブランドで、SNS上に鍵付きの非公開アカウントを作成しているところもあります。ファン側から申請をし、ブランド側が承認して始めてそこに入れるという形で、完全クローズドの空間でブランド側が会話をモデレーションし、ユーザー同士の対話を促している。ファンにそういう場を提供することが、ブランドへの好意や信頼感を高めることにつながっているケースです。Private Trafficに限らず手段はいろいろありますが、いずれにしてもブランドコミュニティをいかにうまく設計し、運営していくかは、これから我々もクライアントと共にチャレンジしていきたいところですね。

横井
海外のビューティー系スタートアップを見ていると、創業者のキャラクターが立っていて、その人がブランド価値を体現しているというのも重要なのかなと思います。
三吉
確かに最近では、アパレルでも、スター性のある創業者による誘引力のあるブランドが出てきています。ただ、一個人だけに頼ってしまうのは当然リスクもあるので、たとえばオンラインCSの質を総合的に高めていくといった対策も必要でしょう。その点、博報堂プロダクツのグループには、店頭販売員のトレーニングの仕組み、設計や評価システムの作成を得意とする会社もあるので、グループとしてカバーできる領域ではあります。
阿部
これまで前後編に渡ってビューティー業界に出てきたさまざまな新しい動きについてご紹介してきました。新しい体験が様々な場面で登場してきていて、生活者としても買い物がますます楽しくなっていく予感がしています。
しかし、前編で横井さんがおっしゃっていたように、新しいものを取り入れること自体が目的化してしまうと、なかなか既存のお客さんになじまない部分があったり、本来のブランドの体験とずれが生じてしまったりする。ブランド側と我々広告会社側で、どういう体験を届けたいのか、どういうカスタマージャーニーを描きたいかをしっかりと俯瞰しながら、それぞれのブランドにもっとも最適なソリューションを設計していくことが求められるのかなと思います。
たとえば、一言でオンライン接客といっても、「最後は電話に落とし込んだ方が、今のうちのお客さんには伝わりやすい」といったことも、多くの企業でありえることだと思います。博報堂グループとしては、俯瞰、設計、カスタマイズをきちんと行っていきながら、クライアント企業に本当に合ったデジタルトランスフォーメーションのお手伝いをしていきたいですね。
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  • 博報堂 CMP推進局
    マーケティングプラニングディレクター
    2013年入社後、トイレタリー・化粧品・食品・OTCなど消費財領域を中心にマーケティング戦略立案を担当。
    現在はグローバル領域における企業のデジタルマーケティング推進支援、及びビューティー領域に特化したDX研究・DX化支援に取り組む。
  • 博報堂 CMP推進局 第一グローバルグループ
    マーケティングプラナー
    タイバンコク出身。2019年中途入社。調査会社にてリーサーチャー職を経て化粧品メーカーで海外事業展開企画、マーケティング職を経験。
    現在はタイ中心に自動車、家電、化粧品業界のデジタルマーケティング戦略立案を支援。ソーシャルコマース、Eコマース、CRM領域推進に取り組む。
  • 博報堂 CMP推進局 第一グローバルグループ
    マーケティングプラニングディレクター
    中国上海出身。上海・東京でカメラメーカー、化粧品メーカー、スマホゲームメーカーのマーケティング職を経て2017年中途入社。
    入社後は中華圏の市場を中心にデジタル・データマーケティングの戦略立案を支援。
    日系企業の中国進出や現地でのマーケティング・EC展開・CRM構築に取り組む。
  • 博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 CRMデザイン部 データマーケティングディレクター / データシェフ
    学芸大附属高校・慶應義塾大学卒業。2014年博報堂PRODUCT'S入社。ダイレクトマーケティングのPDCAデータ分析職を経て、認知向上からLTV向上までの戦略プランニングに従事。現在ではクリエイティブの企画も担う。
  • 博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部
    データビジネスデベロップメント部 データマーケティングディレクター
    ITシステム会社でのアジア市場事業企画職、欧米家電メーカーでの製品企画職(リサーチ)を経て現職。
    入社以後、化粧品メーカーのECのPDCAや音声解析技術を活用した営業商談向上プロジェクト、自動車メーカーのウェブサイトのUIUX改修プロジェクトを担当。業種を跨いで、企画から運用まで対応。