【朝日新聞社との協業によるカテゴリーワークスの機能拡張と今後の展望】 歴史あるメディア企業との協業がもたらすもの ──機能拡張を続けるカテゴリーワークス
博報堂DYグループがもつデータプラットフォーム「生活者DMP」と、特定のテーマに特化したコンテンツを展開する媒体社保有のバーティカルメディアのオーディエンスデータを連携させ、マーケティング戦略立案からターゲットの送客までを一気通貫で実現する業種特化型マーケティングソリューション「カテゴリーワークス」。その機能が、およそ30のバーティカルメディアやサブメディアを運営する朝日新聞社との協業によってさらに拡大しています。バーティカルメディアを軸とした広告会社とメディア企業の連携の可能性について、両社のキーパーソンが語り合いました。
朝日新聞社
瀬端 哲也 堀江 和浩
博報堂
堀内 悠 多田 裕一 吉住 尚次郎
博報堂DYメディアパートナーズ
猪倉 丈史
バーティカルメディアでの顧客育成
- 堀内
- 2018年にカテゴリーワークスを立ち上げてから、自動車、スポーツ、ファッション、エンターテインメント、ペット、旅行、地方創生など、さまざまな領域のバーティカルメディアとの協業を進めてきました。この2月には、バーティカルメディアに注力されている朝日新聞社との協業がスタートしました。(参考リンク:https://www.hakuhodody-media.co.jp/newsrelease/service/20200217_27375.html)
バーティカルメディアの活用が盛んになっている背景には、高度なマーケティングが求められる現状があります。商品やサービスの顕在的なターゲットだけでなく、潜在的なターゲットを見つけ出し、そこに向けて商品・コンテンツ・広告などを配信し、顧客として育成していくシナリオなど、デジタルマーケティングの進化にも関係しています。
- 多田
- 潜在層にコンテンツ配信することで顕在層に育てる、いわゆるナーチャリング機能もカテゴリーワークスに含まれています。
- 猪倉
- ミドルファネル、つまり見込み顧客にアプローチし、顧客に育成していくという手法ですよね。クライアントが保有する顧客データを「内海のデータ」と呼んだりしますが、その活用が飽和しつつある中にあって、多くのクライアントが「外海のデータ」、つまり自社の顧客ではない生活者のデータを必要としています。その際、マーケティング課題に応じた質の高い外海データを取得・活用できるのが、バーティカルメディアの特徴です。
- 瀬端
- バーティカルメディアをはじめとした朝日新聞社のメディアを活用したコンテンツマーケティングは、ミドルファネルにアプローチする有効な方法である──。私たちも以前からそう言ってきました。しかし、それを可視化することはなかなかできませんでした。近年、記事の閲覧データや行動データなどを分析することで、それが可視化できるようになっています。データ活用は、クライアントにとってはターゲティングの精度を上げられるというメリットがあり、私たちにとっては、データを参考にしながら、よりユーザーに「刺さる」記事をつくることができるというメリットがあります。
- 吉住
- ユーザーの可視化で力を発揮するのは、生活者DMPやAudience-one*1になります。生活者DMPは、生活者の情報行動・購買行動・意識といったデータを保有している博報堂DYグループ独自のマーケティングデータ基盤です。Audience-oneと連動することで、サイト訪問者の特徴を可視化できます。
今回も、これらを使用することで、ファネルの深掘りができました。
- 堀内
- カテゴリーワークスと朝日新聞社との協業はクライアントにどう受け止められていますか。
- 瀬端
- ナーチャリングへの期待が非常に高まっていることを感じます。顧客育成を課題とするクライアントが非常に多いということだと思います。また、その方法を模索する中で、クライアントのデジタルへの理解も深まっていますね。
- 堀江
- タイアップコンテンツの役割も変わってきていると思います。以前は、新聞本紙の記事体広告がそのままウェブサイトに掲載されるケースも多かったのですが、博報堂との協業が進む中で、具体的な広告効果を目標とするデジタルメディアならではのタイアップ展開が増えてきています。もっとも、クライアントが求める効果はそれぞれに異なるので、クライアントごとに最適な展開を考えていく必要があります。
- 瀬端
- クライアントの課題の与件整理がより重要になっていると言えますね。
多様なバーティカルメディアデータから作られるコンテンツ
- 吉住
- この協業の中で、バーティカルメディアからクライアントのオウンドサイトへ送客するという流れも実現しています。バーティカルメディアのデータには、非常に解像度が高いという特徴があります。どのような記事を読んでいるかが具体的にわかるので、ユーザーのペルソナを描きやすいわけです。そこから、旅行が好きな層とか、グルメが好きな層といったターゲットをあぶり出すことができます。
- 瀬端
- 記事の閲覧情報によってセグメンテーションして、クライアントが求めるターゲットを送客することができる。おっしゃるように、それがバーティカルメディアの特徴の一つです。
- 堀内
- 従来のマーケティング調査から明らかになるのは、主に顕在層に関する情報です。一方、コンテンツの閲覧データは、クライアントも知らない「次のターゲット」を明らかにすることもできます。例えば、ある商品やサービスへの接点がまったくなかった人たちが、実はその商品に強い興味をもっているということが閲覧データからわかる場合があります。それはマーケティング調査からは見えない事実です。
- 多田
- 特に、朝日新聞社の強みは、日本最大級のニュースメディアだけでなく、多くのバーティカルメディアを運営していることだと思います。いろいろなテーマから潜在層を見つけることができるし、ユーザーの興味・関心を掛け算することで、新しいターゲット像を作りだすこともできます。朝日新聞の「バーティカルメディア群」は、クライアントにとっては非常に有用なプラットフォームと言えるのではないでしょうか。
- 瀬端
- それもおっしゃるとおりですね。私たちは現在30を超えるバーティカルメディアやサブメディアを展開していて、総PV数は月間5億程度、ユニークユーザー数は約6,000万人に上ります。異なるメディア間のデータ連携もほぼ実現していて、例えば、ファッションが好きな層とペットが好きな層の重複がどのくらいあるかを可視化することが可能です。これは、メガプラットフォーマーの運用型ターゲティングからは見えにくい部分ではないかと思います。
- 堀江
- この記事に興味がある人は、別のメディアのこの記事にも興味がある──。そんなことが可視化できるわけです。潜在層を発見する網目が非常に細かいと言えると思います。
- 多田
- 多くのクライアントは、「メディア群」を活用して潜在層を掘り起こしたいというニーズをお持ちです。しかし、メディア群を束ねようとしても、それぞれを運営する媒体社が異なるために、データを一気通貫で分析することが難しいのが普通です。一社で多様なメディアを運営し、異なるテーマとユーザーデータをつなげられるのは、まさに朝日新聞社ならではです。
- 猪倉
- もう一点、朝日新聞社のバーティカルメディアの強みは、提供されるコンテンツです。プロの記者や編集者が一からコンテンツをつくっているので、新聞社としてのさまざまな知見・視点を、コンテンツに生かせます。
「ともに考え、ともにつくる」という考えのもと、立ち上げられたメディア群は、ユーザーのエンゲージメントが高いことも特徴です。ユーザーと良好な関係を築き、ロイヤリティを高めることができるという点でも、非常に優れたマーケティングプラットフォームです。
- 瀬端
- 記事を執筆している記者たちは、取材の方法や情報の裏の取り方などを徹底的にたたき込まれています。そのような記者がつくるからこそ、信頼していただけるコンテンツになる。そう自負しています。
リアルなユーザー接点を射程に入れる
- 堀内
- コンテンツマーケティングソリューションプログラム「Asahi Digital Solutions(ADS)」が10月にリリースされました。その概要を教えていただけますか。
- 瀬端
- 新聞社として長年培ってきた取材力や記事制作力でクライアントのニーズに応えていくというのが、ADSの基本的なコンセプトです。ソリューションは、大きく4つのセクションで構成されています。「コンテンツラボ」「クリエイティブラボ」「コミュニティラボ」「データラボ」です。
「コンテンツラボ」は企画・編集を担う編集部を中心としてコンテンツセクション、「クリエイティブラボ」はページデザインや動画ディレクターなどクリエイターのセクション、「コミュニティラボ」はユーザーとのつながりを形成していくセクション、「データラボ」はメディア内で取得したデータをクライアントが所有するデータやサードパーティデータとつなげていくセクションです。
- 堀内
- 私が注目しているのは、このソリューションがデジタルだけではなく、リアルなユーザー接点を射程に入れていることです。博報堂は新しい「生活者インターフェース市場」をつくり出すことをビジョンとして掲げています。ここにはもちろん、リアルなインターフェースも含まれます。朝日新聞社は、文化・スポーツ分野のイベントを数多く主催されていますよね。ということは、博物館、美術館、スタジアムなどのリアルな生活者インターフェースをお持ちだということです。そのリアルな接点を含んだコミュニティをつくるという視点は、私たちのビジョンと合致しています。
- 堀江
- 弊社は大小合わせると年間1,000件くらいのイベントを主催もしくは後援していて、総動員数は1,000万人から1,200万人ほどになります。確かに、そのリアルな接点とデジタルとの融合には大きな可能性があると思います。
- 多田
- 定期購読されている新聞紙、バーティカル化が進むデジタルメディア、体験価値を提供するリアルイベント、生活者との接点が多面的に捉えられるのは朝日新聞社の強みだと思います。特に、ここまでの規模でリアルイベントを備えているメディア企業は、他にあまりないのではないでしょうか。
- 吉住
- もう一つ、「エリア」という視点も重要だと思います。デジタルメディアではエリアはあまり意識されませんが、新聞には地方版があるし、リアルイベントにはエリアの要素が欠かせません。
- 堀江
- 拠点は全国に254あって、販売店のネットワークもあります。それぞれのエリアの特性をコンテンツづくりに生かしていくという方向性も確かにありえると思います。
- 瀬端
- 地方で活躍している記者はたくさんいるのですが、ローカル情報は限られた新聞紙面になかなか反映されないという事情があります。そのような情報の中にビジネスのチャンスがあるかもしれませんね。
より良い社会をつくるマーケティング
- 猪倉
- 今後は、多様なバーティカルメディア群を抱える朝日新聞社として、どこで“旗”をたてるのかが重要になると思っています。「SDGsマーケティングに強い朝日」「女性問題に強い朝日」等の旗を立て、読者やクライアントを呼び込む。こうしたブランディングを推進することで、朝日新聞が140年超の歴史の中で培ってきたジャーナリズムと、昨今求められるマーケティングスキームとを、融合できるのではないでしょうか。
- 多田
- 朝日新聞にはジャーナリズムによる提言力があると思います。一方で、博報堂には、生活者発想に基づいたより良い社会をかたち創ろうとする視点があり、社会課題や社会テーマを解決していくような社会性の高いマーケティングの在り方を模索して行きたいですね。
- 瀬端
- 社会課題に対しての提言力があるのは、まさしく新聞社の強みです。実際、広告企画にもSDGsなどをテーマにしたものが増えています。クリエイターの中にも、社会課題をテーマにしたコンテンツがつくりたいという人がとても多いんです。クライアントにとっては、そのような課題に一緒に取り組むことがブランディングにつながるはずです。
- 堀江
- 主体的提案は、いわばプロダクトアウトの発想ですよね。マーケットインの発想だけでは発信できないコンテンツもあると思います。プロダクトアウトのメッセージ発信がクライアントの価値になる。そんな道筋を模索していきたいですね。
- 堀内
- カテゴリーワークスは、私たち自身がさまざまな業界のプロになることを目指して始まった取り組みです。業界を深掘りしていくという視点は、特定テーマを深掘りするバーティカルメディアと共通しています。一方で、生活者発想という視点では、生活者にとって価値があるのか、世の中を広く見ていく視点も忘れてはならないと思っています。ときには、バーティカル視点で、ときには世の中を広くみる生活者視点で、共に日本のよりよい未来の社会づくりにマーケティングの力を活用して行ければと思います。
※1 「AudienceOne®」
DACが提供するデータ・マネジメント・プラットフォーム。月間4.5億ユニークブラウザのCookieデータを保有。
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瀬端 哲也朝日新聞社 総合プロデュース本部 デジタルソリューション部 次長2004年朝日新聞社に入社。新聞広告営業を経て、現在はデジタル広告営業を担当。企画立案からプランニング、データを活用したソリューション提案領域を手がけるメディアの立ち上げ、朝日新聞社のデジタル新商品開発、新規事業開発などにも携わる。
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堀江 和浩朝日新聞社 ソリューション・デザイン部 メディア・ディレクター2004年朝日新聞社入社。メディアビジネス部門で旅行、金融、自動車業界の担当を経て、現在は情報通信・流通業界、官公庁・団体を担当。多種多様なウェブメディアや新聞広告に加え、メディア以外の新聞社のリソースも活用した課題解決策の提案業務に携わる。
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堀内 悠博報堂 CMP推進局 部長京都生まれ京都育ち。2006年博報堂入社。入社以来、一貫してマーケティング領域を担当。
事業戦略、ブランド戦略、CRM、商品開発など、マーケティング領域全般の戦略立案から企画プロデュースまで、様々な手口で市場成果を上げ続ける。
近年は、新規事業の成長戦略策定やデータドリブンマーケティングの経験を活かし、自社事業立上げやマーケティングソリューション開発など、広告代理店の枠を拡張する業務がメインに。
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多田 裕一博報堂 CMP推進局 ディレクター2010年IT企業に入社。ビッグデータ解析を用いてEC戦略立案、会員育成、施策改善など、デジタルマーケティングを中心に携わる。2019年に博報堂へ参加。これらの経験を活かし、デジタルマーケティングを中心に、ソリューション開発などに取り組む。
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吉住 尚次郎博報堂 CMP推進局 プランナー北海道沼田町出身。2017年博報堂入社。
入社当初はストラテジックプラニング職として、自動車メーカーやアプリゲーム、クレジットカード会社、お菓子メーカーなどのマーケティング領域を担当。現在はソリューション開発、得意先の新規事業開発支援、最新技術を利用した自社事業の立上げに取り組む。
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猪倉 丈史博報堂DYメディアパートナーズ
新聞局 新聞一部2014年博報堂DYメディアパートナーズ入社。初任はストラテジックプラニング職として、食品、家電、製薬、マスコミ、オンラインサービスなど幅広い業種で、データ統合型マーケティングを推進。ダイレクトマーケティングで培われたPDCA管理力で事業成長パートナーとして併走。2017年10月よりメディアプロデュース職として、新聞局へ異動。新聞社プロパティのセールスおよび広告商品開発を行う。2019 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS メディアクリエイティブ部門 GOLD受賞。