ヒット習慣予報 vol.139『節約術共享@中国』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。
9月も後半を迎えました。いつの間にか、秋分の日も過ぎ、日中の暑さも一段落、朝夕の涼しい風が秋の訪れを感じさせています。これから日暮れが早くなるのが少し寂しくもありますね。とはいえ、秋には、「スポーツの秋」、「食欲の秋」や「読書の秋」など、様々な顔があります。皆さん、コロナ影響下でどんな楽しみ方をされていますか?
さて、今回はコロナ禍で生活が一変する中、中国における若者の消費習慣の変化に着目し、「節約術共享」をテーマとして取り上げたいと思います。
ここで言う「共享(ゴォン シィァン)」とは、中国語で「シェアリング」と同義です。
前回のコラム「夜更かしの精緻化@中国」では、20代~30代の若者が社会の主役として中国の消費を支える存在となりつつあるというような話に触れましたが、最近、若者たちの消費習慣に変化の兆しが見え始めています。
中国の若者はコロナが落ち着きつつある今、経済面や精神面で不安定になっている人が増えています。そんな中、これからの時代を生き抜くために、各種ソーシャルメディア上で、いかに出費を切り詰めて節約するかという話題をめぐって知恵を出し合いながら、節約術を競うコミュニティの数が急増するなど、大きな盛り上がりを見せています。
「節約」を標榜したネット上のコミュニティ内のやり取りの内容を覗いてみると、「ヘアセルフカットを徹底せよ」や「晴雨を問わず自転車通勤」以外に、「0.9元(15円相当)でランチ済ませよう」とか、「超ミルクティーを飲みたいんだけど、誰か制止してくれないか?」とか、「オンラインクレジットサービス不使用5か月目の記念日」とか、思わず笑ってしまうほど面白いものばかりです。恥ずかしいどころか、その節約あるある話をいち早く誰かと共有しないと気が済まず、もはや「節約」の自慢合戦とも言えます。
そして、「節約」だけでなく、貯金を意識した工夫も若者の習慣となりつつあります。消費意欲が高く、月光族(貯金もせず、その月の給料を全部使い果たす)」とまで呼ばれていた1990年代生まれの90後(ジョウリンホウ)世代ですが、今年の7月に発表された研究報告書によると、某オンライン預金サービスにおいて、2019年上半期に比べると、2020年上半期の1人当たり貯金額が40%も増えたほどです。4日に1回ぐらいの頻度で少額ながらも、買い物などで余ったお金をコツコツと貯金に回しているようです。SNSが広く普及している現在、SNSできめ細かい支出記録を公開して倹約家の一面をアピールする若者も増えてきています。
実際に、ここ3か月でBaidu指数をみると、「節約」や「貯金」への関心は、国の指導者による節約習慣の形成への呼びかけもあってか上昇傾向にあり、今後さらに高まっていくと思います。
では、中国の若者はなぜ、辛抱強く続けて「節約」に努めているのでしょうか。先行きへの不安以外の理由は大きく2つあると捉えました。
まず、オンラインコミュニティを通じて、苦楽を共にできる仲間の存在だと考えます。
中国の若者は「節約」を心掛けていても消費意欲そのものが高いですし、それを一人で我慢するほど辛いことはありません。オンラインコミュニティの中で、どんなにくだらない節約サバイバル術を披露しても、「ケチ臭い」、「私には使えない」と貶されることもなく、それどころか、「頑張れ!」と励ましてくれたり、「こういうやり方もあるんだけど、どう?」と惜しみなくアイデアを考えてくれたりして、同じ境遇にある者同士が支え合うことで節約生活を楽しんでいこうとモチベーションを維持できるわけです。
そして、もう1つの理由は、中国の若者が目の前の欲望に打ち勝ってこそ本当に欲しいものに出会えることに気づいたという点です。
前にも述べたように、中国の若者は消費意欲そのものが高いですが、コロナを機に、時間が経てば消えてなくなる一時的な流行に、貴重な時間とお金を費やしていると、いつまで経っても豊かになれないことに気づいたのです。月光族のままでいるより、夢見ていた大都市でのマイホームや自分のキャリアアップのための投資など、コツコツと貯金をして本当に欲しいもの・生活が手に入りやすくなります。つまり、こうやって自分の在り方を選ぶ権利が与えられます。
最後に、「節約術共享」のビジネスチャンスについて、少し考えてみました。
「節約術共享」のビジネスチャンスの例
■ ユーザーの声を反映した形で、節約効果の高い商品やサービスしか取り扱わないECサイトの開発
■ 各自の節約ニーズに合った商品とマッチングしてくれるアプリの提供
■ インターネット上の節約に関わる投稿を集めて分析し、企業向けに新商品・サービス開発のためのアイデアバンクの設立
など。
僕は、コロナ禍で海外旅行も中国への帰省もできない分、今秋を「旅の秋」と位置づけて毎週末のように国内旅行の計画を立てていますが、「節約術」を取り入れてプランを練り直すべく、道中での出来事をみなさんと共享(シェア)したいですね。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 統合プラニング局
ヒット習慣メーカーズ メンバー2017年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。