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オープンイノベーション型テクノロジー開発で成果を出すために ~課題を解決するための提携から、課題を作っていくための提携へ~
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オープンイノベーション型テクノロジー開発で成果を出すために ~課題を解決するための提携から、課題を作っていくための提携へ~

博報堂DYホールディングスは2018年2月、公募企業とオープンイノベーション型でテクノロジー開発を推進する「公募型共同開発プログラム」にて多数の企業にご応募をいただき、3社とテクノロジー開発の計画もしくは実証実験を行いました(関連記事はこちら)。今回は改めて本プログラムの狙いと、プログラムの具体的な成果について、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターのグループマネージャー兼デジタルロケーションメディア・ビジネスセンターのリーダーを務める佐藤智施に話を聞きました。

■公募型共同開発プログラムの成功要因は3つ

まずは改めて、公募型共同開発プログラムに取り組んだ理由についてお話します。それはテクノロジー開発における外部環境の変化に対して危機感を感じていたことと、その変化に対応するための新しい技術を獲得したかった、ということが1番の理由です。
「自前で全てを開発していくことがスピード的に困難になってきているのではないか」、「自社だけで取り組むと今までの延長線でしか考えられないのではないか」といった課題を感じており、そうした状況をこのようなプログラムによって打破できたら、と考えました。

ちょうど博報堂DYグループが全社的に“リアル空間に新たなデジタル接点を生み出し、生活者へ新しい発見や気づきを創り出す”ための「生活動線系メディアテクノロジー」に取り組むという、大きな方向性を打ち出したタイミングでもあったので、公募についてもその領域で推進をしていくテクノロジーエコシステムの構築をテーマにしました。
本プログラムでは結果として、実証実験を協業しなかった企業を含め、複数社と資本提携もしくは業務提携を締結することができ、新たなテクノロジー開発につながりました。

本プログラムの成功の要因は3つあります。
一つ目はテクノロジーの領域に応じて、各パートナー企業に求める役割を明確化したことです。公募の期間は1カ月間と短かったのですが、一般的な技術の公募よりも領域がピンポイントで、テーマもはっきりしていたことが幸いし、多くの優れた企業にご応募いただきました。
ただ、ご応募いただく際に難しい部分もあっただろうと思います。最近は企業同士が技術的な領域でコラボレーションを行うのは珍しくありませんが、2年前(2018年2月)の時点では、こうした取り組みは数少ないものでした。

また、既存領域で不足している新技術を求めるということと、その周辺の領域での新たなテクノロジーを探索するという両面を公募の条件に出していたのも、ハードルが高かったと思います。公募の場合、どちらか一方だけ求める、というケースが一般的には多いです。今回ご応募いただいた企業には、そういった難しいハードルを乗り越えていただいたと思います。
 二つ目は、技術力だけではなくお互いにパッションを共有したり、リスペクトしあえる関係作りができたこと。もちろん技術力を持っている前提でのお付き合いですが、我々の気持ちとしては、「各パートナー企業に僕らを選んでもらう」という気持ちで取り組んでいました。
 三つ目は、応募いただいた企業にとっては、新しい収益を得る機会作りが構想できたことだと思います。ご応募いただいた企業は、単に資金提供や資本提携を望んでいる、ということはありませんでした。資金提供を望むだけであれば必ずしも我々と組む必要は無かったはずです。その中で我々を選んでいただいた理由は、テクノロジーを介して「新しい収益についての構想を共有する」という我々ならではの支援に魅力を感じていただいたからだと思っています。

■音の解析は非常に可能性のある領域

では、実際にどのような取り組みが進んでいるかというと、2019年12月27日にプレスリリースしたばかりのHmcomm社との取り組みを例にお話しましょう。
生活動線上の空間の特徴を解析する場合、センサーや映像がまず考えられます。我々はそれに加え、音にも可能性があるのではないかと考えました。
センサーであればWi-Fiなど、映像であればカメラなどを使います。ただこれらの技術にも課題がありまして、たとえばセンサーデータの場合、全量データではなくサンプルデータとなってしまうケースが多いです。また、カメラの場合、単価は下がってきているもののコストはかかりますし、映った人の個人情報をどうするかという問題もあります。
一方、音であれば、それらの課題を解決できる可能性が非常に高く、そういった点で音の解析は非常に可能性のある領域なのではないかと考え、研究のテーマとしました。

既にあるツールやサービスを活用する方法もあったと思いますが、生活動線上のマーケティングサービスに、音を利活用しているケースはあまり存在しておらず、自分たちで研究開発から取り組む必要がありました。
他の技術もほぼ共通していて、今回応募いただいた企業のみなさんはものすごい技術を保有していましたが、それを他の技術と連携させる構想、という部分で「自分たちにない発想を」と、各応募をいただいた企業は我々への期待をお持ちでした。
今回プログラムに協働で取り組むことで、どう使われるかも含めて一緒に着想した、といった具合です。

■エコシステム構築し、新しいビジネスチャンスをつくる

今回の気づきとしてあったのは、自社にとってのコアと非コアの領域を明確にして、今回のように「どのようなテクノロジーを社外から獲得する必要があるかを構想する力」そのものが、一つの競争力になるんじゃないか、と思ったことです。これからのテクノロジーやサービスのソリューション開発には、より一層のスピードが求められます。
今回のようなプログラムを通じて、広告会社として生活者に新たな価値を提供する仕組みや、社外からの刺激によって社内をさらに活性化させることができたらよいのかなと考えています。

今後、大きな視点で企業間連携を考えると、コアと非コアの話にも繋がりますが、今までの提携のあり方は、大企業が自分たちのバリューチェーンを強化し、ワンストップでサービスやソリューションを提供することを目的としていました。たとえば自動車会社が製造部門を強化してバリューチェーンを最適化する、といった具合ですね。
しかしこれからはそういった形ではなく、スタートアップ企業等に対して彼らのビジネスを推進していくために自らの経営資源を提供し、それらの対価として彼らの技術を提供してもらう。一緒にエコシステム構築するようなスタイルの提携が増えていくと思います。両社のどちらが主体、いうことではない関係性なんです。
それにより我々の競争力も向上していくのではないかと考えています。そして、新たなビジネス課題を発見できれば、新たなビジネスチャンスが見つけられるでしょう。

言い換えると、今までは課題を解決するための提携でしたが、これからは課題を作っていくための提携になる、ということです。博報堂DYグループ内だけで解決できることが相対的に減っていくかもしれませんし、今までの延長線上で物事を語れなくなるかもしれません。他社との協力によって、新しいビジネスチャンスを想像できる環境を作っていくことが必要だと考えています。
 
最後に、「生活動線系メディアテクノロジー」を通じて、生活者に新たな気づきを与えるための仕組みを作りたいと思っています。その仕組みを実現していく為には、生活者モードを抽出して、捕らえることが必要だと考えております。生活者モードとは、「状況に内包される生活者が気付いていない欲求」を指します。この生活者モードを抽出して、捕らえるために、様々なテクノロジーパートナーとエコシステムを構築していきたいと考えています。今回の公募型共同開発プログラムも、この取り組みの一環と考えていますし、これを続けた先にゴールがあると思っています。

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  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター グループマネージャー
    大学卒業後、食品メーカー、ITベンチャー、外資系マーケティングサービス、
    M&Aアドバイザリーファームを経て、株式会社博報堂入社。
    2017年4月から出向して現職。
    主に事業戦略、事業開発、プロダクト開発およびマネジメントの経験を有する。