ECプラットフォームを活用して企業成長を実現する方法とは?
グローバルでECサービスを展開するShopify Japanカントリーマネージャーのマーク・ワングさんと、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局の山之口 援が、D2Cビジネスの今と二社の協業による企業ブランド成長の可能性について話しました。
- 山之口
- まずはじめに、Shopifyというサービスについて説明していただけますでしょうか?
- マーク
- Shopifyは、オンライン、オフライン、その他あらゆる場所で販売するための世界最大級のマルチチャネルコマースプラットフォームです。すでに世界では80万店舗以上がShopifyを利用しておりますが、今後最も成長する重要な市場の一つとして日本を考えています、そのため、日本の事業者によりよく対応できるよう、Shopifyのローカライズに集中投資しています。中小企業から巨大企業まで、あらゆる日本の事業者の国内・海外販売を手助けしたいと考えています。
- Shopifyが提供するのは、事業者がインターネットとソーシャルメディアを通してネット販売を始めるのを支援する、最も使いやすく最も強力なオンラインプラットフォームです。店舗での販売を支援するPOSとも連携可能であり、決済、統合移行のサポートまで、ネット販売において、必要なほぼすべてのものを、できるだけシンプルに提供しています。
- 山之口
- Shopifyの強みは何でしょうか?
- マーク
- Shopifyの強みは沢山ありますが、最大の強みは簡単に使えることと、非常にスケーラブルであることです。コーヒーショップのような小規模の起業家がカップやコーヒーをネット販売するときも、世界有数のブランドがネット販売するときも、同じShopifyを使えるのです。とても使いやすく、事業の拡大に合わせて柔軟に対応できる ― ここに私たちの強みがあると思います。会社の規模やニーズを問わず、Shopifyは売上アップに貢献できます。
- 山之口
- どのようにしてShopifyのサービスをSMB(中小企業)から大企業まで適用するのでしょうか?ニーズに合った方法論があるのですか?
- マーク
- とても興味深い質問ですね。私たちが歩みながら学んできたことは、小規模の起業家にとって必要な機能はすべて巨大企業にとっても必要な機能だということです。10年前にShopifyを立ち上げたときの目標は、単にネット販売を始めたいという小規模の事業者や起業家、個人を支援することでした。そして、小規模の起業家を助けるのに最適なプラットフォームを構築し続けました。
プラットフォームの構築を続けるうちに、私たちは、中規模の会社、そして次第にもっと大きな規模の会社、想定していたよりもはるかに大きな規模の会社も、Shopifyを利用していることに気づき始めました。創業当時は大規模店向けにShopifyを作ったわけではないのに、大きな会社が使い始めていたので、とても驚きました。現在は、「Shopify Plus」という別製品も用意し、最大級のShopify店舗に対してグローバルに提供しています。
Plusを使う加盟店には追加機能を提供しています。高度なカスタマイズ、APIアクセスの拡大(多様なバックエンドシステムとの連携など)や、ビジネスプロセスを自動化するShopify Flowといった、大企業が必要とする機能です。しかし最も重要なのは、大口顧客がSpotifyのMerchant Success Manager(マーチャントサクセスマネージャー)を利用できる点です。専任のアカウントマネージャーが売上アップと店舗機能改善を手助けします。しかし、核となる部分に関しては、規模の大小にかかわらず事業者が求めるものは同じです ― もっと沢山売りたい、もっとネットで売りたい、ソーシャルメディアのフォロワーに売りたい、スムーズに支払いを受け入れたい、迅速に商品を届けたい。私たちは、それらへのベストソリューションを事業の大小問わず加盟店に提供しています。
この話とも関わりますが、今、消費財メーカーの多くがD to C(Direct to Consumer)に力を入れ始めています。流通を通して売っていた巨大メーカー/ブランドにも大きな変化が起こっています。小売店や消費者に直接販売する店舗を開設しているのです。
- 山之口
- 私たちも、これから伸びていく新しい事業も支援したいと考えています。そして、Shopifyは、こうしたマーケットニーズへのソリューションになると考えています。
そこで興味があるのですが、Shopifyから見て、博報堂は、急成長を目指す企業のどのような能力をサポートすべきだと思いますか?
- マーク
- 会社やブランドを育てるのは大変な仕事です。一朝一夕にできることではありません。以前は大きくて強力なブランドを作るのに数年、数十年という長い時間がかかりました。ブランドを育てる間、そのブランディングはもちろん、製品自体、製造に集中し、またサプライチェーン管理や小売、ネット販売システム、配送などやるべきことは多岐にわたります。しかし、私たちShopifyが支援できない部分もたくさんあります。例えば、私たちは、ブランドとマーケティングそのもののプランニングはできません。その代わりにShopifyが出来ることは、その他のすべてを簡略化することです。すると、博報堂とそのクライアントは、先ほど挙げていたような、ブランディング、マーケティング、サプライチェーンといったところに集中できます。Shopifyを使えば、技術的なこと(顧客管理、在庫管理、POSソフトウェア、決済連携、サーバー、セキュリティ、クレジットカードセキュリティ、ハッキング、DDoS攻撃といったこと)の心配をしなくていいからです。博報堂ができることは、小規模企業が自社の製品とブランドの成長手段に集中できるようにすることではないでしょうか。Shopifyでもその成功例が多数あります。
特に有名なのは、米国のカーダシアン家の一員でスーパーモデルのカイリー・ジェンナーでしょう。カイリーは数年前、自分のブランドを立ち上げてShopifyでメイクアップ商品の販売を始めました。オンラインでブランドを展開したこと、そしてShopifyを使ってオンラインプレゼンスを劇的に高めたことで、彼女はeコマース初の史上最年少の女性ビリオネアのひとりになりました。
以前はソフトウェアを開発して、ウェブサイトの維持管理し、ソーシャルメディア連携の管理、多数の在庫保管場所の管理、そして海外に売る場合には複数通貨での販売を管理するためのチームが必要でした。今はShopifyがそのすべてを担うので、とても簡単です。手頃な料金でエンタープライズグレードのマルチチャネルプラットフォームを手に入れて売上を拡大し、可能な限り速く規模を拡大できます。
- 山之口
- そうですね。だからこそ、私たちはShopifyをベストパートナーだと考えています。
- マーク
- ありがとうございます。
- 山之口
- 私たちは、ブランディングとマーケティングの専門家として、クライアントの成長を支えたいと思っています。人々はShopifyを「eコマースを進化させるツールキット」として見ていますが、ネット事業の育成方法を学ぶためのプレイブックのようなものとしてShopifyを捉えることもできると思っていますが、どうでしょう?
- マーク
- はい、私たちはそうなりたいと思っています。ネットやその他の場所で販売することへの道のりを、簡素化したり短縮することに努めています。我々と博報堂のパートナーシップの話に戻れば、先ほど言ったようにShopifyが何でもできるわけではありません。私たちが得意とするのはテクノロジーです。優れたオンラインプラットフォームの構築を助け、ネットやその他あらゆる場所での販売を助けることです。すでに話したように、事業が成長するためには、顧客理解があり、マーケティングがあり、大小のパートナー企業との関係構築がある。マーケティングパートナー、とりわけ博報堂との協働は、Shopifyが中小企業と大企業の売上拡大および海外販売を支援できるようになるために極めて重要です。
私たちには、ブランディングとマーケティングを理解し、ブランドとの関係を持ち、テクノロジーを理解し構築できる博報堂のようなパートナーが必要です。博報堂にはデータアナリティクス、顧客調査、マーケティング、その他のソリューションがありますよね。博報堂のような強力なパートナーと協業することで、起業家やブランドにインパクトを与えて、さらに成長させることができると思っています。
- 山之口
- しかし、パートナーシップの成功や加速にはコツがありますよね?
- マーク
- そうですね。事業者が成功するには、「開かれた生態系」が必要であると確信しています。だからこそ、日本上陸にあたり既存の関係を持ち込みませんでした。Shopifyはカナダの公開会社です。日本の会社の出資がないだけ、開かれた生態系を維持することができました。出資関係や、その他の利益のために、特定の決済手段に偏るといったことは一切ありません。基本的に私が築こうとしているのは、山之口さんがおっしゃったように、事業者にとって必要なものをその他の障壁なしで提供することによって小規模から大規模への最速の成長を促す、オープンなプラットフォームです。
- 山之口
- 私たちは、マーケティング、特にブランドに関するストーリーテリングに注力したいと考えています。ブランドがどのように生まれて今後どうなるのか。そこに注力したいのですが、規模の拡大には多くの障害があります。主には技術的な課題です。Shopifyのプラットフォームについて、どのようにそれを使えるか、あるいはShopifyのようなプラットフォームの力を生かすためにどのようにクライアントをサポートできるかを常に考えています。
- マーク
- それは私たちの目標でもあるので、とてもありがたいです。そのように信用していただき、恐縮です。会社としてのミッションは、起業家や小規模企業がビッグビジネスに成長するのを支えることです。私たちは世界で数々の成功を収めましたが、まだまだ多くの企業にもインパクトを生み出せるはずです。日本の会社の99%は中小企業ですよね?そのような日本の会社こそがグローバル大企業へと成長すべき時です。日本は絶好のチャンスを迎えています。経済のデジタルシフトに加え、生活者ニーズのグローバル均一化、あらゆる伝統と工芸の再発明、世界的なスポーツイベントの開催など、これらの領域で、Shopifyプラットフォームによってインパクトを与え、大きな役割を担うことができると私たちは確信しています。ただし、すでに言ったようにすべてはできません。私たちにはマーケティング知識、コネクション、市場内での規模がありませんので、そこで博報堂が私たちを十分に信用してくださり、共同でこのプラットフォームをその種の会社や個人、小企業、大企業に導入していただければ、私たちはとても嬉しいです。
- 山之口
- 私たちはクライアントの成長を助けるエージェンシーまたは何らかのサードパーティなので、まずクライアントを見つける必要があります。
- マーク
- そうですね。博報堂はすでに有名ブランドで、マーケティング、デジタル広告、すべてにおいて実績がありますよね。それらのブランドがネット販売のためのツールを必要としていれば、喜んで提供します。また、私たちはすでに日本で数多くの加盟店を獲得しており、その事業者たちはビジネスを拡大する方法を知る必要があります。博報堂とShopifyで強い生態系を作るべきだと考えています。それはつまり、Shopifyの加盟店とパートナーの強固なコミュニティを形成することです。加盟店がマーケティング、ブランド創造、ブランド拡大に関して博報堂から学べるように、出会いの場を提供し、コミュニティを構築したいと思っています。
Shopifyを使い始めた初期段階では店舗を開設する方法についての質問が最も多いですが、店舗オペレーションが軌道に乗った後に、一番多い質問はマーケティングの知識やサポートに関するものです。先ほど言ったようにShopifyはツールを提供しますが、加盟店の販売をサポートする活動はごくわずかです。しかし、デジタルマーケティング、伝統的なマーケティングをもっと理解したいという加盟店からの声はとても大きいのです。そこで、博報堂がShopifyの既存加盟店および見込み客と関わり、私たちが作るツールとその最適化の方法を深く理解していただければ、日本でのビジネスに大きな付加価値が生まれると思います。
- 山之口
- そうですね。まずは、ブランド拡大やマーケティングの仕組みを作るためのアジェンダつくりをご一緒にできればと思います。そうすれば、私たちはShopifyのユーザー企業の方々に私たちの考えているマーケティングやブランディングを知っていただくことができるようになります。また私たちの得意先企業にネットビジネスをもっと勧めることもできます。
- マーク
- はい、それはとても重要だと思います。日本の小売企業の多くはネット販売をしていません。私が直近で見た統計では、ネット販売を行っている小売企業はたった25%です。日本では若者も中年も、そして高齢者もネットで買います。誰もがインターネットとつながっています。推測ですが、日本の人口の7~8割くらいがネットで購入していると思います。ネット販売をしていない日本の小売企業は、膨大な機会を逃してしまっています。
世界のShopifyの状況を見ると、日本の商品は非常に人気があると思います。優れた品質とクリエイティビティで高い評判を得ています。たとえば、アニメのグッズ、ファッション、ヘルスケア製品や化粧品。日本には、世界が求める物がたくさんあります。ところが驚いたことに、そうした商品を活発に海外に売っている事業者はごくわずかです。日本の小売環境と経済を真に拡大する方法はいくらでもあります。
- 山之口
- そうですね。日本の大きな会社も考えを変えていく必要があると思います。そのような会社は、これまで1ロットが大きい商品を生産してきました。しかしネットで売る場合、そのブランドの規模は小さくなっても、より身近なものになります。私たちはネット販売に特化した、たとえば新ブランドを作ることなどをクライアントに勧めることが増えてきています。
- マーク
- D to Cブランドを作るようなことですね。現在、日本では、大半の製品はショッピングモール、卸売を経由して流通します。メーカーから顧客までの供給卸売チェーンが確立していますよね。日本でD to Cは膨大な機会です。インターネットによって初めてメーカーが消費者に直接接触できるようになりました。利点も多くあり、例えば市場投入までの期間が短くなります。直接販売し、調整できるのですから、大がかりな生産は必要ありません。たとえばファストファッションでは、商品タイプや供給量を、売上や利幅に応じて即座に調整できます。顧客の手に届けるまでの製造時間がかなり短くなり、また物流サプライチェーンの選択肢も増えてきています。これまでの課題は、顧客にリーチするためのインフラでした。インターネットの誕生前、いやインターネット誕生後であっても10年か15年くらい前は、特に日本では顧客に売る唯一の方法が「店頭販売」でした。直営店舗またはショッピングセンター/モール内の店舗です。だからこの物流チェーンが必要でした。しかしインターネットがある今、従来のインフラなしでも消費者と接触できます。既存ブランドにとって、そして新しいブランドにとって、D to Cモデルは最大手ブランドと競える大きなチャンスです。今は小さなブランドがインターネットを通して最大のブランドと競争できます。強力なブランドメッセージを生み出せば、小さな会社だとは誰も気づきません。消費者はそのブランドのビジョンと優れた製品を理解し、大手ブランドと同等に優れたものだと考える。突如、家族経営の商売や社員5人の会社が世界最大手ブランドと競えるようになります。それこそインターネットの力であり、Shopifyのようなコマースプラットフォームテクノロジーの力です。
- 山之口
- Shopifyのようなテクノロジーパートナーと組むことによって、私たちは、スタートアップのような小さなブランドのサポートも、そして大企業がD to Cブランドを作り、そのブランドを急成長させるサポートもできるようになります。ただ、私たちはデジタル環境に合わせて、マーケティングも再発明しなければならないと思っており、それが現在の私たちの課題だと思っています。
最後に、読者へのメッセージをいただけますでしょうか。読者の多くはマーケティングに従事している方だと思います。皆さん、マーケティングを変えなければならないと考えていますが、なかなかできていない状況の方も多いと思います。
- マーク
- そうですね、デジタルマーケティング、特にD to Cやネット販売のためのブランドを作ることは、皆さんが考えているよりも、容易だと思います。私たちはそのためのツールを作っているわけですが、オンラインでのブランドはとても速く立ち上げることができ、実はかなり安くすみます。ディスプレイアドやSNS広告を使って宣伝し、インフルエンサーを使えば、すぐにブランドは作れます。しかし難しいのは、ソーシャルメディア投稿によってコミュニティやフォロワーとのエンゲージメントを生み出すことです。Shopifyを使ってInstagramでブランド構築を始めれば、私たちは直接、Instagram経由で販売することができます。つまり、顧客とブランドを店舗や別のウェブサイトに戻すのではなく、Instagram上で直接、フォロワーに商品を購入してもらえばいいわけです。ツールを使えば、想像以上に、簡単に新ブランドを立ち上げてマーケティングキャンペーンを実施することができ、直接販売へとつなげることができます。多くの人が考えるよりはるかに容易です。恐れることなく、マーケティングをもっとデジタルなものに変え、ネット販売を支援するツールを活用し、複数のソーシャルチャネルを使ってください。
- 山之口
- ありがとうございます。楽観的になることですね。
- マーク
- 恐れないこと。考え悩むよりも、まずはやってみることです。
- 山之口
- それはとても重要ですね。本日は、ありがとうございました。
この記事はいかがでしたか?
-
マーク・ワングShopify Japan 株式会社
Japan Country ManagerJ.P. MorganやCitigroup、Global Entrepreneurship Programで企業戦略や起業家支援を担当。
2016年にShopifyのHead of Internationalization、2017年に同社のJapan Country Managerに就任した。
-
株式会社博報堂マーケティングシステムコンサルティング局 局長
株式会社博報堂コンサルティング 代表取締役 共同CEO
株式会社博報堂マーケティングシステムズ 代表取締役慶應義塾大学大学院 経営管理研究科修士課程修了。都市銀行、戦略コンサルティング会社を経て、2001年、博報堂ブランドコンサルティングの立ち上げに参画。IMJとの合弁で設立した博報堂ネットプリズム代表取締役社長、日立製作所とのビッグデータ解析プロジェクト、マーケット・インテリジェンス・ラボの共同代表を歴任。ITを活用したマーケティング改革を専門とする。