AIでテレビ広告のレスポンスを予測する「レスポンスナビ」開発背景とこれから
大広は2018年11月、AIで高精度なテレビ広告のレスポンス予測を行うソリューション「レスポンスナビ」の提供を始めました。大広は、ダイレクトマーケティング領域におけるテレビ広告のレスポンス予測に関して、長年にわたり独自研究やソリューション開発をしてきました。
レスポンスナビでは、広告主企業がこれまで広告を出したことがない番組であっても、実際の結果とわずかな誤差でレスポンス予測が可能です。どのように高い予測精度を実現したのか、従来手法との違いはどこにあるかなど、大広 マーケティング局 長峰伸明、水津龍治、谷口真由美に聞きました。
ーまずは「レスポンスナビ」の機能について教えてください。
- 水津
- 商品のダイレクト販売をされているクライアントに対して、放送実績の無い番組の電話レスポンスを、AIを使って予測するソリューションです。事前にどれくらいのレスポンスがあるか正確に予測できるため、放送枠をいくらで買えばいいかという適正価格を割り出すことができます。
仕組みとしては、クライアントが過去の番組に対して持っているレスポンスデータと、様々な番組の視聴率データをAIに取り込みます。レスポンスデータは視聴率のデータと相関性が高いことが分かっているので、AIは取り込んだレスポンスデータと視聴率データの関係などを計算し、放送実績の無い番組についてのレスポンス予測を算出します。
ーこれまでの課題や開発背景について教えてください。
- 水津
- 以前はクライアントが放送実績のある放送枠であれば、ある程度正確にレスポンスを予測できたのですが、実績がない枠ではしっかりとした予測はできませんでした。
- 長峰
- 例えばシニア向け商品であれば、シニア向けの視聴率が高い番組枠を提案に盛り込み、過去の実績などを基に計算モデルをつくってレスポンスを予測していたんです。ただ、実際の結果と20~30%ずれてしまうことが往々にしてありました。それがクライアントにとって、新たな広告枠を買うことを躊躇する大きな要因になっていました。
ですが近年、レスポンス予測に関する状況が変わってきました。まず、様々な視聴率データが取れるようになりました。性別や年齢といった属性だけでなく、「美容に気を使うほう」「買い物をする際にクーポン券や割引券をよく利用する」といった情報まで細かく得られるようになったんです。現在では、一つの番組に対してこういった視聴率の項目が500ほどあります。
またAIが簡単に利用できる状況が整ってきました。多くの開発者がPythonなどの言語で作ったAIエンジンのパッケージを無料で公開しており、容易に試せるようになりました。
- 谷口
- このように状況が整ってきたタイミングで、クライアントから「AIやデジタルをレスポンス予測に使えないか」とご相談いただいたのがきっかけで、今回レスポンスナビの開発に着手しました。レスポンスデータはクライアントがお持ちの物なので、統一した形式のようなものがある訳ではありません。開発にあたり時間がかかった部分でもありますが、そのように異なるデータの前処理の部分も我々が担当しています。
- 長峰
- 採用したAIエンジンについても試行錯誤しました。世界的に有名なデータ解析コンペティションで上位に入っているAIを色々と試し、候補を一つに絞りました。その後もAIのパラメータの設定の調整を繰り返し、一番精度が高くなる値を割り出しました。最終的には予測と実際の結果のズレを、僅かなものに収めることができました。
AIを採用するのに重要なのは、分析結果がどう導きだされたかわかるかどうかです。AIによっては計算過程が完全にブラックボックスなものがあります。そのタイプだと、仮に高い精度が出たとしてもクライアントに納得していただくのが難しいと考えました。分析結果に対して、ある程度納得感のある過程を示せるということは、選択の大きなポイントになりました。
- 水津
- レスポンス予測で上位になった番組が、クライアントの肌感覚と合わない場合は、どうしてそういう結果が出たのか分からないと、広告枠の購入に踏み切っていただくことは難しいんです。そういった課題にも応えられるAIが必須でした。
意外な相関を多数発見した
ー実際にレスポンスナビを使われたクライアントからはどんな反応がありますか。
- 長峰
- 「購入した枠が全体の中でどういう位置付けなのか見えることが一番ありがたい」と言っていただいています。
- 水津
- どの番組がどれくらいのコスト効率かが分かるので、「価格交渉の根拠に使えて嬉しい」と言っていただきました。今購入している番組の価格が高い場合は値下げ交渉に使えますし、他のコスト効率がいい番組を見つけてそちらに変更する、といったことが可能です。
ーレスポンスナビによる予測によって、これまでのデータ分析ではわからなかった、新たに発見された傾向などはあるのでしょうか。
- 長峰
- たくさんあります。例えば、シニア向けの美容関連商品の場合、これまではシニアや美容関連商品の視聴率のみを気にしていました。でも若年層の視聴率もある程度ある方が、仮に若年層のレスポンスは全くなくても、シニアのレスポンス率が高まることが分かったんです。ある程度若者にも受け入れられる番組作りをしている方が、シニアも購入しやすいということなんだと思います。これは意外な発見でした。
ー最後に、レスポンスナビについて今後考えている展開を教えてください。
- 水津
- 5つあって、1つ目はテレビ広告を見た人がデジタルデバイス経由で購入した場合のレスポンスについても測定することです。現在可視化できているのは電話で購入や資料請求があった場合の数字だけですので、デジタルデバイス経由での購入や資料請求も可視化できれば、レスポンス予測はより有用になります。
例えば深夜番組の電話レスポンスは少ないけれども、デジタルデバイスからの購入が多い、といったことが分かれば、価格の高い昼間のCMを減らして、価格の安い深夜のCMを増やすことができるかもしれません。どういうデータがあればこれを実現できるのか考えていきたいです。
2つ目は新聞や雑誌、折り込みなどについても、電話とデジタルの両方でレスポンスを正確に測定することです。紙メディアの広告効果は確実にあるはずなのに、可視化できていない点が課題で、既存のマスメディアの価値を再確認する必要があると感じているので、この部分についてもやり方を考えていきたいと思っています。
- 長峰
- 新聞や雑誌などの紙のメディアであれば触ったりできるし、それによって記憶に残りやすいということがあると考えています。こういったセンサリーマーケティングの視点を取り入れて、もう一度マスの力を認識できたらと考えています。
また、クリエイティブによってもレスポンスは変わります。まだそこまでは考慮できていないので、今後の課題ですね。今は平均的なクリエイティブを設定して予測を割り出しています。
- 水津
- 3つ目は既存顧客へのテレビCMの波及効果の可視化です。既存のお客様にDMを送った場合などに、同時期にテレビCMを見るとエンゲージメントが上がるケースは確実にあると思っています。既存のお客様に対するCRM的な効果もあることを可視化できれば、クライアントの投資に対する考え方も変えられるのではないかと考えています。
さらに4つ目は、テレビ広告のレスポンスを最大化するCM素材の最適なアロケーションについてです。現在は、“主婦が見ている番組には化粧品”“朝の番組には青汁”といった具合に、この時間帯にはこの商品が適している、というものが何となく共有されている状態です。これを可視化して、どの番組にどの広告を出せばいいかを職人芸的に決められるようにしたいと思っています。
最後は、EC事業者がテレビ広告を出稿する際にそれをサポートするソリューションを開発することです。EC事業をやられている方の多くは、事業をスケールさせるためにある段階でテレビ広告を検討されます。ですが、普段付き合っている広告会社がネット専業でテレビについてはノウハウがない、というケースが多いそうです。そういった事業者様向けのソリューションを開発して、「初めてでも大広に任せれば大丈夫」と思っていただけるようにできたらと考えています。
この記事はいかがでしたか?
-
株式会社 大広
東京アクティベーションデザインビジネスユニット
マーケティング局データドリブンマーケティンググループ入社後、メディアプランニングシステム開発を担当し、CM素材アロケーションモデルや広告出稿効果予測モデルなどを作成。その後、メディア関連のデータ分析に従事。2016年よりデータドリブンマーケティンググループへ。メディアデータを用いたソリューションが専門。飲料、トイレタリー、医薬品クライアントなどを担当し、現在は金融、健康食品などを担当。
2011年データ解析コンペティション 課題設定部門2位。
-
株式会社 大広
東京アクティベーションデザインビジネスユニット
マーケティング局メディアプロデュースグループ入社以来、飲料、住宅、医薬、化粧品、BtoB企業など多様なクライアントを営業として従事。
ダイレクトマーケティングのクライアントにおける見込み顧客の発掘、獲得から育成までの幅広い経験やノウハウを培ったのち、2017年より現職のマーケティング局メディアプロデュースグループへ。大広のメディアビジネスにおいてマスデジの統合プロデュースを推進。
-
株式会社 大広
東京アクティベーションデザインビジネスユニット
マーケティング局データドリブンマーケティンググループバイイングからプランニングまで、入社以来一貫してメディア領域に従事。
ダイレクト損保、官公庁、食品・飲料、医薬品などのメディアプランニングを担当。
2016年より現職のデータドリブンマーケティンググループにおいて、大広のデータドリブンメディアプランニングを推進。