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テクノロジー発展による中国の生活者変化のトレンドVOL.2 テクノロジーが生活の中に浸透して中国生活者は何が変わったのか
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テクノロジー発展による中国の生活者変化のトレンドVOL.2 テクノロジーが生活の中に浸透して中国生活者は何が変わったのか

博報堂生活綜研(上海)の首席研究員の山本です。このコラムのシリーズでは、博報堂生活綜研(上海)が、近年注目を集めている「中国のテクノロジー生活」に光を当てて研究を行い、2018年12月に発表した「『数自力(すうじりょく)』~中国テクノロジー生活に生まれた新たな生活の力」の内容を中心としながら、これからのテクノロジー生活者を捉えるデータドリブンマーケティングにとって参考となるポイントをお届けしています。

シリーズ第1回は、中国で普通の人々の生活の中にテクノロジーが浸透している実態とその背景について、お伝えしました。今回は第2回となります。

テクノロジーの生活浸透によって変化する中国の生活風景

テクノロジーが普段の生活の中に浸透するに従い、中国の生活風景は大きく変化してきました。
第一に、キャッシュレス生活が進むことによって、当然ですが中国の生活者は、お財布を持たなくなってきました。時々持ち歩くお財布も、お札を入れるような大きな長財布ではなく、最小限のカードだけを収納できるカードケースサイズに変わる傾向が見られます。中国では、「キャッシュレスのおかげでスリも泥棒も餓死する」などと言われていたりします。

(写真:キャッシュレスで小さくなる中国生活者のお財布)

また、ECでの買い物が広がることによって、リアルのお店の役割も変わってきています。中国のショッピングモールのお店では、お店が完全にディスプレイの役割になっていて、そこで買い物をする人の姿もあまり見なくなり、店員が暇そうにスマホをずっといじっている光景をよく見かけます。

その一方で、ショッピングモールの機能が、「飲食と体験」のための空間に変わってきています。ショッピングモールの屋上では、なぜかアルパカがパカパカ走り回っていたり、乗馬が楽しめるようになっていたりしていて、家族連れの来店を促す工夫を凝らすようになってきています。また、世界的に有名なスポーツアパレルブランドの上海にあるコンセプトストアでは、オリジナルスニーカーを作成できるなどの、購買よりも体験を重視したつくりの場所になっています。

(写真左:アルパカなどの動物たちと触れ合えるショッピングモール)
(写真右:オリジナルスニーカーを自作できる上海のスポーツブランドコンセプトストア)

そして、中国では年配の方にもテクノロジーが浸透しており、特にWeChatに代表されるSNSが活発に利用されています。SNSの浸透によって、年配の人たちが気軽に若い子ども世代とのコミュニケーションが取れるようになり、昔はお互いに年に数回しか会わない程度の頻度であったのが、今では日常的に年配世代と若い子ども世代との間にコミュニケーションが行われるようになってきています。その結果、若い人たちの嗜好が年配層にも影響するようになり、年配の人たちの行動が次第に若々しくなってきている、と言われるようになってきています。
このように、普通の中国の生活風景の中で、劇的な変化が起き始めています。

(写真左:文字入力が苦手なため、音声入力ばかりのご年配のWeChatのやりとり)
(写真右:文字入力が苦手なため、動画やスタンプばかりのご年配のWeChatのやりとり)

テクノロジーによる「パターン化する生活」の影響に対応し「新しい刺激を求めようとする」生活者

生活風景まで大きく変わりつつある中国ですが、では、テクノロジーの生活浸透によって、生活者の意識や欲求の形はどのように変化しているのでしょうか。
博報堂生活綜研(上海)では、生活者の変化を分析するために、中日米3カ国、合計4,000サンプルの定量調査と、中国生活者のグループインタビュー、さらに先端的なテクノロジー生活者の家庭訪問調査を実施しました。これらの調査を基に、テクノロジー生活による変化の奥底にある、生活者の新しい欲求を洞察していきたいと思います。まず、「生活行動の変化」の視点から見ていきたいと思います。

生活の中でのテクノロジー利用が進むと、生活を自然と効率的に送れるようになるメリットがあると言えます。たとえばECを使えば、いつでも好きな時にお得な価格で買い物ができるようになりますし、「外卖(ワイマイ)」と呼ばれるフードデリバリーサービスを使えば、家に居ながら、好きな外食メニューを楽しむこともできるようになります。調査で「この2~3年の間にテクノロジーによって変化したと思う意識」について聞いたところ、「生活の行動パターンが決まっているようになった」と答える人が40%に上り、特に、中国とアメリカが高い傾向となっています。
生活がパターン化しつつある中国生活者ですが、この状況に流されないように、新たな動きも見せています。調査では、「生活に新しい刺激を求めたいと思うようになった」と答える人が42%に上り、中国が最も高い傾向となっています。もともと新しいものが好きな中国生活者ではありますが、テクノロジーによって生活を効率的に進めていくだけでなく、生活がパターン化しないように、新しい刺激を求めて自ら行動する、という動きが浮かび上がってきています。

テクノロジーによる「消費刺激に翻弄される」影響に対応し「検討に時間をかけるようになる」生活者

続いて、「消費」面での変化について見ていきます。
調査で「この2~3年の間にテクノロジーによって変化したと思う意識」について聞いたところ、「クーポンや割引券を手に入れてから買い物や外食をすることが多くなった」と答える人が41%に上り、中国が最も高い傾向となっています。中国のスマホには日々絶え間なく割引やクーポンの情報が押し寄せてきて、何か買い物をする時には必ずお得な情報がないか事前にチェックする行動が当たり前のようになっています。
テクノロジーによって日々大量に送られてくる消費刺激によって、消費が翻弄されつつある中国生活者ですが、この状況に流されないように、生活者が新たな動きを見せています。調査では、「商品やサービスを選ぶ時は時間をかけて選びたいと思うようになった」と答える人が50%に上り、中国が最も高い傾向となっています。「買い物にはあまり時間をかけたくない」という声が聞かれる日本やアメリカの状況とは、大きく異なる状況と言えます。
実際に、博報堂生活綜研(上海)の中国人研究員の奥さんは、段ボール箱を買うのにも夜を徹して調べつくしてから購入する、ということもあると言っています。もともと買い物が大好きな中国生活者ではありますが、テクノロジーによるお得な消費刺激に左右されないように、しっかりと時間をかけて情報を吟味し自ら判断する、という動きが浮かび上がってきています。

テクノロジーによって生まれる「情報行動の変化」に対応する動きを行う生活者

続いて、「情報」面での変化について見ていきます。
調査で「この2~3年の間にテクノロジーによって変化したと思う意識」について聞いたところ、「機械やAIのサービスや情報を信用するようになった」と答える人が47%に上り、中国が最も高い傾向となっています。その一方で、生活者からは、「最近、コネクテッドカーを買って、最初はAIのナビ情報を信じてよく使っていたけれど、間違って案内される場合も結構ある。」という声もあがっています。この人は、AIの間違った案内に従って罰金されたこともあるそうなので、今では機械やAIに基づく情報を信じ過ぎないように気を付けているそうです。
テクノロジーの進歩によって機械やAIの情報に対する信用が広がりつつある中国ですが、機械やAIに流されないように、生活者が新たな動きも見せています。調査では、「幅広い世代の人と交流を持つようになった」と答える人が49%に上り、中国が最も高い傾向となっています。インタビュー調査でも、スニーカー好きなある若者は、「ECサイトのランキングだけでなく、信頼できる鑑定アプリの人に頼んでスニーカーを鑑定してもらう。」と言っています。
中国では人の信用がとても重要で、従来は、身内などのごく親しい間柄の中に閉じていた信用が、テクノロジーを通じて接触できる幅広い世界の人々に対しても拡大するようになり、自分の力で信頼できる人的ネットワークを構築するようになっています。機械やAIのテクノロジーによって送られてくる情報にただ従うのではなく、幅広い信頼できる人間の知見を探して自ら判断する、という動きが浮かび上がってきています。

テクノロジーを主体的にコントロールし、暮らしの課題解決を行う新しい「生活の力」を身に付けた中国生活者

これまで見てきたように、テクノロジー生活の浸透によって、人々の生活にはある影響が起きていることがわかります。それは、「生活行動のパターン化」、「過度な消費刺激による翻弄」、「機械やAIの情報による翻弄」といった影響です。このように、人々の生活には、テクノロジーに「流されそうになる」影響が出てきています。その一方で、生活者は、テクノロジー生活による変化に対して、自らの力で対策するようになってきています。それは、「常に新しい刺激を求める行動」、「時間をかけた消費選択行動」、「人の知見を幅広く活用した消費選択行動」です。これはつまり、生活者が急速に発展するテクノロジーに「流されないようにする」ために、自らの力で動く「生活技術」を身に付け始めていると言えます。
この変化を言い換えると、生活者が、テクノロジーが主導する「自動的」な生活態度から、生活者が主導する「自力的」な生活態度になっていると言えます。

この変化の根底に、次のような欲求を読み取ることができます。
様々な生活課題に直面する生活者は、テクノロジーによる「自動解決」に依存せず、デジタルテクノロジーを主体的に活用し「自力解決」を目指したい、と思うようになってきています。そこで私たちは、生活者の欲求に基づくキーワードを、デジタルなテクノロジーを、中国語でデジタルを意味する「数字」という言葉を用いて、生活者の自ら問題を解決する力を「自力」という言葉で表しました。この2つの言葉を合わせると、デジタルテクノロジーの生活浸透によって生活者に現われた、生活者の変化を表すキーワードとなります。
それは、「数自力(すうじりょく)」です。「数自力(すうじりょく)」とは、デジタルテクノロジーを主体的にコントロールし、暮らしの課題解決を行う「新しい生活の力」を意味します。このような生活の力は、テクノロジーの生活浸透が進んだ中国だからこそ生まれたものと言えます。日本では、これほどの生活の力の進化はまだ見られていないと考えられます。

そして、ビジネスの世界においては、デジタルテクノロジーの「数字」を活用しつつも、生活者の自らの力「自力」を発揮しようとする「数自力(すうじりょく)」を持ち始めた生活者の特徴を捉えたマーケティングが、これから求められるのです。
次回は、「数自力(すうじりょく)」という新しい生活技術を身に付け始めた中国生活者を、マーケティングにおいてどのように捉えていくべきか、といった点について、詳しくお伝えしたいと思います。

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  • 博報堂生活綜研(上海)首席研究員
    1995年に博報堂入社して以来、マーケティングに携わってきており、コミュニケーション領域から事業領域まで、幅広い実務経験を持つ。博報堂生活綜研(上海)のメンバーとして、2018年6月より新たに活動を始める。