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データを引き出すファシリテーション術第10回
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データを引き出すファシリテーション術第10回

そのデータは“生命力の高いメッセージ”になっているか

生活者データ・ドリブン・マーケティング通信をご覧のみなさま、はじめまして。VoiceVisionのビジュアル・コミュニケーター、加藤綾子です。

過去の連載では、VoiceVisionが得意とする「ファシリテーション&クリエイティブ」の必須スキルについてご紹介してきました。今回は今までのフレームから少し離れ、“ひきだし”、“うみだし”てきたデータやアイデアを、ビジュアルの力を使って人を動かす“生命力の高いメッセージ”にするためのヒントをご紹介します。
(過去の連載はコチラからご覧になれます。)

ここでいう“生命力の強いメッセージ”とは、単なる数字や文字といった事実の羅列ではなく、受け取った人にそのデータの先にある世界を想像させ、実際に何かアクションを取りたくなるメッセージのことをいいます。少し厳しい言い方になりますが、どんなに精密な事実を積み上げた完成度の高いものでも、人を動かすことのできないデータに意味はないと思っています。人にきちんと受け取り、理解され、その結果行動を促せてこそ、そのデータには生きた価値があるといえるのです。さて、では何故ビジュアルがそのようなメッセージ作りに貢献できるかをみていきましょう。

 人間はビジュアルで動かされる

人間同士のコミュニケーションに関する研究で、ある企業の調査では、ビジュアルは文字よりも60000倍早く処理されていることが判明したと発表されました。また他にも、1分間に相手に伝えられる情報は文字であれば300字程度ですが、図や絵を使えば、なんと2000字分程度の情報を伝えることができるという研究結果や、有名な「メラビアンの法則」でも、話し手が聞き手に与える影響は言葉の内容が7%、声のトーンや大きさが38%、そして話し手の表情や動きといった視覚情報が55%とされている、など、人間同士のコミュニケーションにおいて、ビジュアルの優位性は様々な研究で証明されています。私たちの生活においても、メールのような文字から、スタンプ、写真、動画へとコミュニケーションの形が移り変わっているのを見ると、実感としても納得しやすいかと思います。“生命力の強いメッセージ”作りには、こういった強力なビジュアルの力を上手く利用できるかが大きく関わってきます。ビジュアルを上手く使えば、文字や数字だけの時よりも「速く」「多く」「魅力的」に情報を伝えることができるのです。

「落書き」の力

ビジュアルを使ったメッセージは、なにも他の人相手だけではありません。自分1人で何かを考える時にも大変有効です。

ここで絵の上手い/下手は関係ありません。誰にも見せない“落書き”なのですから、自分だけが分かればいいわけです。上の画像は筆者の個人メモですが、情報量が多く複雑な問題ほど、文字よりも落書きをしながら考えるほうが楽になってきます。

例えば桃太郎のお話の主要な部分だけを素早くとらえたい時、「桃太郎は鬼と対立していて、さらにお供の動物が3匹いて…」と、文字でいちいちすべてを記述しなくても、下の図のように、丸と線だけの図でも十分概要を理解できます。書くのに数十秒もかかりませんし、見れば理解するのに数秒もかかりません。

 

このように丸と線だけでも情報同士の関係性を理解するのに十分な効力を発揮してくれます。さらにはそこにニコニコマークや悲しんでいる顔など簡単な絵を付けるだけで、「ここはポジティブな情報が書いてある情報群だ」、「ここが解決すべき問題点だ」など、必要な情報をすぐに見つけられるようになります。情報に、重要さの比率や優先順位などのメリハリが付けられるのも大事なポイントです。 

構造化することで隠れた相関性が見えてくる

落書きしながら考えているとよく起こることなのですが、まったく違うテーマについて情報を整理しているはずの2枚の紙に、実によく似た作りの構造を発見することがあります。その気づきをきっかけに深堀してその2つのテーマの調べていくと、意外なつながりを発見することがあります。これはデータの活用方法とも似ているかもしれません。ビッグデータの活用により、一見まったく関係のなさそうなデータ同士に相似性を発見する機会が多くなっています。もちろん偶然ということもあるかもしれませんが、そこに何か感じることがあれば、一度構造化しながら再点検してみてはいかがでしょうか。もしかしたら価値ある発見ができるチャンスかもしれません。

リアルタイムのビジュアルコミュニケーション
「グラフィック・レコーディング」

この「落書きしながら考える」を複数名の話し合いに応用したものが、「グラフィック・レコーディング」(以下「グラレコ」)といわれる手法です。VoiceVisionは「共創」を特徴にした会社で、様々なステークホルダーの方達とよくワークショップを行います。そこに集められた方々は背景も持っている知識もバラバラで、ただ一緒に集まるだけでは話が上手くかみ合わない可能性も出てきます。グラレコはこの参加者同士の様々なギャップを解消し、主題に集中した質の高い議論を作り上げることができます。

文字のほかに簡単なイラストやフレームを用いて議論の中身をその場で記述していくのは1人の時の落書きと同じなのですが、出てきた意見やアイデアを“リアルタイムで”、“誰が見てもわかるように”視覚化し、構造化できるのがこの手法のポイントです。新しい情報が全体の構造に瞬時にマッピングされていくため、「いま、どこの話をしているのか?」と居場所を見失うことなく、全員が全体を俯瞰しながら議論を建設的に組み立てていけるのです。また、少々専門的で難しい言葉や概念も、イラストレーションを使いながらイメージを表現するので、参加者の理解度を揃えられるというのもこの手法の効果です。 

「正解のない問い」にこそ、グラレコは効く 

ある企業さん向けの研修の中で、「自社の10年後の戦略をつくる」というテーマの模擬的な会議を、グラレコを使いながら進めるという課題を行ったところ、受講後にこんな感想をいただきました。「最終的な結論が正しいのかどうかは確かめられないが、グラレコとして議論の軌跡が目に見えて残っていると、ここまで話し合ってきたプロセスを信用できる。だからこそ、この結論に自信を持つことができる」。
これは私も気づいていなかった価値でした。皆で知恵を出し合いながら辿ってきた困難な思考経路を可視化して残すことで、自分たちで出した答えは例え最高でなくても最良の結果である、と結論に自信と愛着を持てるのです。議論の最中だけでなく、終わった後の行動にまで影響を与えられる、というのは大きな発見でした。現代は技術や社会の変化が激しく、「正解のない問い」がかつてないほど多い時代と言われています。そんな中だからこそ、正誤がわからなくとも自分たちの出した答えに自信を持ち、アクションを取れる力を生み出せるスキルというのは大きな力になると思います。

参加者以外も巻き込む「拡散力」

グラレコのもう1つの強みは、議論に参加していない人にも目にしてもらえる「拡散力」です。何千文字もある会議の議事録を読み込むのは大変ですが、グラレコであれば画像を1枚見れば、なんとなく重要なポイントは掴めます。また、カラフルな色使いやイラストが目を引くため、オープンなイベントなどではグラレコの写真を撮ってSNSにアップする人が多くいらっしゃいます。それによって参加者できなかった人にも後からイベントに興味を持ってもらえることが多いのです。

 さいごに

さて、ここまで記録やデータにビジュアルの力を使って、人を動かす“生命力”を与える方法を見てきました。データや記録も、誰かに何かを伝えるためのメッセージです。そこに、人間の脳が一番活発に反応する「視覚」の力を利用しない手はありません。みなさんもぜひ様々な形でビジュアルの力の活かし方を試してみてください。

VoiceVisionのFacebook/Instagramでは、活動の様子やファシリテーションスキル、共創、ワークショップなどに関する情報を公開していますので、ぜひご覧くださいませ!

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  • (株)VoiceVision コミュニティプラナー
    愛知県生まれ、文学部日本文化学科卒業。デザイナー・研修会社を経て現職。参加者同士の関係性を重視し、場の流れを読んで発言するという日本の対話の性質から、話されている内容をリアルタイムで可視化し対話を建設的に導くグラフィックファシリテーションに有効性を見出す。日経ビジネススクールや宣伝会議他、様々な企業や自治体などで研修・ワークショップを行い、共創の場を構築している。