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人を動かす力を見つけるデータの解釈学とは-生活者発想×サイエンス
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人を動かす力を見つけるデータの解釈学とは-生活者発想×サイエンス

データサイエンスに必要なのは、「生活者発想」です。生活者の行動はメディア接触から購買行動まで数値化され、高解像度のデータが爆発的に増大しています。しかし、データから意味を読み取るには生活者インサイトの理解が必要です。生活者発想をフィロソフィーとする博報堂DYグループだからこそのデータ解釈学について、博報堂DYメディアパートナーズ メディアマーケットデザイン局 データサイエンス部長 宮腰 卓志が、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムの3社主催で行った“生活者データ・ドリブン”マーケティング領域に関するセミナーで語りました。

データの中から“人を動かす力”を見つけるには

データそのものには価値はありません。データを解釈して、物事の因果関係を把握してはじめて、データに価値が生まれます。私は、2001年の入社以来、17年間エクセルの数字を見続けて来ました。この間に、いろいろなデータ分析ツールやソリューションが登場しましたが、基本はエクセルでも再現できることです。ツールやソリューションよりも、本当は生のデータを見て「解釈すること」のほうが重要です。これができないと、例えどんな素晴らしいツールを使ってもデータを生かすことはできません。

博報堂DYグループは2014年に“生活者データ・ドリブン”マーケティングというコンセプトを提唱しました。それ以降、生活者のリアルタイム・365日の情報行動・購買行動から意識まで含めたデータを、「生活者DMP(データマネジメントプラットフォーム)」と呼ぶプラットフォームに蓄積し、それらのデータを活用したソリューションを提供しています。そして、この「生活者DMP」から“人を動かす力”を生み出すのが、博報堂DYグループ流のデータ解釈学です。
過去60年間のマーケティングを振り返ると、最初は行動の観察を軸にした人文的なものでした。それがデータを集められるようになったことで、統計学や計量経済学に変わり、近年ではデータサイエンスになりました。一見、データサイエンスと人文科学は異なる知のように思えます。しかし、データの解釈学という意味では地続きで、優れたデータサイエンティストには人文知も必要です。

データサイエンティストには、三つのスキルが求められます。一つ目は“データサイエンス力”で、統計学や情報科学などに関するスキル。二つ目は“データエンジニア力”で、プログラミングやアルゴリズムに関するスキル。特に強調したいのが三つ目の“ビジネス力”。ビジネス課題を分析可能な課題に翻訳し、分析結果をビジネスの意思決定に適切に用いることができる力です。業種によって必要な知識内容は異なると思いますが、広告業の場合は”人を動かす力”を指します。広告は、人を動かして、商品を買ってもらってはじめて意味のあるものだからです。この“人を動かす力”を私たちは“生活者発想”と呼んでいます。

“人を動かす”ためのデータ解釈をする際に気を付けるべきことは、相関関係と因果関係の違いです。相関関係と因果関係はイコールではありません。データを解釈する上で、因果関係にしっかり着目することが重要で、相関関係だけを信じると認識を誤ります。
例えば、小売業で「Webサイトの来訪者が増えると実店舗の売り上げが伸びる」というデータがある場合、これは相関関係ではありますが、本当に因果関係がある場合と、ない場合があります。サイトを見た人が本当に店舗にも来ているかどうかが分からないからです。そのため、店舗の売り上げを伸ばすことを目的に、Webサイトの来訪者を増やすために投資したが、あまり効果がないといった失敗が起きます。こうした失敗は、どのような理由で来客数が増えたか、という因果関係をしっかり把握できていないために起こります。
オンライン広告の場合は、動画広告やターゲティング広告、リターゲティングがクリックやコンバージョンにどう結びついたかを把握できるツールが方法なため、因果関係が非常に分かりやすい。一方でオフライン広告の場合、オンラインで買い物をしている最中にもテレビCMは見ますし、ネットで本を買う前に書店をチェックすることもあるように、オンライン行動はオフライン行動に取り囲まれて存在しているため、因果関係が分かりにくいのです。

高い精度で因果関係を構造化するm-Quad

オンライン・オフラインの両方の広告について、量の観点から広告と結果の関係を構造化し、数式化する手法が、マーケティングミックスモデリング(MMM)です。MMMは、どのマーケティング施策が売り上げにどれくらい影響するかを定量的に示し、各施策にどれだけの投資をすべきか判断する材料を提供してくれます。博報堂DYグループは、このMMMの手法を独自に発展させ、「m-Quad」という名称で提供しています。
「m-Quad」では、一般的なMMMと異なり、動的構造時系列解析を実装しています。階層型のベイジアンネットワークなので、きちんと因果関係を構造化できます。また、ベイズ推定を行っているのでパラメータが確率分布をもっています。具体的には、一般的なMMMだとそれぞれの広告出稿量のパラメータが固定されますが、m-Quadではパラメータが確率分布内で変動するのでクリエイティブの変化によるパラメータの変動を捉えることもできます。

MMMを効果的に使うためには、人の心理と行動の因果関係を正しく盛り込むことがとても重要になります。リスティング広告の指名検索と販売数量のほとんどを決定している場合、どれほどリスティングに投資しようと、検索ボリュームは商品を知っている人数以上にはなりません。だから、商品名を想起して検索してくれる人数を増やすため、テレビCMなどオフライン広告で認知を高める必要がでてきます。
こういった因果関係は、商品特性によって異なります。カードローンや健康食品の通販などの「計画購買型」は、前述の指名検索とテレビCMの関係があるため、商品名を最初に思い浮かべて買いたいと思ってもらう“第一想起率”や“購買意向率”が重要になります。一方で、日用品や飲料などは、コンビニに入ってからその日の気分で買うかどうかを決める「非計画購買型」の商品です。買う前に指名検索やバナーをクリックしたりせず、商品を選ぶ時点での “好意度”や“選択候補率”が商品購買を決定します。
上記二つの中間に当たるのが「比較検討型」で、自動車や保険等がこれに当たります。この分野では、比較検討される際の自社のポジションによって、重要な指標が“第一想起率”“購買意向率”“好意度”“選択候補率”のいずれかになります。
m-Quadは量の観点でもモデリングを行ってきましたが、現在、博報堂DYグループではこの三つの型すべてに対応できるように生活者DMPベースでのモデリングにも取り組んでいます。

データサイエンティストは今後も必要

博報堂は、1981年から生活者発想を掲げ、生活者のデータを分析し、因果関係を解釈してきた長い実績があります。“人は何が理由でモノを買っているのか”という因果関係をデータの解釈によって導き出すことができる人材が、博報堂DYグループには200人規模で在籍しています。
今後、AI技術、RPAなどを活用して全ての広告配信は自動化できていくと思います。ただし、正しい因果関係を設計できないと、広告効果があがらず、うまくいかないでしょう。人は何故モノを買っているのか、ということについての因果関係を、データの解釈から導くために、今後もデータサイエンティストは重要であり続けると考えています。

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディアマーケットデザイン局データサイエンス部長
    2001年入社以来、17年間ダイレクトマーケティング・WEBプロモーションの日々のPDCA業務にデータサイエンスを活用しつづけ、ビジネス課題解決への実践的活用を推進。
m-Quad

構造モデリングなどを用いて現場マーケッターの意思決定を支援する 新しい形のMMM(Marketing Mix Modeling)サービス