先進的な生活者から、破壊的な仮説を得る方法1.『トライブ』とは?
■はじめに
こんにちは、SEEDATAの岸田卓真です。
SEEDATAは、博報堂グループ内ベンチャーとして、日々クライアント企業の新規ビジネス創造、新商品・サービス開発、研究所発イノベーションを支援しています。
最近ではweb上の行動データやPOSデータなどのビッグデータが手軽に手に入るようになっています。これらの有効に使うと非常に強い武器になるのですが、フラットに見ているだけではリアルな生活者像は浮かび上がってきません。データを見たり活用したりしながら施策を考える上では、なんらかの仮説を持つことが重要であることは、今も昔も変わりません。
その際、定量的なデータと共に重要となるのが、定性的な分析です。現状のデータから表された「既知」のものだけではなく、定性的な分析から発見される「兆し」を活用していくことが有効であるとSEEDATAでは考えます。
そこで今回から数回に渡り、SEEDATAが得意とする定性調査の特徴とそこから仮説を作り出す手法について解説いたします!
■トライブの定義とは
まず、SEEDATAでは定量の真逆の、個人の超定性な特徴を捉え仮説を得る、トライブ・ドリブン・イノベーションという手法を提唱しています。トライブとは一言で説明すると「先進的な行動をとっている生活者」で、「3~5年後に一般的になるであろうニーズに、今現在直面している生活者たち」と定義しています。
“先進的”の捉え方はさまざまで、リリース直後のサービスを活用している人や、クラフトビールを愛飲している人など、何らかの行動に現れることが多いのですが、我々はその中でもトライブがどんな価値観や哲学を持っているのか、なぜそういった行動を自発的に行っているのかを重要視しています。
トライブとよく混同される概念に、セグメントがあります。トライブとセグメントとの違いは、無理やり線引きをしてトライブを作りあげるのではなく、広く行動を観察し、自発的に先進的な行動をとっている人たちを発見し、トライブとして見立てているという点です。なので、基本的にトライブはいわゆるF1層などの性、年代や、どこに住んでいるかなどのデモグラフィックでは区切りません(※調査内容によって、たとえばアンチエイジングなどを調査する際には年代層で区切るといった手法をとることもあります)。
そのため、時々「このトライブは何人に一人くらいいますか?」や「定量的にトライブの人数を捉えることは可能ですか?」と聞かれることがありますが、あくまでトライブから仮説を得るというトライブ・ドリブン・イノベーションという手法においては、人数はあまり重要視していません。
■トライブから仮説を得る方法
次に、SEEDATAがトライブの人たちとどのように接し、どのようにインスピレーションを得ているのかについてお話します。
まず、調査を行うトライブを決定する前に、我々は世の中のメディアや周りの人たちの行動を日常的につぶさに観察を行っております。観察をしていると、たとえば、「クラフトビールを好む人は、単純に味を楽しんでいるのではなく、醸造家のことを饒舌に語っている」という事実に気が付きます。
そこから、「クラフトビールを消費している人は、醸造家の人の思いに共感し、作り手に近づきたいと思っているのではないか」という仮説が浮かび上がるのです。こうしたいくつかの仮説を出したあと、調査するか否かを決定し、6人から10名ほどに個別に2時間程度のデプスインタビューを行います。
その際、ニーズを聞くとか、困りごとを聞くなど問題解決的な思考に立つのではなく、「彼らは何故こういった行動をしているのか」「この行動をすることで彼らの生活はどのようによくなっているのか」という探索的視点を持ち、ある意味でトライブを先生や師匠のように捉えて、彼らから教わるといった気持ちで接してインタビューを行っています。
このインタビューを経て、クラフトビールが好きなクラフトドリンカーたちは、醸造家(作り手)を尊敬し、「率先して醸造家を手伝っていきたい」という考えを持っているというまったく新しい視点や、新しい価値観を知ることができるのです。
そうして得られた価値観を、クラフトビールや飲物の範囲だけに適応するのではなく、「作り手をなんらかの形で助けたい」「作り手とモノ作りに関わっていきたい」というような欲求があるのではないかと、一段抽象度を上げて考えます。
そうすることで、たとえば、クラウドファンディングの仕組みなどでも、作り手側のより近くでサポート出来る感覚を与えることが出来れば、ユーザーの人たちをより満足させてあげられたり、より良い体験を提供できるのではないかと考えることが出来るのです。このように、一つのトライブから得られた仮説を、領域、ジャンルを超えて積極的に応用していくといった手法をとっています。
■トライブ・ドリブン・イノベーションへ応用する方法
このように、トライブからヒントや仮説を得て、さまざなな領域に新規事業、新商品・新サービス開発などにイノベーションを起こす形で活用していくことをトライブ・ドリブン・イノベーションと呼んでいます。
この、トライブという人たちの調査を我々は自由研究のように考えていて、自分たちの興味関心や自分たちの思う「世の中がこうなっていくのではないか」という仮説に基づき、自主的に並行して常に4トライブ程度調査を行っており、現在60以上のリサーチが完了しています。
たとえば、前述したクラフトビールを愛飲する『クラフトドリンカー』のほかにも、定年退職以降も企業戦士の心を持ちバリバリ働く『シニアウオリア』、クラウドファンディングサービスを自らの購買に積極的に利用する『クラウドファンダー』、完全栄養食品を好んで日常的に摂取する『ドクターシューマー』など、さまざまな領域と分野でのトライブのレポートが存在し、それぞれの知見を横断的に応用しながらイノベーション支援をおこなっております。
次回は具体的なトライブの紹介と、それをどのようにトライブ・ドリブン・イノベーションに活用しているかという具体例をご紹介いたします!
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株式会社SEEDATA マネージングディレクター京都大学工学部建築学科卒業 慶應義塾大学院メディアデザイン研究科(KMD)修了 KMD在学中 Royal College of Art と Pratt Institute にデザイン留学。
2015年にSEEDATA参画し、技術、デザインプロセス、人文等の分野への理解をベースに、通信会社、電気機器メーカー、飲料会社、食料品会社、大手インフラ会社等様々なクライアントに対して、新規事業立案及び推進、新商品開発、ブランディング等の様々なプロジェクトを推進。
また、退職後シニア、クラフトビール愛好者、若者のSNS利用先進層など多分野にわたる15以上のトライブリサーチを担当。