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プラットフォームと共創する「生活者インサイト」の捉え方 vol.1~ Xのバズを「ムーブメント」に変える技術。生活者の熱量を最大化させる“余白”の設計図
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プラットフォームと共創する「生活者インサイト」の捉え方 vol.1~ Xのバズを「ムーブメント」に変える技術。生活者の熱量を最大化させる“余白”の設計図

X、Instagram、TikTok、YouTube――いまやプラットフォームは単なるメディアを超え、生活者の感情や行動がリアルタイムに交錯する「生活インフラ」へと進化しました。
そこで求められるのは、クリエイティブにおける“二刀流”の視点です。ブランドの意志を届け、中長期的な資産を築く「ブランディング」。そして、緻密な設計によって、ダイレクトなビジネス成果を生み出す「ビジネスパフォーマンス」。本連載では、プラットフォームの特性を知り尽くしたエキスパートと博報堂クリエイターの対談を通して、刻一刻と変化する生活者のインサイトをいかに捉え、社会の中に熱狂的な「うねり」を作り出していくのかを解き明かします。
初回となる今回は、Xのブランド戦略を手掛ける担当者と博報堂のクリエイターが、SNSをめぐる変化やインサイトの重要性について語り合いました。

中川百合(X Corp. Japan株式会社)
丸田昌哉(株式会社博報堂)
根本崚佑(株式会社博報堂)
大野眞子(株式会社博報堂)
内山奈月(株式会社ハッピーアワーズ博報堂)

Xは「人々の声が集まる場所」。幅広い性別・年代にリーチする

-生活者のメディア接触が多様化し、SNSが日常に欠かせない情報源となる時代になってきました。生活者にとってはもはやインフラ。マスメディアとSNSの違いや、Xならではの特性について改めて教えてください。

中川
Xの特異性は、広告媒体である以上に「人々の声が集まる場所」であること。広告の出先というだけでなく、プラニングのヒントを見つけたり、刺激をもらったりする場として活用できることが大きな特性です。
もちろん、広告媒体としての価値、とりわけ高いリーチ力にも強みがあります。日本のユーザー数は依然として伸びている状況で、アメリカに次ぐ世界2位の多さです。月間で6,700万、1日あたりで4,000万人のユーザーさまにご利用いただいています。

グローバルのユーザー数 

日本のアクティブユーザー数 

丸田
日本だけでも多くのユーザーがいますね。人が何を言っているのか気になるという特性があるのでしょうか?
大野
それもあるのかもしれませんし、「乗っかってうまいこと言いたい」という部分もあるかもしれないですね。
中川
一般的に、Xのユーザーは若い人しかいないんじゃないか、逆に若い人は使っていないんじゃないかといったさまざまなイメージを持たれるのですが、実際は年齢も人口比例に等しいですし、性別も男女同数くらい。偏ることなくあらゆるところにユーザーさんがいるんですよね。

日本のユーザー属性 

内山
最近、還暦を迎えた母がXをはじめたんです。趣味の旅行について発信していて、友達とつながったりフォロワーさんが増えたりしていて、世代を問わずリアルに活用しているんだなと実感しました。

「いいね」の数だけでなく「インプレッション」の力も高まり、発話の質が問われる時代に

-Xのなかで日々さまざまなバズが生まれていると思いますが、トレンドの生まれ方について変化を感じることはありますか?

中川
従来の「フォローしているアカウントのポストを見る」という使い方から変化して、いまは「おすすめ」タブを見る人が急速に増えています。フォローしている、していないという枠を超えて、興味関心に応じた情報が入ってくるようになっているんですね。

大野
投稿に10くらいいいねが付くと、フォロワー数よりインプレッション数がぐっと上回ってくる実感がありますね。おすすめタブが登場したことによって、ちょっとテレビ的になったというか、X上でつながっていない友だちとも、「同じタイムライン見てる?」と思うくらいトピックがかぶることがあるんです。みんな見ているものが揃ってきた感じがします。
内山
プラナー同士で「Xでどの指標が上がるのがうれしいか」という話をするのですが、昔は圧倒的にいいね数だったのが、最近ではインプレッション数もすごく気になるという話に。たくさんの人に届いているということがひとつのモチベーションになっていますね。

中川
これまでもクリエイターのみなさまの間で「ハッシュタグが広まること」は大事な指標として持ってくださっていたと思いますが、インプレッションにも注目してくださることはプラットフォーム側としてもうれしいこと。というのも、ブランドから発信されたポストがユーザーの目に止まる、関心を寄せる、さらにそこに何か言いたくなる、それを起こさせることがXで表現する醍醐味であるからです。そういった手応えがインプレッションに現れているということなのでしょうか。
根本
たしかにそうですね。引用ポストされたときの文言を逆算してプラニングすることで、インプレッションが増えていく。発話の質が問われていると感じます。バズらせるという考え方がちょっと変わって、「質が量につながるようになった」というのでしょうか。
中川
引用ポストについてはおっしゃる通りで、広告でもポストのコンテクストがより大事になってきています。大量の情報が溢れるXのタイムラインで、拡散されるモチベーションに作用するのが、ポスト内容の前後関係や奥行き、コンテクストなんだと思います。

新聞広告、交通広告、X投稿が連動した、『頭文字D』の「#クルマが好きでよかった」

-最近Xでも話題になったキャンペーンとして、『頭文字D』の事例をご紹介いただけますか?

漫画『頭文字D』の作品中に登場するクルマメーカー7社(スズキ、スバル、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱自動車)とのコラボレート。渋谷駅地下に掲出された全長約22mの巨大広告や、Xでの公式アカウントによる投稿が話題に。 

丸田
『頭文字D』は、昨年連載30周年を迎えた自動車レース漫画です。2025年は、続編完結、新連載決定という節目の年でした。このタイミングで再び作品に注目してもらうにはどうすればいいか。そう考えたとき、いまは若者のクルマ離れや環境問題などもあって、クルマ好きはたくさんいるけれど大きな声で「クルマが好きだ」と言いにくい状況になっているんじゃないか、ということを考えたんです。これが大きなインサイトの発見でした。
コピーに掲げた「クルマが好きでよかった」は、漫画に出てくるセリフの一部なのですが、まさにすべてのクルマ好きを肯定する言葉ですよね。これをハッシュタグ化することで、クルマ愛を存分に発揮する機会がつくれるのではないかと考えたんです。
まず新聞広告でメッセージを掲載し、作品の舞台やゆかりの地を中心に、地域別に全10種の新聞広告を展開。さらに屋外広告では、漫画に登場するすべてのクルマメーカーの賛同を得て、競合他社の壁を乗り越えるクルマ愛共同宣言を行いました。

朝日新聞と読売新聞の2紙に同日掲載。つなげるとひとつのビジュアルになるようデザインされている。 

左:栃木を舞台にしたEK9 VS ハチロク 右:広島を舞台にしたFD VS FD 

さらに、『頭文字D』公式のX投稿が7つのクルマメーカーそれぞれの思いを乗せて拡散されて、部品メーカーや中古車ディーラー、車情報誌など、クルマ業界全体にまで賛同が広がりました。
トヨタさんが「うちの会長もきっとこう思っているはず」と引用ポストしてくださったり、スバルさんは漫画のセリフをうまく使って反応してくださったり。漫画のファンや車好きが盛りあがれるポストがX上にあふれていったんですよね。
やはり、マーケティング的な冷静な狙いだけでなく、愛や熱い思いを乗せていくことが大事なんだと改めて感じました。

クルマメーカー7社の公式Xアカウントで引用ポストが相次いだ(スズキスバルトヨタ日産ホンダマツダ三菱自動車) 

Xは装置であり、アイデアの種を生むための下調べの場。体験を含めて「ムーブメント化」する

-Xを投稿するにあたって心がけたことなどありますか?

丸田
投稿はかなり繊細にコントロールしていましたね。たとえば最初の投稿は「『頭文字D』に登場する7つのクルマメーカーとクルマ愛を宣言しました。」というシンプルな文言と「#クルマが好きでよかった」だけ。ここであまり語りすぎない。下心を出さないということはすごく意識してました。
大野
大事ですよね。「このハッシュタグでみんなでクルマ愛を叫ぼう!」と書いてあったらやりたくなくなる。ハッシュタグが置いてあるだけだから乗っかりたくなるという心理はあると思います。
中川
オーディエンスが自分も話したくなる言葉になっているこのコピーといい、ODMとXの役割の使い分けといい、本当に細かな設計がされていますよね。「クルマが大好きだと大きな声でいいづらいご時世だからこそ、クルマ愛を語りたいひとがいる」というインサイト、コアアイデア開発の段階でXをたくさんご覧になったことが伝わってきます。
丸田
まさしく。やっぱり、どれだけ熱くさせるかが大事。Xってインサイトの宝庫なんですよね。それと同時に、やはり新聞広告や交通広告があったことも重要だったと思います。ファンの人たちが「ここに行ったよ!」と投稿できる実際の「場」をつくったことも大きかった。

根本
わざわざそこに行くことに価値があるんですよね。その場に行くという体験も含めてどう設計できるかが問われていると思います。
丸田
本当にその通り。この時、この場所に行くというタイムリー性には必ず価値があるから、たとえばアンビエント広告とXを組み合わせるとかすごく可能性があるんじゃないかな。
中川
そこはやはり、ひとつのポストのことだけ考えていても生まれない発想ですよね。
丸田
Xとの掛け算でイベント化し、一つのムーブメントにすることで盛りあげるという手法は、もっと理解が深まるといいですよね。

単なるバズでなく、深いインサイトからユーザーを巻き込むアイデアを設計する

-広告のみならず、多くのポストが常に溢れるXにおいて、「頭文字D」のこのキャンペーンは数日間にわたって話題が持続しました。これはなかなか簡単なことではないと伺いました。

丸田
それもやはりソーシャルインサイトをつかめていたということだと思います。はじめは新聞広告や交通広告が話題になったけど、自然と自分の愛車をポストするような流れが生まれてきて、そのうちゲーム業界やカーディーラー、修理業者といったクルマにまつわるさまざまな企業にも広がっていった。ひとつの漫画が、「自分たちの物語」を語れるきっかけになったんだと思います。それがローンチから数日経っても会話が伸びていった要因なのではないでしょうか。
中川
ファンダムに向けたキャンペーンアイデアは、一見コンテンツさえ出せば会話が起こると思われがちですが、質の高い会話を広いターゲットに起こしていくためにはやはりプロによるクリエイティビティが肝になってきますよね。Xでクルマ好きがどんな会話をしているかを見るのは誰でもできることですが、そこからキラリと光るものを見つけるのはプロの業。さらに、ファンの方が何を大事にしているかを理解して、その心を掴むキャンペーンにすることもプロだからできることだと思います。
私が『頭文字D』のキャンペーンを好きな理由は、クルマメーカーがいちクルマファンと同じ目線で「クルマが好きでよかった」「私もです」と言って頭文字Dの30周年をお祝いしているところなんです。
内山
たしかにそうですね。今回のキャンペーンは、漫画好きだけでなくクルマ好きまで広げられたことが素晴らしいと思います。バズらせるかだけでなく、もっと深いインサイトでみんなを巻き込むアイデアの設計がされていた。界隈に特化した人が界隈だけバズらせることとは違い、広告の技が生かされているのだと思います。
大野
愛があることは大事だけど、それだけだったらいちユーザーの発信でいいですもんね。企業がやる意味がないといけない。

丸田
時代によって広告の形は変わっていくけど、インサイトをつかんで、それをコミュニケーションに変えていくというのは僕らがずっとやってきたことなんですよね。それがいまXという場で生きている。インサイトを見つけてどうアイデア化するか、そのクラフトの部分がいまこそ大事な時代なんだと思います。

いまこの瞬間のインサイトを捉え、プロのチーム力、クラフト力で料理する

-さいごに、Xというプラットフォームで「生活者を動かすコツ」は何だと考えますか?

大野
ほかの媒体と違って、ファンが語って広めてくれるのがXのおもしろさ。やはりピュアにおもしろいものをつくる、いいものをつくることに尽きるんじゃないかと思います。ピュアに企画をすることは私自身すごく意識していることです。
根本
僕が大事にしているのは文脈と余白。さきほどの『頭文字D』の事例で「クルマが好きでよかった」というのは漫画のセリフの引用だという話がありましたが、それを企業側から発信するのではなく、ファンの間で語ってもらう。そういう文脈と余白のバランス感がユーザーを動かすポイントになると思います。

内山
Xはすでに、いろんな人がいろんな発話をして、常に動いている場所。そのなかで「新しい一歩」を示してあげることが求められていますよね。それは新たな発見でもいいし、新しい行動習慣でもいい。それをいかに設計できるかどうかなのではないでしょうか。
中川
私はやはりインサイトにつきると思います。見つけたインサイトをどう料理するのかはプロのチームの手腕が問われるところ。ハッシュタグが基点となっていることが多かったこれまでのX広告でのクリエイティブですが、いまはポストひとつの完成度がより求められるようになってきました。ハッシュタグや本文のコピーももちろんですが、グラフィックや動画、どういう時系列で何回ポストするか、他のメディアとどう連動するかというアクティベーションのプラニングも含め、すべてのクリエイティブの知が結集してつくられるものに人の心が動く。本当にチーム戦ですし、クラフトが重要になっていることを博報堂さんとご一緒していて実感しますね。
丸田
インサイト、大事ですね。博報堂には「LIVEインサイトクリエイティブ」という言葉がありますが、いまこの瞬間のインサイトを捉え続けること。そしてそれと同時に、普遍的なインサイトも見つめ続けること。その両方が大事だと思います。
もうひとつ、これからのXで注目しているのは生成AIを使ったアクティベーション。ここ半年ですごく増えてきていますよね。これからGrokをどう使っていくかがすごく重要になってくると思います。
中川
そうですね。Grokによってユーザー体験が変化していますし、Grokが学習している原資はユーザーの皆さんのポストです。そこが他の生成AIとは大きく異なる優位性だと考えています。Xに張り付いてヘビーユースしてくださる方々を「X民」と呼んだりしますが、GrokはXの全てのポストに張り付いている究極のX民。Xの会話の価値をわかってくださっている方には強力なツールになるのではないでしょうか。
丸田
生成AIというとつい画像をつくって…という話になりがちですが、言葉という切り口もいいかもしれないですね。これから新しい手口が生まれてきそうで楽しみです。

*記事中に掲載された情報は取材日(2026年1月21日)時点のものです

※肩書は取材当時のものです

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  • 中川 百合
    中川 百合
    X Corp. Japan 株式会社 Nextチーム Agency Collaboration Head
    Xグローバルチームそしてメディアプラットフォームにおいて唯一、エージェンシーのクリエイティブ部門専任コンサルテーション担当。クリエイティブのトップランナーの頭脳が集まってくる窓口をリードしている。
  • 株式会社博報堂 クリエイティブ局 クリエイティブディレクター
    新聞広告で育ったアートディレクター出身のクリエイティブディレクター。「おもしろい広告をつくる」という野望を叶える場としてXを積極的に活用している。
  • 株式会社博報堂 クリエイティブ局  PRプラナー/統合プラナー
    ソーシャルインサイトを起点に、世の中を動かす「現象づくり」を得意とするPRプラナー/統合プラナー 。工事現場の仮囲いを活用したアンビエント広告の実績も。Xはファンコンテンツとも社会課題とも相性がよいプラットフォームとして注目している。
  • 株式会社博報堂 クリエイティブ局 コピーライター
    ほぼ毎日1時間以上はXに費やす、X好きコピーライター。初任のTBWA HAKUHODOで大手企業のSNS運用にも関わり、「中の人」について学ぶ。現在は博報堂クリエイティブ局に所属し、ファンダムを動かす仕事も担当。
  • 株式会社ハッピーアワーズ博報堂 コピーライター/アクティベーションプラナー
    「言葉を軸に人を動かす」をモットーに、CMからSNS投稿まで一気通貫して企画。「#雪コに甘やかされたい」で2023年度TCC新人賞を受賞するなど、Xにまつわる仕事での受賞も多数。「言葉で人を動かしたいと思ったら、自然とXの仕事につながった」と本人談。

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