AIとともに進化する生活者 -生活者目線で捉えるAIエージェントとの関係性-【生活者インターフェース市場フォーラム2025レポート】
AIエージェントが24時間365日、私たちの生活に寄り添い、対話を重ねるようになった近未来。その時、生活者の意識や行動はどのように進化していくのでしょうか。効率化を超えた「心」あるAIとの関わり方や、テクノロジーが後押しする「人と人のつながり」、そしてAI共生時代のブランドと生活者の対話のあり方とは――。
先日開催した「生活者インターフェース市場フォーラム2025 いっしょに話そう。世界が変わるから。~AIエージェント時代の生活者価値デザイン~」のセッション「AIとともに進化する生活者- 生活者目線で捉えるAIエージェントとの関係性 -」の模様をお届けします。
大澤 正彦氏
日本大学 文理学部 情報科学科准教授・次世代社会研究センター(RINGS)センター長
吉藤 オリィ氏
株式会社オリィ研究所
代表取締役 CVO
入江 謙太
株式会社博報堂 CXクリエイティブ局長
エグゼクティブクリエイティブディレクター
野田 絵美
株式会社博報堂 メディア環境研究所
上席研究員
人間は「情報ニーズ」だけではなく「感情ニーズ」も生成AIに抱くようになっている

- 野田
- 博報堂メディア環境研究所の調査によると、東京では生成AIの利用経験者がすでに半数に達し、その利用目的も変化し始めています。仕事や勉強のみならず、3人に1人がAIとの雑談や暇つぶし、趣味の相手として利用しているという結果が出ています。生活者はAIに対し、検索や相談といった「情報ニーズ」だけにとどまらず、本音を発散したり愛着を持ったりする「感情ニーズ」も抱くようになっているのです。

本日は 「AIとともに進化する生活者」 をテーマに、AIエージェントとの関係性について考えていきたいと思います。
大澤先生は著書『ドラえもんを本気でつくる』の中でも、寄り添うAIのあり方について語られていますが、AIがドラえもんのような存在になるためには、どんな言葉やコミュニケーションが重要になるのか教えていただけますか。
- 大澤
- AIを「道具」と見るか、「友達や恋人のような対話相手」と見るか。哲学者ダニエル・デネットが提唱している議論によれば、私たちは人やモノ、AIエージェントを理解するときに「頭の使い方が2種類ある」と言われています。
ひとつ目は、「どういうプログラムで動いているのか」という「仕組み」で理解する頭の使い方です(設計スタンス)。もうひとつは、仕組みは気にせず、「このAIやロボットはどういう気持ちで動いているんだろう」という意図や気持ちを読み取ろうとする理解の仕方です(意図スタンス)。

意図スタンスでAIを見ると、私たちは自然とAIを「寄り添ってくれる存在」と感じやすくなるのです。つまり、同じAIでも「仕組みとして見るか」「意図を想像するか」で、距離感が大きく変わるということが最近わかってきているんですね。
- 野田
- 非常に興味深いですね。それは受け手側の意識次第ということですか?
- 大澤
- その通りです。例えばスマートフォンを使う時、普段は無意識に操作していますが、着信が来て通話を始めた瞬間、頭の使い方が切り替わります。物理的には同じスマホを持っていても、意識は「電話の向こうの相手」に向き、その意図や気持ちを想像しながら話しますよね。
同じようにAIとやりとりする場合も、「AIの意図を感じるか否か」で関係性が大きく変わってくるわけです。
- 野田
- AIエージェント自体の振る舞いとして「意図を感じさせやすくする」ことはできるのでしょうか?
- 大澤
- 可能です。「意図を感じさせなくなる決定的なポイント」を避けることが重要です。それは「プログラムをはっきり想定させてしまうこと」。
たとえば DeepResearchのような調査AIは、何か聞くと一回聞き返してから調査する手続きに必ずなっていますよね。「毎回こういうルールでコミュニケーションする」というプログラムが想定できてしまうと、ユーザーは心を感じにくくなるんです。
人間も同じで、企業の稟議手続きなどもあえて心を感じない工夫をすることで効率化させる仕組みだと思うんです。人であってもAIであっても、私たちは「意図を想定して心を感じる」ときと「意図を想定させずに効率よく動く」ときをうまく使い分けているというわけです。
人と人との関係性を後押しする「リレーションテック」
- 野田
- ありがとうございます。「心を感じる」という視点は非常に重要ですね。
続いて、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を展開しているオリィさんに、これから生活者がAIエージェントをどのように使っていくかについてお聞きしたいと思います。
- オリィ
- 私はもともと人前で話すのが苦手なタイプで、高専では「人間より話しやすい対話型ロボット」の研究をしていました。しかし、「人工知能としか会話しない自分」に孤独と不安を覚えました。そんななかで自分の過去を振り返ると、不登校だった頃に私を救ってくれたのはオンラインゲームやSNSを通じて出会った「人」の存在でした。
人との出会いが人生を変えると気づいた私は、「AIと出会う仕組み」ではなく、「人と人が出会える仕組み」を作るべきだと考えるようになり、そこからOriHimeの開発を始めたのです。

分身ロボットと名付けたのは、体が弱く大学に通学困難だった頃、自分の顔をコピーしたロボットを作り、講義に出ようとした原体験が影響しています。「自分の存在」を主張して何とか出席扱いにしてもらった経験を通じて、「そこに居ること」そのものに価値があると強く確信しました。
知識や情報だけでなく、“存在の価値”こそ忘れてはならないものだと考えています。
OriHimeはAIではなく、私の仲間が遠隔で操作して動いています。今日は7年間一緒に働いているさえさんを呼んでいます。
- さえ
- こんにちは。OriHimeパイロットのさえと申します。病気の影響で外に出ることが難しいため、OriHimeを私の“分身”として使いながら、日本橋の「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」で働いています。

- オリィ
- カフェでは、頸髄損傷やALSなどさまざまな事情で身体を動かせない約100名の方々が、遠隔でロボットを操作し働き、年間約6万人のお客様が訪れます。分身ロボットは本来であればAIだけでも動かせる仕組みですが、OriHimeは実際の動作も中の人がボタンで動作をしています。AIはインバウンドのお客さまとパイロットの間で、パイロットの画面にお客さまの字幕を出し、パイロットが話した内容をお客さま側にテキストで提示する役割などを担っています。
重要なのは、お客様が「さえさんが淹れてくれたコーヒー」を飲みたくて来店されること。そこには「その人に会いに行く理由」があります。
ロボットが肉体労働を、AIが知的労働を担う未来、私たち人間にしかできない「関係性労働」が重要になると考えています。そして、この関係性をテクノロジーで後押しする取り組みを「リレーションテック」と名付けています。
AIをうまく活用することで、人前で話すのが苦手な人でも、自分の分身であるエージェントを通じて自然に会話できるようになる未来は、十分にあり得るのではないでしょうか。
AIはブランドに“命を吹き込む”ための技術
- 野田
- 「関係性労働」と「リレーションテック」は重要な視点ですね。まさにこの点に関連して企業の「バーチャル販売員」の開発を手掛ける入江さんに、ブランドと生活者の関係性について伺います。
- 入江
- 私は企業やブランドと生活者が出会う場を創出する仕事に携わっています。そんななか、ブランドと生活者の「対話」は、生成AIの登場によって技術的には可能になりました。
一方で、企業やブランドが本当に生活者と対話したいと思っているのか。その逆で、生活者がブランドと積極的に会話したいのかというと、現状では自信を持って肯定できる事例が少ないと言えます。
そこで重要になるのが、オリィさんの「リレーションテック」の考え方であり、昔からブランディングの世界で語られてきた「ブランドパーソナリティ」の概念です。

化粧品カウンターや自動車ディーラーに立つ販売員が、どんなキャラクターを持つ存在なのか。その人格設計やブランドらしい接客体験までを含めて考え、お客さまと向き合うことに意味があるわけです。人をひとりの人格として捉えるように、ブランドの個性によって、対話のあり方は大きく変わるはずです。そういう意味では、AIがブランドに“命を吹き込む”ための技術になるのではないでしょうか。
- 野田
- 先ほどの“さえさんが淹れたコーヒー”のように、さえさんの話し方や声色もまさにパーソナリティだと思うんですが、今後はバーチャル販売員でも同じような個性が表現されていくイメージでしょうか?
- 入江
- 仰るとおりで、もう一つ僕たちが大事だと感じているのは「実在する一人の人間として設定する」という点です。例えば、「世田谷店の田中さん」という実際の販売員をモデルにして、その人の趣味や性格まで反映させたバーチャル販売員を作ることが、お客さまとの絆や信頼関係を築くうえで鍵になると思っています。
- オリィ
- 人格という意味では面白い話があります。 以前飛行機の客室乗務員だった方が カフェでOriHimeで接客すると、言葉遣いが完璧すぎて、AIの自動音声だと勘違いされてしまうことがあるんです。一方で、接客中に咳き込んだり、背後に生活音が聞こえたりすると、急にお客さまは“人間らしさ”を感じて「話してみようかな」という気持ちになるのです。
- 大澤
- 実はそういう研究があるんですよ。完璧に全ての要求をこなすAIよりも、ちょっと違和感や予想外の要素を感じるような設計が大事なんですよね。
つまり、「適切な予想外をうまく作る」ことで、AIと人の心が通じ合えるということになります。完璧すぎると予測エラーが起きず、意図や存在を感じにくくなりますが、些細な失敗やミスがあることで、「ただのプログラムじゃない」という意識を生み出すんです。

- オリィ
- 例えば頸髄損傷などで、自分の腕が思い通りに動かなくなった瞬間に、自分とは別の存在として認識して、「この子」と呼びかけ大事にしようと扱うことがあります。そうした心の変化は、人間の感覚として非常に興味深いものだと思っていますね。
- 大澤
- 実は発達心理学でも、赤ちゃんは、自分と他者の境界がまだはっきりしておらず、自分の思い通りに動くものは「自分」、思い通りにいかないものを「他者」と見分けている可能性があるという説があります。
同様に、組織の中で上からの指示ばかりを受けていると、人は相手の心を感じなくなり、機械的に従うようになるという現象にもつながるわけです。
その一方で、予測可能すぎてもいけず、解釈可能である必要はあります。思った通りのことだけをやってくれるブランドやAIではなく、後から「こういう意図があったんだ」と解釈できる振る舞いが、信頼や納得をうむために非常に大事だと言えます。
- 入江
- ブランド作りでも、つい「完璧」を目指してしまいがちですが、完璧な人間がいないように、完璧なブランドも存在しないのかもしれません。AI時代には、単に「知られている」とか「課題を解決してくれる」といったブランドは数多く出てくるでしょう。しかし、それ以上に大事なのは「絆」を作ることです。 似たようなものが増える中で、生活者に「本当に好き」と思ってもらう。その感情をどう設計するかが、AI時代には難しくもあり、最も重要なことになるはずです。
AIとの共存で自分の「やりたい気持ち」を引き出す
- 野田
- 最後に、AIエージェントの進化によって人と人との関係性はどう変わっていくかをさらに掘り下げたいと思います。
- 大澤
- 「人とAIは共存できますか?」とよく聞かれますが、そもそも人間同士だって完璧に共存できているわけではありません。だからこそ、先ほどのリレーションテックのように、AIの存在が人と人の関係をより良くする方向に働いたらいいなと思っています。
- オリィ
- 私はAIがある種の“仲介役”になり得ると思っています。信頼する人から「この人を紹介したい」と言われたら、自然と会ってみようという気持ちになりますし、孤独を感じている場で誰かがご縁をつないでくれたら、本当にありがたいことです。このような「お節介を焼いてくれる存在」は、AIにも担える部分があると私は感じています。
- 大澤
- 実際のところ、「この人とこの人が一緒に組めば相性がいい」とAIが提案する授業を行っていますが、ランダムにグループを組ませても学生の満足度はほぼ変わらないんですよ。ですが、「この人とこの人がつながるといいよ」と意図を感じられるようなマッチングをすると、結構満足度が上がったりするんです。
また、私が実施しているメンタリングの実験でも、AIと人間で全く同じ会話内容でメンタリングした場合、参加者の満足度は圧倒的に後者の方が高くなります。要は、どれだけ高精度なAIエージェントを作ろうとしても、大事なのはAIエージェントのスペックではなく、利用者とどんな関係性を築いているかだと言えると思います。
- 入江
- ここ10年くらい言われている「プロダクトブランドからサービスブランドへ」という話に関連して考えると、単なる商品を提供するブランドでは生活者に“お節介”をすることはなかなかできません。でもサービスブランドであれば、もっと生活者に寄り添うことができます。
例えば化粧品ブランドなら、商品を売るだけではなく、美容やメイクの相談パートナーとして生活者と深く関わることも可能になってくるということです。

- オリィ
- うちのカフェの口コミを見ると、カフェの良さや食事の美味しさよりも、「〇〇さんに会えてよかった」という感想が多いんです。要するにOriHimeというテクノロジーを使いつつも、そこで生まれる信頼関係こそが価値になっていると言えるわけです。そこの間にリレーションテックがあると私は思っています。
- 大澤
- AIエージェントの登場で、未来が二つに分かれる分岐点にいるように感じます。ひとつは、AIエージェントを効率化のためだけに使い、人間らしさや関係性を徹底的に消すことで利益を上げる未来。もうひとつは、AIエージェントをうまく活用し、人の意図や心を感じ取りながら、関係性をたくさん作ってみんなが幸せになれる未来です。
もし前者に偏ってしまえば、人の幸せは減ってしまうでしょう。だからこそこれからは、人と人との関係性を増やすようなAIの使い方をしていきたいと思っています。
- 入江
- もちろんAIエージェントはとても重要だと思いますが、AIとの対話で完結するのではなく、その先で人と人との出会いや交流がもっと広がってほしいですよね。
- 野田
- AIと良い対話を重ねることで、自分が心から求めていることは何かを深く見つめながら、それを実現する手掛かりとなる素敵な人とのつながりが生まれる可能性があることがセッションを通してわかってきました。AIと共存していくことによって、誰もが自分が「やりたいこと」を見つけ、それに係る「良い出会い」が実現する未来が見えてきた気がします。本日はありがとうございました。
この記事はいかがでしたか?
-
大澤 正彦 氏日本大学 文理学部 情報科学科准教授・次世代社会研究センター(RINGS)センター長夢はドラえもんをつくること。
1993年生まれ。博士(工学)。東京工業大学附属高校、慶應義塾大学理工学部をいずれも首席で卒業。学部時代に設立した「全脳アーキテクチャ若手の会」が2,600人規模に成長し、日本最大級の人工知能コミュニティに発展。IEEE CIS-JP Young Researcher Award (最年少記録)をはじめ受賞歴多数。新聞、webを中心にメディア掲載多数。孫正義氏により選ばれた異能をもつ若手として孫正義育英財団会員に選抜。認知科学会にて認知科学若手の会を設立、2020年3月まで代表。著書に『ドラえもんを本気でつくる』、『じぶんの話をしよう。成功を引き寄せる自己紹介の教科書』 (いずれもPHP研究所)。
-
吉藤 オリィ 氏株式会社オリィ研究所 代表取締役 CVO株式会社オリィ研究所 共同創業者 代表取締役所長 CVO。
小学5年~中学3年まで不登校を経験 2009年から孤独の解消を目的とした分身ロボット「OriHime」の研究開発を始め、2012年株式会社オリィ研究所を設立。
寝たきりでも働けるカフェ「分身ロボットカフェDAWN ver.β」を東京日本橋にて運営。
2022年Prix Ars Electronica2022 digital communities部門にてゴールデンニカ(最高賞)
書籍「孤独は消せる」「サイボーグ時代」「ミライの武器」
-
株式会社博報堂 CXクリエイティブ局長 エグゼクティブクリエイティブディレクタークリエイティブ、ストラテジー、UX&サービスデザイン、アート、テクノロジー、データサイエンスなど、多彩なプロフェッショナルを統括し、広告の枠を超えて事業開発やOMO、マーケティング変革などを手がける。博報堂の「生活者発想」を軸に、効率化や最適化を超える価値創造型のAI活用で、新たな体験価値を生み出している。
-
株式会社博報堂 メディア環境研究所 上席研究員2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。主な研究テーマは「先端メディアと生活者」。ACC賞ラジオ&オーディオ広告部門審査員(2022年~)および民放連CM部門審査員(2025年)。


