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AIエージェント元年の総括と2026年の展望~博報堂DYグループ 「AIに関するプレスセミナー」レポート【前編】~
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AIエージェント元年の総括と2026年の展望~博報堂DYグループ 「AIに関するプレスセミナー」レポート【前編】~

博報堂DYグループのAIに関する先端研究機関「Human-Centered AI Institute(HCAI Institute)」は、2025年11月25日に「AIに関するプレスセミナー」を開催しました。前編では、HCAI Institute代表 森 正弥による、AIエージェント元年と呼ばれた2025年の総括と2026年に注目すべきテーマ。後編は、最新のAI調査からみる生活者・企業・社会全体の「意識変化」と「新たな行動様式」の考察、かつてないスピードで変化する時代を的確にとらえ、その先を見据えた博報堂DYグループのソリューション群を紹介します。

2025年は企業の現場・生活者のAI活用が加速

冒頭では、HCAI Institute代表である森の講演録やインタビュー録を学習させた
デジタルヒューマン(AIアバター)がセミナーの概要を説明しました。

森 正弥
博報堂 DY ホールディングス 執行役員 CAIO / Human-Centered AI Institute 代表

こうした技術は、2026年以降さらに普及すると予測します。一部の企業では、社長のAIアバターを作成し、社長の考え方や施策の意図を社内に届ける取り組みが始まっているほか、AIアバターが経営会議に参加することで「意思決定の質を高める」といった動きも出てきています。

ここ数年は大規模言語モデル(LLM)による生成AIが一気に普及してきましたが、2024年9月OpenAI「o1」の登場を転機に、2025年は大規模言語モデル(LLM)における「生成AI」から「推論AI」へのシフトが起こりました。加えて量子化や蒸留、Mixture-of-Expertsの実装が実用域に入り、小型モデルでも高性能を示し、また企業はデータ保護の観点からOSSモデルを組み込む動きも見えました。 企業の実務でのLLMの活用も着実に進み、評価指標やベンチマークもあわせて現場志向へ移行してきています。

2025年は MCP、A2Aといった AIエージェント同士のコミュニケーションプロトコルの標準化の試みも始まり、 Dify や Agentspace等のAIエージェントを大量生産できるプラットフォームも登場して、 AIエージェントの普及への期待が高まりつつあります。先進企業ではエージェント開発が加速しています。

マルチモーダル技術も大きく進展し、AI生成による動画や音楽が当たり前に流通するようになりました。動画生成AIの高度化が進み、時空間一貫性とカメラ制御、物理挙動の整合、長尺生成の安定化が大幅に改善し、プロンプトからのレイアウト指定も実現できるようになりました。また、音楽生成AIも進化。SNSを通しての公開・共有により、一般ユーザーの活用が一気に進んだ年でもありました。一方で、著作権侵害のリスクが拡大。IPホルダーだけでなく、ユーザー企業も含めてリスクコントロール・ガバナンスが社会課題化してきていると言えるでしょう。

今のAI技術は研究だけがその発展をリードしているのではなく、実践で使われる中で発見された知見が研究にフィードバックされ、AI技術の進化が起こる、という現象が起きていると考えます。最もわかりやすい例がプロンプトエンジニアリングで、「あなたはプロのマーケターです」と役割を与えることで性能が変わることは、AIの研究者も想定していなかったことでした。この実践によって発見されたプロンプトエンジニアリングのアプローチが研究開発にフィードバックされることで、CoT(Chain-of-Thoughts)のような推論の機構を生み出し、推論AIの登場につながったわけです。

ここで、現在のAI技術の進化を、以下の図のような枠組みで説明をします。縦軸が「アカデミア的」「実践的」、横軸が「プロセス志向」「エクスペリエンス志向」としています。

こうした枠組みをもとに考えると、「アカデミア的」かつ「プロセス志向」の左上にあたるのは、大規模言語モデルやマルチモーダルといった『ディープラーニング×ビックデータによる飛躍』によって進化していく技術領域であり、「実践的」かつ「エクスペリエンス志向」である右下にあたるのは、各種AIエージェントやデジタルヒューマンといった『多様な技術とAIとの組み合わせによる発展』が期待されるソリューション領域と言えるでしょう。当初「アカデミア的」だった大規模言語モデルは、多くの実践がなされる中で、一層研究が進んでいきました。つまり、縦軸での下の「実践的」に進んでいきます。そして、AI技術による成果も単に処理の効率化だけでなく、より体験を生み出していく「エクスペリエンス志向」への期待が高まっていきます。そして、最後にはそれまでの展開をふまえて、学術的な新しい手法によって突き抜ける、ブレークスルーさせる右上に向かっていきます。このような発展を可視化してみると、今のAIの進化はU字カーブを描いて進化していると説明できます。 

2026年は世界モデルの開発競争が本格化

2026年はU字カーブの右上に位置している世界モデルの研究開発が一気に加速する年になると予測します。

「AIエージェントが急速に高度化し、すぐにAGIに到達するのではないか」という期待もある中、実際には多くの技術者や研究者の間で、今のAI技術の単純な延長ではAGIに到達しないという見解が共有されつつあります。

2025年3月にAAAI(アメリカ人工知能学会)が研究者を対象に行った調査では、76%が「現行のアプローチではAGIに至らない」と回答しました。その足りない“ミッシングピース”として考えられているのが「世界モデル」です。

世界モデルとは、一言で表現すると「AIが世界をシミュレートする技術」 です。現在の生成AIや推論AIは、入力に対してもっともらしいと思われる回答を返しますがそこに留まり、「自分の回答が世界へどう影響するか」を予測するような「想像力」を持っていません。

自動運転やロボティクスのような物理世界の領域では、現時点の情報からもたらされる判断だけでなくそれに基づく行動の結果、相互作用によって状況がどう変化するかを予め織り込んだうえで判断を行う必要があります。言い換えれば「想像力」が求められます。この想像力があることによって状況の変化にも適切に対応できる判断が可能になります。これは人間であれば自然に行っている判断・行為であり、だからこそ、「世界モデルがAGIへ向かうための次の研究開発の主戦場」になっているわけです。

 

また、AIとロボットを融合させた「フィジカルAI」の実現にも世界モデルの成立が前提になると考えられます。そのため、世界モデルの開発が進めば、フィジカルAI実現への道が見えてくることでしょう。

しかし技術の発展以前に、AIエージェントの普及には「社会受容の壁」という大きなボトルネックがあります。現在、国内外のECサービスの利用規約では「人間以外の主体による購買」を想定しておらず、AIによる契約や購入は「民法上の契約として成立しないのではないか」という見解をもたれている弁護士の方もいます。

そのため、BtoC領域でのAIエージェントによる自動購買が広く普及していくには試行錯誤を通したサービスの利用規約の改定などが必要となり、時間がかかりそうです。対して、企業間での柔軟な合意形成が可能なBtoB領域でのAIエージェントの普及が先行するでしょう。

一方、最近の研究では「AI使用が人の認知的努力を低下させる」という研究結果もあります。AIによる効率化が進む一方、2026年以降は人やチームのパフォーマンスが低下する、あるいはアウトプットが均質化してしまう、という課題が顕在化してくるでしょう。AIを使えば使うほど、認知的努力が失われ、個性や創造性も失われる。このような問題意識は既に先進企業の経営層の間で急速に広がっています。

AIによる効率化を進めるだけでなく、人間の創造性をどう拡張するかを考えていく必要があります。企業におけるAIの活用やあるいはシステムへの導入・実装を行うにあたっては、自動化・効率化を進める「Automation」と従業員の創造性を引き出し拡張する「Augmentation」をどう掛け合わせていくか。そのグランドデザインが重要になります。それと同時に、企業がなぜAI活用に取り組むのか、AI導入によって何を実現していくのか、という問いかけが重要になり、そもそもの企業が事業活動に対してもっている「Aspiration(大志)」を見失わないことが2026年の重要なテーマになってくるでしょう。 

後編はこちら

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  • 博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer/Human-Centered AI Institute代表

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