
AIとの共創で「生活者価値デザイン・カンパニー」へ ─ Google Cloud Next Tokyo 25より
2025年8月5日(火) 、6日(水) 東京ビッグサイトにてGoogle Cloudの旗艦イベントであるGoogle Cloud Next Tokyo 25が開催されました。本稿では初日のキーノート(基調講演)に登壇した博報堂 代表取締役社長 名倉健司の講演内容をご紹介します。
人間の創造性を拡張させる「Human-Centered AI」というアプローチ
創業130年を迎える今年、「博報堂は、生活者価値デザイン・カンパニーへ。」というビジョンを掲げています。人々の生活や社会をポジティブに変える事業や商品、サービス、仕組みを構想し、広告に留まらない多様な領域で実装支援できるパートナーになる。こうした変革への意志を込めています。
「AIという技術にどう向き合うか」は、この変革において、重要なテーマです。
私たちが重視しているアプローチは、「Human-Centered AI(人間中心のAI)」です。
従来のAI観、すなわち「AIに“正解”を出させる」「プロセスをAIに代替させる」という考え方は一見、効率的に見えます。しかし、私たちはそれのみを是とはしておりません。リスクや問題もありますが、何より、それでは人間の創造性は拡張されないからです。
私たちは、AIを「“正解”を出す機械」として使うだけではなく、人間と共に「“別解”を生み出すパートナー」として捉えています。
AIとの対話が、私たちに新たな「気づき」を与え、創造性を刺激してくれる。そうした AI 推進を目指しております。
先日、日本経済新聞に取り上げられて反響を頂いた、「コンセプト生成特化型 AI サービス」も、我々の思想を体現したものです。Chief Creative Officer のプラニングノウハウと我々が持つ32年分の生活者観測データを学習したAIツールが、現場プラナーの壁打ち相手となって、クライアント企業に提案するコンセプトのブラッシュアップに役立っています。
AIとの共創による博報堂の新しい働き方
この「AIとの共創」という考え方を、日々の社員の行動レベルまで落とし込み、博報堂の働き方のNEW スタンダードを創っていく。
この時に私たちが下した大きな決断が、Geminiの全社導入でした。従前からあるオフィススイートツールに加えて、Geminiの利用環境をこの春に全社導入し、利活用を推進しています。
なぜ この決断をしたのか。それは、「パートナー主義」を徹底するためです。
様々なクライアント企業様のニーズに応えるべく、領域を多様化させ、様々なパートナーと協業し、多様なフォーマットのアウトプットに対応する。このためには、私たち自身が柔軟な環境を持つ必要があり、「マルチクラウド・マルチ生成AI」を自分たちの「手の内化」することは、必然の選択であったと言えます。
この変革への私たちの本気度を示す取り組みとして、「逆メンター」という制度がございます。若手社員が、役員のPCをのぞき込みながら、熱心にAIツールの使い方を説明する。そんな光景が、私たちの日常です。
役員自らが「こう使えばいいのか」と実感し、ユーザー代表として、活用法を社内発信しています。「あの役員が使っているのに、自分が使わないわけにはいかない」―社内には、そんなポジティブなプレッシャーも生まれています(笑)。
現場からの反応にも手応えを感じています。 この春に実施したトライアルプロジェクトでは、わずか1ヶ月で、自社ツールを大幅に上回る水準の利用率に達し、実に9割のユーザーが「今後も利用したい」と回答しております。
トライアルの熱量を全社員に展開する仕組みも運営しています。博報堂単体で500名の社員を「AIプロフェッショナルユーザー」化するプログラムとともに、利用の裾野を広げるための「プロンプト共有ツール」の開発と導入を進めております。
「働き方」の NEW スタンダードを感じさせるユースケースも、現場から現れています。
チーム固有の大量の情報を NotebookLM に集約し、チーム員がいつでも参照できるナレッジベース化することで、機動的なチーム編成が可能になっています。また、社内での報告先によって作り分けを要していた「報告書作成」業務が省力化されたりしています。こうした動きが、個人やチーム単位で自律分散的に生まれ、先ほどご紹介したプロンプト共有ツールや制度によってナレッジが共有されていることに、変革の手応えを感じております。
With AIで顧客と社会に貢献
Geminiや独自開発ツールの利活用によって社員の意識と行動を「with AI」型に変えていく。この挑戦から得られる学びを、我々は、クライアント企業様への提供価値として昇華させています。
まず、『AI利活用支援コンサルティング』の強化です。 グループで年間1,000件以上の支援実績を有する専門部隊が、今回の知見をすでにナレッジ化しております。
制度/組織設計・定着化活動・開発プロセス構築まで、皆様のAI変革を支援いたします。
2つ目は、独自の AI ツールとメソッドによる「マーケティング業務BPR支援プログラム」です。冒頭に紹介した「コンセプト開発」のみならず、分析からクリエイティブ制作やメディア出稿まで、すべてのマーケティング業務工程においてwith AI化を博報堂は実現しております。このデータ・知見・ツールを活用したソリューションです。
博報堂独自のデジタルペルソナ作成支援ツールやデータを活用したAIアプリケーションはもちろん、Googleとも連携・協働して開発してきたメソッドを活用し、分析や企画のみならず施策の実行までを、with AI 型の業務プロセスに刷新するご支援が可能です。
最後に、IT/システムレイヤーの変革支援の強化です。この春に2 つのジョイントベンチャーを立ち上げました。アプリ開発を中心に顧客接点変革を支援する『HAKUHODO BRIDGE』、そしてNTTデータ様と共に ITコンサルティングからシステム実装まで支援する『HAKUHODO ITTENI』です。皆さまの「AI Readiness」の向上を、サービス・業務・データ・システムの全レイヤーで支援いたします。
真の「生活者価値デザイン・カンパニー」を目指す私たちにとって、『AIとの共創』は必須であり、Google CloudとGeminiが強力なパートナーとなってくれることを確信しております。
ご清聴、ありがとうございました。
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株式会社博報堂
代表取締役社長1991年博報堂入社。営業局長、取締役常務執行役員などを経て、2025年4月より代表取締役社長。