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企業は、AIと次世代のチームを築けるか?【生活者インターフェース市場フォーラム2024レポート】
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企業は、AIと次世代のチームを築けるか?【生活者インターフェース市場フォーラム2024レポート】

生活者とAIの融合が当たり前になってきた今、企業とAIはどうすれば新たな価値を築くことができるのでしょうか。
単なる効率化や生産性向上だけではなく、AIネイティブ時代にふさわしい“創造性”を育むチームをつくるには何が必要なのか。次世代を担う人材をどう育成し、AIと共に未来を切り拓いていくのか。各界のフロントランナーをお招きし、その道筋を探求していきます。
先日開催した「生活者インターフェース市場フォーラム2024 AIと、この世界に別解を。
- Human-Centered AI -」におけるセッション「企業は、AIと次世代のチームを築けるか?」の模様をお届けします。

大崎 真孝氏
エヌビディア 日本代表 兼 米国本社副社長

小林 りん氏
学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事

三宅 陽一郎氏
株式会社スクウェア・エニックス イノベーション技術開発ディビジョン リードAIリサーチャー

モデレーター:森 正弥
株式会社博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer

人間の力をAIでエンハンスすることが鍵

AIは私たちの生活やビジネスに急速に浸透し、その進化はとどまるところを知りません。いまやAIが当たり前になっている時代に、単なる効率化のツールではなく創造性を高める“相棒”として活用する未来も見えてきています。
そんななか、AIネイティブ時代のチームを率いるチェンジリーダーになるには何が必要になるのでしょうか。
まずは、現在の日本企業や組織におけるAIの向き合い方について、大崎さんにお伺いしたいと思います。
大崎
ChatGPTが2022年末に出てから、日本企業が能動的にAIを使い始めたと実感しています。これまでは、知らないうちにAIのサービスを使っていて、いつの間にか便利になっていたと思うのですが、ChatGPTがリリースされてからは自分で調べてAIを使うようになったのです。
そのタイミングでようやく、AIに対してのネガティブな意見が消えていきましたね。現在は日本企業や政府も含めてAIへの積極的な投資が展開されています。

エヌビディア 日本代表 兼 米国本社副社長 大崎 真孝氏 

ありがとうございます。実際に企業でAIを活用することで、働き方がどのように変わっていくのかについては、ゲーム開発の現場でAIを取り入れている三宅さんにお聞きしたいと思います。
三宅
ゲーム開発におけるAIの活用は「ゲームそのものに入れるAI」と「ゲーム開発のチームに入れるAI」の2つがあります。今のゲームはかなり大規模になっています。こうしたゲームの大規模化が避けられない状況下で、人間の業務をAIに置き換えるのではなく、人間の力をAIでエンハンスすることが鍵になるのです。
ゲームのプログラムやデータなど、各職務において人間とAIがいかにコラボレーションしていくかに焦点を置いています。

株式会社スクウェア・エニックス イノベーション技術開発ディビジョン リードAIリサーチャー 三宅 陽一郎氏 

昔のゲーム開発と比べても、AIの登場でだいぶ変わってきているのでしょうか?
三宅
ドラスティックな変化を感じる部分はものすごくありますね。例えば、声を入れて唇を動かす「リップシンク」という表現技法は、かつて人間が全部やっていましたが、今はディープランニング技術で自動生成できます。
ただ、ゲームの演出によっては「必ずしも正解が欲しいわけではない」という場面もあるため、最終的には人間がチェックするようにしており、ワークフローの中でAIと人間の棲み分けを意識しながら、ゲーム開発に取り組んでいます。
小林
逆に人間しかできないことはあるのでしょうか。
三宅
一般にゲーム全体の大きなメインストーリーに関しては、それこそ時代の流れや今を生きる人々の悩みなどを反映させていきながら、物語を作っていかなければなりません。その部分は今のところ人間にしかできないことだと思います。

AI時代に大切な教育は「教えて育む」から「問うて学ぶ」へ

次世代リーダー教育を牽引されている小林さんにお聞きしたいのですが、AIの到来で、現場の働き方も変わらざるを得ない状況のなか、教育や人材育成はどう見直されていくべきなのでしょうか。
小林
私たちは、軽井沢の山の上に国際高校を運営しておりまして、世界90カ国から200人ほどの高校生が学びにきている学校です。
「共に時代を創っていくチェンジメーカーを育む」という教育理念のもと、AIが当たり前になり、人間にしかできない領域も明確化されてきているなかでの教育とは何なのかを、現場で向き合っているつもりです。

学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事 小林 りん氏 

よく申し上げてるのが、“教育”という言葉の意味が変わっていくということです。
“教育”とは「教えて育む」と書きますが、若干一方的な響きがありますよね。本来は“学問”であるべきではないかと考えており、これからの時代は「問うて学ぶ」という考え方にシフトしていく必要があるのではと思っています。
単純な知識の習得や情報収集については、おそらくAIで代替されてくるわけで、AI時代に大事になってくるのは「答えのないものに対して、自ら問いを立てられる」ことです。そういう人たちを育むことがより重要になってくると考えています。

小林さんの意見について、開発の現場での教育や人材採用に関わっている三宅さんはどのように受け止めましたか。
三宅
ゲーム開発においては、私は「こだわりがある人」が良いかと考えています。例えば、「モンスターのこのモーションを可愛くしたい」など、 自分のこだわりをしっかりと持ち、自分がこうしたいという思いを尊重する人の力は作品を高めることにつながります。また、そういう人をできるだけ前に立たせて、いろんな開発者やユーザーの視線を浴びる場所に持っていきたいですね。色々なユーザーからの要求を身に受けると、「もっとこうしたい」という思いがさらに深くなっていきます。
そこを軸として成長していってもらえたらと思って、人材教育を行っています。
なるほど、そういう風に企業としての人材育成を見直しているわけですね。
三宅
時代によってエンタメ自体が変わり、決まったレールが敷かれていないからこそ、クリエイターのキャリア形成は難しいところもあります。
そういうなかで、何か一つ飛び抜けるためには、替えのきかないところまで一線を超える存在になることだと思います。一番こだわりを持ってクリエイションしているあの人以外に適任者はいないと周囲に思われるようになったら強いですよね。
テクノロジーの進化と一緒に、人も成長していかなければなりません。特にAIは変化が激しいため、自分で吸収し機敏に対応していくことが必要です。

AI時代でも「頭」だけではなく自分の「肉体」で苦しむこと

変化の激しい時代において、企業や組織で「リーダー」や「チェンジメーカー」をどう育成するかが非常に重要な課題になっています。
小林さんは、リーダーやチェンジメーカーにはどのようなスキルや知識が必要とされると思いますか。
小林
教育機関としては「問いを立てる力」を重視しています。具体的には、座学と実践の割合は1:9をベースに、自分の憤りや疑問、情熱を抱けるのはどの分野で、自分にしか解けない問題は何かと考える授業を行い、同時に毎週自分のプロジェクトに打ち込める時間やスペースを提供しています。
これまでにも、生徒たちはこのリーダーシップの授業時間を使ってさまざまなプロジェクトに挑戦しています。例えばスマホを見続けることで生じる斜視に対して問題意識を持った高校生が、スマホ内で斜視を予見するアプリを開発し、日本の眼科学会で発表するなど、若い頃から「自分にしか問題意識を持てない何かを見出していく」ことはすごく重要だと感じています。
次世代のチェンジリーダーを育成するには、問題意識を持って自ら行動を起こすことが大事ですが、AIはどのように役立っているのでしょうか。

小林
先ほど三宅さんが「AIで個人の力がエンハンスされる」と仰ってましたが、スマホ内斜視の対策アプリを開発した高校生も既存のビッグデータを参照して機械学習を利用したと聞いています。これは10年前だったら絶対にできないことだと感じていますね。
その一方で、私たちの学校も含め、教育業界全体でAIをもっと活用すべきだと感じています。特に個別学習の最適化についてよく議論されますが、各生徒の学びのデータを定量的なものだけでなく、定性的な観点からも十分に収集して活用することができれば、教育の質がさらに向上するのではないかと考えています。
ありがとうございます。大崎さんは、チェンジメーカーを育成する上での課題をどのようにとらえていますか。
大崎
海外におけるリーダーや経営者の技術に対する感度が非常に高いことから、日本はそこに学びの機会があると私は思っています。
AIのようなデジタル技術は、パソコン1つあればいろんなところでイノベーションが起こる可能性があるんですよ。 本当に世界中で毎日たくさんの論文が出ていて、技術に精通するのは無理でも感度を上げることはできると思うのです。
AIが日進月歩で進化する今、もしもデジタル化が遅れると、これまで企業が有していた競争力をものすごく失ってしまう可能性もあるでしょう。
やはり技術への理解や感度が高くないと、いざ自分の企業でAIを使って何か新しいことをしたいと思っても、本当の意味で腹落ちしていないので説得できないんですよね。
加えて、これはリーダーとして昔から変わらないことかもしれませんが、「頭」だけではなく自分の「肉体」で苦しむことです。幾多の困難にぶつかりながらも、その壁を乗り超えていく。AIの時代であっても、リーダーとして動く総量は変わらないと思います。

小林
日本の場合、どうしても失敗がすぐ減点に結びつくので、その文化が変わっていかないと、新しいことにチャレンジする次世代のチェンジメーカーは増えていかないのではないでしょうか。

産業の枠を超え、自社の強みにAIを付加していくことが大事

次が最後の質問になるのですが、AI時代において日本の企業や組織でやるべきこと、やってはいけないことを皆さんにお聞きしたいと思います。
大崎
日本企業として自社の産業の中で凝り固まるのは非常に危険だと考えています。産業の枠を超え、さまざまなところと交流して、これまでの強みを生かしながらAIを付加していくことが重要なのではないでしょうか。
日本企業の強いところは「現場力」だと思うんですよ。ただし、ものづくりやサービスの現場に新たなものを加えたいからと、単にウォーターフォール式に曖昧なアイデアを外に投げてしまうのはよくありません。
それだと、全く自社の中で技術力やアイデアが蓄積できなくなってしまいます。やはり経営者が覚悟を持って、現場力を信頼し、そこに新たなものを少しずつでも加えていくことが大事になるでしょう。
三宅
大崎さんの意見に賛成で、まず必要なのは自分たちで試行錯誤してみること。さらに、他の企業と共有する場所を作ることが肝になると思っています。
今のAI研究は1社だけで行うのは規模が大きすぎるので、いろんな成功例や失敗例を常に共有して、向かうべき方向を見定めていくことが必要です。日本は企業の横の連携がやりにくい風土があるので、そこは変えていくべきことだと考えています。
小林
私が以前読んだ本に「薩摩藩の人事制度」というものがありました。当時、人は5種類に分類されて評価されていたというものです。評価される順として、1番目はチャレンジをして成功した人、2番目はチャレンジをして失敗した人、3番目がチャレンジをする人を応援した人、4番目が何もしない人、そして5番目は何もせずに文句を言う人となっています。
今の日本ではややもすると4番目や5番目の人が逆に評価されがちな気がしています。失敗を恐れずに挑戦する人を増やすためには、成功しても失敗しても、挑戦すること自体を人事制度できちんと評価していくのが、日本企業の変化につながるのではと思っています。
先ほどの大崎さんの枠を超えるというお話とも通じますし、時代の変化に挑戦し続けることが大切ですね。その際にAIを相棒として活用することが今後ますます重要なのではと感じました。
本日は AI時代の企業における働き方、チーム作り、人材育成に対して様々なヒントがいただけたと思います、ありがとうございました。
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  • 大崎 真孝 氏
    大崎 真孝 氏
    エヌビディア 日本代表 兼 米国本社副社長
    大学卒業後、1991年に日本テキサス・インスツルメンツ株式会社に入社。大阪でエンジニアと営業を経験した後、米国本社に異動し、ビジネスディベロップメントを担当。本社勤務を含め20年以上、DSP、アナログ、DLP製品など幅広い製品に携わりながら、様々なマネジメント職に従事。
    2014年、エヌビディアに入社。エヌビディア ジャパン代表として、パソコン用ゲームのグラフィックス、インダストリアルデザインや科学技術計算用ワークステーション、そしてスーパーコンピューターなど、エヌビディア製品やソリューションの市場およびエコシステムの拡大を牽引し、日本におけるAIコンピューティングの普及に注力している。
    首都大学東京で経営学修士号(MBA)を取得している。
  • 小林 りん 氏
    小林 りん 氏
    学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジ
    ISAKジャパン代表理事
    1998年東大経済学部卒、2005年スタンフォード大教育学部修士課程修了。ユニセフのプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在。ストリートチルドレンの非公式教育に携わるうち、リーダーシップ教育の必要性を痛感。2008年にインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)を創設。2015年、日経ウーマン「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」。2017年、イエール大学グリーンバーグ・ワールド・フェロー。2019年、Ernst&Young「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤージャパン大賞」など多数受賞。
  • 三宅 陽一郎 氏
    三宅 陽一郎 氏
    株式会社スクウェア・エニックス
    イノベーション技術開発ディビジョン
    リードAIリサーチャー
    京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程を経て博士(工学、東京大学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。著書に『人工知能の作り方』『ゲームAI技術入門』『戦略ゲームAI解体新書』、共著に『FINAL FANTASY XVの人工知能』『ゲーム情報学概論』など多数。『大規模デジタルゲームにおける人工知能の一般的体系と実装 -FINAL FANTASY XVの実例を基に-』にて2020年度人工知能学会論文賞を受賞。
  • 株式会社博報堂DYホールディングス執行役員
    Chief AI Officer
    Human-Centered AI Institute代表
    外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用したDX、企業支援、産業支援に従事。東北大学 特任教授、東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問、日本ディープラーニング協会 顧問。
    著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイト トーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。

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