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カレンダーがメディアにも? 推し活利用で見えてきたカレンダーデータの可能性 @メ環研の部屋
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カレンダーがメディアにも? 推し活利用で見えてきたカレンダーデータの可能性 @メ環研の部屋

皆さんは、スケジュール管理にどんなツールを使っていますか? 紙の手帳で管理している方もいれば、アプリを使用している方も多いでしょう。今、カレンダーアプリは従来の個人のスケジュール管理に加えて「推し活」シーンでも利用が増え、一つのコミュニティとして活性化しつつあります。

カレンダーデータのコミュニティ化とは? 分析の中でカレンダーデータは広告コミュニケーションの場になる可能性も見えてきました。今回のメ環研の部屋では、具体的な事例を見ながらカレンダーデータの現在と未来を探っていきます。

ゲストスピーカーは、カレンダーシェアアプリ「TimeTree」を運営する株式会社TimeTree代表取締役の深川泰斗さん。モデレーターはメディア環境研究所の森永真弓上席研究員です。

カレンダーシェア=予定管理とコミュニケーションの場

まずTimeTreeの特徴を確認しておきましょう。TimeTreeと一般的なカレンダーアプリの違いは、予定を誰かと共有することを前提とし、共有に特化している点にあります。

深川泰斗さん(以下、深川)
TimeTreeでは利用開始の際、カレンダーを共有する相手を招待するところから始まるんです。予定一つひとつの中にチャットスペースがあり、例えば家族や友達同士で遊びに行く際の持ち物を相談したり、子どもの小学校のプリントの写真を貼って、夫婦で共有したりするような使い方ができます。特徴は、コミュニケーション要素とカレンダーというツールの要素の両方を持っていること。ユーザーからは「リビングや冷蔵庫に貼っているカレンダーがスマホの中に入っているような感じ」とたとえられますね。

TimeTreeでは、このように任意のメンバーでシェアしたカレンダーを「共有カレンダー」と呼んでいます。

森永研究員(以下、森永)
共有カレンダーは、一つのカレンダーを皆で作り上げるという感覚で使うんですか?
深川
グループLINEを想像してもらったらいいと思います。TimeTreeでは「カレンダー=グループ」なので、グループに参加したらあとは誰でも予定を書いたり編集したりできますね。カレンダーアプリは世の中にたくさんありますが、パソコンでの利用を必須としていたり、やりたいことをするためのメニューを探すのが難しかったりすることが多い中、UIがわかりやすいということでTimeTreeを選んでくださっているユーザーが多いように感じています。

カレンダーシェアと推し活の関係とは?

深川さんによると、TimeTreeは当初、家族や恋人同士のような言わばクローズドな場での共有が想定されていました。しかし、最近では違う使われ方が見られるようになったといいます。それが推し活の文脈です。 推し活の中でアイドルや芸人の公演スケジュール、テレビ出演情報、グッズの発売日などの情報共有の場として、TimeTreeの使用が広がってきています。

深川
推し活シーンでのカレンダーは本人が作っている場合もありますが、最初はファンの方が多かったですね。
森永
つまり、とても熱心なファンが一生懸命調べてカレンダーを充実させて、ファン同士で共有しているということでしょうか?ある種の「勝手カレンダー」の生成というか。
深川
そうですね。布教目的の方もいれば、自分だけでは完成させられないから「みんなで作ろう」というパターンもあります。例えば、鉄道ファンのカレンダーでは、「この時間にこの電車がここを通過する」というような時刻表には載っていないけど、ファンの間ではすごく重要な情報を共有しあったりしていました。

このように情報の集約と共有の場だけではなく、さらにコミュニティとしてTimeTreeを活用する事例も見えてきました。

深川
オンラインゲーム大会の出欠確認をTimeTreeで行ったという事例がありました。この領域ではマネジャー的な役割の人が求められるのですが、X(旧:Twitter)で「我々のチームはマネジャーを募集しています。要件はDiscordとTimeTreeが使えること」という募集も見かけました。
森永
これは草野球や草サッカーチーム仲間でも便利そうな使い方ですね!ちなみにこれは、仲間同士で自分たちの活動用カレンダーを形成しあう 上に、更にカレンダー上でチャットでのやりとりも盛んに行われているということですか?
深川
そうですね。趣味のカレンダーはチャット量が多いですね。ゲームコミュニティーならではの話では、大会の賞金を受け取ったかどうかをコメント欄で記録するというケースもありました。

オンラインゲームチームのような強固なコミュニティでTimeTreeの利用が広がっていることを受け、TimeTreeでは任意のメンバーだけにシェアできる「共有カレンダー」に加え、インターネット全体に公開される「公開カレンダー」の実験的な提供を始めています。

森永
これは、カレンダーサービスで予定を共有するだけではとどまらず、ある種のコミュニティのベースとして使われるようになっているという、非常に興味深い状況ですね。
深川
公開カレンダーはVTuberやアイドルが活用を始めていて、メンバーの誕生日や配信予定などを発信しています。

森永
推し活で誕生日は重要ですよね。
深川
はい。投げ銭をしたいファンにとっては、配信スケジュールが気になります。VTuberやアイドルの場合、情報発信の主体はXで、そこで日々色んなこと発信しながら「スケジュールはここを見てね」と言って公開カレンダーのリンクを貼るという事例が増えています。SNSで告知をしてもしばらくしたら流れていってしまうので。

深川さんは、広がりの例としてアイドルなどの公開カレンダーが自然発生的に「公式タイムツリー」と呼ばれるようになった例を挙げました。

森永
自然と用語が出来てしまったんですね。このような広がりは、TimeTreeの皆さんの中では想定されていましたか?
深川
ある程度は期待していました。ただ、積極的に仕掛けるより、皆さんにキャッチしてもらった方がすごい広がりになるかなとウォッチしていたら、本当に広がっていったというのが実際のところです。でも、ゲームコミュニティでの利用やインディーアイドルの情報発信が広がりの中心になったのは想定外でしたね。

推し本人サイドからはどんな声が届く?

森永
公式カレンダーを発信している側からはどんな声が届いていますか?
深川
アイドルの場合、元々ファンから今後の予定についての問い合わせや「まとめてほしい」という要望が多くあったそうです。インディーズアイドルは公演でチェキなどを購入してもらうことが収益につながるので、そのために早めに告知し、ファンに予定を組みやすくしてもらうことが大切だという声が寄せられました。
森永
問い合わせ一つひとつに対応するのも大変ですもんね。すでに告知した情報が「流れてしまって探せないから教えてくれ」への対応は手間だと思います。それが不要になるのは大きいですね。
深川
また、アイドルの運営からはこんな話を聞きました。SNSでのイベント告知は、日時の発表、出演者の発表、追加の出演者の発表と複数回に分けて行うそうですが、その中で出演者の変更やチケット完売など状況が変わることがある。でも、誰かが過去の投稿に「いいね!」などのアクションを取ると、古い情報が拡散してしまい取り返しがつかなくなる、と。だから、「イベントのページはTimeTreeのように一カ所で最新の情報に更新していく方がよい」とおっしゃっていました。

カレンダー予定になることでニーズが可視化された

現在、TimeTreeでは公開カレンダーで発信された情報を、ファン自身が手打ちで自分のカレンダーに再入力するケースもあるのだそう。

深川
わざわざユーザー自身が手入力する予定には、ニーズがあるもの。そこで、TimeTreeの予定データから何が人気なのか調べてみました。 例えば、2022年に発売された2本のビッグタイトルゲームのTimeTree上でのカレンダーデータを比較したところ、発売日はゲームAよりBの方が少し人気が高かったものの、Aは前夜祭と発売日という2回の山があったことがわかりました。

深川
また、世界的な人気を博す韓流グループの予定については、ライブ以外にデビュー日にも山がありました。これは実際に皆さんが好きだったり大切だったりで入力している結果なので、推し活の中でデビュー日がどれほど重要なイベントであるかが可視化されたと思います。

楽しみにしている予定を忘れないために

森永
イベントなどの最適な告知タイミングはいつなのか。これはすごく悩ましい問題です。今すぐに、情報を出しても今すぐ商品を買えるわけでも、イベントに行けるわけではない。そうなると、告知を見た瞬間は興味が湧いても、すぐ行動ができないから忘れられちゃうのでは?という心配があります。

例えば、推しとアパレルブランドのコラボが発表になっても、発売日を覚えていられなくてうっかり買いそびれてしまうことってありますよね。もし発売日がカレンダーに出ていたら、朝、スケジュールを確認したときに「帰りにお店に寄ってみようかな」と行動に移すことができそうです。

深川
そうですよね。TimeTreeなら、ユーザー自身やそのご家族のこれからの行動を決めるカレンダーという場に、参考になる情報を届けることではないかと思っています。僕がよくやるのですが、気になる情報があると「後で読もう」とブラウザでタブを開いたままにしたり、スクショを撮ってカメラロールに入れておいたりしませんか?
森永
よくやります。
深川
スクショした瞬間は、後でその情報について何か行動したいって思っているんですよね。そういう場面とユーザーのカレンダーをつなげることができたら、やりたかったことを行動へスムーズにつなげられるのではないかと思っています。
森永
特にスクショは撮りっぱなしで忘れてしまうことが多いです。でも気持ちが高まった時にカレンダーにスクショを貼ることができたら忘れないですね。
深川
そうですね。自分のカレンダーに登録すれば、リマインド機能で「あと1週間」とか「1日前」と通知する設定もできるので、楽しみにしていることを忘れず、行動につながりやすいと思います。「TimeTreeの公開カレンダーに告知がまとまっている」という価値を色んなジャンルに広げていきたいですね。

またユーザーにインタビューをしていると、家族との共有カレンダーに推し活の予定を入れている方が多かったんです。そうすることで、万が一予定を忘れていても、家族から「今晩、この番組を観るんじゃないの? 大丈夫?」と、リマインドしてもらえて推し活が円滑になったという方もいらっしゃいました。

カレンダーデータの広告媒体としての可能性

森永
ここまでの話からカレンダーデータは、ユーザーのタイミングデータとも言えそうです。現在TimeTreeでは、そこを活かして広告メディアにできないか、コミュニケーションの機会にならないかと検討していると伺いましたが、具体的にはどういうことでしょうか?
深川
まず予定のデータからターゲティングが可能ですね。例えば、ウェブの閲覧データでは猫の動画を見ていても、猫を飼っているとは限らない。必ずしもデータが行動を表しているとは限りません。でも、TimeTreeに「獣医」という予定に入っていれば、ペット飼っている方だろうということがわかります。また、さかのぼって「何年前に車検の予定が入っていた」ということもわかりますね。
森永
確かに車検を控えていそうだとか、車を買ってから7年ぐらい経っている人に、新車の情報を出したい自動車メーカーなどニーズがありそうですよね。買い物タイミングで広告を出したい広告主がかなりいることは想像がつきます。広告ビジネスがこれまで使ってきたデータは常に過去の行動履歴のデータだったわけですが、カレンダーデータは未来のデータであるということも、非常に可能性を感じます。
深川
これはまだ研究中なんですが、例えば、忘年会の実施は12月上旬が多いものの、実際に予定としてカレンダーに入れられているのは11月初旬が多いんです。そんな実際のイベントだけではなく、それが計画されるタイミングがつかめるのはカレンダーデータならではですね。

まとめ

深川さんの「好きだから、大切だから予定として入力している」という言葉の通り、カレンダーデータはかなり熱量の高いデータであると言えます。そんなカレンダーデータにシェアやチャット機能がついたTimeTreeは、推し活など同じ熱量を持つ人たちのコミュニティにもなっていることがわかりました。

また、カレンダーデータからは生活者の具体的なライフスタイルや、予定に向けて気持ちが最も高まっているタイミングを知ることができます。ここに広告メディアとしての可能性が見えてきました。カレンダーデータは、新たなコミュニケーションや価値を生む場になりそうです。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。

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  • 深川 泰斗
    深川 泰斗
    株式会社TimeTree代表取締役
    九州大学大学院で社会学・文化人類学を学ぶ。2006年にヤフー株式会社へ入社し、ソーシャル・コミュニケーションサービスの企画を担当。2012年にカカオジャパンへ出向後、2014年に株式会社JUBILEE WORKS(現・株式会社TimeTree)を共同設立。2015年3月、カレンダーシェアアプリ「TimeTree」をリリース。現在、同サービスのグローバルユーザーは5000万以上となった。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
    通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。著作に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか(共著)』がある。