ヒット習慣予報 vol.124 『ドライブインライフ』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの中川です。
かれこれ2か月ほど会社に行っていません。自宅のリビングのソファーに座って、目の前のカフェテーブルに置いたノートパソコンと向き合って仕事をしています。私はどうやらリモートワークが向いているようで、以前よりも能率が上がっている気がします。でも、背中を丸めていつも同じ姿勢でやっていることもあり、疲れがたまりやすい。金曜日になると、いやもう木曜日くらいの段階で、ドッと疲れを感じます。ある日、もうひとつの疲れの理由に気がつきました。それは、「毎日、目の前の景色が変わらない」ということでした。
今回のテーマは、「ドライブインライフ」。ドライブインとは車のまま乗り入れることができる商業施設のこと。モータリゼーションの発展とともにアメリカで広がりました。それが派生して、車に乗ったまま屋外で映画を観るドライブインシアターもかつて一大ブームを巻き起こしました。そのドライブインシアターが、新型コロナウィルスの影響で、今また急激に注目を集めています。ソーシャルディスタンスという社会記号の定着により、距離を置いて行動するのが一般化しつつあります。それでも、映画を大画面でライブで観たいと願う声も多く、ドライブインシアターという手法が見直されてきたのです。
〈「ドライブインシアター」検索数〉
記事やSNSを見渡してみると、この「ドライブイン」という考え方、映画だけではなく様々な領域に広がりを見せています。人との距離感を再編集する必要性が生まれ、車というものの存在価値が変容しつつあるのでしょう。車という空間を最大限活用し、新しい生活様式を実践する人が増えることで、車が移動だけでなく暮らしの中に浸透していく様を「ドライブインライフ」と名付けました。
まずは「ドライブインライブ」。
これは、ドライブインシアターの拡張版。音楽ライブや音楽フェスを車の中から楽しもうというもの。ライブで聴く音楽は、なんとも言えない感動がありますが、3密という条件をクリアした新しいライブの形を模索する動きが生まれてきました。海外では先行して行われていてコール&レスポンスがクラクションの音で交わされるなど、今までとは違う新しい興奮が待っていそうですね。
続いて「ドライブインワーク」。
先日、オンラインで会議をはじめたら、自家用車の中から参加しているメンバーがいました。聞くと「家だと自分の部屋がないから、いつも車の中で仕事しているんですよね」と。また他の同僚は、車で富士山の麓まで行って、誰もいない大自然の中で、青空のもと仕事をしたとのこと。想像するだけで気持ちいいですね。Twitterを見ると「車通勤」をはじめる人もチラホラ。仕事と車の新しい関係が生まれてきそうですね。
そして「ドライブインレストラン」。
実はこれも、1950年代頃のドライブインブームのときにカリフォルニアを中心に、行われていた文化。レストランのキッチンから駐車している車まで注文した料理を直接運んでくれるもの。それがアメリカで再ブームしているのだとか。
まだまだいきます「ドライブインパーク」。
千葉にある海浜公園が駐車場を活用して、ドライブインパークの取り組みをはじめました。車で遊びに行って、地元のお店が集まったマルシェで買ったごはんを食べて、カーステレオから流れる音声と共に映画鑑賞するなど新しい娯楽様式を探る試みです。
最後に「ドライブインバンライフ」。
海外からひそかに広がりつつあった車中泊ライフ。車のバンに荷物を詰め込んで、移動しては泊まり、移動しては泊まるを繰り返す暮らし方です。以前、「vol.57 『住所不定ライフ』」というコラムでも紹介しましたが、新型コロナをきっかけとして、日本にも広がりを見せています。「バンライフ」の検索数も、短期的なものかもしれませんがスパイクが立っているのがわかります。この社会の急激な動きに伴い、車中泊用にスペースを開放する宿泊施設が出てきたり、逆に私有地での車中泊でトラブルになるケースも出てきています。新たな動きに対する落としどころを社会全体で探っている状況なのでしょう。
〈「バンライフ」検索数〉
新型コロナの影響がつづく中、ソーシャルディスタンスを保ちながらも、新しい働き方、楽しみ方、生き方を模索する上で、車というプライベート空間が見つめなおされていく多くの兆しを今回見つけることができました。
この『ドライブインライフ』は、まさにこれからがビジネスチャンス。どんなことが考えられるでしょうか。
『ドライブインライフ』のビジネスチャンスの例
■ ドライブインレストランやフェスを楽しむために、車の中で快適に食事がとれるカー用品を新たに開発する。
■ ドライブインワークをする人向けに、公園や景色のいい場所をWi-Fiスポットにしていく。
■ 車中泊をする人向けに、敷地に余裕がある企業が、駐車スペースやトイレを貸し出すサービスを展開する。
など。
テレワークで視覚と聴覚ばかりをつかっていると、創造性が弱まっていくようです。様々な場所で、いろんな景色から刺激を得て、気分転換をしながら、五感をフル活用した方がいいアイデアがいっぱい生まれてきますし、心の豊かさも高まっていくことでしょう。そういう意味で、今後自家用車を生活の様々なシーンで活用する人が増えていくのかもしれませんね。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 統合プラニング局チームリーダー
ヒット習慣メーカーズ リーダーメーカーの商品開発職を経て、2008年に博報堂中途入社。
クリエイティブストラテジストとして、日々お得意先や社会の課題に向き合っている。飲みながらいろんな業界の人と話をするのが好きだが、気づくとお酒に飲まれている。好きな落語家は五街道雲助師匠。