ヒット習慣予報vol.122 『スキル通販』
こんにちは。ヒット習慣メーカーズの村山です。
日本全国で緊急事態宣言が解除されましたが、まだまだ余談を許さない生活が続く中いかがお過ごしでしょうか。僕も自宅で仕事する生活にようやく慣れ始め、毎日会社に通勤するというこれまでの普通が変わったことで、ニューノーマル時代の新しい生活様式について自分自身の実感をもって考えられるようになってきました。
必然的に自宅で過ごす時間が増えたここ数ヶ月ですが、冷蔵庫にビール缶と水しかないようなわかりやすく料理できない人間だった僕も、少しではありますが料理をするようになりました。ニンニクや玉ねぎを無心で切っている時間に心の安らぎを覚えたり、フライパンから香るニンニクとごま油のいい匂いに癒やされたりとなかなか新しい体験がありました(ニンニクが好きです)。
そんな料理をはじめたキッカケは、SNSでとある有名店のシェフがだれでも簡単に作れるパスタのメニューを公開しているのを目にしたことだったのですが、料理初心者の僕でもとても美味しくできあがったことに驚きを覚えました。最近ではテレビの朝や昼の情報番組で、おうちでつくれるレシピを取り上げられるのをよく見かけるようになりましたが、冷静に考えてみるとこれはものすごい変化だと感じています。昔であれば、飲食店の秘伝のレシピは門外不出が当たり前で、そもそも誰もプロの味が自分で再現できるなんて考えもしなかったため、有名店のシェフのレシピが無料で公開されるなんてことは珍しかったはずです。
そんなコロナ禍をうけた消費の変化の兆しが今回のテーマ「スキル通販」です。今ではもはや生活の一部となり欠かせない存在である「通販」ですが、これまでは購入するのは「商品」でした。それが最近ではオンラインで「スキル」まで購入する習慣が芽生え始めています。
「ネットショッピング」の検索数推移
先ほどの有名店レシピの事例は無料で公開しているので正確には「スキル」を「通販」しているわけではありませんが、「スキル通販」は有料である必要はありません。「スキル」を通じてファンを獲得していくこと自体が中長期的な購買につながる価値があると思っています。シェフの料理のスキルを生活者自身に体験してもらうことで「こんな美味しい料理をつくれるシェフがいるレストランってどんなところだろう」「そんな人がつくった料理を食べてみたいな」「テイクアウトやってないかな」といった具合に確実に興味を持つ人は増えると思いますし、中長期的な視点での顧客獲得には大きな効果があるのではないでしょうか。
他にも、無料ですがオンラインでヘアカットを無料レクチャーするサービスを提供している企業もありました。自粛を余儀なくされていた期間にプロのスタイリストさんがそのスキルを遠隔で提供してくれることで、(もちろん直接切ってもらうのと同様の仕上がりにはならないかもしれませんが)素人が何もわからずカットするのとは段違いの効果があったと思います。そしてその接客のスキルからカットのスキル、何よりもどんなことがあっても髪をオシャレに整えてほしいという「企業の想い」が共感を呼び、ファンを増やしていくことにつながるのだと思います。
料理・ヘアカット以外にも、奥渋谷にある小さな本屋さんも「スキル通販」の事例となる、とてもいいチャレンジをしていました。そのお店は店員さんの本のセレクトセンスが素晴らしく、僕も寄るたびについつい何冊か本を購入してしまうのですが、そんな本屋さんが自粛期間中に、ネットを介したオンラインでのマンツーマン接客サービスを実施していたのです。マンツーマン接客だと店員さん自らがなぜその本を売ろうと思ったのかということや、店員さんが読んでみた感想等といったストーリーとともに本を購入することができるので、大手の通販サイトで本を購入するのとは違うその店ならではの「体験」を提供することができています。何気なく本屋に並べられている本をセレクトするための磨き抜かれた「本屋さんのスキル」を実感できる経験はあまりないと思いますが、まさにその見えないスキルも含めて本を購入できるとてもいい取り組みだと思いました。
他にも、店頭で活躍していた美容部員さんのスキルをオンラインに拡張している「スキル通販」事例もありました。リアルな接客が制限されてそのスキルを活用する場が限られてしまっていた美容部員さんがSNSやアプリ・サイト上で自身の特徴(年齢・肌など)を元にメイクの方法やおすすめのコスメを紹介したり、直接相談にのったりすることで商品を購買するサービスです。まさに多種多様な生活者のメイクの悩みに美容部員さんの現場で鍛えられた百戦錬磨の「スキル」を活用し、その「スキル」もふくめて購入してもらうとてもよい取り組みだと思います。
ここまでいくつか事例をご紹介してきましたが、この「スキル通販」はこれからますます広がっていくのではないかと思っています。なぜなら、いままでの当たり前の生活が当たり前でなくなるコロナという社会の変化は、いままで当たり前に食べていた料理や食材、使用しているモノの裏側にある様々なプロの「スキル」の有り難さを感じるキッカケにもなったはずだからです。同時に「スキル」はリアルな提供にとどまらず「デジタル」にも広がるキッカケにもなったのではないでしょうか。
最後に、「スキル通販」のビジネスチャンスについて、少し考えてみたいと思います。
「スキル通販」のビジネスチャンス例
■ スタイリストがコーディネートのスキルを提供してくれるサブスクサービス
■ オンライン飲み会に芸人が参加してくれる飲み会盛り上げサービス
■ 食材の生産者がおすすめの調理法もオンラインで教えてくれる食材ECサービス
30代になって周りの友人や同僚のスキルに驚かされる日々ですが、僕もお酒を飲みすぎずに毎日楽しく頑張っていきたいと思います!
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 PR局
ヒット習慣メーカーズ メンバーPR戦略局から、19年に統合プラニング局に異動、21年にふたたびPR局に異動。車からお菓子に至るまで様々なクライアントの情報戦略、企画立案に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っていた生活を経て、知らない街の知らない店に飲みに行きたいなとリサーチ活動を実施中。