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『音楽の未来』レポート 博報堂「コンテンツビジネスラボ」~サブスクリプション時代における消費行動の変化とヒット予測とは?(2/5)
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『音楽の未来』レポート 博報堂「コンテンツビジネスラボ」~サブスクリプション時代における消費行動の変化とヒット予測とは?(2/5)

様々なクラスタにアプローチしたあいみょん

参加者から「ヒットって予測できるんですか?」という質問が来ていますので、ぜひこの話の流れに入っていきたいなと思います。まず、ストリーミングによって音楽の売れ方、つまりヒットの仕方がどう変わったのかを教えてください。
谷口 由貴(博報堂 研究開発局 研究員)
Billboard JAPANさんとの共同研究から、具体的なアーティストの事例を出してストリーミング時代のヒットを紐解いていきたいと思います。まずとりあげるアーティストは、あいみょんです。
あいみょんはストリーミング・サービスで火が付いた日本で最初のアーティストと言われています。改めて説明するまでもないですが、去年「マリーゴールド」で火がついて、『NHK紅白歌合戦』にも出演しました。
谷口
ビルボードの2019年上半期ストリーミング・ソングスのランキングでは1~4位をすべてあいみょんの楽曲が占めています。また、2019年上半期トップアーティストにもなっているくらいの人気を誇っています。
ただ、補足すると、「マリーゴールド」はCDでは大きなヒットを生みませんでした。ビルボードの週間シングル・セールス・チャートでは初週32位です。
谷口
あいみょんはストリーミングが強いアーティストです。注目すべきは「マリーゴールド」が配信されたタイミングでして、この時に他の楽曲もストリーミング・チャートで再浮上しています。同様に、その後「今夜このまま」が配信されたタイミングでも、別の楽曲がさらに浮上していますね。そして、最初にランクインしていた楽曲はその後もランクインし続けるといった状況になっています。ですので、ストリーミング時代においては新曲が出るたびに過去曲が再浮上して、1回ランクインの波に乗れるとずっとランクインし続けるといったヒットの仕方が多いと思います。
僕が注目してみたいのは、2015年にリリースされたインディーズデビュー曲「貴方解剖純愛歌~死ね~」です。僕はこの曲を出した当時のあいみょんにインタビューしたことがあって、そのときは全く無名でした。LINEの会話風ミュージックビデオや、サビで「死ね 私を好きじゃないのならば」と歌う過激な歌詞が特徴で、正直、当時はここまで売れると思っておらず、ヒットを予測できなかったです。その後、2016年に「生きていたんだよな」でメジャーデビューし、そして「君はロックを聴かない」あたりから、「あいみょんっていいよね」「最近いい曲出してるアーティストいるよね」って世間がザワザワし始めた。そして、谷口さんがおっしゃったとおり、「マリーゴールド」のヒットによって過去曲の「君はロックを聴かない」や「生きていたんだよな」に加えて「貴方解剖純愛歌~死ね~」も聴かれるようになりました。このように一つのヒットをきっかけに過去曲が聴かれるようになって利益を出すというのは、CD時代とは違う曲のロングヒットの在り方が出てきているということですよね。

▲あいみょん「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」

谷口
ストリーミング以外のビルボード・チャートの各指標とウィキペディアのPV数を見てみると、例えば、初登場したテレビ朝日の『ミュージックステーション』や『NHK紅白歌合戦』(紅白歌合戦)といったテレビ露出があった場合、ウィキペディアのPV数が瞬発的に伸びて、その1週間後あたりから徐々にストリーミングが伸びていきます。ストリーミングの場合、どちらかというと階段状にどんどんベースラインが積みあがっていく形で伸びていくのが特徴です。このような階段状になるのは、リスナーがある程度定着しつつ、さらに新しいリスナーが増えているからだと思います。
谷口
なぜそうなったのかを解剖していくと、まずあいみょんは結構異なるターゲットを狙ったプロモーションをしていたことが挙げられまして。例えば、漫画とのコラボでストーリーと歌詞をリンクさせた曲を作ってマンガ好き層にアプローチしたり、先ほど柴さんがおっしゃったようなメンヘラ歌詞で放送自粛になるような曲がSNSでバズって10代を中心に聴かれるようになったり、平井堅さんのように有名アーティストがプッシュすることでそのアーティストのファンにアプローチしたり、ファッションに興味がある層でも、アプローチしていなければあいみょんを聴かなかったかもしれない人たちに向けて『装苑』や『GINZA』といった雑誌への露出やReebokのスニーカーとのコラボを行なったりしていました。そして、最終的には『紅白歌合戦』に出演してマスを取りにいっています。このように、いろいろなところから音楽の趣味嗜好と関係なくジャンルレスにリスナーを取りにいっていまして、それが成功したのかなと思いますね。
木下
SNSで色々なところに人が分散している現在の状況においてはこういうアプローチが有効なんだということが、いろいろなデータを見て分かってきたことです。我々広告会社としてもマーケティングの仕方を変えていかないといけない如実な事例だと思います。
「あいみょんは売れたよね」ということはみんな分かるけども、今おっしゃったように実は様々なクラスタからの支持を積み重ねていったということが1つのポイントですね。
谷口
インスタのストーリーズも直接Spotifyに行けるような仕組みになっていますので、「この曲めっちゃいい!」って友達と共有しあっているのも大きいと思います。
参加者から「『紅白歌合戦』で一気に父親世代も理解するようになりましたが、テレビの影響はどれくらいありますか?」という質問が来ています。父親世代というのは、まさにレイトマジョリティですよね。
谷口
『紅白歌合戦』放送後にストリーミングも伸びていますので、まさしくですね。
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  • 柴 那典
    柴 那典
    音楽ジャーナリスト

  • 博報堂 研究開発局 木下グループ グループマネージャー
    博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ グループマネージャー
    2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わり、Vision-Graphicsシリーズ, m-Quad, Tealiumを活用したサービス開発、得意先導入PDCA業務を担当。またAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスも行っている。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ、音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。
  • 博報堂
    研究開発局
    研究員
    2017年博報堂入社。研究開発局で研究員として、データを活用したマーケティングサービス開発、生活者DMPを活用した生活者研究を行っている。注力研究領域は若者研究やAI技術を用いたマーケティング研究。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとして、コンテンツ消費行動研究を行なっており、音楽分野担当として音楽ヒット予測等にも従事。

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