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AIが書く詩は、人の心を動かすことができるのか? 「ENCOUNTERS メディア芸術クリエイター育成支援事業成果プレゼンテーション」SPECIAL TALK REPORT
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AIが書く詩は、人の心を動かすことができるのか? 「ENCOUNTERS メディア芸術クリエイター育成支援事業成果プレゼンテーション」SPECIAL TALK REPORT

 

文化庁が主催する「ENCOUNTERS 平成30年度メディア芸術クリエイター育成支援事業成果プレゼンテーション」が、2018年3月1日から3日に、Ginza Sony Parkにて開催されました。「メディア芸術クリエイター育成支援事業」は、若手クリエイターの創作活動を支援することにより、次世代のメディア芸術分野を担うクリエイターの水準向上を図るとともに育成環境を整備する目的で文化庁が2011年から取り組んでいる事業です。
選出されたクリエイターは、作品について様々な専門家からのアドバイスや技術提供の機会の提供などを受けることができます。

AIが発想し詩を綴る。 

今回、博報堂に所属しアーティスト活動も行うアクティベーション企画局の石橋友也と第三プラニング局の新倉健人が平成30年度のクリエイターとして選出されました。
Twitterの「トレンドワード」を素材にAIが発想し詩を綴る「バズの囁き/Whispers from Buzz」という作品で、育成支援を受けて制作を行っています。
本記事では、作品展示と、アーティストによるプレゼンテーションが行われたイベントについてレポートします。

作品展示エリアでは、リアルタイムにTwitterのトレンドワードとそれにひもづく投稿データをAIが分析し、2分ごとに新たな詩を作り出し、3つのディスプレイに表示されると同時に1台のプリンターから詩が印刷される、という形式で展示が行われました。
3つのディスプレイには、同じトレンドワードをテーマとしていますが、AIのアルゴリズムを多少変えているため、異なる3つの詩が映し出されています。彼らは、プレゼンテーションのなかで、その3つについて、正しい日本語文法を出そうとするものを「良い子」、崩れた日本語文法で作り出すものを「悪い子」、AIのアルゴリズムのままに作り出すものを「素朴な子」という分類で呼んでおり、それぞれの内容の違いを楽しむことができます。

SNSで流れる言葉の刹那性

アドバイザーとのトークセッション形式で進められた作品プレゼンテーションでは、アドバイザーとしてアニメーション作家の和田敏克さんとマンガ家のしりあがり寿さんが登壇し、石橋と新倉と対談しました。

まず、二人の経歴から作品制作のきっかけについて話しました。石橋は学生時代からバイオアート作品を制作していた経歴があり、新倉は博報堂入社後に自身の数学の知見を活かし、AIコピーライターの開発に携わっています。

日本では、他国と比較してTwitterが異常に普及しており、TV番組などの影響でその時間帯のトレンドワードが埋め尽くされるような現象も起こっています。石橋はそんな「SNSの情報速度の速さやその刹那性、人間が生み出した膨大なデータとしての言葉」に興味があると話します。

詩を学習しても詩は書けない

トークは作品のAIの具体的な仕組みまで及びました。AIの開発を担当している新倉は、日本語として成立する文を生み出させるまでの経緯と苦労した点を語りました。
詩を作るAIなので、“詩”を大量に学習させているのかという質問に対し、学習段階で詩を学ばせても、詩は必ずしも正しい日本語の用法が用いられているわけではないため、AIはより崩れた日本語を生み出してしまうため、詩に見えるものを生み出すことができない、と説明し、「大量の平易な日本語の例文を学ばせることで、それぞれの語の文脈の中での使われ方を学んでいき、新しい文章を生成できるようになっている」と解説しました。このように、AIに正しい日本語の文法を学ばせているものの、文章それぞれは独立しており、不自然さも残ります。このことについて、「文と文の関連性に違和感や飛躍があり、想像を掻き立てるからこそ、そこに詩情を感じられる」と新倉は言います。「詩」というものの定義自体を考えさせられるプレゼンテーションとなりました。


最後に、平成30年度のクリエイター育成支援を受ける他のアーティストの方々とのフリーディスカッションが行われました。
長編アニメ「水江西遊記(仮)」を製作する水江未来さんから、脚本をAIが書いてくれることはできるのか、という質問が投げかけられ、新倉は、「新しいストーリーを考えることは難しい。人間のクリエーションにはそこに創る動機があるが、AIには無いためだ」と解説しました。しかし、「AIは人間の予想しない組み合わせを大量につくりだすことができる」とAIをクリエイティブに活かす可能性について言及しました。その話を受けて、石橋は、「これからは、AIをディレクションする能力が問われてくると思う」と考えを示しました。

次世代のメディア芸術を担っていくアーティスト達と育成支援していく場において、
AIが台頭するこれからの自体の、アーティストと創作活動のあり方についてまで考えを巡らすことができたトークイベントとなりました。
新倉と石橋は、「バズの囁き/Whispers from Buzz」で使用しているAIを用いながら創作活動を続けていく予定です。博報堂社員ならではのメディアや言葉に対する感覚を活かしながら新たな形で活動する彼ら、今後の活動についてもレポートしていきたいと思います。
 

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