自社データ、生かすも殺すも自分次第。
こんにちは、データシェフの横井です。
データビジネスの現場で苦学力行する横井がふるまう「データの料理術」。
第二回は「自社データを使ったヒントのあぶりだし方」について
っとその前に。前回の記事で多くの反響をいただきまして誠にありがとうございます。感無量でございます。また数々の質問を頂戴しましたが、大きくは以下の2つに集約できるかなと思っています。
1, データシェフの必須スキルとは何か?
2, データシェフは誰でもなれるのか?
⇒1,今回から数回にわたって「シェフの基本装備」を順にご説明する予定です。
⇒2,誰でもなれます。食の料理と同じで人を選びません。スキル・知識・心構えを会得すれば、“Anyone Can Cook.”(誰でも名シェフ)-『レミーのおいしいレストラン』より
では早速、データシェフの基本装備についてご紹介。下の図にご注目下さい。
今回はこのうち、「調査・データ分析のミソ」の一部をお出しします。
いきなりサマリー
■ 自社データは市場反応の写し鏡、事業成長のガソリン
■ 分析迷子の原因は凝り固まった視点
■ カギは視点、データの価値=ヒトのテクノロジー乗
自社データは「事業成長のガソリン」
当節、データ活用が盛んです。「データは21世紀の石油である」という名言まで飛び出し、企業はデータの獲得競争に血眼。それもそのはず、価値あるデータを獲得できれば、GAFA ( Google, Apple, Facebook, amazon)のような強大なビジネスを展開できるからです。更にAI技術を利用した分析やサービスの元データとしても有効活用が可能。そのためか、新しいデータの獲得競争に夢中で、自社で保有するデータ(以降、自社データ)が軽視されている風潮を感じます。しかし、私たちは「自社データは事業成長のガソリン」であることに一切の疑念を持ちません。
自社データとは、顧客データ、売上げデータ、プロモーション施策データ、webサイトの閲覧ログデータなど多岐に渡りますが、本質は「顧客が実際にどの刺激に反応し、どのような行動を取ったのか」の情報の集合だと捉えています。そのため、自社データを分析すると「生の市場反応」が浮かび上がってきます。まさに「市場反応の写し鏡」。
更に、分析結果から推理を重ねることで、生活者の「声にならない声」を掬い上げることができます。いわゆるインサイト発掘。その発見を土台に、サービスや売り方にひと工夫を施す。すると生活者にウケて、売上げがグググと伸長。
実際に私が所属するチームには「クライアントの自社データを駆使した広告活動を敢行し続けた結果、年間の事業売上が4年間で4倍に成長した」事例もあります。
このような経験から、
「市場反応の写し鏡」たる自社データ等を覗き込み、生活者の「声にならない声」に耳を澄まし、サービスや売り方を一段と磨き込む。このサイクルを回すこと。それが事業成長のエンジンである。そう信じて、私たちは日々仕事に取り組んでいます。
「理屈は分かるが、自社データを分析してもロクなヒントを得た試しがない」そのような声も聞こえてきそうです。分析迷子の状態ですね、痛いほどわかります。
幼児を上回る迷子経験の滝に打たれて、分析迷子の原因は「凝り固まった視点」であると骨身に染みています。凝り固まった視点とは「目的とデータを一対一でしか捉えない」ことを指します。
例えば、「売上を上げたいならば、売上データを分析すればよい」は一見正しそうですが、ヒントを得られないケースが仰山あります。分かるのは売上げ増減タイミングと問題箇所程度で、「で、どうするの?」「…………考えます」の会話テンプレを散々見てきました。例えるなら「走行速度の限界突破に挑む自動車エンジニア」が「速度計とのにらめっこに拘泥」のような視野狭窄。ヒントは速度計にはなく、ボディやタイヤなどの別アングル観察にあるにも関わらず…。
別表現をすれば、「(毎日データを集計するような)データに近い人ほど、ヒントから遠ざかる」傾向が顕著です。なぜなら、ルーティン化の副作用で斬新な視点を持ちにくくなるから。私たちはこの現象を「データの逆説」と呼び、厳戒態勢を敷いています。なぜなら、データの逆説に嵌まると悪夢。分析結果が全く面白くない「どうでもいインフォメーション」と化し、もれなくクライアントの方々が退屈そうにする「地獄のプレゼン時間」に繋がるからです。(本当に申し訳ございません)
では、この「どうでもいインフォメーション生産」をどう防ぐか。先達の教えと試行錯誤から得られたコツが2つあります。
自社データの才能開花、2つのコツ
自社データから価値を生み出す方法は3つに整理できます。
Ⅰ【捌く】データを斬新な視点から分析
Ⅱ【繋ぐ】データとデータを新たな組み合わせで接着
Ⅲ【売る】自社データを第三者に販売
Ⅲは海外では活発ですが日本では中々難しいので、ⅠとⅡについて語ります。
いきなり申します。どちらもカギは視点です。
(余談:私は耳にタコができるほど、ストラテジックプラナー(軍師役)の師匠から「他に視点ないの?」と問われ続ける視点漬けの日々を送っています)
はじめに、Ⅰ[捌く]について。
現場で飛び交うコトバがあります。 「四角じゃない、丸の視点はどこだろう?」以下の図をご覧下さい。
○の切り口にヒントが潜んでいるケースが大半です。
例えば、「webサイトの閲覧ログデータ」を「口説き文句」視点で分析した事例。「ボトルネック把握・購入への黄金ルート発見」のためではなく、「購入者が特徴的に熟読していたページ。そこは口説き文句の宝庫では?」という仮説を胸にデータ分析を実行。結果、眼前には素晴らしい表現がザクザク。それらを融合しただけで広告コピーのベビーブームが勃発しました。
次に、Ⅱ[繋ぐ]について。
Ⅰ[捌く]にも関係する話ですが、分析術やデータ連結術より前に、どのデータを選ぶかの「選球眼」が肝要だと痛感しています。例えるなら食材の目利き。どんなに包丁さばきや調理術が達者でも、食材がイマイチなら料理はお粗末。
では、どうデータを目利きするか。ひとつ、クイズにお付き合いください。
Q.新曲作りのために「楽器を持ち寄ろう」となりました。あなたならどんな楽器を持っていきますか?(3秒お考えください)
イチ、
ニ、
サン。
皆様、何をお持ちになられましたか? 多くはギター・ピアノ・フルートなどです。如何でしょうか。ではここに「フライパン」を背中に隠し持っている勇者はいませんでしょうか?………おそらくいません。なぜなら、「フライパンは調理道具。楽器ではない」と普通は考えるからです。しかし「叩けば音が鳴る」視点に立つと、フライパンも楽器と言えます。フライパンの音がアクセントとなり、曲が引き締まるかもしれない。
データ選びも同じです。固定観念に囚われず、自社に眠る「フライパン・データ(潜在価値のあるデータ)」を掘り出せるか。まずはそこが勝負。
フライパン・データを洗い出せたら、「白黒つけたい問い」に答えるのに必要なデータ。そこから逆算してデータ同士を連結、分析。すると新発見ぞくぞく。
データの価値 = (ヒト)のテクノロジー乗
データを活かすカギは視点。視点の豊かさはヒト次第。
そのため、データの価値を決めるのは、そのサイズや解析ツールではなく、扱うヒトの質(具体的には「ヒトの意志・視点・問い・仮説・腕前」)であると確信しています。どんなにビッグなデータであろうと、どんなに高価なツールがあろうと、厨房のシェフが素人では、そこに舌を巻く逸品は生まれません。
数式で表すなら、「データの価値 = (ヒト)のテクノロジー乗」
例えば、10のテクノロジーがあり、ヒトが半人前(0.5)だとします。
データの価値=0.5の10乗=0.001 #豚に真珠
一方、10のテクノロジーに対し、一人前の3人組(ヒト=3)の場合、
データの価値=3の10乗=59,049 #鬼に金棒
#豚に真珠回避のために、唱えているコトバがあります。
自社データ 生かすも殺すも 自分次第
日本企業には「フライパン・データ」がまだまだ眠っていると推測します。眠れるフライパンを探り当て、トリッキーな和食で世界を今一度驚かす。その一助となりたい。
以上、データシェフの横井でした。
次回以降は、データシェフの基本装備を順々に解説します。乞うご期待。
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博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 データマーケティング二部「まるで料理をするように、データをさばき、戦略をこしらえ、顧客を喜ばせる」という想いから、データシェフを名乗って活動中。
慶應義塾大学卒業後、6年間一貫してデータドリブンマーケティングに従事。
(筆者肖像制作: 榎本デッサン堂)