スマートスピーカーがやってきた。生活者の体験はどう変わる?
近年、グローバルなプラットフォーマーからスマートスピーカーが相次ぎ登場し、一般の家庭でも広く使われ始めています。博報堂は昨年12月、フィンランドに本社を持つデジタルプロダクト開発スタジオ・リアクタージャパンと連携し、企業がスマートスピーカー等の音声体験を利用したシステムを構築する際の支援サービスを発表しました。(リリースはこちら)
同サービスを始めた背景や狙い、協業の理由について、両社担当メンバーが語りました。
スマートスピーカーは、スマートフォン登場以来のUI革命だ
- 石毛
- スマートスピーカーの登場は、スマートフォンが登場した以来のユーザーインターフェース(UI)の革命だと感じています。約10年前に出たスマホが今では当たり前になったように、スマートスピーカー普及と並行して音声のUIが今後浸透していくはずです。AIとコミュニケーションを取る際のアシスタントとしてスマートスピーカーを使うことで、買物体験や、広告・流通のあり方などが大きく変わると思います。
- 中川
- デジタルにおけるUIの進化はこれまで、ボタンにタッチするとか、言葉や感情をテキストや画像として送れるようにするなど、“無声”のコミュニケーションに寄っていました。この方向性が変わる大きなきっかけになるのがスマートスピーカーだと思っています。スマートスピーカーが使われていくことで、人間本来の“声を出す”コミュニケーションが活性化することになるでしょう。日本人が大好きな絵文字もある程度感情を表せますが、より関係を深めたり、相手を思いやったりする場面などのように、“声”が大きな役割を果たすシチュエーションは増えていくのではないかと思います。
- 宮本
- スマートスピーカーは、人間と機械を繋ぐUIの発展の一つの段階だと捉えています。これまでは手で操作していたコンピューターが、音声によって操作できるようになる。インタフェースの究極は、頭の中で思ったことが機械に伝わってその通りに動くことだと思いますが、その途中の段階に声があり、手での操作に比べて自然なコミュニケーションが実現できるかもしれません。
- 野田
- 音声のUIに非常に可能性があると思うのは、スマートフォンやPCなどのデジタルと接続する機器を持っていない人でも使えるところです。これまでのテジタル機器は、それを所有・使用している人のためのものでしたが、スマートスピーカーであればスマホを持てない子供や、操作が出来ない高齢者であっても家庭内にあるスピーカーをUIに利用できます。
- サーリネン
- コンピューターの処理能力が近年大きく高まっており、スマートスピーカーのような小さいサイズのマシンでも十分な処理能力を持つようになりました。またこうしたデバイスがネットワークに繋がり、インタラクティブにコミュニケーションが取れるようになってきています。このような技術革新の結果として、現在音声UIの実用化に期待が持たれています。
スマートスピーカーが可能にする、“本音”のコミュニケーション
- サーリネン
- スマートスピーカーの登場でAIとのインタラクションが自然になると、人とプロダクトやサービスの間にある摩擦がなくなり、操作の一部がショートカットできるようになります。例えば料理をしている時は両手が塞がっていますよね。スマホを操作してレシピを見るのは大変です。スマートスピーカーに話しかけてレシピを読んでもらえれば非常にスムーズで、料理を中断する必要がありません。
- 石毛
- 人のモチベーションや感情を刺激して意欲を喚起する領域にも使えるのではないかと思います。一例を挙げるとAIと会話する中で、ヘルスケアログをもとに健康改善のために会話の意図を汲み取った提案をしてくれたり、自分では思いつかなかったアイデアや隠れたセンスを引き出してくれるようなります。それがIoTデバイスによって場所にとらわれずに思いたった瞬間に出来るようになるはずです。
- 中川
- 文字のコミュニケーションだと、例えば気楽に書き込んでいると言われているSNSであっても友人とのやり取りの際に文章を推敲して直したりしますよね。これが音声であればついつい本音を話してしまうようなところがあると思います。そういう部分を拾えるようになることで、コンピューターや社会との関係にも新たなコミュニケーションを生むことが出来る可能性があります。
“音声体験”を核に多様な得意先課題を解決する、博報堂×リアクターの座組み。
- 野田
- スマートスピーカーを企業で使う場合、音声UIと、その裏側で動く様々なIT機器を連動させなくてはなりません。そのために必要なIT技術を持っている企業と協業したいと考え、リアクターさんにお声掛けしました。
- サーリネン
- 当社はグローバルで音声UIを使ったシステムの構築に関する実績を持っています。欧米では2~3年前から音声を使ったUIのトレンドが来ており、これまで多くのシステムを構築してきました。一方で博報堂はマーケットやコンシューマーについて深く理解しているので、パートナーになりたいと考えました。
- 野田
- 実際クライアントと向き合う中で感じるのは、音声を使って具体的にこんなサービスを作りたいと考えている企業がいる一方で、「音声やAIを使って顧客・ユーザーに新しい体験をしてもらうサービスを開発したいんだけどどうしたらいいのか分からない」という悩みを持っている企業も沢山いらっしゃるということです。そういった両方の要望に応えるため、今回、ソリューションを設計するにあたり、そもそもどういう課題に着目するかといった根っこの部分からもご相談いただくことが出来るかたちにしました。
- 中川
- ある自動車メーカー様と既にプロジェクトをスタートさせていまして、展示車との声のやりとりで顧客対応が進んでいくシステムを開発しました。来場者の心理的ハードルを下げながらセールス負荷も軽減するもので、2月から一部ディーラーでテストを開始いたしました。そのメーカー様との間では、新しいアイデアもどんどん生まれています。展示車にとどまらず、試乗の際に何かできるのではないかとか、トップセールスのノウハウと連動できないかとか、そういったことまで実現できていくと、販売のあり方や働き方の改革にも繋がっていきますよね。
- 野田
- セールスの現場でなくても例えば会議なんかでも、巡回してくるロボットに話しかければお弁当や飲み物が頼める、というのも面白いですよね。会議中にPCやスマートフォンをいじってお弁当を頼むのは集中していないと思われそうですが、音声だと人に頼むのと感覚が近いし、抵抗感も少ないんじゃないでしょうか。
- サーリネン
- 音声であれば、何か作業をしながらでも邪魔にならないというのがありますよね。会議中にコーヒーを頼むのもそうですし、運転中や料理中など、今取り組んでいる作業の邪魔にならない。新しいアイデアとして、VRゴーグルと音声UIの組み合わせが考えられます。今はVRコントローラーを手に持って操作するのが一般的ですが、音声を使うことで新しい体験を提供できると思います。
- 石毛
- 音声を使うと生産性も物凄く上がりますね。まずは今回のサービスからスタートしますが、今後いろいろな企業の方と協業、共創することも増えていくと思います。生活者の体験を変えることは、一つの企業が提供できる範囲では完結しないと思いますので。博報堂のグループ会社とも力を合わせて、いろいろな企業と協力し、ビジネスの生産性をより高められるようにしていきたいですね。
クライアント課題を見つけ、一緒にアイデアを練り解決していく ―本サービス、今後の展望
- 中川
- クライアント企業からの反応はまだ少ない状況ですが、今後技術が上がっていくことは間違いありませんし、我々からも積極的にアプローチしていきたいと思っています。音声UIはあくまでも手法の1つであり、実装すれば何もかも解決できるといった過剰な期待は禁物だと思いますが、統合マーケティングの目線で考えたときには今後外せないものとなってくるはずです。クライアント企業の真の課題を捉え、それを解決するために音声UIをどう効かせればいいのか、コミュニケーションに責任を持つ広告会社らしいかたちでご提案していきたいと思います。
- 宮本
- サービス開発の原点に回帰したような感覚がありますね。これまではデバイスを通してお客様の課題に対してどういうインタラクションで対応するかはある程度の型があったのですが、音声の場合はまだその型がありません。わかりやすい言葉の設計や、効果音も含めて、プロトタイプと改善繰り返しながら設計しています。改めてユーザー視点とは何かを考える大きなきっかけになっていますね。
- 野田
- 今回のサービスについては、博報堂の取り組みとしては意外なものだと思うんです。だから、「こういうことをやっています」とお伝えしたときの反応が楽しみですね。その一方で、音声のUIは使いたいけど何をやったらいいか分からないという企業の方には、一般のIT企業よりも我々にご相談いただくほうが一緒に考えるイメージが付きやすいのではないかとも思います。ですので、コンサルティングから入り、一緒にアイデアを練り、技術的なサポートまで可能な今回のサービスを、多くの企業に利用していただきたいと思います。ふわっとしたご相談でも結構ですので。
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博報堂 アクティベーション企画局
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博報堂 デジタルビジネス推進局
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博報堂 ビジネス開発局
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アキ・サーリネンリアクタージャパン CEO代表取締役
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宮本 麻子リアクター シニアサービスデザイナー