【D3WEEKレポート】事業をドライブするUX起点の戦略策定
7月26日(水)~28日(金)に開催された「D3WEEK2017」に博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局プロセスコンサルティング部長の荒井友久が登壇。事業成長につながるUX(生活者に提供する体験)をいかに見つけ、実装していくべきか、博報堂が考えるメソッドについて語りました。
UXを最上位に置いた企業活動の最適化を
「博報堂は、もう広告会社ではありません」。荒井友久のセッションはそんな刺激的な第一声から始まりました。「博報堂と聞いて、TVCMなどをつくる会社だろうというイメージがあるかもしれませんが、いまはそれらも1つの手段として含め、“世界一級のマーケティングサービス企業になる”ことを掲げています」と荒井。デジタル技術によってマーケティングがどんどん複雑化し、事業そのものも変化せざるを得ない段階にきているいま、これまで広告会社が企業と生活者の間をつないでいた広告コミュニケーションという回路に加え、“サービス・機能”という新しい回路が生まれていると説明。その回路をどうつくるかを考えるのがいまのビジネスの課題で、それをいかに生活者の価値に変換することができるかを考える手法こそが、UX(ユーザー・エクスペリエンス)と呼ばれるもので、ブランドと生活者の中長期的な関係を築くために極めて重要な考え方だと語りました。
ここで荒井は改めて、「効率化」「成長」という事業に必要な2つの視点について、前者についてはロジックで考えることができる一方で、後者については非常にクリエイティブな作業が求められることだと指摘。そのうえで、UXという手法でサービスを考える場合、たとえば自動車なら、自動車業界内での競争戦略だけではもはや成長を描ききれなくなっている。来店や日常運転等の様々な自動車に関連する生活者の行動において、どのタイミングで、どのような独自性のあるサービスを作るべきかを決定するような対応が事業戦略上とても重要になると言います。この対応が遅れると、自動車業界におけるUberやホテル業界におけるAirbnbのような、まったく新しい競争相手がある日突然出てきたときに、どう対処していいかわからず翻弄されてしまう。そのためにも、まずUXを最上位に置き、その体験を提供するために企業活動がどう最適化されるべきかを考える必要があると説きます。
UXストラテジーの構築には広告クリエイティブの考え方が有効
続いて荒井は、UXでサービスを考えるにあたって必要な「UXストラテジー」と「UXデザイン」という2つの大きな考え方について説明。この2つがきちんと設計されていないと最適なUXはつくれないと言います。「実際、生活者と直接つながるためにアプリ開発をしたもののなかなかユーザー数が増えず、ダウンロードにインセンティブをつけるなどコストをかけているという声はよく聞きます。本来、それがよいサービスであれば思わずアプリをダウンロードしたくなるはずだし、アクセスしたくなるはずなんです。でもいまは、放っておくと使われずに、インセンティブによってなんとか使ってもらおうとしている。結果、事業の成長に対してさほどインパクトのないサービスになってしまうというのが多くの企業の課題となっている。具体的にどんなコンテンツを提供するか、どんなアプリの遷移にするかといったUXデザインに注目されがちだが、どんなサービスによって他社との差別化やビジネス成果を出すかといったUXストラテジーがそもそも欠けている場合が多い」と現状を指摘。やはりUXストラテジーを思考するにはより生活者の中に深く入っていく必要があり、それは非常にクリエイティブな領域なのだと言います。「この図(下記写真)で言うと事業課題、生活者インサイト、そしてテクノロジーのチャンス、この3つの円が重なる部分が本来つくるべきUXであり、これをどう見つけるかは非常にクリエイティブなんです」と説きます。
そして、「このUXによって事業課題は解決できるか?掲げたものを私たちは本当に持続的に提供できるか?差別性があるか?さらにはテクノロジーによってそれは実現可能なのか?――そういったことも含めての有意性をきちんと検討することが必要なのです。さらには、そのUXが本当に生活者の習慣になるかどうかも私たちは重要視しています。生活者の現状の不満を解決するためのUXはロジックでできます。習慣的に思わずアクセスしたくなるようなUXにどれだけ昇華させられるか。そこが勝負になるのです」と説明しました。「私たちは広告を考えるとき、商品やブランドの強みを生活者の価値にどう転換するかを問います。それこそがクリエイティブだと考えている。そしてその作業は、この3つの円の構造そのものなんです。ですから、UXストラテジーを構築するという作業は、いままでの広告クリエイティブのノウハウも十分に活用できるものとして取り組んでいます」と話しました。
「Business UX Engineering(ビジネスUXエンジニアリング)が可能にするもの」
続いて荒井が指摘したのは、UXをめぐる実情について。UXが企業の中でなかなかテーマ化されにくい背景として、組織・人材の壁があると言います。「いざUXに取り組もうとしても、それをやるのがマーケ部なのか、宣伝部なのか、事業企画部なのか……絞りにくいという点があるでしょう。しかも、テクノロジーにもマーケティングにも情報システムにも造詣が深い人材というのも、なかなか存在しないのではないでしょうか?」としたうえで、先日博報堂がリリースしたコンサルティングサービス、「ビジネスUXエンジニアリング」について紹介。「博報堂には、コンサルを専門に行ってきた人間やITテクノロジーに詳しい人間なども多く在籍します。もともとの強みであるクリエイティブのチームと連合を組み、お客様の不足しているリソースをまかないながらプロジェクトを進めていけると考えています」と語りました。
ここで改めて荒井は、「ビジネスUXエンジニアリング」においては、UXの文脈でよく使われる“カスタマージャーニー”によって現状を整理し、問題点を出す事はあえて行わない場合も多いと説明。「私たちはあくまでもUXストラテジーを第一に考えます。現状のカスタマージャーニーを整理すると、どうしても「情報収集」「来店」等の各生活者行動プロセスごとの問題解決にとどまってしまいます。それだと生活者行動プロセス自体は変わっていない。この行動プロセスは生活者にとって必ずしもいいものとは限らないし、どちらかと言えば企業のリソース都合からできている場合が多い。デジタル化によって、本当に生活者が使いたくなるような新しいプロセスを作る事ができるようになってきた。多くのイノベーティブなサービスはプロセスそのものが変わっているから新しいし使われる。だからこそ、UXストラテジーを重要視している」としました。
同時に、UXというのはあくまでも生活者の行動と企業の活動のインターアクションで生まれるものである以上、生活者を追うだけでなく、それに合わせた企業活動をつくっていくことも重要だと荒井は話します。「ですから私たちは、生活者の行動だけでなく、それを支えるオペレーションやシステム基盤まで含めた全体を設計していきます」としました。
最後に荒井は、「システム開発やオペレーション革命など実際のリアライゼーションの段階になると、多くの企業においては、UXとは必ずしも連携しないKPIが部署ごとに与えられ、個別化された企業活動となっていたり、システム開発では、ある種“総花的”な効率化に終始してしまうことも多い」と指摘。荒井らが提供する「ビジネスUXエンジニアリング」においては、あくまでUXを実現できるかどうか?が命題となるため、UXを要件とした全体のプロデュース実行にこだわっていると話します。「要件定義においてはデザインシンキングのアプローチをとり、人やUX、業務システムを見ながらコアとなる機能をつめていきます。そして全体に広げていくというアジャイル的な開発が可能です」と付け加えました。
「一般的な広告会社のイメージとは異なるかもしれませんが、博報堂はUXドリブンで、情報システムの開発まで一気通貫して提供できます。博報堂がもともと強みとしているクリエイティブ力と、最先端のテクノロジーの融合が可能になっているのです。皆様と一緒に、企業成長につながるUXを描き、実装までつくっていく道のりをご一緒できればと思います」と話して講演を締めくくりました。
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博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局プロセスコンサルティング部長2012年博報堂入社。事業戦略・マーケティング戦略から情報システム開発までを一気通貫して支援する、ストラテジックプランニングディレクター。 大手SIerの経営企画を経て、大手メディアサービス企業の不動産広告事業における事業企画・営業推進にて、事業を成長させる事の難しさ・泥臭さを最前線で経験する。その後、経営コンサルティングファームにて第三者として事業支援を行った後、クリエイティブとの融合による、新しい事業支援のあり方を作るために博報堂に転身。