“生活者データ・ドリブン”マーケティングとは
社会のデジタル化に対応したマーケティングの進化が求められている
生活のあらゆるシーンでデジタル化が進んでいます。生活者のスマートフォンやPCなどのデジタルメディアへの接触が長時間化しているだけでなく、テレビのネット接続率の拡大、買い物ポイントサービスの普及、スマートフォン決済の多様化など、生活者とデジタルの接触は生活者自身が意識する範囲を大きく超えています。今後、IoT(モノのインターネット)化が進んでいけば、このようなデジタル化はさらに社会全体、ビジネス全体に広がっていくでしょう。
社会やビジネスがデジタル化し、それが様変わりしていくことはしばしば「デジタル・トランスフォーメーション」と呼ばれます。デジタル・トランスフォーメーションとは、企業のマーケティング、さらには企業の経営全体にかかわる大きな変化です。このデジタル化とは、ひと言でいえば「世の中の様々な事象がデータ化していく」という側面を持つことを意味します。そしてこのデータ活用が適切にできるかどうかが、マーケティングや事業活動そのものの結果を大きく左右するといっても過言ではありません。
もちろん、マーケティング調査データ、視聴率データといったデータはこれまでにも収集され、活用されてきました。しかし、それらのデータは、「サンプル」から抽出され「集計」されたデータでした。それに対し、ライフログデータ、位置情報データ、IDに紐づいたPOSデータといったデータは、抽出されたサンプルではなく「個」に結びついたデータであり、全体を網羅したデータであり、ものによっては即時に入手し活用することも可能なデータです。従来のマーケティングデータだけではなく、それらとは性質の異なるデータを収集し活用することで「データドリブンマーケティング」が可能になってきたということです。
データドリブンマーケティングの実践には課題も
一方で、データドリブンマーケティングの重要性を認識して企業内で取り組みを始めても、順調に進んでいない、成果を出すまでに至っていないケースも多いようです。その課題を整理すると、「1.施策の分断」「2.データの分断」「3.安全性の課題」という主に3つのポイントに集約されます。
1.施策の分断
デジタルメディア、マスメディア、店頭施策なども含むマーケティング活動が十分に統合されていない。
デジタルとそれ以外で担当者やチームも異なり、十分に有機的に連携できていない。データに関しても、デジタル施策に関連するものは多数収集されており、その範囲内ではPDCAが行われ、改善もされている。しかし、元となる戦略策定には従来通りの市場分析や調査データを中心に組み立てられ、十分に連携していない。そのためにマーケティング活動が個別最適にとどまってしまっている。
2.データの分断
データは活用しているが、その範囲が自社データ(例:登録顧客データ、自社サイトの来訪者データ、キャンペーン応募者データ等)にとどまり、市場全体と分断されている。
自社データを活用することで、自社で実施した施策の効率化や最適化は進められる。しかし、「市場全体がどうなっているのか?」を理解するためのデータと分断されているため、新たな市場創造につながる動きを捉えることが困難。その結果、新規見込みターゲットの枯渇や機会ロスが生じ、縮小均衡に陥る恐れが高い。
3.安全性の課題
市場全体を見るために市場データを自社のデータと統合して活用しようとしても、安全性の問題からデータが連携できず、断片化が起きてしまっている。
各種のデータ統合化の取り組みは以前から提唱されているものの、個人情報に対する十分な配慮が必要なことからこう着状態が続いている。「自分のデータがどう使われるのか」「個人情報は守られるのか」等の、企業のデータ活用に対する生活者からの懸念に応えることが不可欠だが、必ずしも十分にできていない。
博報堂DYグループによる “生活者データ・ドリブン”マーケティング とは
博報堂DYグループでは、これらの課題を乗り越えるために、2014年から「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」の取り組みを開始。「生活者DMP」の構築などを通じて、各企業のマーケティングを支援してきました。
博報堂DYグループが開発したこのDMPの背景にあるのは、独自の「生活者発想」です。博報堂は、1981年に生活総合研究所という生活者研究に特化したシンクタンクを設立、個々の人間を、単に特定の企業や商品のユーザーか否かといった一面的な「消費者」として見るのではなく、他商品や他ジャンルを含めた購買の全体像はもちろん、暮らしの様々な場面における顕在・潜在の欲求、価値観に基づく行動も含めて、さまざまに感じ・考え・日常生活を営む「生活者」として360°まるごと捉えようとしてきました。
市場の創造には、実は人を包括的に見るそのような観点が非常に重要だと考えています。「一企業と消費者」という関係性だけから見えることは、ごくわずかだからです。住まう、学ぶ、働く、遊ぶ、愛する、育てる、食べる、身につける──。そのような多様な活動をする存在として、博報堂DYグループは生活者を捉えています。そして、デジタルデータの活用によってその生活者発想を深化させるのが「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」です。
2018年には「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム設立準備室」の設置や、さまざまなソリューションを束ねつつ一貫した体系として新たに開発した「生活者DATA WORKS」を発表。「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」はさらに進化を続けています。
“生活者データ・ドリブン”マーケティング を構成する要素
「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」は、データドリブンマーケティング実践に向けた課題に応えるために、3つのレイヤーで構成されています。
1.基盤テクノロジー
生活者のデータを安全に保護しながら、データ活用の高度化・データ基盤の拡張を実現する博報堂DYグループの3つの独自のテクノロジーで構成されています。
①個人情報を匿名化して個人情報保護観点からのデータ流通の壁をクリアする「k-統計化」、②異なる複数のデータを統合・融合する技術「データフュージョン」、③データ連結のキーとなる完全データを保持「HUBデータ」。
「k-統計化&データフュージョン技術」は、博報堂DYグループが開発し特許を取得。日本の情報法やセキュリティ等の専門家が集まる「情報法制研究所(JILIS)」の報告書でも「k−統計化&データフュージョン技術」は適法かつ有効な例であると紹介されています。博報堂DYグループではこれらの技術を活用して、生活者のデータを安全に保護しながら、データ活用の高度化・データ基盤の拡張を実現します。
参考:「博報堂DYグループは、完全なデータセーフを目指す」:博報堂DYホールディングス 青木雅人
2.データ・システム構築
データドリブンマーケティングの実践にあたっては、顧客を深く知る自社データとマーケット全体を俯瞰する市場データを統合して活用していくことが不可欠です。そのために必要となるマーケティング基盤を、博報堂DYグループ独自の「生活者DMP」と、企業データプラットフォームの連携・統合によって構築します。
生活者DMPは、月間4.8億ユニークブラウザと1億以上のモバイル広告IDによる2兆レコード以上の膨大なデータに、数千万規模の各種の購買データ、250万台以上のテレビ視聴ログ、検索データや調査データなどを統合した国内最大級のIDベースのデータ基盤です。
またさらに、各データホルダーの持つ生活者データを安全に取り扱う仕組みである「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」から得られる外部データも加え、企業の顧客データベースと連携させることも可能になります。
参考:生活者発想を高度化させる データ・エクスチェンジ・ プラットフォームとは?
3.マーケティングソリューション「生活者DATA WORKS」
博報堂DYグループの「生活者DATA WORKS」は、国内最大級の生活者DATAをもとに、従来一方向的で分断されがちなマーケティング戦略とメディア施策を相互に有機的に統合することで、顧客創造・獲得から顧客育成までフルファネルでの成果創出を約束する統合マーケティング・ソリューション群です。クライアント企業の業種、目的、場面等に応じて組み合わせて使えるソリューション約60種で構成されています。
参考:生活者DATA WORKSとは
これらの3つのレイヤーで構成される「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」を実践するために、私たちはデータの種類・質・量を充実させるだけでなく、その統合・解析はもちろん、それを用いて市場・顧客のインサイトを読み解き、戦略と戦術を導き出せる数百名のエキスパートからなる専門チームをもっています。その活動を通じて、数多くの“生活者データ・ドリブン”マーケティングの実践事例を積み重ねてきています。
博報堂DYグループが目指すもの
テクノロジーの進化やデータの拡充は今後もますます進むと考えられます。博報堂DYグループでは、これらの環境の変化に対応し、「生活者発想」に基づくマーケティングの理想の実現に向けて、「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」を今後も進化させていきます。
私たちが目指す未来は、データの安全性を厳格に担保しながら顕在および潜在の欲求を含めた生活者の真の姿をまるごと捉え、価値を生む――生活者、企業、メディアそれぞれにとっての価値の創造がなされる、トリプルウィンの世界です。決して特定の誰かの利益のために安全が犠牲になってはいけないし、逆にリスクをおそれるあまり利便性の向上や価値創造の機会の芽を摘むようなことがあってもいけない。言うまでもなく新しい市場の創造とは、企業にとっての利益機会であると同時に、生活者にとって未だ見ぬ価値が経済社会に生み出されることです。進化していくデータ活用が、生活者がまだ手にしていないハピネスをうみ続けるものになるように、尽力していきます。