AIは「便利な道具」から「相談相手」へ──【AIと暮らす未来の生活調査2025レポート】
実生活において、急速に普及が進んでいる生成AI。生活者は実際にAIをどう使い、暮らしや働き方はどう変化しているのでしょうか。博報堂DYホールディングスのHuman-Centered AI Institute(以下HCAI)が実施した「AIと暮らす未来の生活調査2025」から、そのリアルな姿と未来への示唆を探ります。
西村 啓太
博報堂DYホールディングス Human-Centered AI Institute 所長補佐
生成AI利用者は約3割。まだ普及の途上にある
博報堂DYホールディングスは、AIの普及実態を生活者視点で把握するため、毎年AIの利用実態に関する調査を実施しています。
今回は2025年度の調査として、9月に実施した最新の結果をご説明します。
この調査では、日本の縮図になるよう、全国8地区の年代構成比に合わせて予備調査で3万2000サンプルを集め、日本の代表性を担保しています。
その中から2400サンプルを本調査とし、利用シーン(プライベート/ビジネス)と利用状況(ヘビー/一般)の2軸で、AI利用者の実態を深掘りしました。
まず、「AIは誰がどのくらいどう使っているのか?」という点から見ていきましょう。
世の中全体で見ると、生成AIという言葉自体をまだ知らない人が15%弱。
知っている人の中でも、利用しているのは33.6%で、約3割強にとどまっています。
これが現在の日本のリアルな利用状況です。
利用者の年代を見ると、10代から30代が約半数を占めるボリュームゾーンですが、50代と60代を合わせても3割弱となり、年代を問わず満遍なく使われている傾向があります。性別では男性が女性より10%ほど多くなっています。
利用頻度に目を向けると、生成AI利用者の4分の1が「ほぼ毎日利用」、約2割が「2、3日に1回利用」と回答しており、半数近くが2、3日に1回以上利用する「ヘビーユーザー」であることがわかりました。
興味深いのは利用シーンの内訳です。
ビジネス利用が16%程度であるのに対し、プライベート利用が約30%と、ビジネスよりもプライベートでの利用が先行していることが明らかになりました。これは私にとっても意外な結果で、プライベートシーンでAIが浸透していることを示しています。
具体的な使い方としては、ビジネス、プライベート、学業のいずれのシーンでも「調べ物・情報収集」が共通してトップでした。しかし、2番目以降は用途が分かれます。ビジネスでは「文章生成・要約」「アイデア出し」、プライベートでは「対話型AIとの会話・相談」、学業では「宿題の回答」や「レポートの代筆」といった使われ方が見られました。特にプライベートでは、人間関係や恋愛、育児といった悩みを相談する相手としてAIが活用されているのが特徴的です。
では、まだ生成AIを使っていない人はどう考えているのでしょうか。
非利用者に今後の利用意向を尋ねたところ、「利用したい」と回答した人は約2割、「利用したくない」が約3割、そして「どちらとも言えない」が約5割と、様子見の層が最も多い結果となりました。
利用意向があるのに使っていない人は、「使い方がわからない」「何ができるかわからない」といったリテラシーの問題を理由に挙げています。
一方、利用意向がない人は「必要性を感じない」「信頼性に疑問を感じる」など、まだAIが日常に浸透していないことがうかがえます。
よくロジャーズの普及曲線で言われる「キャズム」(普及率16%の壁)は超えたと言えます。今後、より普及していくためには、リテラシーの向上と、日常で使う人が増えることが鍵になりそうです。
情報収集のファネルに浸透するAI。しかし「お買い物」は人間のテリトリー
次に、「AIで暮らし方、特に情報行動や購買行動はどう変わるのか?」を見ていきます。
まず、AIが生成する情報の信頼度について尋ねたところ、利用者の55%が「信頼している」と回答しました。これは私が思っていたよりも高い数字です。特に10代から30代の若年層では6割を超えており、若い人ほどAIを信頼している傾向が見られます。
ただ、AIの情報だけで十分かと聞くと、そうではありません。「マスメディアやSNSなど他の情報も必要」と考える人が5割弱おり、まだまだ情報の補完が必要だと生活者は感じています。
購買行動のファネル(認知→興味関心→比較検討→購入)にAIがどう関わっているかも調査しました。
これまでは検索エンジンが各段階でトップの情報源でしたが、生成AI利用者に限ると、「好きなジャンルの情報コンテンツを楽しむ」「商品の特徴を調べる」といった段階で、生成AIが検索に次ぐ2番手、3番手の情報源として使われ始めていることがわかりました。特にヘビーユーザーは、情報探索や比較の段階で3割以上がAIを利用しています。
しかし、買い物そのものについてはどうでしょうか?
さまざまな行動の中で「AIがやるべきこと」と「人間がやるべきこと」を分けてもらったところ、「人間がやるべきこと」のトップは「日々のお買い物」でした。情報収集や比較検討はAIに任せても、最終的な購入の楽しみは人間が担いたい、という意識が強いのかもしれません。
半数が業務効率化を実感。しかし利用はまだ基礎的なタスクが中心
続いて、「AIで働き方はどう変わるのか?」というテーマです。ここではビジネス利用者に絞って分析しました。
まず、職場でのAI活用について、回答者本人は6割が「活用できている」と認識しており、同僚や職場全体についても4~5割が活用できていると感じています。ビジネス利用者は、主観的にAIを活用できているという意識が高いようです。
利用前の期待度と、実際に利用した後の満足度を比較すると、どちらも5割を超えており、ほぼ横ばいでした。期待外れだったという人は少なく、今後のAI活用への期待度は7割弱と非常に高くなっています。
業務効率化に関しても、ビジネス利用者の約半数が「5%から20%程度改善した」と回答しており、AIの導入効果を主観的に実感している人が多いことがわかりました。
ただし、満足したAIの用途を聞いてみると、「調べ物」「要約」「文章生成」「アイデア出し」といった、基礎的な単一タスクにとどまっています。まだ高度な使い方には至っていないのが現状です。
職場でのAI利用がさらに進む上での課題としては、「社員の知識不足」や「社員間のリテラシーの差」といった項目が多く挙げられました。自分は使えていると感じている一方で、周囲はまだ使いこなせておらず、その原因はリテラシーにあると捉えているようです。
AIは「便利な道具」から感情を共有する「相談相手」へ
最後に、「AIと生活者の未来はどう変化していくのか?」について考察します。
AIを利用する理由を深掘りすると、情報収集への期待だけでなく、「相談相手」としての役割が浮かび上がってきます。特にプライベート利用のヘビーユーザーでは、「他の人に相談するより気軽だから」「対話・会話の相手にするため」「感情を持たないので間違えても怒られないから」といった理由が目立ちます。
AIを使うことによる変化としても、プライベートのヘビーユーザーは「人に相談することが減った」「AIにパーソナルな相談をする機会が増えた」と回答しています。
さらに、AIに対してどのような態度で接しているかを聞くと、「人には言えない内容を相談したことがある」「自分の感情に寄り添った応対をしてくれたと感じたことがある」「話すことがストレス解消になる」など、かなり感情的なつながりを求めていることが見えてきました。
現在のAIの存在を「便利な道具」と捉える人がトップですが、将来なってほしい存在としてはその割合が10%以上低下し、代わりに「アドバイザー」「悩みを相談できる存在」「自分の一部」といった、より人間に近いパートナーとしての役割が期待されています。
AI利用者を「情報信頼度」「生成物満足度」「代行許容度」の3軸で再分類したところ、最も大きな層はAIを信頼し積極的に利用する「AI推し層」でした。
彼らの自由回答を見ると、「悩み相談サイトに相談するのは恥ずかしいが、AIなら気軽に相談できる」「友達に相談しにくい悩みを話す」など、明確にAIを相談相手として位置づけていることがわかります。
また、AIと人間の関係性について、「人間が主体となるAI(ヒューマンセンタードAI)」と「AIが主体となるAI」のどちらが好ましいか尋ねたところ、全体では約6割が人間中心を支持しました。
特に、これからAIを使い始めるであろう潜在層や非利用層ほど、その傾向が強いという結果が出ています。
これらの結果から、AIの未来は単なる「便利な道具」や「自動化ツール」ではなく、人間の相談相手やパートナーになっていく可能性が見えました。
検索の代替ではなく、TikTokやYouTubeのように感情を共有し、「楽しむ」ための存在になれるかどうかが、今後の普及の鍵を握るのではないでしょうか。
将来的には、SNS、検索、買い物が別々のプラットフォームで行われるのではなく、感情を共有できるAIを窓口として、楽しみから情報収集、購買までが一体化した新しいメディアが生まれる可能性も考えられます。
人間がAIの言いなりにならないために。問われるリテラシーの重要性
また、調査結果の中で、「自分で考えることや人と相談することが減った」という回答もありました。
これは、生成AIが浸透するほど人間が退化するのではないかという危機感にもつながります。実際に、AIを使うことでチームのパフォーマンスが下がったり、メタ認知能力が低下したりするという研究論文も出ています。一方で、もともとビジネスの熟練者がAIを使うと生産性が上がるという研究結果もあります。
重要なのは、AIの結果を鵜呑みにしないことです。我々が言う「人間中心」とは、AIの言いなりになることではありません。人間側もAIに合わせてリテラシーを高め、変わっていく部分があるのだと思います。
今回の調査では、生活者がまだAIの回答を鵜呑みにしてしまっている側面も見えました。AIが出してきた結果に疑問を持ち、そこからどうやって満足できるものにブラッシュアップしていけるのか。その能力が今後、重要になるとも感じています。
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博報堂DYホールディングス Human-Centered AI Institute 所長補佐


