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メジャー化の期待が高まるeスポーツ【Media Innovation Labレポート39】
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メジャー化の期待が高まるeスポーツ【Media Innovation Labレポート39】

2010年以降、日本でもその存在が広く知られるようになり、いまも着々と市場を拡大し続けているeスポーツ。世界や日本における最新動向から、注目のプレイヤーやマーケティング、事業開発におけるeスポーツ活用事例などまで、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の永松範之、藤丸紘馬、高橋二稀が紐解いていきます。

■大規模な大会の開催や数多くのファンの観戦により注目を集めるeスポーツ

永松
2010年以降、日本でもゲームをeスポーツという言葉で競技として捉える動きが広がり、その市場は着実に成長し認知も拡大しつつあります。まずは近年のトレンドについてお願いします。
藤丸
2010年代は現在も主流となっている「League of Legends」「Counter-Strike 2」 といったゲームタイトルが相次いでリリースされ、そうしたタイトルの大型大会も開催されるようになり、eスポーツ市場が大きく広がっていきました。コロナ禍でも、配信プラットフォームを通じて大会を観戦するという方式が取れたので依然として市場は成長しています。コロナが明けてオフラインの大会が復活する中、2020年に発売された「VALORANT」が脚光を浴びました。今後も市場の伸びが期待されています。また企業との関わりも増えてきており、人材育成や教育に活用されるなど、eスポーツの社会的立場が向上してきているのが現状です。
永松
具体的にはどれくらいの市場規模なのでしょうか。
藤丸
2022年のデータになりますが、グローバルの市場規模は14億ドル、日本は120億円といった規模になっています。日本以外のアジアに目を向けると、中国、韓国では1990年から2000年代にかけてゲーム用のPCを設置したネットカフェが普及し、多くの若者がネットカフェに通ってeスポーツのタイトルをプレイしていましたから、両国の市場はかなり大きく、現在eスポーツ強豪国としての地位を確立するに至っています。
永松
eスポーツの観戦を楽しむファンの状況には近年変化はありますか。
藤丸
グローバルでは2022年時点でファン数は5.5億人、10歳から35歳の男女が全体の70%以上を占めています。現状の男女比率は男性が6割以上ですが、eスポーツの一般化が進むに伴い、女性比率も上がってきています。
永松
eスポーツにおける「種目」ともいえるゲームタイトルについても教えてください。現在人気のあるジャンルやゲームタイトルにはどのようなものがありますか。
藤丸
人気のジャンルは主に2つあります。一つはMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトル アリア)と呼ばれるものです。
これはプレイヤーが敵味方の2チームに分かれて、俯瞰する視点でキャラクターを操作し、対戦するゲームのジャンルです。
もう一つはシューティング。
こちらは一人称(主観視点)か三人称(客観視点)でキャラクターを操作し、銃などで相手チームを射撃し戦うゲームのジャンルです。MOBAの人気タイトルには「League of Legends」があり、競技人口は1億人に上ります。シューティングでは「Counter-Strike 2」や最近出てきた「VALORANT」といったタイトルが人気で、いずれも2,000万人以上の競技人口を擁します。
永松
競技人口が1億人を超える大型タイトルもあるのですね。こうしたゲームの大会の方は、どのような状況でしょうか。
藤丸
固有のゲームタイトルそれぞれの大会が世界各地で開かれていますが、有名なものでは、夏に開催される「League of Legends」の世界大会、「Worlds」があります。2023年は11月末に韓国で開催され、決勝戦の平均視聴者数は約120万人、ピーク時は約600万人が配信プラットフォームを通じて観戦したという注目度の高い大会です。ラグジュアリーブランドや大手カード会社などがスポンサーやパートナーとしてついているのも特徴的です。「VALORANT」の世界チャンピオンを決める大会もあり、2022年の数字では視聴者数が最高150万人に上ったということで、話題になっていました。

eスポーツのエコシステム

■コンテンツ制作から地域振興まで
他ジャンルとの掛け合わせでファン拡大を目指す

永松
日本でもeスポーツのプロチームを取り巻く環境が整いつつありますが、先行する海外の状況を教えてください。
藤丸
海外には競技に取り組むだけではなく、コンテンツなどの制作に力を入れるチームがあります。たとえば100 Thievesというチームは共同オーナーとして人気ラッパーのDrake氏が就任していて、ファッションや音楽とeスポーツを掛け合わせることでより幅広い層へのリーチを試みています。
具体的には、ゲームアパレルブランドとしてアパレルを展開したり、コラボ商品を展開したり、YouTubeやポッドキャストなどでコンテンツを積極的に配信するといった取り組みを行っています。またイギリスを拠点とするFNATICというチームは、「VALORANT」の強豪チームを抱えています。こちらは 2019年に日本に進出しており、日本人のストリーマーが所属するほか、日本人のみで構成される競技チームの部門もあります。またGen.Gというチームは、韓国、中国、アメリカとグローバルに展開していて著名人が設立したファンドなどから出資を受けており、注目度の高いチームです。
永松
ゲーム界隈に限らず、ブランドとのコラボやコンテンツを広く展開をすることで、より積極的にファンの獲得を図っているわけですね。一方で、日本のプロチームの状況についてはいかがですか。
高橋
国内の主だった動きとしては、まず福岡発の地域密着型で成長を目指すチームがあります。eスポーツ先進国である韓国に近いという立地も活かし、地域密着型で成長を目指しています。たとえばホームスタジアムにおいて、プレイヤーとファンとの交流会や、自治体と共同でシニア層向けの交流イベントなどを行うなど、福岡という地域との関係性を強化しながら、地元に応援されるチームとして盛り上げていこうという取り組みをしています。また他にも福岡を拠点とするチームがあり、こちらはプロ野球ではカバーしにくい若年層へのリーチを目的とした新規事業という位置づけです。大企業発ということで、業界アナリストやスカウト、プレイヤーなどが在籍する充実した体制となっており、プレイヤー獲得のためのスカウトのノウハウや、スポンサー系営業のノウハウなど、野球の球団運営で得た知見を活かしたチーム運営を行っています。
永松
日本の場合、地域と結びつき、地元密着型で着実にチームを運営するといったケースが多数見られるのが面白いですね。海外では有名プレイヤーが何人も存在しますし、引退後のプレイヤーが今度はストリーマーとしてゲーム配信し、人気になるケースも増えています。こうした海外での状況について教えていただけますか。
藤丸
プロのプレイヤーとして有名なのは、韓国のT1というチームに所属するFaker選手です。「League of Legends」部門の選手で、主な実績としては2013、2015、2016年、そして先日行われた2023年の世界大会「Worlds」で優勝し、通算4回の優勝経験がある。実績、知名度共にレジェンド級のプレイヤーです。また、ストリーマーとして有名なのは、Ninjaという方。元プロプレイヤーで、ストリーマーに転向し、主に「Fortnite」の配信などを行っています。配信プラットフォームであるTwitchのフォロワーが約2000万人で、かなり大きなファン層を抱えています。
永松
日本のプレイヤーはいかがでしょうか。
藤丸
日本のプレイヤーで有名なのは、ZETA DIVISIONに所属するLaz選手です。「VALORANT」のプレイヤーで、男女問わず人気の高いプレイヤーです。私も実際に切り抜き動画や配信を見ましたが、人柄も非常に親しみやすく、人気が出るのも納得です。Twitchのフォロワーは30万人おり、実際の戦績としても「VALORANT」の世界3位になるなど、人気、実績共に有するプレイヤーです。ストリーマーとして有名なのはSHAKA。元プレイヤーで、今はストリーマーとして配信を行ったり、ゲーム大会の解説やイベントのゲスト出演などで幅広く活躍しており、Twitchのフォロワーは130万人です。同じく元プロプレイヤーの関優太さんも、ZETA DIVISION所属で、100万人ほどのフォロワーがいる人気ストリーマーです。
永松
日本でもそうした人気プレーヤーやストリーマーの活躍が増えてくることで、eスポーツ人気もますます拡大していきそうですね。

■eスポーツを活用した多彩なマーケティング&事業開発事例

永松
企業がマーケティング活用でeスポーツを使う事例も増えているように思いますが、eスポーツのマーケティング活用におけるトレンドについて教えてください。
高橋
たとえばある飲料メーカーは国内外で複数の大きな大会を主催していますし、大きなeスポーツスペースを設置し、イベントのパブリックビューイングなどを行っています。大会の開催や場の提供を通じて、eスポーツコミュニティに対するブランドイメージの浸透を測っています。

また、そもそも自動車を操作するゲームが多いということもあり、自動車業界もeモータースポーツに力を入れています。

食品業界も企業がゲーム大会のスポンサーとなったり、大会オリジナルアイテムを配布したりしているほか、ゲームシリーズとコラボしてオリジナルのゲームをローンチするなど、さまざまなコラボを通じて各社がeスポーツファンとコミュニケーションをとっています。

アパレル業界でも、ゲーマーが好むようなスタイリッシュなデザインの服をデザイン提供し、コラボ商品を販売したりしています。

永松
単に広告を出したりスポンサーするといったことだけではなくて、企業が積極的にそのカルチャーに入っていき、ファンと一緒にeスポーツを支援し、ブランドの展開を行うという取り組みが増えているわけですね。
さらに、企業自体の事業開発や商品開発にもeスポーツを積極的に活用する例が増えているのですよね。
藤丸
はい。たとえば複数の大手食品メーカーで、ゲームをプレイする際の集中力を高めるとか、あるいは逆にリラックス効果があるといった成分を配合した食品の開発を行っている例があります。
通信・印刷系の企業でも、eスポーツ関連のイベント運営を行っていたり、運営ソリューションとして外部企業に提供するといった新サービスを手掛ける例も出ています。
あるいは自治体や鉄道会社などが、地域の大会やイベントを開催するなかで、地域の企業やチーム、学校などの交流を促進したり、高齢者向けのeスポーツ体験会を開いて高齢者支援の事業として展開するなど、eスポーツを地域コミュニティの振興に活かす事例があります。また教育福祉系では、eスポーツのプロプレイヤーをはじめとし、eスポーツ関連職種につくための就職支援という意味合いで、通信性の高校や支援事業所を提供する事業も誕生しています。
永松
eスポーツをひとつの体験型コンテンツとして捉え、自社の企業活動や事業化に活かすケースが着実に増えているようですね。

■進化する配信環境や配信ソリューション

永松
eスポーツを取り巻くコミュニティや配信プラットフォームなどについては、現在どういう状況でしょうか。
高橋
eスポーツプレーヤーにもっとも広く使われているプラットフォームは、やはりDiscordかと思います。友達と一緒にプレイできたり、コミュニティが構築できるなど、eスポーツに適した機能やプラグインが多くあるため、Discordはもっとも支持されています。ゲームメーカーやブランドのコミュニケーションの場としては、X(旧Twitter)が主に使われていて、eスポーツ専用のアカウントをつくりファンとコミュニケーションをとっています。ファンのSNSの利用状況を見ても、Xの利用率が非常に高い状況です。

そのほかeスポーツ専用コミュニティとして、GauGがあります。ゲーム仲間を見つけてチームを組んで大会に参加するまでがGauG上でできるようになっていて、大会での戦歴やスコアといったデータもここに蓄積され、自分に合う仲間をみつけて一緒にプレイすることができるプラットフォームです。配信プラットフォームとしては、グローバルだとやはりTwitchが人気です。大会の作成や管理ができるダッシュボードや配信をカスタマイズできる多彩な拡張機能が備わっており、そのeスポーツ支援機能の充実度から、世界最大のライブ配信プラットフォームになっています。

永松
では大会運営や企画、オンライン配信における視聴環境のサポートなど、eスポーツに関連するソリューションも多数あるということですが、詳しく教えていただけますか。
藤丸
たとえば配信の際に、配信画面上でプレイヤー情報詳細を確認したい場合はオーバーレイ表示ができたり、プレイヤーごとの視点を切り替えられるなど、視聴者側が配信画面をカスタマイズできるインタラクティブな動画配信機能を提供することで、観戦体験のクオリティを向上させるようなソリューションがあります。

また、大会の配信の動画をもとに、ユニフォームなどに掲出されたブランドロゴの映像を解析したり、SNS上のキーワード抽出というかたちでデータを収集し計測し、大会ごとのスポンサーシップ効果を可視化してレポート作成するというソリューションが出てきています。

キャラクターの勝率といった対戦データや、特定のチームあるいはプレイヤーの戦績などさまざまなデータを収集するデータビジネスの形態もあります。基本的にゲームメーカーから公式にデータを取得し、それを配信プラットフォームやプロチーム、あるいはベッティングサイトなどに提供するビジネスを行っているところもあります。

さまざまなeスポーツタイトルを対象に、試合の勝敗や得点予想、ベッティングが行える、ベッティングサイトを提供するソリューションも存在します。

一般のプレイヤーがプロになるために、あるいはゲームのスキルを上達させるために動画やミニゲームというかたちでコンテンツを提供するビジネスもあります。コーチングを受けるプレイヤーの動画を見ながら、プロゲーマーがマンツーマンでアドバイスをしてくれるサービスや、ゲームの特定スキルを向上させるための専用のミニゲームを開発提供しているソリューションプロバイダーもあります。

永松
多彩なソリューションがすでに登場しているのは興味深いですね。

eスポーツの経済効果

■企業側に求められる「一緒に市場を盛り上げよう」という意識

永松
eスポーツのファン数は5億人以上と言われているものの、放映権料はほかのスポーツコンテンツに比べてまだまだ低いと思います。そうしたビジネス規模や一般層への認知の拡大が、今後のメジャー化の大きなカギになるかと考えます。

また現段階でグローバルのプレイヤーと比較した際、日本のプレイヤーは大会での実績がまだまだ不足しているのが実状です。グローバルな土俵ですから、野球でいう大谷翔平選手のようなスタープレイヤーが生まれれば、一気にメジャー化するかもしれないとも思います。

高橋
eスポーツプレイヤーはいま、地盤を固めつつある時期なのかなと思います。プロプレイヤーのキャリア構築についての話も、いままさに進んでいるところですし、メンタルコーチングやセカンドキャリア教育など、これまで欠けていた部分が補われることで、さらに市場は大きくなるだろうと期待しています。そうした社会的な環境が整えば、実績や人気をともなうプレイヤーがより増える可能性も高まるかと思います。
藤丸
プロチームをめぐる現状の課題は、やはり安定して収益を上げることがなかなか難しいことにあります。
スポンサーシップによる収入に依存しているようなビジネスモデルのチームもあるなかで、100 Thievesのように音楽コンテンツと融合させるなど、さまざまな取り組みで新たなファン層を拡大していく取り組みが重要になってくると思います。そして、そういったファン層にリーチしたい企業とファンをつなげるような立ち位置で、プロチームがまた新たな取り組みを行っていくような方向性も考えられます。
ゲーム全般の市場としては、どういったゲームタイトルが提供され、どれくらい人気になるかで、ファン数も左右されるような状況です。
最近はeスポーツ対戦を前提にしたゲームもかなり増えているので、今後どういったタイトルが人気になっていくのか注視したいですね。
永松
eスポーツ市場の成長に対して、マーケティングや事業開発などの取り組みへの期待感も、今後増していくでしょうか。
藤丸
ファンやチームの課題を企業が解決するというかたちでB2B、B2Cの新しい事業が立ち上がってきていますが、必要なのは、eスポーツコミュニティのファンやプロプレイヤーチームの理解です。そのためにはeスポーツに普段から触れていて理解があり、コミュニティになじみがあるような若い世代が主体となって取り組みを進めることが重要かと思います。そのうえで、出てきた課題に対してどうアプローチできるか。
特に企業がすでに持っているような資産、ナレッジ、あるいはビジネス基盤などをどううまく活用できるかが、今後の事業開発のポイントになるかと思います。そうすることで、若い層を中心とした新たな顧客層の獲得、あるいは顧客の理解が進むのではないでしょうか。
高橋
eスポーツやゲームを通じてコミュニケーションを盛り上げる手法というのは、どの業界でも共通してできる取り組みかと思うので、どんどん一般化していくのではないでしょうか。マーケティングの一環としてのeスポーツ体験イベントや、教育への活用も広がっていくことで、選手のキャリア構築の幅も広がったり、プレイヤー層も厚くなってくいくと思います。これまでのクローズドなコミュニティからさらにすそ野が広がれば、企業も新たに参入しやすくなるだろうと期待しています。
永松
eスポーツ市場が拡大中ということもあり、コミュニティのなかに企業が入っていき、一緒に市場を盛り上げていくといったケースが見られます。
単に広告の場として使うというよりも、企業が一緒になって業界全体を盛り上げていくという意識が重要そうですね。

以上となります。
お2人ともありがとうございました!

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム 新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 兼Media Innovation Lab
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
    新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究室
    2020年DAC入社。Z世代のデジタル行動やECソリューションなど、生活者に近い接点を中心としてデジタルビジネスのトレンド調査、事業開発を行う。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
    新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究室
    2021年DAC入社。生成AIやWeb3などのテクノロジー動向を中心にデジタルビジネスのトレンド調査を行う。