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5G 時代のコンテンツ・エンタメ業界のプレイヤーとビジネスの変化とは
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5G 時代のコンテンツ・エンタメ業界のプレイヤーとビジネスの変化とは

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さまざまな領域のデジタル化が進む中、新型コロナ禍はその動きを一気に加速させたと言われています。一方で通信領域においては2020年の商用化から数年をかけて定着すると言われている5Gが、コンテンツ・エンタメ業界のDXを大きく推進すると言われています。生活者の“オンライン常態化”が加速している、今だからこその新しい楽しみの提供には、どのような形があるのでしょうか? すでに数多くのトライアルを重ねているLiveParkの安藤聖泰氏に、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所の森永真弓が聞きました。

「触る動画コンテンツ」をつくれるクリエイターは誰か?

森永
5G時代の動画ビジネスは、発想から変えないと企画に仕上がらない感じがしますね。先ほどイベントに近いという話になりましたが、企画者や製作者も映像のプロではなく、イベントのプロから生まれる発想のほうが使えるアイデアが豊富だったり、面白かったりするということが起きるのでしょうか?現場で求められる能力や発想、必要な知見が変化していくというか。 というのはですね、VRのコンテンツを手掛ける方とお話したとき、VR空間は360°でユーザーは自由視点なので、既存の映像制作で求められる画角やカメラワークが必要なくなる、と。逆に、サーカスや演劇のような、常に全部が観られているような感覚や、クリエイティブの知恵が必要で、求められる経験値がまるで違うんだと聞いたんです。確かに画面を通して見るものなのだけれど、ほしいのは映像作家の経験値ではなくて、ゲームクリエイターやパフォーマンスイベントのクリエイターの知見なのかもしれないと。

安藤さんのおっしゃるイベント型の触れる動画コンテンツをつくろうとするとき、既存のテレビマンではなく、映像制作とは別のノウハウや知恵を持つ人が必要になってきたりするのかなと思うのですが、いかがでしょうか?

安藤
今のVRの話を聞くと、そこまでではないかなと感じますが、変わっていることは確かだと思います。僕もテレビ局に最初に就職したとき、研修でベテランのカメラマンさんに「雑誌の写真は縦横を問わないが、テレビは4:3の横だけしか切り取れないんだ!」と強調されましたが、今は昔ですよね。

もちろん、16:9になったテレビでは、今後も高いクオリティの映像制作が続くとは思います。ただ、スマホで触れるコンテンツのクリエイティブの観点はかなり違ってきます。まず、縦動画になる。次に、実はスマホって機種によって縦横の比率が違うので、それを考慮する。モニターに実際の機種をたくさんつなげて、機種ごとに見切れるラインをアナログで確認しながらやっています(笑)。「映ってないよ!」みたいなネタをするのに、画角は大事なので。

森永
そうした試みから得られる知見として、テレビとの違いにはどんなことがあるのでしょうか?
安藤
もう、1回1回が学びでした。画づくりもそうですが、それ以前に企画の考え方が違う。お客さんを飽きさせないとは、何だろうと。

それには2つ方法がある、と現時点では思っています。ひとつは、とにかく出演者がおもしろいことをし続ける。もうひとつが、お客さんと一緒におもしろいことをする。前者はテレビ的なつくりに近く、応用も可能でしょうが、前述のアクションをより誘発するような目的なら、後者を追求する必要があると思います。同時に、そのほうにより可能性がある。

リアルタイムでわざわざ観ている人って、もう、ファンなんですよね。出演者とファンがいて、ファンに問いかけて答えてもらうといったインタラクションが前提のコンテンツになると、それは「ファンとの交流をどうするか」という観点になってきます。失敗も多かったですが、昨年から模索している分、こうした気づきは少しずつ蓄積されていっていると思いますね。

広く浅くではなく、そもそもファン向けの濃い企画ができる

森永
相手がファンだというのは腑に落ちます。最初から興味があってアクセスする人しか見ないものですもんね。テレビはたまたまチャンネルを合わせた一見さんの関心も強く引く必要がありますから、視聴者像の考え方から違ってきて、作り方も当然ながら別のものですよね。しかしいずれ、スマホで展開される5G時代のコンテンツも、そうした一見さん向けのアテンションと維持の努力が必要になってきたりするんでしょうか?
安藤
それ、僕が聞きたいところですが(笑)。テレビの感覚とは、つくり方が違うのは確かです。その「観る人のアテンション」という点だと、もはや興味のない人に見せようとするのは無理だと感じています。仮にそういう形があったとしても、現在すでに興味があるコンテンツで引き付けて、別の何かを提案するくらいでしょうか。

スマホになった時点で、すでに「アプリを選択する」というユーザーの能動性が発生しています。その上、ライブ配信は、観ている人の時間をピンポイントで奪う。VODコンテンツの視聴と違って、制約の強さが違います。だからこそ、ファンが観てくれる。だから、こちらもファン向けを前提に、インタラクションが期待できる前のめりの企画ができる。

森永
なるほど。確かに、いつでもどこでもコンテンツを楽しめる時代において、ライブはあえて時間の制約を設けている存在ですよね。それ故にライブコンテンツ自体がそもそも、そのハードルを越えても来てくれるコアな人が集まるものである事が前提だと。
安藤
そうそう。その瞬間にアクセスしないとダメというのは、これだけユーザー主体で自由にできる中で、決定的なデメリットかもしれない。興味がない人に見せるモデルが成立しづらいというか、すごくコストがかかるはずです。ただ、裏を返せばそれだけそもそもの熱量が高いから、濃密な時間を生み出すのに適しているし、顧客単価が高いビジネスの可能性もある。
森永
おもしろいですね。制限があるからこそ、それを超えてくるファンが集まるし、深く響く企画とインタラクションの誘発が成り立つし、それを支えるテクノロジーは次から次に出てくるし、それらを5Gというインフラ基盤が支えてくれるようになる。それらの強みを活かすコンテンツを考えるというのは、確かにテレビとはまったく違いますね。
安藤
ですよね。むしろ、広く浅くマスに接触する前提のテレビの企画とは、逆方向の設計じゃないでしょうか。

コンテンツ制作だけでなく、プロダクトも、響く人に深く響くような開発が出てきていると思います。先日、某大手消費財メーカーの方から、15秒でふわっとした価値だけを連呼するマス商材はもう成り立たない、といった話を聞きました。代わりに、生活者の行動や購買データを緻密に分析してエッジの立ったものをつくる。それだと高価格帯でも売れるから、母数の少なさもカバーできる、と。

5G時代の新しい動画メディアで認知から購買までを促すには?

森永
まさに、「群衆から分衆へ」が更に進む時代ですね。そういった細かく分かれた場においては、プログラムの隙間に広告を挟み込むというよりは、ファンを掴んでいるメディアやコンテンツの文脈を踏まえて、深いところでユーザーとつながるための企業コミュニケーションを考える必要がありそうですね。
安藤
そうですね。分衆を狙う場合は単価を上げるのは宿命で、そのためにはより濃いコミュニケーションが起きやすい場が必要になると思います。
森永
とはいえ、場の濃さやファンの熱量があればあるほど、興味がコンテンツそのものに向いているので、広告主が知ってほしいこと関心を移してもらいにくい気がするんです。下手すると目に入ってないとか、邪魔だとか。そう考えると、5G時代のインタラクティブな動画コンテンツに対し、スポンサード効果を得るためには、どんなやり方が良いのだろうかと悩ましいです。
安藤
興味深い問いですね、僕らも正直、まだいい答えを持っていません。ただ、もしインタラクティブ性があってファンが参加する動画メディアが、広告主に認知や興味関心、さらに購買までつなげる広告の場のひとつになるなら、テレビ的な「ハイここからCMです!」というつくりは厳しそうだな、と感じます。

昔ながらのパターンだと、インフォマーシャルがひとつの答えかもしれません。ライブで購買数が見えたりすると、高揚感もある。ただ、スマホならではの環境や条件を活かすと、また違う企画ができそうです。スマホなら、いろいろな行動がすべて計測できるから、例えばライブコマースをベースに、ユーザー行動の分析やPDCAを回すことも含めて認知から購買促進までのソリューションを提案する、とか。そうした設計のほうが、もはや現実的だし早いのではという気がします。

森永
なるほど。購買まで行き着く流れが設計されているもので、直近の事例などはありますか?
安藤
「僕は、キミにコレを買って欲しいんだ!」というコンテンツでは、出演者のタレントさんに10万円を預けて好きな買い物をしてもらうんですが、必ず2つ買ってもらってひとつを視聴者プレゼントにしています。すると商品やその色の選択に、視聴者があれこれコメントする。人の買い物ってただ観ているだけでは関心の限界があるので、こんな仕掛けで“自分ごと化”を試みています。こうした場に、広告主のプロダクトを入れていく、というのはあるかもしれません。

 
コロナ禍で配信した企画のひとつ「松竹芸能vs人力舎 ジェスチャークイズ」でも、ポイント山分けの企画で“自分ごと化”を促進。

生放送の事前確認は無理な相談、広告主も発想の転換が必要に

森永
こちらを見るのはこのタレントさんのファンで、タレントへの興味から、そのタレントが興味があるものへの興味に移って、商品への興味に移行する流れだと思います。こうやって、タレントへの関与度の高さを、広告主の商品興味へつなげていくのはとてもありだなと思います。

ただ……広告主も、そして広告会社も欲張りでして(笑)。「このタレントさん一人で動く人数って何人?」ってなると、いわゆる地上波テレビの影響力から考えると小さいですよね。母数の問題がある。となると、同じ影響力を確保しようとして例えば、若年層に人気の女性タレント5人、男性タレント5人、少し上の年齢層向けにまた別で10人、といった形で企画の数を増やさないといけないですよね? ライブ配信企画を一気に20本チェック……って、クライアントと広告会社営業の煩雑さがすさまじいというか「そんな面倒くさいことやりたくないよ!もっといい企画ないの?!」などと言われてしまいそうだなあと、今脳内にリアルに絵面が浮かんだんですが(笑)。

安藤
だから、チェックしない、ということになると思います。従来の、完パケをチェックするという工程はもう踏襲不可能になっているのでは。こういった生放送コンテンツが同時刻に10本も20本も走っているかもしれないから、生放送を事前にチェックしたいと言っているようなものですよね。
森永
そうか、そうですよね。マインドセットを変えないといけない。発想がそもそも違うんだと。この20年ほどで、インターネット広告において「掲載報告レポート」がなくなっていったようなことが起きるということですね。
安藤
僕らも、マインドセットを変えてくれた企業と組んでいる状況です。そういったクライアントは、もちろん視聴数や売上も大事にされていますが、得られるデータなどを見ながら、どんなPDCAの形があるかを一緒に議論する座組に乗ってもらっているような感じです。

ライブ動画を確認するのは、アドネットワークもあるのに「バナー広告がどこに出ているかすべてチェックしろ」と言っているのと同じです。むしろ、バナー広告くらい量産しないと、リーチの総数は出ないのかもしれない。もちろん、集客力のある出演者を押さえて従来のテレビ番組のような強いコンテンツ一発という方法もあるでしょうが、そうじゃないネット的なつくりも増えていくと思います。

森永
関与度が高い関係性を活用するという視点だと、自然に企画1つ1つに集まる人数は小さくまとめっていきますから、その方向に変化していく予感はたしかにしますね。完全に5Gに切り替わったら遅延もなくなりますから、触れることによって生まれるインタラクティブ性の幅が広がって、熱いファンを深く捉えたり認知から購買までを促したりする企画も更にバリエーションが増えていくわけですよね。動画を観るというより、イベントに参加するという体験の設計という観点も、とても参考になりました。

最後の質問ですが、新型コロナ禍によって一気にデジタル化が加速する中で、こうした新しい領域に飛び込むかどうかが、企業の体質によって大きく分かれると思います。安藤さんとしては、今すぐ取り組むべきだと思いますか? それとも、石橋を叩きたいタイプだと言うなら、あと数年様子見しても大丈夫なぐらいの余裕はありますかね?

安藤
そうですね、従来の“観るコンテンツ”ももちろん残るので、絶対やらなければ、とは思っていません。ただ、僕らは本当に1回1回のトライアルからものすごい学びを得ていると実感しているので、早く取り組めばそれだけ知見は蓄積できます。

今日お話ししたことは、5Gという技術によって簡単に安定的に実現できるようになったのは事実ですが、それ以外にも複合的にさまざまな要因が同時進化し、生活者のメディア環境と接触時の心理は急速に変わっていきます。変化が主流になってから模索しても、たぶん素人のブレストになってしまう。今からマインドセットを転換して、実際の企画を模索しようという方々は、ぜひこの新しい可能性に一緒にチャレンジしていけたらと思います。

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  • 安藤 聖泰
    安藤 聖泰
    株式会社LivePark 代表取締役社長
    日本テレビ放送網株式会社入社。日本テレビ放送網株式会社入社。地上デジタル放送、ワンセグ放送の立ち上げやインターネット関連サービスの企画立案実施。SNSを活用した企画などを複数実施。IT情報番組iCon(アイコン)を手掛け、ソーシャルテレビ視聴サービス「JoinTV」なども立ち上げる。2015年5月株式会社HAROiDを立ち上げ、代表取締役に就任。2019年8月テレビ視聴データ部門を分社化、新たに株式会社LiveParkを設立。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
    通信会社を経て博報堂に入社し現在に至る。 コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。 テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。