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テクノロジーが加速度的に進化する今、求められる戦略ブティックという新しいエージェンシーの形
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テクノロジーが加速度的に進化する今、求められる戦略ブティックという新しいエージェンシーの形

去る2018年10月、私は博報堂社内に戦略業務に特化したブティック「Paasons Advisory」(パーソンズ・アドバイザリー)を立ち上げました。なぜこの時代にクリエイティブブティックではなく戦略ブティックを立ち上げようと思ったのか、またその戦略ブティックでの活動を通して、エージェンシーのマーケティング職の新たな方向性の1つとしてどのようなビジネスモデルをこれから展開していきたいと考えているかについて、本コラムで少し書かせていただければと思います。

現代のビジネス環境は急速に非連続的なものへとシフトしつつあります。第四次産業革命(AI x IoT)、テクノロジーの指数関数的な進歩(Singularity)、地政学的にシームレスな競争(Digital nation)といった環境変化の中で、新興企業は必然的に既存市場を破壊する新しいビジネスモデルの創造を、そして大手企業すらも生き残りをかけ既存ビジネスモデルからの脱却に迫られています。またその背景にはデータを資源としたビジネスモデルやマーケティングの進化があり、数年前までは存在すらしなかった新たなサービスやプロダクトが突如市場のメインプレイヤーへと変貌を遂げます。例えば、企業に関する最近のニュース配信をとっても、あまりに目まぐるしすぎて何が起きているのかを把握するだけでもなかなか大変な状況になってきています。話は少し脱線しますが、私は定期購読しているビジネス関連媒体や、クライアント・同僚・知人からの情報に加えて、Google AlertやGoogle Discoverなどのツール群を活用して世の中で何が起きているかを大まかに把握できるようにしています。数日間情報アップデートを怠ると置いて行かれてしまう、それくらいに変化の激しいビジネス環境になってきていると実感しています。

いまだかつて存在しない市場、ケーススタディのない市場、ターゲットが誰なのかわからない市場、そういった破壊的な市場で戦い続けることが求められる時代の転換点では、臨機応変で素早い対応が勝機の分かれ目となります。このとき企業のみなさんが直面するのは、相談相手や参考書のない生みの苦しみ、そして社内の部署やステークホルダーもしくは国をも跨ぐかもしれない錯綜した意思決定プロセスではないでしょうか。
この五里霧中のような状況に立ち向かい続けていくためには、自社内リソースに加えて、異なった角度から事象を捉えられる外部パートナーがプロジェクトに参加し、コンパクトなワンチームとして機能するのが有効です。この変化の激しい困難な時代だからこそ、市場創造・事業推進のパートナーとしてエージェンシーがその価値を発揮すべきだと私は考えています。しかし残念ながら旧来型のエージェンシーのプランニング方法、提案から実施までのクライアントとの関わり方ではそれは叶いません。エージェンシーとしてもドラスティックにビジネスモデルを変化させる必要があると確信しています。

そこで私は「ゼロからはじめる、非連続な市場創造」をクライアントとともに目指すAgile型の戦略ブティック型社内プロジェクトチーム「Paasons Advisory」を立ち上げました。クライアントからの相談とそれに対する個別解という対話を、クラウドを駆使することで”Agile”に実現し続けることこそが新しいプランニングチームの形だと考えています。
※Agileとは「機敏な・明敏な」という意味を持ち、Agile型戦略プランニングとは従来の計画通りの管理進行に終始するのではなく、小さな試行とその結果から得られるフィードバックというサイクルを数多く繰り返すことで、目的の達成へと臨機応変に近づけていく手法です。

エージェンシーのマーケティング職としてより主体的にクライアントに関わり、いつでも相談相手になれるプラットフォームのようにAgile型でプランニングサービスを提供し、その対価を得る、この新しいビジネスモデルを「Planning Platform Model」と名付けました。そしてこのAgile型のプランニングモデルを支える仕組みが、今後のテクノロジーのメインストリームの1つであるクラウドプラットフォームです。私達の戦略ブティックの活動全般においてクラウドプラットフォームのテクノロジーを取り入れることで、そのリアルタイム性・検索性・アップデート性をAgile型のプランニングサービスに応用していきます。

クラウドプラットフォームを活用しクライアントといつでもつながっていることで、これまでのオリエンテーションから提案へというサイクルではない形での協業を実現することができます。クライアントとエージェンシー間での情報と時間のロスをなくし、クライアントも含めたワンチームとしての生産性を向上させることが可能です。また従来であればクライアントからのオリエンテーションを、まずは営業チームが聞き、そして社内に持ち帰り戦略スタッフに相談し、再度そのリアクションをクライアントに伝えるという、エージェンシー内の情報伝達だけでも一定の時間を要するプロセスが一般的でしたが、私達の戦略ブティックでは、クライアントと直接つながることでそのプロセス自体も不要です。

従来のように 「オリエンに対する提案」 という案件進行ではなく、「主体的な議論ベース」 での高速ループでクライアントの状況変化に柔軟に対応可能です。最近ビジネス書やニュース記事などで“PDCA”という予定調和的な仕事の仕方への警鐘をよく見かけますが、まさにそういった“決められたことを決められた時期にしかやらない”状況から脱し、“市場の変化に合わせて必要なことをいますぐやる”というスタンスに切り替えることが、これからの時代には必要だと思います。

実際にあるクライアント業務でプロダクトローンチのためのプロジェクトタイムラインを可視化すると下記のようになります。情報マスキングをしているためかなり概念図化していますが、それでも“必要なときに必要なことを臨機応変にやる”というプロセスは感覚的に見ていただけるかと思います。クライアントキーマンの方達と私達のチームとの”常時Sync”をプロジェクトのコアに、当初予定していたことも、予定していなかったことも、とにかく市場変化に対応するために必要なことをやるというプロジェクトタイムラインを体現しています。

私達戦略ブティックは、クラウドプラットフォームを活用することに加えて、いや、クラウドプラットフォームを活用するからこそ、チームとしてもう1つの大きな特徴を持っています。それが”Visibility”という独自のアプローチです。“プランニングに必要なすべての要素を可視化させる”という考え方です。なぜVisibilityが重要なのかというと、クライアントも私達外部パートナーもそしてステークホルダーも、ワンチームになって日々変化する市場創造・事業推進業務に立ち向かうとき、そこに関わる誰しもが迅速に誤認なくアウトプットの内容を理解できる視認性がキーになるからです。アウトプットに対するチーム内での理解が分断されると確実に生産性は低下します。それゆえ私達の戦略ブティックではプランニングの内容と同様に、アウトプットのVisibilityを常に追求しているのです。

守秘義務がありもちろんここでは実際のアウトプットはお見せできないのですが、企画書のビジュアライゼーションはもちろん、例えばマーケティング戦略に欠かせない定量調査結果のデフォルメされたチャート化や、または定性調査の実施状況そのものも動画や画像情報をデジタル化しクラウドプラットフォームを介して瞬時にチーム内にシェアしていきます。このVisibilityによってもたらされる視認性は、クラウドプラットフォームを活用したプランニングサービスのリアルタイム性・検索性・アップデート性をさらに相乗効果的に加速させるのです。

クラウド上で管理されるビジュアライゼーションされた資料イメージとクライアントとのビジュアルコミュニケーションをサポートするデバイス例

戦略ブティック「Paasons Advisory」の活動を通して、私はクライアントとエージェンシーとの仕事の仕方に大きく3つの変化をもたらすことができればと思っています。1つ目はエージェンシーにおけるプランニング領域の事業変化です。Agile型でクライアントからの相談とそれに対する個別解という対話を実現し続けることが新しいプランニングの1つの形だと思います。“メディア出稿や制作物の理論的裏付けとしてのプランニング”から、“クライアントの事業推進のインプットとしてのプランニング”にビジネスモデルを変えていければと思います。

2つ目はクライアントとエージェンシーの関係性の変化です。クライアントのオリエンテーションに基づく“個別代理業者”から、事の大小を問わず領域の適当を問わず、課題の規定そのものから話ができる“フラットな相談パートナー”にその関係性を変えていければと思います。クライアントとエージェンシー、どちらからでも提案を重ねていければいいですし、どちらもYes/Noをはっきり言い合えればいい、そういった関係性への変化です。

最後の3つ目はクライアントにもたらす構造的なワークスタイル変化です。すでに生産的なワークスタイルを実践されているクライアントからはむしろ私達がそれを学ばせていただく方になりますが、そうではないクライアントチームに対しては私達とのお仕事がワークスタイル変革のきっかけになるかもしれません。「Paasons Advisory」ではクラウドプラットフォームを活用した高い効率性と柔軟性のあるワークスタイルをクライアントチームと共有化された業務推進基盤とするため、クライアントのみなさんの働き方や業務効率、生産性にいい方向の変化をもたらすことができれば幸いです。

ここまで本コラムを読んでいただきありがとうございます。最後にオチのようですが、私達の戦略ブティック「Paasons Advisory」というネーミングについて書いて終わりにしたいと思います。みなさん“Paasons”とご覧になってスペルミスじゃないかと思われた方も多いかと思います。実はこれはダブルミーニングになっていまして、プランニングプラットフォーム機能の提供を意図したPlatform as a Service:クラウド用語でいうところの“PaaS”と、博報堂の市場創造メソドロジーである生活者発想:“Person”をプランニングの中心に置いた考え方の2つの意味を掛け合わせた造語です。”クラウド“と”人が中心“、一見すると相反するようなそんな2つのエッジを併せ持ったプロフェッショナルチームを目指していきたい、そういった意図で名付けております。

今回は私江藤のほうから新しい戦略ブティック「Paasons Advisory」の概要について書かせていただきました。次回のコラムではクラウドプラットフォーム活用した「Paasons Advisory」のより具体的な仕事の仕方についてチームメンバーのほうからご紹介させていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

  • 株式会社 博報堂
    マーケティングディレクター
    2005年博報堂入社。入社以来、情報・通信、化粧品/トイレタリー、飲料・食品など、国内・外資企業の戦略業務に従事。現在は主に世界的なIT企業の業務に携わり、コンシューマープロダクトからエンタープライズ領域まで包括的に戦略をリード。同時に、社内外に向けてマーケティングナレッジの開発、推進なども行う。2018年博報堂社内に戦略ブティック「Paasons Advisory」を立ち上げる。
    著書に「ポケッツ!(弘文堂)」「マーケティング基礎読本(日経BP社)」。「週刊エコノミスト(毎日新聞社)」特集記事寄稿 など。また、アジア初開催の「Advertsing Week Asia 2016」で登壇。