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【SXSW 2019レポート】テクノロジスト座談会 前編 テクノロジーで変わる日常。プライバシー保護、AR・ハプティクスまで
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【SXSW 2019レポート】テクノロジスト座談会 前編 テクノロジーで変わる日常。プライバシー保護、AR・ハプティクスまで

米国テキサス州オースティンで2019年3月に開かれた「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト) 2019」。本記事ではSXSWを視察した二人のテクノロジスト、中原玄太と金じょんひょんが、SXSWで感じたテクノロジートレンドや、そこから見えてきた今後のテクノロジーの進化の方向性などについてを前後編でレポートします。
前編では、プライバシー保護やブロックチェーン、AR/VRなどのトピックを中心に話を聞きました。

“Privacy is Dead”がトレンドとなったSXSW

―今回のSXSWの大きなテーマはどのようなものだったとお考えですか。

中原

ずばり個人的には、ブロックチェーンです。SXSWにテーマ性ってあまりないんですが、とても印象に残った言葉がSXSW公式Trendsにあった「Blockchain is Building Web 3.0」という文言でした。今年のAmy Webb氏の人気セッション「Emerging Tech Trends Report」は「Privacy is dead」という言葉で始まりました。つまり、ブロックチェーンがWeb3.0を構築していると言われるくらい、分散型台帳技術や分散型ネットワークが注目されるのって、やっぱり根っこにはプライバシーや個人情報に関する課題意識が強くあるんだと改めて感じました。
“Web3.0”ってここでは非連続なくらい新しいフェーズ、もしくは根本的に新しい世界くらいの意味で使われてるんだと思うんですが、その基盤がブロックチェーン技術かもしれないってめちゃくちゃ面白いです。ブロックチェーンは仮想通貨の印象が強いですけど、セキュアなデータ通信への応用の方が主役というか圧倒的に期待されてる状況なので、“Privacy is dead”と言われてしまうような今の時代には、とても大切な概念になりえますよね。

―ブロックチェーン活用したセキュリティについて、簡単に説明していただけますか。

中原

例えば、ある会社が特定のサーバーだけにデータを持っている場合、サイバー攻撃などで情報が改変されたり、無くなったりしてしまうリスクってなんとなく高そうじゃないですか。これを複数に分散して、かつ依存関係もある様に流通させれば、攻撃者のデータ改変は格段に難しくなるし、仮にデータが破壊された場合も、復旧がだいぶ楽になるというイメージです。
ブロックチェーンって、通信するデータの構造がブロック単位で、かつそのブロックがチェーンのように繋がっているから、前後に関連性が生まれて、改ざん耐性がとても高いと言われています。あとwinnyのようなP2Pネットワークとも違って、自分のポートを必ずしも解放しなくていいし、ネットワーク上のどこにどのデータがあるかも相互把握できてるから、やっぱり凄い技術なんだなと感じます。詳しくは、検索してください(笑)。
自分の超プライベートなDNA情報や、デジタル上の凄く大切な権利って、やっぱり超セキュアなトランザクションにしたいとみんな思うだろうから、ブロックチェーンを使ったデータプラットフォームって、これからどんどんいろんな分野に広がっていくんだろうなと思います。

―SXSWで「プライバシー保護」というトピックが盛り上がって来ている理由はなぜだと思いますか?

スマートスピーカーが普及し、家の中の会話や自分の発話内容そのものが個人情報になる場合があります。音声データで個人が特定できるようになれば、それすらも個人情報になると言われています。そんな状況を受けてプライバシーの重要性が更に高まっているのだと思います。
中原

5Gの時代になると、IoTがもっとずっと広がるし、自動運転の膨大な通信トラフィックにも耐えられる世界とかを想像するんですが、そうすると家電やPC、運転などの情報も全部繋がるシナリオってあると思うんです。洗濯機を使ったことを受けたネット広告が表示されたり、車で通った道に沿った自分用のカスタム広告が出る、といった状況には抵抗を感じる人も多いかもしれません。
そのあたりは難しいところですね。ロンドン市の事例で、街中に防犯カメラを設置したところ、最初は住民が強く反対したそうです。でもある事件の犯人が防犯カメラのおかげで逮捕されて、住民の意見が大きく変わりました。ポジティブな使い方を示すことができれば、受け入れやすいのではないでしょうか。
中原


そうですね、IoTに関する広義のプライバシーについてになってしまうんですが、テクノロジーのポジティブな使い方については考えさせられますね。
例えば、今僕の家で洗濯機や冷蔵庫が壊れたら、新しいものを選んだり届けてもらったり、といったことでだいたい1週間くらいかかると思います。これが真のIoT時代には、モーター音をリアルタイムに収集して、振動のパターンの認識で、「お宅の洗濯機、4週間後には80%壊れます」って通知くらいは普通にくる時代になると思います。オプトインすれば、ネットにも洗濯機の広告が出るようになったりして、さっきの家に洗濯機が無い1週間という状況は、そのうち遠いむかし話のようになるんでしょうね。
要は洗濯機が常にあるというメリットをテイクするのか、スムーズにレコメンドされ過ぎることに対するモヤモヤ感をヘッジするのか、どちらを取るかってことなんだろうと思います。 

日常生活を拡張するテクノロジー

―昨年のSXSW2018ではAR/VRに関連する展示が非常に多いと感じました。
今年はこの領域について、いかがでしたか。

状況が変わってきましたね。3~4年前は、VRを使った新たな映像体験が盛り上がっている印象でした。それが年々減って来て、今年は、触覚や聴覚を使ったリアリティの追体験をテーマにしたものが多くありました。暗闇で視覚を無くした状態で音を使うことで豊かな体験ができることを示したものであったり。
 
―触覚という言葉が出ましたが、今年はハプティックの展示も多かったですよね。
中原

ある企業が発表していた「ハプティックスーツ」は凄かったです。VRで矢が飛んで来て、自分の体に刺さると、スーツが反応するという体験があったんですが、前の部分と背中の部分で振動に時差があって、本当に矢が刺さったような感触になるんです。
VRは没入の要素が強いですよね。一方でARは空間上にモノを出すとか、自分が居る日常に資料が出てくるとか没入の要素は薄め。没入するVRはエンタメを中心に引き続き楽しみですし、日常にトーンを足すARも、現実が拡張されて融合する感じが好きでとても気になってます。
5Gの普及によって膨大なデータ量を送れるようになるので、VRは視覚以外の感覚の伝達もできるようになり、没入感や臨場感が出せやすくなります。それによってハプティックのようなアイデアが増えているんでしょうね。2018年くらいから5Gが世界各地で始まることを考えると、「VRで新しい体験ができる」というのが最も盛り上がるように思います。
中原

日常で使うVR/ARでこんなものあったらいいなと思うのは、簡単なイヤフォンを耳に付けると、部屋の外の音を少しデフォルメしたような形で変換してくれるものとか。風が強い日でも、密閉性の高い建物って外に出ないと風の音は聞こえない訳ですが、耳元で風の音を流すようにすると外の雰囲気が感じられるようにならないかな。雨の日に、1Fまで降りて外に出て「あ、雨だ」といって部屋に戻る、みたいなことも無くなりそうですよね。
今話題のメガネ型のワイヤレスヘッドフォンは、概念的に理解するだけでなく、実際に付けてみるとさらに良さがわかりましたよね。スピーカーが耳元でささやいてくれることに凄くリアリティがある。加速度センサーが搭載されていたり、スマホのGPSとの連動で、用途は音楽を楽しむだけではなくて、他のアクティビティも楽しめるようになっていましたね。例えばゴルフのコースに出てグリーンに立ったときに、ピンがどちらの方角にあるのか音で知らせてくれたりするアプリケーションも出ていましたね。

スピーカー内蔵サングラスと連動したゴルフのアプリケーション

中原

こういう文脈での活用は、エンタメを超えたものになってきましたな。
生活の中でも生きるようなものになってきていますよね。

後編では、SXSW2019を通して考えるAI、5Gなどのトピックについて語り合います。

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  • 博報堂 統合マーケティング局所属
    テクノロジスト/ディレクター 中原玄太
    熊本県牛深市(現、天草市)生まれと育ち。
    主な著書に「EXCELでわかるLIBORディスカウントとOISディスカウント」(きんざい)、
    主な論文に「A NOTE ON NEW CLASSES OF INFINITELY DIVISIBLE DISTRIBUTIONS ON R^d」(Elect. Comm. in Probab.)、
    主なMV制作に「死神ナイトフィーバー / 杉本ラララ」(lalala music)、
    主な音楽活動にアルバム「”system”/カプサイシンコネクト2」(ULTRA-VYBE.inc)、
    主な広告賞に、ACC、Spikes Asia、ADFEST、
    好きな言葉は「言葉はさんかく こころは四角」。

    ※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。
  • 博報堂MPUブランド・イノベーションデザイン局
    インタラクティブプラナー/テクノロジスト
    Human X プロジェクトリーダー
    博報堂入社以来、テクノロジーを起点とする新しい体験の研究開発に従事。プロダクトの企画・開発、知財領域のマネジメント、大学との共同研究、電子工作やプログラミングを用いたプロトタイピング等を担当。クロスモーダルデザインWS幹事、Affective Media WS幹事、文部科学省科学技術・学術政策研究所専門調査員。