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対話で生まれるこれからの社会 -AIエージェント時代の生活者価値デザインとは?-【生活者インターフェース市場フォーラム2025レポート】
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対話で生まれるこれからの社会 -AIエージェント時代の生活者価値デザインとは?-【生活者インターフェース市場フォーラム2025レポート】

AIが急速に発展し、あらゆるビジネス活動や私たちのライフスタイルに大きな変革をもたらし始めています。 2025年、まさにAIエージェントが台頭してきた今、博報堂はAIエージェントとの「対話」こそ、生活者の新たな問いや潜在的な想いを解き放つ鍵になると考えています。
AIエージェント時代のクリエイティビティは「対話」に宿る――。
本稿では、先日開催した「生活者インターフェース市場フォーラム2025  いっしょに話そう。世界が変わるから。~AIエージェント時代の生活者価値デザイン~」の冒頭に登壇した博報堂 代表取締役社長・名倉 健司によるオープニングセッションの内容をご紹介します。

AIによって生活者インターフェース市場が飛躍的に進化する

 今年で6回目を迎えるフォーラムのタイトルは「いっしょに話そう。世界が変わるから。」。AIエージェントとの対話によって、もっと面白くなる世界を皆さまと共に追い求めていきたいという熱い思いを込めました。

博報堂が6年前から提唱してきた「生活者インターフェース市場」は、デジタルテクノロジーの進化によって、自動車や家電、家など生活を取り巻くあらゆるものが新しい接点となり、生活者が企業とつながることで、ワクワクする体験やサービスの可能性が広がっていく世の中を示します。

 生活者インターフェースを通じて、企業は消費者が求めているニーズを的確に理解し、適切なタイミングで、最適なサービスや体験を届けられるようになりました。こうした生活者との新たな接点の拡大が、従来にはなかったビジネスや市場を次々と創出しています。

例を挙げると、富山県朝日町の「LoCoPiあさひまち」というサービスはマイナンバーカードを活用し、ポイントが貯まる地域通貨での決済や、災害時の避難者受付を可能にしました。この仕組みによって、地域を応援しながら買い物ができ、いざという時の安心も手に入れられる新しい日常が生まれています。

ドン・キホーテなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)では、商品レビューサービス「マジボイス」を通じて顧客の本音を収集し、商品開発やサービス改善に顧客が直接参加できる仕組みを構築しました。 

 JR西日本は、駅構内に健康測定空間「DotHealth OSAKA」を設置し、生活者が移動のついでに肌年齢や脳の健康度を手軽に測定・管理できる新しい健康習慣の場を提供しています。

そして博報堂では、バーチャル販売員をインターフェースに、オンラインでの対話履歴をリアル店舗の販売員と連携することにより、人手不足の解消と顧客満足度の高い顧客体験を実現するサービスを開発し、実証実験を進めています。

 
さらに、これから生活者インターフェース市場を飛躍的に進化させるテクノロジーがAIです。昨年以降、生成AIは爆発的に発展し、仕事や学習、娯楽の対話相手として欠かせない存在となりつつあります。 

博報堂DYホールディングスのAI研究機関「Human-Centered AI Institute」が行った最新の調査では、生成AIをよく使う人ほど、「生成AIの回答から新しい気づきやアイデアが生まれた」「人には言えない内容を生成AIに相談したことがある」といったように、AIを単なるツールではなく“創造的な対話のパートナー”として認識し始めていることがわかりました。 

AIエージェントが新たな生活者インターフェースとなり得る

そして今、再びAIの大きな波が押し寄せており、その中心にあるのが「AIエージェント」です。これは、AI技術を適用したソフトウェアで、人間の指示をただ実行するだけでなく、自律的に複雑なタスクを遂行できる点が特徴です。

博報堂としても、AIエージェントが新たな生活者インターフェースとなり、社会を根本から大きく変えてしまう可能性があると考えています。

そんな非連続的な社会変化におけるポイントは、「生活者との無数の対話」です。
AIエージェントは、対話を重ねるごとに、生活者自身も気づいていない潜在的なニーズを汲み取り、思ってもみなかった場所へと連れていきます。生活や情報、働き方などあらゆる領域で、かけがえのないパートナーとして共にタスクをこなす時代が訪れるでしょう。

近い将来、生活者インターフェース市場はAIエージェントによって急速かつ飛躍的に成長し、新たな価値創造とビジネスチャンスが無限に広がる――。そんなワクワクする未来が待っています。

まず企業が持つ独自の情報をもとに企業自身がAIエージェントを開発し、生活者と対話することで新たなサービスが生まれます。

例えば、アパレル企業のAIエージェントに「恋人との週末の過ごし方」を相談すれば、デートプランとセットで、おすすめのファッションを提案してくれるでしょう。金融サービス企業が開発したAIエージェントであれば、自分の年収や資産に加えて、将来への不安や希望を話すことで、最適な投資プランを提案してくれるかもしれません。自動車会社のAIエージェントに旅行の相談をすると、趣味嗜好に合った最新のスポットを、おすすめの日程とともに提案してくれるでしょう。

つまりAIエージェントとの対話が、企業と生活者との対話そのものになり、それがいつでも・どこでも・誰とでも可能になるのです。

 また、今後は生活者側にも自らの代理人としてAIエージェントを提供するサービスが誕生していくでしょう。生活者AIエージェントが自分の趣味や嗜好、好みを把握し、自律的に情報収集から製品比較、交渉、購入まで行うようになっていきます。すでにアメリカでは、パーソナルなAIエージェントが個人の好みに合わせてファッションコーディネートを提案し、購入まで完了させるサービスが始まっています。

従来、生活者インターフェースは生活者との間にインタラクティブな体験をもたらす「接点」として機能してきました。これからは、企業のビジネス活動やサービスを組み込んだAIエージェントが生活者インターフェースになることで無数の対話が生まれます。その中から、生活者の新たな欲求や体験が無限に湧き起こってくることになるでしょう。

それこそが、新しい生活者インターフェース市場の姿です。

AIエージェントとともに「驚き」と「ワクワク」に溢れる体験を作り出す

AIエージェント時代は、これまでのマーケティング活動が一新され、ビジネスのあり方が生まれ変わる時代とも言えます。そのため、AIエージェントを前提とした生活者へのアプローチや、新しいマーケティングの手法が必要不可欠になるのです。

「生活者発想」をフィロソフィーとする博報堂だからこそ、AIエージェントとともに「驚き」と「ワクワク」に溢れる未来を作り出せると確信しています。AIエージェントの開発も、AIエージェント時代に求められるマーケティングのプラニングも、すべて支援し、新しい時代の生活者価値をデザインしていきます。

新たな生活者の変化を捉えることは、博報堂が最も得意としている領域です。AIエージェントとの対話しながら暮らす“新しい生活者”が生まれるということは、生活者が心から楽しく対話したいと思えるAIを「生活者発想」で見出していくことが重要になります。

博報堂DYグループにおけるAI開発の核となる考え方が「Human-Centered AI(人間中心のAI)」です。2024年4月には「Human-Centered AI Institute(HCAI Institute)」を設立。人間の生活をより便利に、社会が豊かになるためのAI活用に向けたさまざまな研究開発プロジェクトの推進を行っています。

具体例の一部を紹介すると、昨年からTBWA HAKUHODOの細田クリエイティブディレクターが提唱するコンセプト開発手法を学習したAIエージェントの利用を全社で開始しました。

このAIエージェントに、企業から依頼されたマーケティング課題やオリエンテーションを読み込ませると、細田が提唱するインサイト型ストーリーのフレームワークに基づいたコンセプト案を、AIエージェントと対話しながら導き出せるようになりました。

すでにこのツールを活用したクライアント企業向けのワークショップを行った事例も出てきていて、「初めてのコンセプトワークでも気軽に取り組めた」「AIと一緒に作ったものだと共有しやすく、思いもよらない発見があった」という声をいただいています。

生活者や企業がAIエージェントと共に過ごす時代では、予想外のやり取りから新しいニーズや好奇心が生まれ、それに導かれて生まれる出会いや体験が無数に広がる社会になるでしょう。

生活者自身も気づいていなかった欲求が、AIエージェントとの対話によって解き放たれ、より人間が人間らしく心を動かし夢を追い、胸をときめかせる未来。

そこには無数のビジネスチャンスが潜んでおり、その一つひとつを企業の皆様とともに実現していくことこそが、私たちが目指す「生活者価値デザイン」の姿です。AIエージェントが新たな生活者インターフェースとなり、マーケティングやビジネスが飛躍的に進化するなか、博報堂は「生活者発想」とクリエイティビティで、心躍る様々な体験の創出をサポートしていきたいと思います。

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  • 株式会社博報堂
    代表取締役社長
    1991年博報堂入社。営業職として、自動車、飲料、金融、通信等、幅広いクライアント業務を歴任。営業局長、マーケットデザインビジネス統括センター長、取締役常務執行役員を経て、2025年4月より代表取締役社長。

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