
AIで感情を可視化する!? DAZN×博報堂のタッグで挑む「スポーツ感情を起点」としたマーケティングとは
目次
2025年5月、博報堂はスポーツ分野のストリーミングサービスを提供するDAZN(ダゾーン)と連携。AIを活用しスポーツ観戦時の感情を可視化することで、生活者に新たな視聴体験を届けるとともに、感情を起点にした広告クリエイティブを創出するチャレンジをスタートさせました。AIで感情を可視化するとは? そして、その先にどんなマーケティングの未来が待っているのか、DAZNの笹本裕CEOと博報堂執行役員 嶋浩一郎が語ります。
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スポーツ観戦時の喜怒哀楽を可視化し、感情に寄り添ったマーケティングを実現する
-今回の提携の背景について、DAZNと博報堂それぞれの期待値もあわせてお聞かせください。
- 笹本
- 我々の仕事はスポーツの試合をライブ配信でお届けすること。
スポーツ観戦というのはいちばん喜怒哀楽がはっきりと表れる、感情移入しやすいコンテンツだと思うんです。だからこそ、ただ試合を配信するのではなく、観戦している方の感情を可視化できたらおもしろいのではないかと考えたのがはじまり。たとえば野球でホームランが出たら興奮して喉が渇きますよね。そんなときに飲料のCMが入る。これは広告主の皆さんにとっても新しい価値につながると考えています。
- 嶋
- DAZNはスポーツを応援する人たちの気持ちをとらえて、より能動的にコンテンツを観るプラットフォームになっていますよね。DAZNのファンダムなコンテンツと博報堂が持つ生活者発想やクリエイティビティ、そしてテクノロジーを掛け合わせれば、生活者により深い体験をもたらすことができますし、クライアントには新しいマーケティング手法を提供できると期待しています。
-DAZNは「ファンダム」の価値や熱量を大切にされていますが、改めて「ファンダム」とは?
- 笹本
- スポーツを観ている方の集合体を指す言葉ですが、ファンクラブのようなものとも違って、熱狂や没入という特別な空気感のなかにいるコミュニティ。繰り返しになりますが、「感情」が表現されやすいコミュニティだと考えています。
- 嶋
- スポーツというのは大きなバックグラウンドがある世界です。
去年負けたチームが今年はどう活躍するだろうといったストーリーのなかで楽しむものなので、傍観者というより、観客もチームの一員になった気分で観るものなんですよね。
受け身ではなく前のめりで観るコンテンツであることがDAZNの強み。それをスマートフォンなどで好きなときに好きな場所で楽しめるという、すごくいいプラットフォームですよね。
- 笹本
- スマートフォンだからこそ非常にパーソナライズされますし、推し活という文脈でもファンダムを捉えることができます。チームのサポーターというだけでなく、ひとりの選手を推すという要素も強いと思いますね。
- 嶋
- なるほど。スポーツは同じ試合でも百人百様の見方とストーリーがあるからおもしろい。さまざまな感情が喚起されやすいコンテンツと言えますよね。
その感情をテクノロジーで可視化することによって、ユーザーの視聴体験も広告ビジネスもバージョンアップしようというのが私たちのチャレンジです。ファンダムを活用したマーケティング自体いまの時代に合っていると思いますが、それをデータで可視化することでより精緻化し、「感情に寄り添ったマーケティング」を実現する。そんなおもしろい取り組みをDAZNといっしょにできることが嬉しいですね。
DAZN×博報堂ならではのアルゴリズムで、感情の「量」と「質」を分析
-データを用いて感情を可視化する、というのはどういうことなのでしょう?
- 嶋
- 試合運びのなかで、いまボールがどこにあるのか、残り時間は何分なのかなど複数のデータを抽出し、独自のアルゴリズムで観客の気持ちの盛り上がりを数値化しています。これは感情の「量」的な解析です。
もうひとつは感情の種類ですね。ドキドキ・ハラハラしているのか、爽快な気分になっているのかなど、ラッセルの感情円環(※)をベースにして分析しています。ひとつの試合のなかでも複数の感情が生まれてくるので、それを可視化することでベストなタイミングでその時の気分にあった広告を配信することも可能になります。
※ラッセルの感情円環…快-不快、覚醒-鎮静の二次元上の軸に各感情を円環上に付置することで感情全体を包括したモデル。
感情の量と感情の質、両方を可視化できるよう解析を進めているのですが、そのとき大事になってくるのが、スポーツファンの「反応のしどころ」を見極める「目」です。測定できるデータだけでなく、さまざまな変数がどう組み合わさると人の感情が動くのか、という勘所みたいなものが重要になってきます。「サッカー好きの人はここで興奮するよね」といったスポーツ好きの人への“理解”を掛け合わせることで、DAZN×博報堂ならではのアルゴリズムを開発しているところです。現在、そのアルゴリズムをより精緻化するため、実際の試合会場で観客の心拍数を計測するといった実証実験も行っているところです。
- 笹本
- その結果も楽しみですね。まさに、スポーツを観ることの価値を可視化していくチャレンジが始まっていますね。
これまではテレビでも我々のような配信サービスでも、どれだけ視聴されたかという数値が広告価値と紐づいてきました。これはある意味パッシブな面もあります。でも今回の取り組みでは観ている人の感情に合わせてそのときどきに適したコミュニケーションができるようになります。つまり、どの感情がどのブランドと親和性が高いかまでを測ることができる。これまでのスポンサーシップを超えた価値が提供できるのではないかとすごく楽しみです。
- 嶋
- どれだけの人が観ているか、どんな属性の人が観ているかという視点から一歩進んだ「感情に寄り添う広告」に、ここまで精緻化して取り組もうというのは初の試みですもんね。マーケティングの手法そのものが変わっていくんじゃないかと思うとわくわくします。
デジタルの時代になって、広告はどうしても邪魔者扱いされがちです。でも、感情に寄り添った広告を配信することで、「この広告主、自分たちの気持ちわかってるな」というような、広告主とファンの一体感が生まれることを期待しています。
スポーツを楽しむ文化をファンとスポンサーが一緒につくる「仲間感」
-広告が視聴体験を邪魔しないというだけでなく、それ以上の存在になれる可能性があるということでしょうか?
- 笹本
- そうですね。スポーツって人類最古のエンタテインメントと言われるくらい僕らのDNAに刻み込まれたコンテンツです。
これまでも多くの企業の皆様がスポーツのスポンサーとなり、「サポーターと一緒にチームを応援している企業なんですよ」というブランディングをしてきました。でも、これからはもっと感情移入できるブランディングが可能になると考えています。
- 嶋
- 今年のカンヌライオンズでも評価されていたのが、カルチャーを生活者とブランドが一緒に盛り上げていくような活動。スポーツを楽しむ文化をファンとスポンサーが一緒につくる、まさしく「仲間感」なんですよね。
- 笹本
- そうそう、仲間感って持続性があるじゃないですか。単にブランドを認知させるだけじゃなく、浸透させていく。そういうメリットを提供できる仕組みになっていくと思います。
- 嶋
- 「このブランドは自分たちのことをわかっているな」という仲間感に加えて、感情に寄り添ってベストなタイミングで情報を届けることもできる。広告自体の伝わり方もブーストできると思うんですよね。
-ユーザーサイドとしてはどんな視聴体験が可能になるのでしょうか?
- 笹本
- 今年からスタートした「Moment Booster*」は、ゴールシーンやレッドカードが出たシーンなどをAIが自動でピックアップしてモーメント動画を作成。視聴者が自由にSNSで共有できるサービスになっています。現状では「きっとこのシーンで熱狂するだろう」というわかりやすい場面を設定していますが、今後さらに感情の可視化を進めていけば、思いもよらないシーンで熱狂が生まれていることに気づくかもしれない。わかりやすいスポーツのモーメントに、サポーターの感情のモーメントを付加したかたちで進化が期待できます。
*Moment Booster・・・試合の中で熱狂モーメントが生まれると、観戦画面に「Moment Booster」が発動し、SNSから熱狂をシェアすることが可能に。ファンが見たいモーメント動画に移るまで、3秒尺の広告クリエイティブをプレロール配信する。
- 嶋
- このシーンで気持ちが動いていたんだといった、意外なモーメントも発見していきたいですよね。やっぱり、自分が好きな選手の活躍はみんなにシェアしたいじゃないですか。「Moment Booster」のようなテクノロジーを使うとファン同士の交流も増えるし、そういうポジティブなモチベーションのなかで広告が拡散されていく。シェアしている視聴者自身が楽しめるという新しい体験になっていますよね。
先ほども話に出たように、企業がスポーツを協賛するというのは昔からあるマーケティング手法ですが、これまであまり進化してこなかった。感情のデータとAIを使うという今回の取り組みは、クライアント企業にとってもすごく新しい試みになると思います。この感情にどんな商品が向いているか、みたいなことを一緒に考えていけたらおもしろいですよね。
どんな企業にもビジネスチャンスが。あらゆる感情に広告機会を見つけることができる
-人の感情に合わせて広告を打つ、ということが可能になれば、スポーツとは直接関連の薄い企業でもチャンスがありそうですよね。
- 嶋
- そうですね。うちの商品はスポーツに向いていないと思っていた企業でも新たなビジネスチャンスがあるかもしれない。
- 笹本
- 感情に寄り添ってコミュニケーションするというのはマーケティングの基本の基本ですもんね。スポーツはすべての瞬間に喜怒哀楽があるエンタテインメント。一見ネガティブに思える「怒り」の感情にもフィットするキャンペーンがあるかもしれません。あらゆる感情に広告機会を見つけていくことができると思います。
- 嶋
- ピンチでピッチャー交代というときどんな広告が喜ばれるか…とかね。広告クリエイターとしても新しいクリエイティブの視点になっておもしろいんじゃないかな。
- 笹本
- クリエイターの腕の見せ所になりますね。
-今回DAZNと博報堂でクリエイティブチームを発足したということですが、今後どのようなことに取り組んでいくのでしょう?
- 嶋
- スポーツというのはその日の試合だけでなく、これまでの道筋など長いストーリーとあわせて楽しむコンテンツ。なので、コピーひとつとっても、「本当にスポーツを愛している人が書くコピー」が重要になってくると思います。
DAZNはスポーツ愛あふれるクリエイティブチームをお持ちなので、そこに博報堂のクリエイティブメンバーが加わって「DAZN CREATIVE FOR BRAND」というチームを発足しました。DAZNのファンダムカルチャーと我々のクリエイティブ・データアナリストチームとの協業で、新しいマーケティングを生み出す挑戦をしていきます。
- 笹本
- こういう実験的な取り組みの先に、国内外で評価されるような新しいクリエイティブが生まれるといいですよね。
我々のビジョンは、スポーツを通じて日本を元気にすること。これからもスポーツを盛り上げ、新たなマーケティングを切り拓くため、一緒にチャレンジを続けていきましょう。
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笹本 裕DAZN Japan CEO兼アジア事業開発1964年タイ・バンコク生まれ。1988年(株)リクルートに入社。2000年MTVジャパン(株)取締役COOに就任、2002年同代表取締役社長兼CEOに就任。2007年マイクロソフト(株)常務執行役員に就任、2009年アジア太平洋地域統括責任者に就任。2014年Twitter Japan(株)代表取締役に就任。2024年DAZN JAPAN/ASIA最高経営責任者/CEOに就任。現在、(株)KADOKAWAと(株)サンリオの社外取締役などを兼任。2024年8月書籍『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』を刊行。
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博報堂 執行役員 エグゼクティブクリエイティブ・ディレクター1993年博報堂入社。2002~04年博報堂刊「広告」編集長。2004年「本屋大賞」創設に参画。2006年博報堂ケトルを立ち上げ多数の統合キャンペーンを実施。雑誌編集、ラジオ番組制作、ネットニュースサイト運営などコンテンツ事業も手掛ける。主な著書に『欲望する「ことば」~「社会記号」とマーケティング』など。カンヌクリエイティビティフェスティバル、ACC賞など多くの広告賞で審査員も務める。