
ヒット習慣予報 vol.362『アクティブウォッチング』

こんにちは、ヒット習慣メーカーズの中村です。
ゴールデンウィークは皆さんどのように過ごされたでしょうか。旅行などアクティブに過ごされた方もいれば、映画やドラマを家で一気見したという方もいらっしゃるかもしれません。
そんな今日は、余暇の過し方に関連して「見る専」をテーマに取り上げます。
「見る専」とは、あるジャンルを“自分でやる”のではなく、“見る”こと専門で楽しむ人々のことです。歴史を辿ると、「ネット上の投稿を閲覧だけして書き込みはしない人」を指す「ROM専」という言葉が2000年頃にネットスラングとして流行したのがきっかけとなります。
2016年くらいから「見る専」という言葉が使われはじめ、今ではネットに限らずスポーツや音楽、アートなど、様々なジャンルにおける「見るだけ」の人に対して「見る専」という言葉が広く使われるようになってきました。
Google Trends「見る専」検索量推移(2004年1月以降・日本)
色んなジャンルにおいて勢いを増している「やるより見る派」の人たちですが、そんな「見る専」がいま静かに進化を遂げつつあります。ただ純粋に“見る”だけでは飽き足らず、その楽しみ方を独自にアクティブに広げている人々が登場してきました。今回は、そんな新たなスタイルを確立しつつある“進化型・見る専”の行動習慣を「アクティブウォッチング」と名付けてご紹介いたします。
1つ目は、将棋界における「旅将(たびしょう)」によるアクティブウォッチングです。
先日、将棋棋士の羽生善治さんにお話をお伺いする機会があったのですが、将棋の大会に合わせて全国を旅しながら将棋の観戦を楽しむ人が増えており、そのような人を「旅将」と呼ぶようです。将棋の「見る専」は「見る将」というらしいのですが、「旅将」はその進化型ととらえることができるでしょう。「旅将」は棋士の対局だけでなく、対局場の空気、地方ごとの“将棋飯”、さらには現地の歴史や文化までも味わい尽くしています。
2つ目は、音楽ライブにおける「セトリ考察勢」によるアクティブウォッチングです。
握手会などのリアルにアイドルに会えるイベントには行かず、ライブのみを見る音楽好きの「見る専」ですが、ただライブを見て楽しむだけではなく、どのような曲がどのような順番で歌われるか、などライブのセットリストの予想をすることを醍醐味として楽しむ人がいるようです。私の友人には、セトリの予想を楽しむだけでなく、曲順の意図や演出構成までに思いを馳せている人もいます。ライブを単なる“音楽の場”ではなく、演出構造を読み解く“物語”として味わっているのかもしれません。
3つ目は、スポーツ観戦における「戦術オタク勢」によるアクティブウォッチングです。
サッカーやバスケットボールなどのスポーツでは、「プレーをすることより、プレーを見ることが好き」という人はたくさんいますが、そのなかで「プレー自体を見ることよりも、“戦術”を見るのが好き」という人もいるようです。彼らはスタジアムではなく、自宅のPCの前で分析しながら観戦することが多く、監督の采配やフォーメーションの変化、選手間の連携パターンなど、見逃しがちな“裏側”に注目します。そんな彼らは「観戦」の可能性を静かに広げているともいえるでしょう。
このように、様々な文脈で、「アクティブウォッチング」の兆しが見て取れます。
従来の「見る専」は、テレビやネットを通して“見ること”そのものを楽しんでいましたが、近年の進化系「見る専」は、見ることを起点に、旅に出たり、予想をしたり、戦術を分析したりと、楽しみ方を独自にアクティブな方向へ広げていることが特徴です。
では、この新しい行動習慣が広がりつつあることにはどんな背景や理由があるのでしょうか?考察してみました。
ひとつは、“裏側”の情報の可視化・アクセスの自由化です。
SNSや動画配信サービスの普及により、試合の裏側やライブ演出意図など、以前は限られた人しか知り得なかった情報に誰もがアクセスできるようになりました。これにより、ただ見て楽しむだけでなく、その背景や意図を推測・分析する楽しみ方が以前よりも享受しやすくなっていると思われます。
もうひとつは、“ソロ活”や界隈消費の普及と多様化です。
一人で趣味や行楽を楽しむ“ソロ活”や、特定の趣味・関心を核とするコミュニティ(界隈)でのコミュニケーションや消費行動を楽しむ“界隈消費”の普及・活性化により、ただ受動的に見るだけだった「見る専」が、自分の知的好奇心やコミュニティのニーズを満たすように能動的でアクティブな形に昇華されていったと考えられます。
最後に、「アクティブウォッチング」に関するビジネスチャンスについて、考えてみました。
「アクティブウォッチング」のビジネスチャンスの例
■全国のライブや試合観戦を起点に、訪れた地域周辺の観光をセットで楽しめる「観戦ツーリズム」の開発
■まるでツアーガイドのように、ライブ鑑賞や対局・試合観戦に伴走して、隣で演出や戦術などを解説してくれる「鑑賞・観戦ガイド」
■対局・試合・ライブ演出の分析を快適にしたり記録したりする、「アクティブウォッチング」をする人向けのアプリ開発
見るだけの人を意味する「見る専」ことは、かつて「受動的でやらない人」の代名詞でした。しかし今、見ることを起点として「自分なりの楽しみ方を能動的に広げる人」へと進化しつつあります。
もしこの記事を読んで少しでも興味を持たれた方は、あなたの中の「見る専」も、少しだけアクティブに進化させてみてはいかがでしょうか。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
この記事はいかがでしたか?
-
博報堂 ストラテジックプランニング局
ヒット習慣メーカーズ メンバー2022年博報堂に入社。マーケティング職に従事し、お得意先や世の中の課題と向き合う。ゲームや漫画が好き。