おすすめ検索キーワード
神は異常値に潜む。データをアクションに繋ぐカギ
PLANNING

神は異常値に潜む。データをアクションに繋ぐカギ

こんにちは、データシェフの横井です。
データビジネスの現場で苦学力行する横井がお届けする「データの料理術

第三回は「データをアクションに繋ぐカギ」について

本題に入る前に、前回の記事にも様々な反響を頂きありがとうございます。数々の質問を頂戴しましたが、特に以下の2つが多かったです。
1, 結局、宝となるデータとは何か?
2, そもそもビッグデータって何か?

⇒1,に関しては、データの価値は状況と視点で変わるため、同じデータでも価値があるケースもあれば、ないケースもあります。そのため、宝となるデータが何かは一概には言えません。ケースごとに都度目利きが必要です。

⇒2,世の中には様々なビッグデータの定義がありますが、私の周りでは「ビッグデータの本質は全量性とリアルタイム性である」という安宅和人氏の見解が特に腹落ちしています。詳しくは安宅氏の資料(「AI×データはビジネスをどう変えるか」第二回 経済産業省 新産業構造部会 配布資料6)のP22~26を参照ください。[1]

では本題に入ります。データシェフの基本装備のうち「推理」についてご紹介。

いきなりサマリー
■ 推理とは事実から意味合いを抽出すること
■ データをアクションに繋ぐカギは推理力
■ 推理のコツ 1.Why So? So What? 2. God hides in the Outliers.
■ 推理力は平成生まれ世代の必須スキル

推理とは何か

ここでいう推理とは、事実から意味合いを抽出することです。データから将来の動きや現象の原因を推察する。新仮説を立てたら、検証して白黒をつける。
具体例だと、1,直近トレンドから将来の売上を予測 2,競合社の広告投下の変遷から成功・失敗ポイントを推察  3,顧客の購買パターンからインサイトを洞察 等。
推理はデータとアクションのブリッジとなる重要なステップ。なぜなら推理の質次第でアクションの効き目が大きく変わるから。有効打の裏に、名推理あり。

別の言い方をすれば、「空→雨→傘」のフレームワークの「空→雨」の部分。空の状況(=データ)を観察し、どう天候(=意味合い)を読むか。そこのヨミ次第で、傘(=アクション)が決まる。

私の師であるダイレクトビジネスプロデューサーはこの推理力が異様に高く、データを見ると「ヨミや仮説」を次々と着想し、その洞察を一気に打ち手まで落とし込みます。その一連の思考が矢のように速いため、「師匠はデータを見るだけで、売り文句を思いつけるのか」と他人の目には映ります。
しかし、よくよく観察すると師匠はデータ→アクションの2ステップではなく、データ→推理→アクションの3ステップを踏んでいます。データをアクションに繋げるカギは推理力。広告の費用対効果が全て可視化されるダイレクトマーケティングの現場において、結果を出し続ける師匠の秘密の一つがこのスキルだと睨んでいます。

データをアクションに繋げるカギは推理力

推理力、2つのコツ

ではデータを基にどう推理するか。2つコツがあります。
コツ1 “Why So?  So What?”
コツ2 “God hides in the Outliers”

コツ1はあまりにも有名なので割愛します。「Why So? (なぜ?)」をくりかえして根本原因を突き止める。「So what? (だから何?)」をくりかえして意味合いを抽出する。

コツ2は師匠に叱られた経験から学びました。
ある日、私が解析結果を師匠に報告した時のこと。「統計解析にかけましたが、有意な傾向は見られませんでした。このデータからは何も見つからないと思います」と私が結論を述べると、師匠は叱りました。
師曰く「本当のヒントは異常値に潜む。統計解析は強力だが、異常値を排除して処理することが多い。異常値を捨てるな、むしろ愛せ。」(異常値=平均から極端に外れた値のこと) そして実際に異常値を調べたら、新訴求のヒントが見つかりました。

N=1から新仮説を見出し、N=大でそれを検証する。電話がバカ鳴りしたテレビCMがあれば、たった1本でも原因を推察してヒントを探る。異様に客単価の高い顧客を「富豪ですね」で片付けない。探る。デザイン思考にも通ずるような思考法。当時の私とってはコペルニクス的転回でした。
この衝撃的学びを血肉とすべく、弟子達の間で造った言葉があります。

God hides in the Outliers ―神は異常値に潜む

クリエイター界の格言 “God is in the Details ―神は細部に宿る”になぞらえました。

この2つの言葉から考えると、我々が目指す仕事とは
異常値に潜む神を見つけ出し(分析・推理)、神が細部に宿るまでエグゼキューションにこだわる(計画・実行)。その結果、クライアントの事業に神懸り的な成功を呼び込む(成果)」
概念的にはこう捉えています。私が所属する組織にはこの理想を体現した事例が少なくありません。例えば、クライアントの年間売上が4年間で4倍になった事例など。

推理力は平成生まれ世代の必須スキル

ここからは、主に私と同じ平成生まれの仲間に向けてお話します。
単刀直入、推理力は平成世代の必須スキルだと考えています。理由は2つ。1,人工知能に代替されにくいから。2,カオスの時代に突入するから。特に理由2が大きく、『コトラーの「予測不能時代」のマネジメント』内で指摘されているように、「予測不能の乱気流に見舞われることが常態化した時代」に我々は突入しています。(例えるなら漫画ONE PIECEの「グランドラインの新世界」。嵐が日常、これまでのコンパスは役に立たない) そのため、カオス時代を生き抜くには「変化を予知する能力(=推理力)」が必須となります。(ONE PIECEで言えば航海士ナミの天候察知力。察知できなきゃ沈没)

「?」な方もいると思うので、推理力のエクササイズも兼ねて、一つクイズです。

Q,以下の「日本人口の予測グラフ」から、あなただったら何を読み取りますか?

Q.「日本人口の予測グラフ」から、何を読み取りますか

如何でしょうか。ぜひ皆様の推理を伺いたいので、気軽にコメント下さると幸いです。
模範解答はありませんが、参考までに私の推理を記しておきます。(あくまで私見です)

【経済視点】
・高度経済成長期は人口増による人口ボーナスの追い風があった。しかし今後はその逆。人口減による人口オーナスの逆風が吹く。
・現状の豊かな社会を維持するためには、逆風に負けない強固な打ち手が必要となる。

【マーケット視点】
・シニア市場はステイするが、若者市場は急激に縮小する。そのためシニア市場の獲得競争が熾烈になると見られる。
・そこで勝利するためには「若い時期からの顧客囲い込み戦略」が良手となり、若者市場のアクイジション及びCRMがより重視されるのではないか。
・大半の企業では日本市場の売上が人口減少に伴ってダウン。100年続く右肩下がり。対策を講じない場合、単純計算で売上は50年後に2/3、100年後には1/3になる。

【歴史視点】
・少し調べると、歴史上ここまでの人口減少トレンドを経験した国家は存在しないことが分かる。人類的に未知の世界。手本となる前例はどこにも存在しない。日本人が叡智を結集して問題解決に臨む必要がある。

【技術視点】
・日本は人口減少だけでも十分カオスになりうるが、更にシンギュラリティの大波も絡むことでカオスの二重奏となる。特に2045年前後は、団塊ジュニアの引退とシンギュラリティのダブルパンチによる大嵐が予想される。
・日本の豊かさ維持・向上のためには労働人口の確保と生産性の向上が必要となり、人口知能とロボティクスによる労働サポートが急激に浸透すると考えられる。

【生物視点】
・生物は「種の保存」を行うものだが、この人口減少トレンドが続くと1000年後に日本人が存在するかは怪しい、という矛盾がある。そこから大胆に仮説を立てると、人間は「種の保存に繁殖を用いない生命体」へと変貌を遂げようとしているのではないか。現在はその過渡期と言えまいか。例えば、クラウド上に自己の意識を転送できれば、子孫を残さずとも自己は保存される。人間は有機物から無機物へとシフトするのではないか。

【キャリア視点】
・寿命100歳時代を踏まえると、平成世代の大半は100年後の「人口4000万人の日本」を生きることとなる。その際の社会の姿は全く予測がつかないが、我々にできることは 1,環境に応じて変化をくりかえすこと 2,自力で食物を得る手段を確保し続けること。つまり、生涯現役の生き方が新たな「安定のスタンダード」になるのではないか。

などなど。つたない推理でしたが、ご意見ある方がいたら、ぜひディスカッションしましょう。

ざっくりまとめます。
今後、未知のビッグウェーブが立て続けに起こります。取り得る選択肢は2つ。飲み込まれるか、乗りこなすか。後者には波を読む「推理力」が必須。平成世代のみんな、推理力を武器に「未知の大波サーフィン」を一緒に楽しみましょう

以上、データシェフの基本装備の一つ「推理」のご紹介でした。

参考文献
[1]安宅和人「AI×データはビジネスをどう変えるか」第二回 経済産業省 産業構造審議会 新産業構造部会 配布資料6
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shin_sangyoukouzou/pdf/002_06_00.pdf

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 博報堂プロダクツ データビジネスデザイン事業本部 データマーケティング二部
    「まるで料理をするように、データをさばき、戦略をこしらえ、顧客を喜ばせる」という想いから、データシェフを名乗って活動中。
    慶應義塾大学卒業後、6年間一貫してデータドリブンマーケティングに従事。
    (筆者肖像制作: 榎本デッサン堂)

    参考:データビジネスデザイン事業本部の紹介・採用サイト