
ヒット習慣予報 vol.377『スペクトラム思考』

こんにちは、ヒット習慣メーカーズの中村です。
突然ですが、皆さんは骨格診断・パーソナルカラー診断・MBTI性格診断などのタイプ診断を受けたことはありますか?
このようなタイプ診断は、2023年頃から大きく注目されるようになりました。しかし、その急速な盛り上がりの反動もあり注目度は落ち着く傾向で、むしろ最近では本来曖昧でグラデーションのあるものを、無理にパキッと「型」にはめて理解しようとすることへの違和感や限界を指摘する声も多く見られるようになってきました。
Google Trends「タイプ診断」検索量推移(2004年1月以降・日本)
私自身も先日、興味本位で骨格診断とパーソナルカラー診断を受けてきたのですが、「型」にあてはめることで自分を理解できたような納得感がある一方で、「そんなにハッキリと分類できるものなのだろうか…?」という素朴な疑問も少しだけ感じました。(診断自体はとても楽しく、受けて良かったなと思います笑)
タイプ診断の例に限らず、このように無理やり白黒つけたり、型にはめたりして理解するのではなく、曖昧なものをそのまま捉えようとする姿勢や行動は、様々な文脈で顕れ始めているように思います。
今回は、そうした行動の背景にある、曖昧さを肯定し受け入れる、新しい思考習慣を「スペクトラム思考」とし、この思考が顕れている事例をいくつかご紹介します。
1つ目は、型にはめない「グラデーション」の性格診断です。
16種類のパーソナリティタイプに分けるMBTI診断が若者を中心に流行していましたが、最近では、パキッと16種類のどれかに当てはめるのではなく、それぞれの性格要素を割合でグラデーション的に捉える人が増えてきています。SNSでは、「私はINFPだけど、状況によってはESTPっぽくなる」というように、自分の性格の“揺らぎ”を前提として受け止め、決めつけを避け、複雑な自分をスペクトラム(連続体)として理解しようとする姿勢に、共感が集まっているようです。
2つ目は、白黒つけない曖昧な結婚生活スタイルの登場です。
週末婚や通い婚など、これまでの「結婚=同居」という型化された前提とは異なる、より柔軟で曖昧な関係性が広がっています。法的な枠組みにとらわれず、「自分たちらしい関係性」で共に生きていくスタイルが増えており、ある種曖昧とも言える関係性が“未完成”ではなく“快適なかたち”として肯定されはじめています。SNSでも、既存の結婚観の型にはまらない通い婚などを望む投稿を目にすることが増えました。
3つ目は、仕事とプライベートの融合です。
かつては「仕事」と「プライベート」はきっちり分けるものとされていましたが、今はその境界線が曖昧になってきているように感じます。好きなことを仕事にしたり、副業を趣味の延長線上で取り組んだりする人が増えてきました。実際に私の周囲でも、好きなアイドルを応援する熱量が転じて、そのままファンクラブ運営に関わるようになったり、推しへの愛を語るブログがキャリアにつながったり等、遊びと仕事の境界をまたぐ「好きの延長線のプロ化」が静かに進んでいるようにも感じます。このように、“仕事 or プライベート”ではなく、“どちらでもあるし、どちらでもない”というようにスペクトラムに捉える感覚が、働き方の新しいスタンダードになりつつあるのかもしれません。
このように、さまざまな場面で、曖昧さを肯定し、曖昧なものをそのまま捉えようとする「スペクトラム思考」の兆しが見て取れます。
では、こうした新しい思考習慣が広がりつつあるのはなぜなのでしょうか? その背景について考察してみました。
ひとつは、二極化する社会への"疲れ"です。
SNSやニュース、日常会話の中でも「賛成 or 反対」「成功 or 失敗」「好き or 嫌い」と、立場を明確に求められる場面が増えています。しかし、私たちの本音や感情はそんなに単純ではなく、「どちらの気持ちもある」「今は中間くらい」というケースも多いのではないでしょうか。このように、二極で語ることへの“疲れ”や、“そこに収まりきらない自分”への違和感が、「曖昧でいること」の価値を見直す流れにつながっていると考えられます。ある意味、曖昧さを肯定するスペクトラム思考は、現代人にとっての“心の避難場所”にもなっているのではないでしょうか。
もうひとつは、多様性・個別性を重視する空気感の浸透です。
ジェンダー、恋愛観、働き方、価値観など、あらゆる領域で「正解が一つではない」「型に当てはめられたくない」という感覚が強まっています。“違いを認めよう”という表層的なダイバーシティの次に、「そもそも人は常に揺らいでいて、境界線もぼやけている」という深い理解へと進化している段階です。この空気感が、スペクトラム的な受け止め方を自然なものとして広げているのではないでしょうか。
最後に、「スペクトラム思考」に関するビジネスチャンスについて、考えてみました。
「スペクトラム思考」に関連するビジネスチャンスの例
■骨格診断・パーソナルカラー診断などのタイプ診断を、型にはめずにグラデーションで可視化ツール・アプリ
■ “曖昧な中間の気分”をすくい取る新カテゴリの商品開発(自炊でも外食でもない“半自炊”、パジャマでも外着でもない“外部屋着ファッション”など)
■スペクトラム思考をベースにしたマネジメント層向けのコミュニケーション研修
選ぶことや決めることが求められる時代だからこそ、あえて「決めきらない」視点が、これからの社会や人間への理解を深めるカギになるかもしれません。
ゆらぎを認め、曖昧さを受け入れる、しなやかな思考法である「スペクトラム思考」を、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 ストラテジックプランニング局
ヒット習慣メーカーズ メンバー2022年博報堂に入社。マーケティング職に従事。
パーソナルカラー診断では、ラベンダーが似合うとのことでした。