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デジタルロケーションメディアの可能性【アドテック東京2018レポート】
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デジタルロケーションメディアの可能性【アドテック東京2018レポート】

サイネージなどのデジタルロケーションメディアを活用した新たな広告が次々と登場している一方で、まだ多くの広告主が気軽に利用できる状況には至っていません。デジタルロケーションメディアにはどのようなメリットがあり、関連テクノロジーはどれだけ進歩しているのか。一方で普及に向けた課題はどこにあるのか。マーケティングテクノロジーについてのカンファレンス「ad:tech tokyo2018(アドテック東京)」において、「デジタルロケーションメディア領域での新しいビジネスの創出」というタイトルでセッションが行われました。マイクロアドデジタルサイネージ(MADS)の穴原誠一郎 代表取締役、シナラシステムズジャパンの松塚展国 執行役員ヴァイスプレジデント、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)の小澤佳史メディアマネージャー、メトロ アド エージェンシーの上原哲朗 媒体本部媒体戦略局戦略企画部マネージャーがスピーカーを、博報堂DYホールディングスの森山聡 上席研究員がモデレーターを務めました。

森山

モデレーターを務めさせていただく博報堂DYホールディングスの森山です。本日は「デジタルロケーションメディア領域での新しいビジネスの創出」というテーマで皆さんにお話しいただきます。まずは自己紹介をお願いいたします。

穴原

MADS代表取締役の穴原です。当社はアドネットワークなど、デジタルサイネージに関連するソリューションの提供を行っています。

松塚

シナラシステムズジャパンの松塚です。当社では携帯電話会社のデータをマーケティングに利用する事業を行っています。私の担当はセールスとマーケティングです。

小澤

P&Gの小澤です。マーケティングを担当する部署の中でメディアを担当していて、P&Gが日本で展開する各ブランドのメディアプランニングをサポートしております。

上原

メトロ アド エージェンシーの上原です。当社は東京メトロの広告スペースを開発・運用する会社です。いま東京メトロのデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいるところです。

森山

今日のスピーカーの皆さんは、穴原さんがアドテクノロジー、松塚さんがデータホルダー、小澤さんが広告主、上原さんが媒体、と皆さん立場が違っています。今日はそれぞれの立場からお話いただけたらと思っています。
今日この場にいらっしゃっている皆さんは、最近見た広告で覚えているものはありますか。まずテレビCMは記憶に残ると思います。次に街で見た広告や中吊りは覚えているんじゃないでしょうか。この屋外広告の印象の強さは、そのままデジタルロケーションメディアのパワーになる部分ですよね。
これはサッカーW杯時の渋谷のスクランブル交差点の写真ですが、この中にあるデジタルロケーションメディアはいくつかあるビルの大型サイネージと、たくさんの人が手に持っているスマホの画面です。こういう時間にここにいる人たちに受容される情報は何なのかを考えていくことは大きなヒントになると思います。
DOOH(屋外デジタル広告)は増え続けており、現在では世界で1.5兆円規模の市場になっています。海外ではモバイル広告とデジタルサイネージの両方を使うケースが出始めていて、これらを合わせてデジタルロケーションメディアと呼んでいます。サイネージとモバイル広告を、「位置」をキーにして一緒に扱う動きが出始めています。
これまでの広告枠のバイイングは固定的なものが多かったのですが、デジタルでは「この時間のこの枠を」といった買い方ができるようになってきています。クリエイティブの出し分けもどんどん進んでいます。
効果測定にも新たな手法が登場しています。海外では、カメラを使って広告を見た人の画像を捉え、感情を判断するという仕組みが登場しています。
ご登壇いただいた皆さまにはそういった海外の状況なども踏まえながら、国内の事例について教えていただけたらと思います。

穴原

:当社ではサイネージ同士を連動させるアドネットワークを可能にするテクノロジーを提供しています。既存の複数のサイネージを当社の技術で連携させ、一つのコンテンツを表示する、といった具合ですね。

上原

そういった事例でいうと東京メトロでは、駅にならんだ柱に沢山のサイネージが付いていて、それを一括でほぼリアルタイムに制御しています。TOHOシネマズ様との事例では、映画館のチケット販売情報を駅構内のサイネージにリアルタイムで表示し、駅を通った方が簡単に空席状況を確認できるようにしました。これは潜在的に映画を見たいと思っている方に足を運んでいただくことを狙ってのもので、実際に一定の成果が出ています。
ローソン様との取り組みでは、SNSでのキャンペーン情報をサイネージ上に表示しました。Twitterで二つの商品のリツイートを競わせ、その状況をほぼリアルタイムで表示します。商品のファン以外の方にも目にしてもらうことが狙いでした。
このような事例におけるリアルタイムのクリエイティブ生成は、元々入稿していた素材のパーツと外部のデータを連携させ、一定の閾値を超えたら動的にコンテンツを生成する、といった形になっています。

森山

情報のリアルタイム性を上げていくのも価値の一つですよね。米国のDOOHの事例では、あるデパートが競合の敷地に“ジオフェンス”と呼ばれる仮想的なフェンスを設置し、スマホの位置情報を使ってフェンス内外への人の出入りを把握する仕組みを作りました。その結果、検知されたスマホに独自のIDを付加し、そのID(人)がよく見ている看板やサイネージなどを特定して、店舗への誘引広告を出稿しました。そして広告を見たであろう人のうち何人が自店舗に来店するかという、効果測定までを行ったそうです。これは広告主やメディアなどいろいろな立場の人が協力し合ってできる象徴的な例だと思います。

必要なテクノロジーは整いつつある

森山

今日議論したいポイントは三つあります。一つ目はこの領域に対する期待です。二つ目は“位置”と“リアルタイム”はいかに強力なのか。三つ目はどのくらいの人に届いているかをどうやって測定するのか。
まず、この領域に対する期待をお聞きしたいと思います。

小澤

広告主の立場でDOOHをどう捉えているかというと、物凄くポテンシャルは感じているし興味はあります。でも投資しているか、積極的に使っているかというとほとんどそうではありません。なぜなら、やはり我々としては、テレビやデジタル広告のようにターゲット層に幅広くリーチでき、かつ指標・結果も可視化できる透明性の高いタッチポイントを包括的なメディアプランの中で活用していきたいからです。DOOHはリーチの透明性および妥当性、メディアKPIの測りづらさという観点から中々包括的なメディアプランの土台に乗ってきません。
小さいテストはいくつかやっていますが、その有効的かつ効率的な活用に関しては、まだまだ悩んでいます。もちろん、若い世代がテレビをみないと言われている中で、またデジタルでもリーチできない人が増えていると感じる中で、DOOHを使えば我々がターゲットにしている若い世代をカバーできるかもしれないというポテンシャルは感じています。

森山

確かにデジタルでカバーできない人は増えているかもしれませんが、そういう人も会社に行ったり、どこかを移動して活動しています。そのチャンスを捉えれば何らかの影響は与えられるのではないでしょうか。
海外のとある大学の調査では、消費の7~9割は購入の理由が“無意識”で、理論立ってはいない、という結果が出ているそうです。直感的に、無意識的にくだされる購買の判断に対して、DOOHは大きな役割を果たすのではないかと感じています。
次に、“位置”と“リアルタイム”はいかに強力なのか、という点についてですが、穴原さんMADSの取り組みについて教えてください。

穴原

当社のテクノロジーでは、サイネージへの映像もリアルタイムで配信しています。システムの都合上限界はありますが、基本的にはクリエイティブはリアルタイムで生成していて、一定の条件下でダイナミックにコンテンツを出し分けています。
SNSの特定のハッシュタグに連動させるケースなどが多いですね。このほかには、テスト段階のものもありますが、天気、気温、湿度、花粉などとの連動が可能です。クライアント独自のパラメーターがあればそれを入稿していただくこともできます。 
“位置”と“リアルタイム”の強力さを示す事例ですと、あるエンタテインメント系の事例があります。トリガーはハッシュタグで、ある場所のサイネージについて「一万ツイートが集まったらクリエイティブが変わる」と自社サイトで告知していました。すると朝9時にスタートして5時間でそれを達成してしまったんです。予想外の結果でしたが、どこまでできるかやってみようという話になりハードルを上げて期間を伸ばしたところ、最終的には五日間で31万ツイートを達成しました。サイネージのコンテンツの力を実感しました。

小澤

こういったダイナミックDOOHができるサイネージは現状でどれくらいありますか。

穴原

私たちのネットワークは全国で30万ディスプレイほどあるんですが、その中では1割に満たないです。一方で東京メトロさんのように、全体のサイネージの中では実行できるところは結構あるんじゃないかとも思います。

上原

東京メトロ駅構内のサイネージではほぼどの面でも実行できますし、ダイナミックDOOHの実施実績ということで言うと、東京メトロだけでなく全国に点在する媒体社さんと同時に実施した案件もすでにありますね。

小澤

お話のとおり、すぐにでも実施可能な基盤はあるということだと思うんですが、一方でサイネージを制御する統一の規格が足りていないとも思うんですよ。

買い方の自由度を上げる仕組みが必要

森山

では三つ目の、どのくらいの人に届いているかをどうやって測定するのか、という観点ではいかがでしょうか。

小澤

現状は正直厳しいですよね。そもそも冒頭に申し上げたとおり、タッチポイントをまたいで包括的にメディアプランニングを行う必要がありますが、現状のDOOHはその土台に乗っていない。どうしても枠売りが中心です。一個一個の枠を購入してそれをつなげてやっていけば、と言われるかもしれないですがそれでは手間がかかりすぎる。現状だとDOOHのスケールが伸びないし、本当にターゲット層に届いているかどうかをトラッキングするのも難しいと感じています。

穴原

サイネージのスケーラビリティの確保はアドネットワークの大きなテーマですね。同じ環境・同じ仕組みなら一括で配信できることはありますが、そうでない環境で全体をコントロールするコンソールみたいなものは現状ではありません。それが完成すれば、一気にビジネスは倍々になっていくと思います。

松塚

当社は携帯電話会社のデータを使ってビジネスをしているのですが、DOOH発展の活路はWi-fiにあると考えているんです。渋谷の109MEN'Sには指向性のあるWi-fiがあり、建物の目の前にある渋谷の駅前交差点に向けて電波が飛んでいます。それを使うと、歩行者の携帯電話がWi-fi機能をオンにしている場合に、何時何分にどれくらいの人がそこにいたかが把握できます。それに加えて携帯電話会社のデータを個人情報を守りながら利用できるため、例えば渋谷の交差点に朝と深夜は男性が多く、夕方は女性が多い、とか、土日は若者が多く、平日は35歳以上の人が多い、といったことが分かります。
このWi-fiのデータとサイネージの情報を組み合わせれば、広告がどういった層の人にどれくらい見られたかといったことが定量的に分かるようになるんです。

小澤

今の松塚さんのお話でテクノロジー自体は整ってきていることは分かりました。Wi-fiの技術を使って効果を測定する準備はできているんですね。この点について、媒体側の懸念がありましたら、上原さんに教えていただきたいです。

上原

買い方の話ですが、サイネージの広告をすべて買えるようにするというのは、いきなりは難しいと思います。場所の価値が何らかの形で明らかになったとき、「その場所に広告を出すことに意味があるんだ」という人はまだまだいます。一方で人がいっぱいいて、すごくサイネージが見られているのに、駅としてはそんなに有名じゃないから価値が低く見積もられている、といったケースもあります。現状では価格設定がとても難しいんです。

穴原

RTBはあくまで一つのツールです。同じロケーションでも顧客によっての価値、払える額は違うと思うんです。そういった、顧客による価値の違いも受け入れてもらうための環境を整えるのが必要ですね。RTBのような価格のダイナミズムの仕組みを取り入れることは買いやすさを提供することになり、買いやすさを提供することは顧客数の増加に繋がっていくと思います。

トライアルとして何かをやるようであれば、現状でも人気がある、ある程度売れている枠を、これまでとは違う商品という形で提供する方がいいかなと思います。そうすればRTBにしたからといって必ずしも価格は下がらないと思います。

森山

RTBなら価格が下がると言われたのは昔の話ですし、最近ではRTBのほうが上がるという例もありますしね。
まとめます。デジタルロケーションメディアには可能性があるとそれぞれの立場の方が感じていることが示されましたが、一方で問題もあります。先ほど挙がったような問題をクリアして、RTBのような広告主側の買い方の自由度を上げることが、結果的にスケーラビリティをあげることに繋がります。そして、現時点でもある程度の効果測定ができるということを、事例によって示していくことも必要でしょう。配信や効果測定において必要なテクノロジーは整いつつあるので、これらの課題を乗り越えることがデジタルロケーションメディアの発展にとって大切になると思います。

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  • 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員