LINEヤフーとの協業で始動した「Butterfly project」。データ活用で見えてきた適材適所のタレントキャスティング
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博報堂とLINEヤフーは、両社の保有するデータを掛け合わせたフルファネルマーケティングの強化を目的に、2025年7月31日に協業を発表しました。
関連リリース:博報堂、LINEヤフーとフルファネルマーケティングの強化を目的に協業し、潜在層アプローチからLTV向上までの施策を最適化する「AaaS with LINEヤフー」を提供開始
今回の協業により発足した「Butterfly project(※1)」は、多岐にわたるデータの強みを活かした分析環境を基盤に、企業の課題解決につながる様々な取り組みを推進していく予定です。
その取り組みのひとつでもある「タレントキャスティングモデル」は、ヤフーのデータを軸に、イベントやコンテンツに最適なキャスティングを実現できるソリューションとなっています。
今回は、サッカークラブのイベントPRに起用するタレントを選定する取り組みについて、プロジェクトメンバーに話を聞きました。
湯川 小春氏
LINEヤフー株式会社
コーポレートビジネスドメイン ビジネスPF SBU
データソリューション企画開発ユニット
データマネジメントソリューションディビジョン PEディビジョン
永作 光
株式会社博報堂 プラットフォーマー戦略局
ソリューション開発部
水越 陸太
株式会社博報堂 コンテンツデザイン事業ユニット 事業経営企画室 総合企画部
LINEヤフーのデータ活用で感覚に頼らない“意思決定”が可能に
── はじめに、自己紹介と今回の取り組みでの役割を教えてください。
- 永作
- 私はプラットフォーマー戦略局に所属していて、初任配属からずっとプラットフォーマー関連のデータを扱ってきました。私たちの役割は、デジタルプラットフォーマーが持つデータをどうすればより魅力的なものにしていけるか、収益化につなげていくかを考えることです。
こうしたなかでプラットフォーマーの価値をデータで証明したり、新しい付加価値を作ったりする取り組みをしてきました。幸いにも、今回のプロジェクトでは幅広いデータに触れられる環境があったので、データを活用しながらコンテンツ側で新たな価値を見出せないかという観点で関わってきました。
- 水越
- 私の所属するコンテンツデザイン事業ユニットは、エンタテインメント全般を扱っており、アーティスト関連やスポーツ、漫画やアニメーションといった幅広い領域の案件を担当しています。自分自身はこれまでスポーツ関連の仕事に長く携わってきたこともあり、今回のプロジェクトではデータを活用することで、クライアントにとってどのような効果が見込めるかを一緒に検討させていただきました。
- 湯川
- 私は博報堂の皆さまとご一緒しながら、弊社が持つ色々なサービスに関連するデータと、博報堂が保有するデータやナレッジなどの資産を掛け合わせて、新しいマーケティングソリューションを共創していくことに注力しています。今回の案件に関しても、やりたいことや実現したいアイデアに対して、LINEヤフーのデータをどのように活用するのが最適かをおふたりと検討し、施策を形にしていくサポートを担当しました。
── LINEヤフーのデータ活用によるコミュニケーション施策を開始したのには、どのような経緯があるのでしょうか?
- 水越
- コンテンツホルダーの企業を支援するなかで、コンテンツのパワーを数字で示すことの難しさに直面していました。例えば、スポンサーセールスの際に「イベントの来場者数」や「人気度」は伝えられても、マーケティング効果を具体的に数値化するのが難しいという課題を抱えていたのです。
最近は企業側から投資対効果を明確に求められる傾向が強まっており、イベント協賛の価値をどのように定量的に示せるかが大きなテーマになっていると感じています。イベントの企画立案の際に、芸能人やタレントをキャスティングする場合も、感覚や相性で「この人を呼んだら良さそう」と判断するケースが多く、責任者に説明するときに「なぜこの人を起用するのか」という理由を根拠立てて説明できないと社内調整に時間を要する原因になります。
特にスポーツ業界は試合のスケジュールが決められており、スピード感が求められる世界なので、意思決定が滞ると後々すごく大変になってしまうんですね。このような課題感を持っていたなかで、プラットフォーマーのデータを活用して定量的に示せる仕組みがあればいいのではと思い、プラットフォーマー戦略局に相談を持ちかけたのが最初のきっかけでした。
- 永作
- データの分析・活用をするうえでは、プラットフォーマーとどのように協業することでコンテンツを盛り上げていけるかを考えていました。LINEヤフーで言えば、LINE公式アカウントやYahoo!ニュースなど、多くのユーザー数を誇るサービスが多いので、そういった強みをどう活用していくかも意識しながらプロジェクトを進めていきました。
- 湯川
- マーケティングにおけるデータ活用は、購買やコンバージョンを起点とした分析や効果検証が多いと思います。ですが、弊社には検索やニュースといった多様な接点があるため、「ユーザーとブランドや商品をどう結びつけるか」という観点でもデータを活かせる余地が大きいんですよね。

LINEヤフーのデータを使えば、「どのタレントやコンテンツが自社のブランドと相性がいいのか」ということも、感覚ではなく実際のデータをもとに可視化できるわけです。コンテンツという新しい領域でのデータ活用にすごく可能性を感じましたし、とても意義のあるプロジェクトだと実感しています。
キャスティングを最適化できる仕組みでファンやスポンサー獲得を支援
── 今回の取り組みについて詳しく教えてください。
- 永作
- 今回の取り組みはサッカークラブの事例だったのですが、キャスティングの成否を決めるのは、ファンがどう受け止めるかだと私は捉えています。コンテンツとタレントの「相性」を測るうえでは、ファンにとって“納得感”のある人選が重要だからこそ、まずはコンテンツやタレントのファンをどう定義するかを考えました。
この点でLINEヤフーさんの持つ検索データや位置情報データが大きく役立ちました。
それらをもとに「コンテンツファン」「タレントファン」のユーザー群を抽出し、両者の類似性や属性の近さを分析することで、相性を可視化することができるようになります。具体的なアプローチとしては、興味関心データや属性データを変数に組み込み、機械学習モデルを用いてファン同士の親和性をスコアリングしました。そうすることで、「このコンテンツにはタレントAが最も相性が良い」といった判断を客観的に示せるわけです。
さらにこの相性分析は「新規のファン」と「既存のファン」という軸でも切り分けられます。検索行動や会場来訪履歴などから両者を定義し、どちらをより重視するかによってキャスティングを最適化できる仕組みになっていて、「新しいファン層を開拓するためにタレントBを起用する」といった判断もデータで裏付けられるようになっています。

- 水越
- これまでコンテンツホルダーやタレント事務所も、それぞれ自社のデータやSNSフォロワー数といった情報は持っていました。ただ、それはあくまで単一の情報にとどまっていて、最終的なキャスティングやタイアップ先のコンテンツの判断材料としては物足りなさがあったと思っています。今回LINEヤフーと連携することで、データがより体系的に整理され、可視化された点は大きな価値だと感じています。
LINEヤフーのデータは、ファンが日常生活の中での検索行動などに表れる無意識の好みや特徴を反映しているため、クラブ側やコンテンツホルダー単体では取得できない貴重なデータです。そうした点が、サッカークラブに施策を提案した際の説得力にもつながりました。
タレントキャスティングについては、どうしても「意識調査やアンケートに頼るしかない」「肌感覚に近い形で判断している」といった声も多く、ある種の手詰まり感があったのも事実です。そういう意味でも、今回のアプローチは一つの突破口になり得るのではないかと感じています。
私自身、コンテンツ事業を主軸にやっている立場として思うのは、コンテンツの世界では協賛ビジネスが大きな柱の一つになっているということです。スポンサーにお金を投じてもらうためには、単に「コンテンツに価値がある」と言うだけではなく、LINEヤフーのようなパートナーとともに、「コンテンツを活用すればこんな施策やサービスが展開できる」というのを具体的に示していくことが必要だと思っています。
そうした新しい仕組みやソリューションを一緒に作り上げていくことで、結果的にコンテンツホルダーにもっと資金が集まる流れをつくっていきたいですね。

生活に根ざしたYahoo!ニュースのフォローデータから「ファン度」を可視化する
── 今回の取り組みを実践してみての気づきや良かった点は何ですか?
- 永作
- 分析結果が出てきた時に、ある種予想通りのところも多かったんですが、「自分の感覚で捉えていたことが数字として裏付けられた」のは大きかったですね。
感覚的なものを、エビデンスを持って語れるようになったのは、すごくいいなと思いました。本当に今回のプロジェクトは、いろんな可能性を広げてくれる良いきっかけになったと感じています。
- 水越
- 永作が話したように、今まで肌感覚で語られていたことをエビデンスで示せるようになったのは、現場でもすごくプラスに働いたと感じました。ただ、実際には分析結果通りにすべてがスムーズに進むわけではなく、サッカークラブと芸能事務所との関係性などもありますし、キャスティング費用の折り合いといった現実的な事情もあります。そうしたなかでも、ひとつの指針を持てるというのは大きな意味があるのではないでしょうか。
実際に提案の場面では、過去に起用したタレントと候補に挙がっているタレントを対象に分析し、新規顧客と既存顧客のそれぞれに「相性が良い人」「片方だけに強い人」といった具合に分類することができました。
そこで見えてきたのは、過去に起用したタレントでも、新規顧客と既存顧客の両方に相性が良いという結果が出てきたことから、必ずしも毎年新しいタレントを起用する必要はなく、過去に起用した人に再度打診するのも有効なのではという気づきでした。常に新しい施策を更新しなければならないと思い込んでいたところが、実は意外とそうでもないかもしれないと視点が広がりましたね。
──ヤフーのデータを使って出せた強みはどこにあると感じていますか?
- 永作
- 人々の行動データには意識的なものもあれば無意識なものもありますが、ヤフーはニュースや検索、乗り換え案内など、日常生活と深く結びついた多様なサービスが揃っているぶん、その人らしさや行動の特徴が自然に表れやすいと考えています。他のSNSの場合はどうしてもプラットフォームごとに癖が出やすい一方で、ヤフーやLINEの場合は使い方の色がつきにくく、日常生活の延長線上で利用されているからこそ、生活者の“素の姿”が反映されやすいのだと思います。
今回も、タレントのファンを定義づける際にYahoo!ニュースの「フォロー機能」のデータを活用しましたが、これが非常に役立ちました。生活に根ざしたデータであるからこそ、ファンの定義もスムーズに行えたんです。良い意味で癖がないというか、利用者の生活スタイルや価値観が自然とデータに表れたのは非常に良かったと感じています。
将来的には、多くのコンテンツホルダーが活用しているLINE公式アカウントとの連携も進めていきたいですね。そこから得られるリアクションを見ながら、コミュニケーションの精度をさらに高めていくことで、ファンの熱量を一段と引き上げられるのではと予測しています。
さらに、LINE公式アカウントに登録しているユーザーの「ファン度」をデータで定義していき、その数値を基準に様々なタレントとのコミュニケーション施策を展開することで、ファンエンゲージメントの向上にもつながると考えています。
- 水越
- タレントキャスティングモデルは、ユーザーとの親和性をスコアとして算出します。そのスコアをもとにセグメントして、ターゲットごとに広告を配信するといった施策も将来的には実現したいと考えています。タレントを起用する際には必ず狙いたいターゲット層があり、その層に向けて適切に情報を届けるターゲティングやセグメントの設計を、実データに基づいて行いたいというニーズは確実に存在するので、今後はそうした仕組みづくりに注力したいですね。
データとコンテンツの融合がもたらす「新しい価値」
── 今後データを使った取り組みをどう広げていきたいか、それぞれの思いをお聞かせください。
- 永作
- 自分自身、コンテンツビジネスを盛り上げることには強い関心がありますが、以前まではデータやデジタルとコンテンツがうまく結びついているイメージがあまりなく、どちらかというと離れている印象がありました。それが今では、データとコンテンツを組み合わせて新しい価値を生み出すことにすごく可能性を感じています。LINEヤフーが保有するデータやサービスの特性を見ると、コンテンツとの相性は非常に良いと思っていますし、今回のような取り組みを今後さらにコンテンツ領域はもちろん、企業のマーケティング活動にも広げていきたいですね。そしてコンテンツ領域と広告主をうまくコラボレーションさせることで、コンテンツファンとブランドファン双方に満足してもらえるような体験を作り出すことにチャレンジしていきたいと思っています。

- 水越
- 日本のコンテンツ産業をもっと盛り上げて、しっかり収益を生み出していきたいという思いがあります。そのためにも、プラットフォーマーとより密に連携しながら取り組んでいきたいと考えています。当社の強みのひとつは、スポーツに限らず、他のエンタメ分野にも幅広く関わっている点です。この強みを活かして、数量的かつデータドリブンなアプローチでコンテンツホルダーに提案していきたいですね。今回のキャスティング領域に限らず、協賛やCRMなどもサポートできるノウハウやサービス、仕組みを整えて、様々な出口を作っていければと思っています。
- 湯川
- LINEヤフーはオンラインでのコミュニケーションと親和性が高いという印象を持たれることが多いですが、今回の取り組みを通じて、オフラインイベントの企画・運営における新しいデータ活用の形を築くことができました。これにより、広告や販促を越えた新しい領域での貢献が可能になったと考えています。
また、弊社のデータを用いることで、タレントとの相性の可視化にとどまらず、相性の良いユーザーの分析やターゲティング、さらには態度変容の検証まで支援することができます。こうした多面的な活用により、取り組みの幅は今後さらに広がっていくと思います。
- 永作
- 最近は、ショート動画などの影響もあり、楽曲やタレントが次々に生まれたり消えたりする環境になっています。そうしたなか、スポーツ興行の領域で言うと、予算やスケジュールの制約がある前提のうえで、次に来そうなタレントや相性の良い人材を事前に把握できることが大事になるわけです。つまり、「未来予測」というよりも「可能性の兆し」を捉える分析ができれば、「今のうちにキャスティングしておくと効率的で費用対効果が高い」という提案ができるようになるでしょう。
実際に、広告主からも旬なコンテンツの情報を迅速に提案してほしいというニーズがありますが、現状はその整理や提供の仕組みが明確になっていません。ここをプラットフォーマーと連携してシステム化し、予兆モデルのようにすぐに出せる状態を作ることができれば、非常に強力な支援になるのではと考えています。
- 湯川
- LINEヤフーが今後目指しているのは、今回の取り組みのように提案や事前のエビデンスを可視化するところからさらに一歩進めて、実際の施策につなげていくことです。相性の良いターゲットや、特定のタレント・コンテンツが好きな人たちに向けて効率的にコミュニケーションを展開することで、さらに成果の最大化に寄与できるのではと捉えています。
例えば、テレビCMでタレントを起用する場合もデータを活用することで、よりターゲットに届きやすいプランニングが可能になります。最近ではTVerへのインストリーム広告なども活用できるので、事前のターゲットの可視化から広告配信まで、一気通貫でトータルソリューションとして提供できるのが強みだと考えています。
また、博報堂との協業を通して発足した「Butterfly project」では、LINEとヤフーのデータを分析環境に組み込み、実際の施策に落とし込めるような仕組みを提供しています。具体的には、LINE公式アカウントの友だちと相性の良いタレントを可視化し、そのタレントを起用したコンテンツをLINE公式アカウントの施策に展開して、友だち数の増加や継続的なコミュニケーションを重ねていくことも可能になります。
LINE公式アカウントではユーザーが心地よいと感じるようなコミュニケーション設計が欠かせません。そのため、タレントやコンテンツをうまく活用し、自社ブランドとの親和性を意識した発信を行えば、離脱を抑えつつCRMの広がりにもつながると考えています。今後も博報堂との「Butterfly project」の中で、CRM領域をはじめとする企業のマーケティング活動に貢献するソリューションの提供を推し進めていきたいです。

(※1)「Butterfly project」とは:
LINEヤフーと博報堂の共同分析プロジェクトの名称。広告データだけではなく、広告関連以外のLINEヤフーのサービスデータにもアクセスもできる業務委託分析環境を基盤とする。
*業務委託分析環境下で生成されたレポートは、LINEヤフー社のポリシーに沿った統計情報のみが外部に提供されます 。
<所属部署・肩書は取材当時のものです。>
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湯川 小春氏LINEヤフー株式会社
コーポレートビジネスドメイン ビジネスPF SBU
データソリューション企画開発ユニット
データマネジメントソリューションディビジョン PEディビジョン
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株式会社博報堂 プラットフォーマー戦略局
ソリューション開発部
-
株式会社博報堂 コンテンツデザイン事業ユニット 事業経営企画室 総合企画部


