
ヒット習慣予報 vol.379『可処分時間化』

こんにちは、ヒット習慣メーカーズの山田です。
観測史上最も暑い夏も漸く落ち着き、日の短さを感じるようになってきました。
空が明るいうちに退社できると、「気になるお店にちょっと寄ってから帰ろう」「軽く一杯飲みにいこう」と終業後のプライベート時間の予定をワクワクしながら立てていましたが、最近はすっかり暗くなってしまっているので「早く帰って明日の準備をしないと!」と焦ることが多くなってきました。
しかし自分のために使う時間がないと日々が味気なくなってしまうので、何とか捻出しようと試行錯誤しています。
このように、忙しい日々においても睡眠や仕事、家事やトイレなど生きていく上で最低限必要な時間を差し引いた残りの時間=可処分時間を増やそうとする動きを「可処分時間化」と名付け、ご紹介できればと思います。
まず一つ目は、バスタイムの可処分時間化です。
「風呂キャンセル界隈」という言葉が社会現象にもなって久しいですが、お風呂は可処分時間を圧迫するもの、なるべく短縮したいもの、もはや入りたくないものという考えの人も多いことが伺えます。
「風呂キャンセル」という言葉をGoogle Trendsで見てみても、2024年の4月頃に大きく知名度を上げて以降、現在でも一定数の検索がされていることがわかります。
出典:Google Trends(「風呂キャンセル」検索量)
そんななか、あえてバスタイムに手間暇をかけ質を上げることで、お風呂タイムを積極的に可処分時間にしようとする動きがあります。
アロマキャンドルや少し贅沢なバスボムなどを使用し、ドラマやアニメなどを鑑賞しながらゆっくりお風呂に入ることで、バスタイムを「生きるために強制的に取らなければならない時間」ではなく、「好きなものに囲まれて心身ともにリラックスできる自分へのご褒美時間」として捉えなおすのです。
SNS上でも「ぽこぽこ」「ぷくぷく」と泡がはじけるようなBGMに乗せて、優雅な入浴ルーティーンや入浴後のスキンケアルーティーンをvlog形式で紹介する人たちが増えており「ぽこぽこ(ぷくぷく)界隈」とも呼ばれています。
実際のSNSの投稿を見て見ると、元「風呂キャンセル界隈」の人が脱「風呂キャンセル」のためにぽこぽこ(ぷくぷく)界隈として活動している様子も見受けられます。
2つ目は通勤時間の可処分時間化です。
通勤時間を短くするために会社の近くに住むのではなく、あえて遠くに住み通勤時間を長くしてでも通勤時間の質を上げ、可処分時間化を図ろうとする動きです。
実際、私の友人にも、会社までの距離は遠くなるものの必ず座れる始発駅に住む人や、グリーン車がある新幹線・特急系列車の沿線に住む人が増えています。
友人たち曰く、通勤時間自体は以前より長時間化したものの、ゆったり座って読書や勉強をすることができ、通勤時間への満足度はむしろ高まったそうです。
3つ目は睡眠時間の可処分時間化です。
仕事や家事に追われ通常の活動時間の中で可処分時間を作れなかった際に、睡眠時間を削ってでも可処分時間を増やそうとする動きで、「リベンジ夜更かし」や「報復性夜更かし」とも呼ばれます。
リベンジ夜更かしについてはヒット習慣予報vol.340「なんでもリカバリー」でも取り上げていますが、折角の休日を有意義に過ごせなかった時だけではなく、一見充実しているかのように思われる仕事や家事で忙しい平日でも、可処分時間が不足していると満足度は低くなってしまうようです。
大前提、必要な睡眠時間を削ることは健康的にも良くありませんが、SNS上でも後悔しつつもリベンジ夜更かしをしてしまう報告が多く見受けられます。
かく言う私もよくリベンジ夜更かしをしてしまう一人でして、一日が仕事だけで終わってしまうのが悲しく、健康的には良くないこととはわかりつつも夜遅くまで映画を見たり、ネットサーフィンをしてしまいます。
ただし、睡眠時間を削って翌日のパフォーマンスが落ちてしまうと、また可処分時間が短くなり負のスパイラルから抜け出せなくなってしまいます。
そこで、同時に睡眠の質をあげるための対策をしている人も多いようです。
私の周りでもリベンジ夜更かしをしてしまった日は睡眠の質をあげるサプリを飲むようにしている友人や、「まるで○時間多く睡眠をとったような肌に」と言った謳い文句のコスメをスポット使いしている友人が多くいます。
このような可処分時間化の動きが生まれたのは、主に2つの要因があると考えられます。
一つは、タイパ意識・効率意識の高まりです。
費やす時間に対する効果や価値、満足度を高めようとするタイパ至上主義、効率至上主義が行き過ぎた結果、極限まで「無駄」を削り落とした面白みのない生活に、息が詰まる思いをしている人も多いでしょう。
その状態からの反動で、無駄だと認識していたものに価値を見出す逆転の発想が求められるようになってきたのではないでしょうか。
そしてもう一つは社会的役割のマルチタスク化です。
家庭と職場、さらに副業など様々な役割を同時並行的に担うことが求められる風潮が強まり、どこまでが「やらなくてはいけないことをする時間」でどこからが「自分のための時間」なのかがわかりづらくなってきています。
これまでは自然とオンオフを分けて生活することができていましたが、意識的に可処分時間を作らないとならない状況になってきたのではないでしょうか。
最後に、「可処分時間化」のビジネスチャンスとして下記のようなことを考えて見ました。
「可処分時間化」のビジネスチャンスの例
■トイレ時間を充実させてくれるトイレ専用インテリアグッズ
■ゆっくりと食事を楽しみ、食育も兼ねたスローフードをコンセプトにしたレストランやミールキット
■飛行機のトランジットの間だけ参加できるコンテンツ・アクティビティサービス
タイパ・効率を意識し無駄を削っていくことも大事ですが、無駄を楽しめる余裕をもち、豊かな生活を送れるようになりたいと思います。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 ビジネスデザイン局/ストラテジックプラニング局
ヒット習慣メンバーズ メンバー2022年博報堂入社。趣味は旅行で、休日は常に複数の旅行計画に追われている。
秋のメキシコ旅行に向け、スペイン語をゼロから勉強中。