
メタバース生活者たちと共にデジタル世界のこれからを考える 番外編~ラボメンバーと考える「メタバース世界への誤解」~
目次
博報堂は、2024年11月に、メタバース空間における新しい生活者価値の創出と、イノベーションを生み出すことを目指し、研究員全員がメタバース生活者当事者によって構成されたコミュニティ型プロジェクト「メタバース生活者ラボ®」を設立しました。
連載「メタバース生活者たちと共にデジタル世界のこれからを考える」では、メタバース生活者同士の対話を通じた探求を軸に、ゲストとの対談や研究員同士の語り合いから、新しい視点や価値観を見つけていきます。
本記事では、番外編としてメタバース生活者ラボリーダーの瀧﨑が、「メタバースへの誤解」をテーマに、メタバースなどの新しい技術が生活者に根付くためのヒントを考えていきます。
メタバースの誤解①「VRゴーグルがないと、メタバースは体験できない」
メタバース生活者ラボ内で、「周囲の人が、どうしたらメタバースサービスを利用してくれるのか?」というテーマで議論した際、「VRゴーグルなどの専用機器がないとできない」という誤解が周囲によくあることが話題にあがりました。
もちろんメタバース生活者ラボで研究対象としているような、アバターを用いるオンラインゲーム等は「PCやゲーム機だけで体験できる」という正しい認識を持っていただいていることが多いですが、特にゲームとして印象を持たれていないメタバースプラットフォームについては、上記のような誤解を持たれているケースが多いことがわかりました。
実は、実際のメタバースプラットフォームユーザーでも、常にVRゴーグルを利用している人ばかりではなく、シーンに応じて使い分けていたり、PC画面上だけで楽しむユーザーも多いのです。研究員の中でも、「このワールド(メタバース空間)は、VRゴーグルをつけて楽しもう」というモチベーションで切り替えている人もいました。
博報堂DYホールディングスが実施した「メタバース生活者定点調査2024」でも、メタバース利用層におけるVRゴーグル所有率が約1割にとどまるという結果になっていました。
また、PCやゲーム機器等だけで楽しんでいたユーザーが、あとからVRゴーグルを購入する…というケースもあり、今はまだ「興味があれば、実は気軽に体験できる」ということが知られていないのかもしれません。
メタバースの誤解②「他人との交流が必須である」
さらに、メタバースの利用を躊躇させる原因の1つとして「他人とのコミュニケーションが必須である」と誤解している人が多いのでは?とも話題にあがりました。
先ほど述べたようなメタバースプラットフォームでは、設定や自身のスタンス次第では実は1人でも十分に楽しむことができるのですが、これも多く知られていない印象がありそうです。
実はVRゴーグルをつけて、行ったことがない海外の世界観を一人でゆっくり楽しんでいる人や、自分のアバターの写真を黙々と撮っている人も多くいます。ついメディアには、「沢山の人が交流を楽しんでいる」というシーンが取り上げられることが多いですが、実は遊び方は様々です。
実際にメタバース生活者ラボが2024年2月に実施した調査でも、「メタバース空間で体験したい/し続けたいこと」として、「景色の写真を撮る(23.0%)」「様々なファッションやメイク等を楽しむ(22.4%)」など、他人との交流を前提しない体験をあげる人も多くいました。
また、逆にオンラインゲームの中でも、メタバース空間のようにテキストチャットやボイスチャットを通して交流を楽しむことができる…ということが知られていないケースも多いように思います。(実は私も、最初はオンラインゲームを通して、見知らぬ人との交流の楽しさを知りました)
メタバースの誤解③「集中しないと楽しめない」
これまで述べたように、実はメタバース空間はVRゴーグルがなくても体験できたり、一人でも楽しめたり、気軽に参加できる側面を持っています。だからこそ、「やるぞ!」と集中しないと楽しめないものではなく、「ながら」でも楽しめます。
実際に、過去インタビューをしたメタバース生活者の方には、「ご飯を食べながら、メタバース空間で楽しんでいる人を眺めている」という方や、「VRゴーグルをつけたまま睡眠をしている」もいました。
新しいテクノロジーへの先入観を捨て、「当事者」となる大切さ
このように実は、「メタバース」には多くの誤解が生まれてしまっており、興味関心がある生活者との間に壁を作ってしまっている可能性があります。
過去にこの誤解を抱えていた現ユーザーの多くは、「先住メタバースユーザーの人から、いろいろ教えてもらえた」と語る人が多く、その中には実は「思い切って一人でメタバース世界に飛び込んでみたら、たまたま会った人が優しくいろいろ教えてくれた」という人も少なくありません。
テクノロジーの進化が著しい昨今で、メタバースに限らず、先入観による誤解を持たれるサービスはこれからも生まれてしまう可能性も高くありますが、その時に鍵となるのは「案内人の存在」と「飛び込んでみる勇気(まずは体験してみる勇気)」なのかもしれません。
番外編では、メタバースの世界から少し視野を広げ、新しいテクノロジーやデジタルサービスに触れるヒントについてもお届けしていきます。本編とあわせて、ぜひご期待ください!
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博報堂 研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 上席研究員
メタバース生活者ラボ リーダー2015年入社。メタバースを中心とする自らのデジタル生活体験・交流経験を生かした「当事者研究」の視点を大切にしながら、「デジタル生活者発想」をキーワードに、SNSやメタバース等のデジタル空間ならではの生活者の意識・行動を研究中。メタバースやSNS等のデジタル接点を活用したサービス開発やコミュニケーション戦略立案にも従事。「博報堂若者研究所」「メディア環境研究所」にも所属。