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生活者発想を高度化させるデータ・エクスチェンジプラットフォームとは?
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生活者発想を高度化させるデータ・エクスチェンジプラットフォームとは?

博報堂DYホールディングスは企業や団体の多様なニーズに応じてデータを統合し活用することを可能にする「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム(DEX)」の構築を目指し、「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム設立準備室」を設置したことを発表しました。データホルダー企業・団体にとってはこのプラットフォームに参画いただくことで、データを活用した新たなビジネスチャンスの創出が期待できます。またデータを活用する企業・団体にとっては、これまで利用することができなかった外部データを用いてマーケティングやサービス開発などができる可能性が広がります。

博報堂DYグループが当事業に参入する狙いやサービスの特徴やデータ利活用の安全性について同社データ・エクスチェンジ・プラットフォーム設立準備室で共同リーダーを務める青木雅人、小西克己に話を聞きました。

-まず、お二人の経歴からお願いします。

青木

データ・エクスチェンジ・プラットフォーム(DEX)設立準備室の青木です。共同リーダーという肩書きの他に、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター長も務めています。センターが持っているデータをDEXに移植出来るよう、連携を取る役割も担っています。

小西

同じく共同リーダーの小西です。私は4月からこのプロジェクトに参加しました。以前はマクロミルの代表をしており、データビジネスをマネジメントした経験があります。今回参加を決めたのは、DEXに繋がるこれまでの博報堂DYグループのデータビジネスに関する取り組みが、外部から見ていても非常に魅力的に思えたからです。

-DEX事業を始めることになった経緯を教えてください。

青木

当社としては「データでビジネスをする」という前に、「生活者発想」を重視するという視点でビジネスを続けてきました。生活者発想を高度化しようとする中で、徐々に生活者のいろいろなデータが取れるようになってきた。そこで、データから生活者の365日の生活について可能な限りを知ることが出来れば、広告ビジネスやマーケティングビジネスに効果的に繋げられるのではないか、と考えるようになりました。
こうした流れの中で博報堂DYグループはテレビの視聴率データ、購買データ、グループ会社のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)が持つWebのCookieなど、様々なデータを生活者DMPとして保有してきました。そして近年では、これらのデータを生かした様々なビジネスを展開しています。
データの提供や共有に関するビジネスは、これまでにも先進の流通系のプラットフォーマーがいろいろなアラインアンスを組んだり、データプラットフォーマーや他の広告会社が参画するなど、非常に競争が激しくなっています。我々もデータマーケティングをより発展させるためには新たな取り組みが必要だと考え、2012年から国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)の本村陽一先生と共同研究を行い、2015年に立ち上がった産総研の人工知能技術コンソーシアムではデータプラットフォームWGとして活動してきました。こうした活動をより本格化させるため、今回DEXという形で外部にデータを提供するプラットフォームビジネスを始めることになりました。
実はプラットフォームについては、現在の中期経営計画が始まった2014年の段階で構想していました。3年程たった今、様々なデータが揃い、匿名化技術「k-統計化」、及び、データを連携させる独自のハブ化技術「データフュージョン」も開発が進み、この組み合わせ技術で特許を取れたこと、そして、これらを活用した新しいデータ提供ビジネスを始められる段階にきた、ということです。

小西

今回、DEX事業を立ち上げるための準備室をスタート出来ると判断した理由は、我々の特許技術を活用すれば、取得可能なデータが増え、効果的な活用ができるようになってきたことが大きいです。
ここ数年でバイタルデータや位置情報のデータなど様々なデータが取得出来るようになりました。また今後IoT化がさらに進むと、例えばスマートメーターによって家電の使用状況が分かり、「17時に家に帰って来て、その後に火力が強いものを調理しているから中華を食べたはず」といったことまで分かるようになると思います。そうなればデータ活用の効果はさらに高まるでしょう。

-k-統計化、データフュージョンなど、博報堂DYグループ独自の技術について教えてください。

小西

k-統計化は似た特徴を持つ複数人のデータを使って仮想個人を作る技術です。例えば博報堂の女性新入社員10人を選び、その顔立ちや身長などを平均化したとします。出来上がるデータは特定の誰かではなく、“博報堂の女性新人社員”というクラスタの特徴を有したものです。そして個人情報のように具体的な数字やデータとして扱うことが出来ます。一方で仮想個人のデータはこの世に存在しない人のデータですから、管理コストや漏洩に伴うリスクを抑えることができます。

博報堂と博報堂DYメディアパートナーズ 2014年新卒採用サイトより

一般的な匿名化技術ですと、何か問題があった際に個人を特定される恐れがあったり、データ自体を抽象化してしまい具体的なアクションには利用出来ない、といった問題があります。k統計化はこうした課題を解消した技術だと言えます。日本の情報法やセキュリティ等の専門家が集まる「情報法制研究所(JILIS)」の報告書でもk統計化は企業にとって有用な技術であると紹介されています。
データフュージョンは、k-統計化で作った仮想個人のデータや、クライアント企業が持っている顧客データ、当社が持っているアセットなどを繋ぎ、効果的なマーケティングや分析を出来るようにする技術です。

青木

データフュージョンによるデータの繋ぎ方は様々ですが、例えばグループ会社であるDACのCookieの技術が使える場合はユーザーがどのようなサイトを見ているかが分かるので、これを軸にすることがあります。例えば関東で売り上げを伸ばそうとしている自動車メーカーがクライアントだとして、「ドラッグストアで新生児向けのおむつを買っている→家族が増えた可能性が高い→ミニバンなど、クルマの買い替えを検討するタイミングではないか」という仮説があるとします。その場合、まずクレジットカード会社などが持つ個人情報のデータをk統計化し、クラスタごとに仮想個人を作ります。その後、自動車メーカーの見込み顧客リストと先ほどk統計化したデータを「ドラッグストアのホームページを見ているか」「関東に住んでいるか」などを基準にして繋ぎ合わせます。すると、見込み顧客リストの誰がミニバンを新規購入する可能性が高いかということや、k統計化したクラスタにおいても新規購入の可能性が高いクラスタはどれかといったことが分かります。

小西

クライアント企業は自社の顧客データを基に営業をすることが出来ますし、データホルダーであるクレジットカード会社に「新規購入可能性が高かった、AとCの仮想個人向けにDMを打ちたい」と依頼することも可能です。AとCは実際はある特徴によって分けられた複数人の集団です。この集団が誰であるかを自動車会社が把握することは不可能なのですが、カード会社に依頼してAとCの基になったクラスタにDMを送ることが出来ます。

青木

先ほどのCookie以外にも一般的なアンケート結果や位置情報など様々なデータをハブにしてデータを繋ぎます。アンケートの場合、例えばヘルスケア会社がクライアントで、調査会社が健康リスクについてアンケート調査をしているようなケースが考えられると思います。日本人の健康リスクは「肥満」「血液がドロドロ」など20パターン程度に限定されるそうです。また健康のための行動も「ジムに良く行く」「食生活に気を付けている」「こんな薬を飲んでいる」など数パターンに類型化できます。これらを組み合わせると20×20の400パターンである程度分類できるので、アンケート結果とヘルスケア会社の顧客データを連携すれば、「この分類には自社製品がリーチしていないので、そこに対してアピールしよう」などといった判断が可能になります。

-DEXには、博報堂DYグループとクライアント企業以外にどのような企業・団体が関わるのでしょうか。

青木

まず調査会社やクレジットカード会社のようなデータホルダーですね。当社のアセットをデータとして使うこともあるので、当社がデータホルダーの役割になることもあります。データホルダーには、当社が開発したk-統計化ツールを提供します。各社が自社のデータをk-統計化してから当社に送る形になるので、当社が個人情報を直接受け取ることはありません。
データホルダーから受け取ったデータは、DEX上で様々なデータと繋ぎます。先ほどの例ではクライアント企業のデータと繫ぎましたが、その前にも我々が持っているデータと可能な限り繋ぎ、様々な切り口を持てるようにしておきます。
DEXのシステム構築や運用は当社のほか、システム開発会社にも協力を仰ぎます。データの結合や分析でも協力を御願いしていくつもりです。
クライアントにデータを提供する際には、必要なデータをそのまま提供するということではなく、博報堂DYグループの事業会社(博報堂や大広、読売広告社、博報堂DYメディアパートナーズ等)から「このデータとこのデータを結びつけると有効な視点が得られるはずです」といったコンサルテーションやCRMのリッチ化・DMPの構築・効果的な広告配信といったソリューションとして提供していきます。ただのデータの切り売りでは、クライアント企業が十分な成果を得られないと考えるからです。

-DEX準備室設立を発表して、手応えはいかがですか。

青木

1000万人以上のデータを持っているデータホルダーからの反応は極めていいですね。ご興味を持っていただいています。DEXの価値を最大化出来るよう、2019年のサービス開始までに多くのデータホルダーと連携出来る体制を築きたいと思っています。

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  • 株式会社博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 室長 兼)株式会社博報堂 研究開発局長

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