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縦型ショートドラマ配信アプリ「UniReel」に見る、縦型動画の制作の秘訣とは ~プロデューサーと演者が語る!「職場ギャンブラー」の舞台裏~
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縦型ショートドラマ配信アプリ「UniReel」に見る、縦型動画の制作の秘訣とは ~プロデューサーと演者が語る!「職場ギャンブラー」の舞台裏~

メディアの多様化が進む今。一人ひとりのユーザーの心をつかみ、深く響くコンテンツの生み出し方、その届け方もまた多様化しています。メディア企業に限らず、事業会社を含めて多くの企業が事業運営の一環として“コンテンツ”の提供に取り組む中、博報堂でもこのテーマを模索しています。
縦型ショートドラマ配信アプリである「UniReel」で配信されたドラマ、「職場ギャンブラー」に注目。プロデューサーの博報堂・熊田泰祐と、主演を務めた女優の加藤千尋さん、またドラマ初出演となるラッパーのSKRYUさんに話を聞きました。

女優/アーティスト 加藤千尋/セントチヒロ・チッチ氏
ラッパー SKRYU氏
博報堂 エンタテインメントビジネス局 コンテンツプロデューサー 熊田泰祐

ある日突然、ギャンブルに巻き込まれる?!「職場ギャンブラー」

――2025年4月、「UniReel」にて配信がスタートした作品「職場ギャンブラー」について、まず、あらすじを教えてください。

「職場ギャンブラー」キービジュアル 

加藤
このドラマは、ごく普通の会社を舞台に、社員たちがボーナスを賭けて戦うことになる物語です。私が演じた主人公・浅沼加奈子は、内気で真面目な総務部の社員ですが、ある日突然、生き残りをかけたギャンブルに巻き込まれてしまいます。毎回の多彩なゲームや、加奈子が同僚たちとどう戦っていくのかも、見どころになっています。
熊田
父親の手術費をつくるために、だんだん心理戦に本気になっていく加奈子の成長物語としても楽しめます。加藤さんの目の演技も回を追うごとに熱を帯びてくるので、そこにも注目していただきたいです。

――どのようなターゲットを想定して制作されたのですか?

熊田
縦型ショートドラマは10代に主に広がっていますが、今回はまだ視聴習慣がない層にアプローチしたいと考え、20代の社会人を主なターゲットとして“職場”を舞台に設定しました。

――加藤さんは、今回が初主演ドラマだったそうですね。オファーを受けて、物語や役柄などどのように感じられましたか?

加藤
普段からミステリーやサスペンスが大好きなので、オフィスという場でギャンブルをしていくという設定に惹かれました。同時に、加奈子という役柄はごく普通のOLなので、私の人生経験とどう重ねられるかが大事だなと感じました。
ただ、台本を読み込んだり、実際に現場で他の演者さんとお芝居をしたりすると、加奈子を取り巻くキャラクターの個性が本当に強かったので(笑)。私自身の素のテンションが低い部分を軸にしながら、楽しんで演じられました。初めての主演だったので、現場をどう引っ張っていけるか、考えながら進めさせていただきました。

――一方でSKRYUさんは、これが俳優として初挑戦のお仕事になったとのことですが、どのような感想を持たれましたか?

SKRYU
もともと、お芝居の仕事にも興味があったので、オファーをいただいたときはとても光栄でした。現場ではすごく緊張しましたが、皆さんの演技に見入っているうちに無我夢中で終えたような感覚があります。皆さんが温かい雰囲気で迎えてくださって、ありがたかったです。
僕の演じた霧島光は、かなり嫌味なキャラクターでしたが、僕としてはとても気に入って担当させてもらいました。

浅沼加奈子(加藤氏)、霧島光(SKRYU氏)のキャラクターカット 

縦型ショートならではの、尺と画角の特徴

――改めて、UniReelについて、またオリジナルドラマ制作の経緯について教えてください。

熊田
UniReelは、2024年11月にリリースされた、COL JAPANが運営する日本向けのショートドラマアプリです。COL JAPANは中国のCOLグループの日本法人で、北米で成功したショートドラマのノウハウを日本に導入しています。
博報堂は、UniReelの製作委員会に参加しており、今回は脚本家の方とアイデアを出し合った複数の企画から「職場ギャンブラー」が採用されました。この物語が、僕としても一押しでした。

――縦型ショートドラマの制作は、やはり、従来の作品とは違いますか?

熊田
だいぶ違うと思います。そもそも、大きく「尺」の違いと「画角」の違いがあります。
1話1分半という短い中でわかりやすく進めないといけない制限が、ストーリー展開にかなりかかわってきます。限られた情報しか伝えられない中でどう見入ってもらうかを考えて、画づくりにアイデアがある監督に依頼したいと思い、どの作品も非常に画づくりや演出がおもしろい津野励木(れいき)さんにお願いしました。
同時に、1話ずつの課金になるために、次を見てもらう工夫も必要です。
各回の末尾に、次回の視聴を促す“クリフハンガー”と言われるフックを設定する難しさもあります。

――その“クリフハンガー”は、毎回の脚本に落とし込まれているんですか?

熊田
セリフとしては書いていないこともあるのですが、毎話プロットの最後に[加奈子、驚いて目を見開く]等といったクリフハンガーとなる演出を入れ込んでいました。クリフハンガーは、たとえば“驚き”や“悲しみ”など、感情が各話で連続しないようにするのが効果的だそうです。そうした部分は製作委員会内やCOL JAPANの方、本国のCOLグループの製作者の方々とも細かくやり取りしながらチューニングしていきました。
その案を、津野監督はじめ演出チームにしっかり体現していただいたので、縦型ショート動画を撮る上ではチームづくりも肝心だと実感しました。

アップの表情をいかに印象深くできるか

――終わる間際、つまり次への興味をそそる最後のシーンが重要だということですね。

熊田
その通りです。テレビやタブレットよりも近い距離で見るスマホ、かつ縦動画になるので、短い時間の中で強く心に訴えるのが大事になるんです。おのずと、アップの表情が多くなってきますね。
加藤
ショートドラマとして、物語の展開やキャラクターの魅力を表情でどう伝えるか、またそれをスピーディに表現できるか、そういった点を現場で試されるのはいい経験になりました。自分なりにいろいろな発見もできて、ショートドラマの制作により興味を持ちましたね。
SKRYU
それこそ、どんな表情だと嫌味な奴に見えるか、鏡に向かって100回くらい練習しました。実際、ラッパーとしてMVを撮る際なども、表情をはじめオーバーアクションにすることも多いので、そうした経験も生きたかなと思います。
熊田
本当にハマり役でしたよね。さらに、SKRYUさんには主題歌も手掛けていただいたんです。
加藤
あの主題歌を聴かせてもらったときが、いちばん現場が沸いたかもしれません! 皆が喜んで、それこそ作品が多くの方に届くための羽をもらったような気持ちでした。

――主題歌『BET』は、どのようなお考えでつくられたのでしょうか?

SKRYU
いちばん考えたのは、ギャンブルというテーマについてです。僕自身はギャンブルをしませんし、スマホで縦型動画を楽しむ多くの人も“ギャンブラー”は身近な存在ではないだろうと思いつつも、見方を変えれば僕も含めて世の中の人たちが皆、人生を賭けて日々を生きていると言えるのではないか、と。
そう思えてから、台本を汲み取りながら、同時に「職場ギャンブラー」の内容を知らない人でも自分にちょっとリンクして聴こえるように、親近感も大事にしてバランスをとっていきました。

――こちらも熊田さんや制作サイドと調整したんですか?

熊田
事前にビートを3パターンほど出していただいて、どれがイメージに合っているか、また歌詞に盛り込む要素などをすり合わせさせてもらいました。柔軟に考えてくださって、ありがたかったです。

飽きさせないための演出を随所に盛り込む

――スマホでの視聴となると、すぐに他に興味がそがれて、離脱も多くなってしまうのではないですか?

熊田
そうですね。“タイパ”重視の傾向も意識しましたし、実際に流行っている動画も短い中にかなりの情報量が含まれているので、飽きさせない工夫は重要になると思います。ただ、あまり詰め込んでもストーリーやゲーム内容がわからなくなるので、そのバランスは気を付けました。

――今回はいろいろなゲームが出てきますが、その説明シーンも凝っていました。社長役の、かもめんたる・岩崎う大さんが躍るパラパラがなぜか出ていて(笑)。

熊田
あれは現場で出たアイデアでした。もともと、ルール説明はアニメーションで表現する予定でしたが、もうひとつ惹きつけるポイントとして、キャストの顔も出したいという話になって。監督から「う大さんに踊ってもらえないか」と発案がありました。

――そうだったんですか!

熊田
なんと、奇跡的にスタッフの中に元ダンス講師の方がいて(笑)。急遽振り付けをお願いして、う大さんに踊っていただきました。
ほかにも、予算と時間の制約がありながら、印象的な画作りにこだわってつくりたかったので、たとえばカメラを回転させたり、照明を不思議な色味にしたりと、制作現場にはかなり工夫してもらいました。加藤さんに手伝っていただいたシーンもありましたね。
加藤
森みたいなシーンがあるんですが、実は屋外ではなく、オフィスにあった観葉植物などを駆使して撮影していたんです。スタッフさんが葉を揺らして風を表現していたので、私もやりたいと言ってお手伝いしました。楽しかったです!

配信前からの話題づくりで反響も上々

――配信前のPRや、実際の反響などはどうでしたか?

熊田
PRは、情報の出し方を工夫しながら、事前の盛り上がりを図りました。例えば、抽選で参加者を募って「『職場ギャンブラー』スペシャルオフラインイベント」を開催したり、TikTok上で実際のゲームのひとつ「名刺ジャンケン」をやってみるPR動画を流したりしましたね。また、最初はSKRYUさんの出演を伏せて情報を小出しにしたところ、Xなどで「SKRYUじゃないか」と予想する声が聞かれて、これも話題づくりに奏功したと思います。
加藤
ファンの方からも、すごく喜んでいただけて、内容にも期待する声がとても多かったです。イベントは、視聴者さんと会える機会になりましたし、一緒に観られて楽しめました。配信後は「1話1話が気になる」「おもしろい」といった感想をもらえて、うれしかったですね。

『職場ギャンブラー』スペシャルオフラインイベントで「名刺」を渡す様子 

――企業がショートドラマを活用するなら、どのような可能性がありそうでしょうか?

熊田
ショートドラマは、認知はあるけれどブランドへの愛着が足りない、マーケティングファネルのミドル部分に有効だと思います。具体的には、ドラマのストーリーを通じて、ブランドの価値やメッセージを伝えて“ブランドラブ”を創出できるのではないか、と。
情報に対価を求める傾向が強いZ世代や若年層に対して、エンターテインメントとして価値を提供しながらブランドへの共感を獲得する余地があるかなと考えています。

――最後に、お三方から今後の抱負をお聞かせください!

SKRYU
もともと、ラッパーの活動に留まらず、「超スーパースターになる」というスローガンを掲げています。楽曲をつくり、ライブの規模を大きくしていくことと並行して、今回のお芝居のような自分の幅を広げる活動にどんどんトライしていきたいですね。SKRYUを知らない人はいない、という状況を目指して走っていきます。
加藤
私はお芝居のほかに音楽もやらせてもらっていますが、表現者としていろいろな表現の場があることがとても尊いと感じています。これからも、自分が「おもしろい」と思う方向へ転がりながら、見ていただく方にも「おもしろいやつ」と思ってもらえるように、生き生きと活動を続けられればと思います。
熊田
昔から、誰かの心の1本になるような作品をつくりたいと思っていました。今後もドラマや映画など、いろいろなフォーマットでコンテンツ制作に挑戦し続けたいですね。

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  • 加藤 千尋 / セントチヒロ・チッチ
    加藤 千尋 / セントチヒロ・チッチ
    女優/アーティスト
    東京都出身。2015年より“楽器を持たないパンクバンド”のBiSHのメンバー、セントチヒロ・チッチとして活動。2022年8月より「CENT」名義でソロプロジェクトを開始。2023年6月にグループ解散後、同年8月に「加藤千尋」名義で俳優としても活動を開始。日本テレビ「肝臓を奪われた妻」、「放課後カルテ」、関テレ「北くんがかわいすぎて手に余るので、3人でシェアしました」などに出演。現在、日本テレビ系水曜ドラマ「ESCAPE それは誘拐のはずだった」にレギュラー出演中。
  • SKRYU
    SKRYU
    ラッパー
    1996年生まれ。島根県安来市出身。愛媛大学に進学後、大街道サイファーとの出合いをきっかけに本格的にラップに取り組む。地元の銀行に就職後、1年間の銀行員とラッパーの両立生活を経て退職、上京。その後、MCバトルで活躍などを経て、『超Super Star』や『How Many Boogie』などのヒットを連発。
  • 博報堂 エンタテインメントビジネス局 コンテンツプロデューサー 
    2014年に入社した後、メディアバイイング・プラニングセクションを経て、現部門所属。
    映画やドラマの企画プロデュース及び脚本執筆に従事。

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